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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
163/202

コーデ対決!

あらすじ


 アミたち熊同盟のアジトへやって来た。ことが済んだら迎えに来る約束をしていた。しかし……



 熊同盟の滞在していた集落へやって来た。

 沿道からは少し外れた森に入ったところにあるので、途中からは徒歩だ。空間転移(ゲート)の魔法陣が使えなくなっていたのが気になる。

 集落はあの時のままあった。お爺さんや子供たちが遊んでいるのが見えた。



「あれ? この前のおねーちゃん! 今日はいっぱいできたの?」

「お兄さんだけど、今日もアミたちに用事があってきたんだ」



 相変わらずお姉さん扱いだ。

 その様子にルシェとシルフィが笑いを堪えている。そういえば彼女たちはここが初めてだったし、ボクがさんざんお姉さんと間違えられていることを知らなかった。



「あそこにいたおねぇちゃんたちはずっと帰ってきてないよ?」

「いつから?」



 子供たちの話では、王位継承の儀の時から一度も帰ってきていないそうだ。そのあと移住者がいたので、魔法陣がある事を知らない村人たちは小屋を改装してしまった。

 つまりアミとナナたちは、まだ王都にいるということなのだろう。



「げひ……アミちゃん……ナナちゃん……だ、大丈夫かなぁ?」

「二人ともきっと大丈夫。でも確認だけはしておこう」



 少し忘れていたけれど、タケオとジンの小鳥はまだ生きている。魔石に魔力を通すと彼らから小鳥を送り込んでくれる仕組みだ。

 彼が自由に動ける立場である限りこれは有効だろう。



「そ、それ……向こうに居場所……ばれる」

「あ……そっか。でも二人なら平気じゃないかな?」



 最悪の場合は空間転移(ゲート)で逃げられるだろうし、大所帯だからむちゃはしない。


 小鳥を待っている間は子供たちや集落の住人と王国の様子や暮らしの変化を聞いていた。

 子供たちはリーゼちゃんの興味津々で、仲良く遊んでいる様子だ。


 しばらくすると、小鳥が飛んできてボクの腕に留まる。ボクとクリスティアーネはもう慣れた光景だったが、みんなはそうでもなかったようでこちらに興味が移った。



「わ~かわいい小鳥さん!」

「おねぇちゃんが呼んだの? すげぇ~」

「お兄さんだけど、そうだよ」





「おひ……ぶり 手……‼」



 相変わらず断続的にしか聞こえてこないが、手紙が結び付けられているので保管できそうだ。


 小鳥の足に結び付けられていた手紙を開封して読んでみる。

 彼らはリーゼちゃんの解呪に同行したあと、アイマ領に帰還して、そこから小鳥であちこちの諜報活動をしている。



 召喚勇者たちは帰還魔法が失敗して、『熊同盟』が解散したことが書かれていた。エルランティーヌに協力をした熊同盟以外は帰還魔法を試す場にはいなかったこともあり、それを知った一部の召喚勇者から非難の声が上がっている。


 召喚勇者はそれなりに地位があるため、受け入れたい国や領はいくらでもあった。

 その中でも特に彼らが集まっているのはアルフィールド領だった。熊同盟の連中はエルランティーヌに着くかと思われていたが、ほとんどがアルフィールドへ流れた。

 そしてアミとナナも。



 どおりでこの村に帰ってきてないはずだ。

 しかし彼女たちがアルフィールドについている理由がわからない。決して良い環境を与えられるとも思えなかった。しかしシルフィから見れば、政治的に利用できる価値がある場合は、かなり丁重に扱われたそうだ。

