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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第七部 勇者が世界を滅ぼす日
162/202

閑話 心酔

王位継承の儀の後のアルフィールド領主城の様子です。

アルバトロスが中心のお話。



「くそがっ!! あの小娘めぇ!!」



 執務机を叩いてその鬱憤を吐き出す。

 ここはアルフィールド領主城、領主執務室。主はアルバトロス・アルフィールド侯爵。

 彼は王位継承の儀までありとあらゆる根回しをして、事を成そう(・・・・・)と奔走した。しかしそれをすべて無に帰されてしまい、こともあろうか飼い殺しの状態までに追い込まれている。

 グランディオル王国、女王エルランティーヌによって。



「亡命にまで追いやったにもかかわらず、返り咲きどころか救世主(メシア)だと? ふざけるな!!」



 再び執務机を叩く。

 今までこの国において影で政を牛耳って来た彼にとって、まったく制御できなくなったことや追い落とされることより、追い詰めすぎずに飼い殺し状態の立場にされていることが屈辱でならなかった。

 これならいっそ殺された方がマシであったと。



「父上! これもあのアシュインの所為だ!! それなのに体裁ばかりで捜索の命令が出ない! 私が率いて絶対に討ち滅ぼして見せます! どうか私を騎士団長へ!」



 すでにシルフィ騎士団長は除名処分にされている。現在は空席になっており、宰相の管理下に置かれている。

 その宰相も、アルバトロスが使い捨てにしたことにより蟠りが生まれ、政治的には敵対勢力であるエルランティーヌの元へ就いてしまった。

 今のアルフィールドには、個人的な理由で騎士団へ圧力をかけられるほどの影響力が無くなっている。


 やるとなればエルランティーヌに服従の意を見せなければならず、派閥の弱体化は免れない。いまヴィンセントの為だけに動くことは得策ではないと考えていた。

 それにヴィンセントの目的であるアシュイン討伐を、アルバトロスは望んでいなかった。



 ……討伐ではなく、生け捕りにして我がモノにしたい。



 それがアルバトロスの真意だった。ただヴィンセントに任せておいても成果は絶対上がらないどころか、邪魔でしかない。


 視線をヴィンセントの隣の男へと向ける。



「アーノルド……お前が騎士団長をやってヴィンセントを使え」

「な⁉ 父上!」

「かしこまりました父上……裁量権を得られるよう期待しておりますよ」



 長男のアーノルドは優秀であった。政も、勉学も、そして魔法に関しても。王国きっての天才である王宮魔導師レイラをも凌ぐのではないかと、噂されている。

 しかしいかんせん奴は、高慢で自尊心が高い。それに女癖も悪いからあちこちに子どもを作っては放置するということを繰り返していた。

 いまもアルバトロスを見下さんと、立場を鑑みて上げ足を取ろうとしている。

 それがわかった上でも尚、アーノルドに頼るほどアルバトロスは腹を据えかねていたのだった。



「……あれ《・・》ももうじきに完成するのだ。さすれば女王とて逆らえまい……くくく」

「……」



 アーノルドとヴィンセントそして遠くで見ていた次男のミケランジェロは太々しい態度で去っていった。

 三者三様の思惑があろうとも制御する自信があったアルバトロスは、それを鼻にもかけない。


 執務室はアルバトロス一人になった。



「おい……調べは着いたか?」



 すると暗がりから二人の男女が現れる。アルバトロス子飼いの召喚勇者の二人だった。



「……現在アシュリーゼことアシュインはジオルド帝国に匿われている」

「ちょいあれイケメンすぎぃ! たべちゃっていい? いいよね? たべちゃぉおおお!」

「おい!! スミレ!! それは無いんじゃねぇの!?」



 行動力もあって優秀。しかし軽率で危なっかしい。

 とても子飼いにするには役不足かとおもわれたが、もっているスキル『遠目』と『盗聴』を見染め、諜報員として飼った。

 この二人は単純に金で動く。

 そう言う人間ほど、飼うのは楽だったことも彼らを起用した理由だった。


 二人を掛け合わらせれば大陸のほぼどの位置にいても発見できる。その人物の容姿や声を覚える必要があるが、一度会えばわかるほど記憶力も良い。



「続けろ……」

「同行しているのはシルフィ元騎士団長とその子供、上位魔女の死霊の魔女(ネクロウィッチ)。もう一人不明な男性とも女性ともいえないものが最近増えた」

「ジオルド皇帝は彼らを抑止力として、王国を始め主要三ヵ国に物申すための手札にするつもりだってさ」

「ふむ……ブルックリンの奴め……何が狙いだ?」



 ブルックリンとはジオルド皇帝の名前。そう呼ぶほどにアルバトロスはジオルド皇帝を知っていた。

 アルバトロスの問いの答えも、二人はしっかり持ってきていた。



「奴隷制度だ」

「ほぅ?」

「あっちの国じゃ、職業奴隷が成り立っているって。王国に合わせて規制されたら立ち行かなくなるんだって」

「おぉ……よくやった……いいだろう……その情報に追加で白金貨一枚ずつだ……引き続き頼む」


「わぁお! いつになく太っ腹ぁ!」

「仰せのままに!」



 とくに社会思想(イデオロギー)も持っておらず、本当に金だけで動いていた。金をしっかり握らせておけば、よほどのことが無い限りは裏切らないので子飼いとしても優秀だった。