 使用人を付けられ生活の世話はすべてやってくれていた。


 前例のないリーゼちゃんを出産できたのも、そんな良い環境あってこそだったのかもしれない。そう考えるとあまりアルフィールドを邪険にするのは良くないのかもしれない。


 タケオとジンはこのままアイマ領の為に働きながら暮らすことで、意思は固まっているそうだ。彼らも異世界で暮らしている時は凡庸で没個性を強いられる社会に辟易していた。

 命の危険はこちらの方があるのだけれど、楽しい人生を送るならがぜんこちらの世界だという。

 彼らは彼らなりの選択をしたのだ。


 アミもナナも元居た世界に居たくなくなるほど、不遇を強いられていた。そう考えるととても生きにくい世界なのかもしれない。

 それにもし正攻法の魔法陣で失敗したのならやはりクールタイムが生きているのだ。焦ったってもう三十年近くは帰ることはできない。

 であるなら皆ここで生きる道を探すだろう。


 一番厄介なのが、この世界に順応できていない召喚勇者だ。もしそうなら制御不能になっているか、心の隙をつかれて……。



 そうか……それがコトコという召喚勇者の本質なのかもしれない。自暴自棄になった彼女という好条件に、ヘルヘイムに付け込まれたということだろう。



「コトコ? あの子。魔王領時代に村で匿われていた子だよ」

「なんだって?」



 もともとヒビキとモミジという召喚勇者と同じく帝国に亡命した。そしてメフィストフェレスによってキメラとなり公演日に三人で乗り込んだそうだ。しかし王国も、女王も、帝国も、皇帝も、将軍も何もかもが召喚勇者を利用することし考えていなかった。

 そんな謀りが透けて見えた彼女は嫌気がさして公演日当時に、一人で逃げたそうだ。

 そして流れ着いたのが魔王領。小さな村で匿われていたから、ほとんど悪魔はしらない。


 とある日にベルゼブブが助けたのだけれど、内緒にしていたようだ。彼らしい優しい判断だった。魔王領が悪魔領に変わる少し前に見つかったが、そのまま悪魔領で保護することになった。

 そしてあの時ミルと交代で護衛をしていたのが彼女だという。



「強いのか」

「うん。 さすがはキメラだけあって魔力が全盛期のアイリスぐらいあったよ」

「それはすごいね」

「アーシュが言うと嫌味だけどね~、吹っ飛ばしていたし」



 ルシェの言うとおり、彼女は魔力だけで武力はからっきしだった。それをヘルヘイムが強引に動かしていたからどこかちぐはぐだったようだ。

 おかげでかなりの傷を負わせてしまった。


 コトコに関してクリスティアーネは知らなかった。魔王城に戻った時には既に瀕死だった。ずっと動けず寝て暮らしていてそのまま出て行ってしまったから時期的には入れ違いになったのだろう。


「……ごめんね……ボ、ボク……」

「ぐひ……だ、大丈夫……」



 一番溝が深そうな二人も、徐々に蟠りが溶け始めている。でもできるだけ我慢しないで言いたい事を言える関係にはなってほしい。



「そうだ……クリスティアーネ。変化の魔法って他にもできたりするの?」

「そ、想像で……で、出来たら……で、でも大きくは変われない……よ?」



 じゃあ性別が変わるのは大きくないのかと、聞きたかった。でもボクがもとから女顔だからという悲しい答えが返ってきそうなので黙った。

 なぜこんなことを聞いたかと言えば、この旅でちょっと肩透かしを食らってしまったから、王都に寄って買い物でもできないかと考えたのだ。

 王都で流れている噂も聞けるし一石二鳥だ。それにみんなの仲も、少しは改善すると考えた。まだ三人は少しぎこちないのだ。

 それはなんだか気持ち悪い。




 集落から王都へ馬車で移動することにした。効率が悪いのだけれど、それも旅の楽しみ。アミやナナの確認と魔法陣の確認という目的は達成したので、急ぐ必要はない。

 リーゼちゃんに色々なものを見せたいという親心もあった。












 ボクはすでにアシュリーゼの角と尻尾を発現させないという容姿に変化している。髪型を結ってもらったし、服装も違うのでパッと見ではばれないだろう。

 リーゼちゃんはすぐにボクだとわかって、相変わらず指を舐めている。しかしアシュリーゼになると女性の様に指が細くなるらしく、物足りなさそうな顔をしている。



「ごめんねぇ~変装中だからこの指で我慢してね」

「ふぎゅ~」


 三人は空間書庫でお着替え中。変化の魔法で服も再現できるけれど、魔法陣にそれを組み込む必要があるので、すぐにはできない。

 だから容姿変更後に化粧や服選びをするのだとか。さすがにその場で見ているほど野暮ではない。






「お待たせなのだわ! さぁさぁ!第一回コーディネート対決なのだわ! あちの美しさをとくと見るがいい!」



 呼ばれて空間書庫へと入る。空間書庫の入口は死霊馬車に紐付けてあるので、喪失することはない。


 他の二人は本棚の奥に隠れている。

 あれからシルフィも徐々に回復しているとはいえ、どこか影があった。しかし三人での着替えはよほど楽しかったのか、意気揚々とかつての尊大不遜さで登場してきた。


 こちらに歩いてきた彼女は……容姿が成長していた。それもボクたちと同じぐらいの年齢の容姿に見える。

 何千年かすれば、そう言う容姿になるのだろう遠い未来を垣間見えた気がする。それは子供の可愛らしい姿はなく、大人びた胸のふくらみを強調する露出の多い魔女らしい衣装だった。

 街中を歩くので派手過ぎず、それでいて主張はしっかりされている。

 結われていた髪もおろし、下の方で、リボンで結ばれている。それがまた女性らしい可愛らしさと大人っぽさの中間をいくようでとても気に入った。



「すごい……奇麗だ……また魅入られたよ……」

「く、くすぐったいのだわ……でも……アーシュがそう言ってくれるのは、なんだかふわふわして幸せなのだわ」

「ふぎゅ! ふぎゅ~!」



 さっきの尊大不遜な態度は打って変わって、年相応の女の子らしさを見せるシルフィ。小さいシルフィも魅力的だけれど、この美しい女性もシルフィだと思うと余計に魅入られた。リーゼちゃんもママの変わりように驚いて興奮している。



「つぎはボク! 二人にやってもらったんだ!」

「わぁ! これはいい! ルシェらしさがすごく出ている!」

「ふぎゅ!ふぎゅ!!!」



 ルシェが選んだのは中性的な服だった。奇麗で整った顔立ちをしているから女性の衣装も当然似合うのだけれど、普段の行動や性格からこっちのほうがより似合っている。ショートパンツがとても可愛い。

 なによりドレス何て着たら、普段よりかしこまって買い物を楽しめない。

 髪型もおさげが二つぼんぼんのようにまとめられて可愛らしい。




「ぐひ……は、はずかしぃ……」

「クリスティアーネ? おいでよ!」



 そろりと出て来た最後を飾るのはクリスティアーネ。

 短めなスカートに太ももまである靴下、彼女が普段来ている服とは違い白を基調とした明るい衣装だ。白に赤いリボンがとても映えていた。

 彼女の多すぎる黒髪は後ろで一つに結ってある。ポニーテールという髪型だ。



「……クリスティアーネ……いつもと違う可愛くて新鮮だ」

「ふぎゅ~~~~~~~~! ふぎゅ~~~~~~~~~!!」



 心なしか、リーゼちゃんも魅了されているように見える。これの勝負はなんだかんだいってクリスティアーネに軍配が上がったようだ。

 珍しく抱っこしろとクリスティアーネに迫っている。

 別に勝負していたわけではないが、リーゼちゃんが評価を下したのだった。



「なんとダークホース、クリスティアーネの優勝だ‼!! おめでとう!」



「くそぉ! リーゼちゃんの評価には逆らえないよ!」

「ケケケ~! 子供は容赦ないのだわ」

「……ぅぇへへ。 ……ま、まぐれぇ……」




 王都に着くと、馬車で乗り入れる。御者はボクがやっていたが、門番の少年に赤らめられて気持ち悪い。

 もちろん門番にも手配書は張り出されていたが、問題なく通過で来た。みんなと買い物ができるなんて久しぶりだったから楽しみだ。






読んでいただきありがとうございます。

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[良い点]  久々に楽しい回でした。  雨の日もあれば、晴れの日もある。  晴れの日の楽しさです。  どうもありがとうございます。
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