 二人は金を受け取ると、早々に去っていった。

 周囲に張っていた気の結界を消したことによって、すぐに執事と文官の貴族たちが入って来る。そして何事もなかったようにいつもの執務がはじまった。



「穴が見えたな……アシュリーゼ……必ずモノにしてくれる!」



 アイリスに対して一途であったアルフィールドは、彼女にはもう目もくれていない。かわりにアシュリーゼに強い執着心を抱いていたのだった。



「おや? アイリス様のことはもうよろしいのですか?」

「あぁ……美しいのは確かだが……話してみて、興が削がれた。 たまに捌け口として利用してやる程度の価値だ」



 彼の好みはまさに『強い女』。

 公演の時にアイリスを初めてみた時には、その勇ましい演説にアルバトロスは魅せられていた。

 しかしそれは周囲にいたルシファーという悪魔にお膳立てされたものだ。

 今回もルシファーそしてエルランティーヌの主導で執り行われていた。彼女はただ象徴としての価値しかない。



 ……あのメスは弱い。



 そう思うとアルバトロスの興味は一気に冷めてしまった。しかしアシュリーゼは違った。


 世界をひっくり返すほどの強い意思。

 表目には出していないが、目的のためにはどんなことでもやってのける強さが彼女にはあった。

 その源は何なのかはアルバトロスには推し量ることはできない。しかしわからずとも彼女の芯の強さに、心臓を鷲づかみにされてしまった。


 妻以外の女もいくらでも抱いてきたし、妻さえそんな衝撃をうけることはなかったのだ。アイリスを見た時の衝撃を上回るそれで、彼は完全に打ちのめされていた。



「じゃまするよ!」



 執務を続けていると、今度は上位魔女紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)がやって来た。自らこうしてやって来るのは滅多にないので少し警戒するアルバトロス。



「カカカ! アシュリーゼちゃんを調べているそうだな?」

「ふん……それがどうした?」



 上位魔女は個人的なものでは一切動かない。国家の依頼であるか本人の趣味、研究のみだ。

 こうして自らやって来たということは、趣味か研究である。



「今回も手ぇ組まない? 情報が欲しいんだ。 代わりに力が必要なら動いてやろう」



 アシュリーゼを抑えるには力が必要であるのは確か。しかしアルバトロスは王位継承の儀の様子を思いだして首を振る。



「上位魔女が二人がかりで抑えられぬのであろう? 必要ないな」

「……くっ!!」



 力で抑えるぐらいなら、彼女を謀って立場で縛りつける方がよほど簡単に手中に収めることができる。

 その力をアルバトロスは持っていた。



 一方紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)はそれで引き下がるほど甘くはなかった。

 とくに彼女の執着心は魔女随一だ。



「まぁ……二の轍は踏まない。……力で抑えるのはヤメだ。奴の弱点を突けば簡単だろ?」

「アイリスか?」



 さすがにアルバトロスは気がついていた。アシュインたちが間接的に悪魔領、ひいてはアイリスを守っていると言う事実を。

 現にアイリスはあれだけの美貌を周囲に晒しておきながら、指一本誰にも触れさせていない。

 すべてがアシュインの所為とは限らないが、彼がアイリスに執着しているのは見て取れた。



「あそこはダメだねぇ……おっかねぇ鬼がいたのさ……あんたもアイリスはもう諦めな……あの鬼……くそがっ!!」



 そう言って彼女は腕を見せる。

 彼女の左手首から先がなくなっていた。最近やられたようで、血も止まらずに布から滲んでいる。



「あれは最近覚醒したねぇ……公演場の時にゃ巻き込みを嫌がって抑えていただけだったわ」

「……もとより手を出す気はない……それより――」

「アシュリーゼは、『アミ』ってぇあたしの教え子も執着しているのさ!」

「ほぅ? その娘を出汁につかうのか……」



 アルバトロスはアミという娘について関心を持った。

 急成長をしているアミという娘だが、まだ上位魔女ほどでもない上に、紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)の言うことは素直に聞くという。




「いいだろう……手を組もうではないか――紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)よ」







読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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