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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第一部 魔王代理
15/202

閑話 カエル

グロい描写があります。ご注意ください……

アミ視点です。








 あたしは熊沢くまざわ 亜美あみ高校2年生です。学校の授業中に突然異世界に召喚されてしまいました。

 ライトノベルが好きな幼馴染の啓介は、『異世界キター!!』とはしゃいでいます。


 ……でもあたしには訳が分かりません。


 召喚されると魔法や剣のスキルを覚える。そういう能力が備わるのがテンプレートというそうです。


 映画の『ハリー君の冒険』みたいな事ができる。そう割り切ってざっくり理解しました。





 王女は言う。

 グランディオル王国の復興、それから来るべく魔王復活の為に召喚したと。そして召喚されたあたしたちは、能力査定を行うように命令されます。


 王女が指示を出して神官が準備をしている。その様子をみれば、誰が一番偉い人なのかがわかります。


 あまりの強行軍に逃げ出したくなりました。

 しかし周囲には屈強な鎧を着た兵士が立っているから、とても逃げられそうにはありません。


 みんなはなぜか楽しそうに能力査定に従っています。

 特殊な板に血を一滴垂らすと、能力値が表示される仕組みです。



 もし仮にひどい値だったらどうなるの?



 そう思うと楽しむ余裕なんてありません。ここがもし中世西洋のような文化圏だとすれば、不可抗力なんて言葉はないのです。

 非がなくとも権力者の都合が悪ければ、簡単に命を失います。


 内心震えていても否が応でも順番は回ってきてしまいます。



 ……ぽたり。



 同様に血を垂らすと、文字が浮かび上がりました。



――――――

勇者B 熊沢 亜美

4属性魔法

――――――

 


 神官の顔色を窺うと、良くも悪くもないという顔をしています。まさに中途半端。でも目立つことが無ければ、殺される確率も減るでしょう。

 あたしはこの結果に、ふぅっと安堵しました。




 それにひきかえ、生徒会会長で人気者の倉橋くらはし ひびきくんや、クラス委員長の西園寺さいおんじ あやさんはとてもすごい能力。勇者Sは一番上の勇者です。



――――――

勇者S 倉橋 響

聖剣技

――――――


――――――

勇者S 西園寺 彩

聖剣技

――――――



 彼らはその人望が相まって、強引に物事を進めるきらいがあります。それにつられてクラスメイトも気持ちが大きくなりがち。

 あたしはそれが苦手。


 表面上は普通のクラスメイトを装っていますが、体裁だけです。小さな抵抗をするあたしに、地味な嫌がらせや命令をします。

 エスカレートして、暴力をふるわれたこともありました。

 もしこの世界でそれが起きれば、異世界の人ではなくクラスメイトに殺されてしまうのではないかと、嫌な想像をしてしまいます。



 怖くなってあたしは警戒心だけ強くして、深く考えるのはやめました。



 そんな中、一人だけ変な能力を持つ子がいた。山田やまだ 恭介きょうすけくんだ。



――――――

勇者F 山田 恭介

ぱぺっとだんす

――――――



 ……ぱぺっとだんす? なんだろ?



 それを見たとたんに激高してしまう王女様。犠牲を払ったのに酷い結果だから追放すると、騎士に連れていかれてしまいました。

 助けようとしない罪悪感は湧きません。以前ちょっとしたことがあって彼の事は苦手だったから。




 能力査定が終わると、1週間ほど訓練が行われました。

 騎士団の指導のもと、厳しい訓練をします。

 魔法という不思議な力を使える喜びに、クラスメイトたちの気持ちがマヒしていくのが見て取れます。


 ……みんな、気づいていないのかな。


 魔法は人が殺せるほどの能力であることを。







 一か月が経ち、生活にも慣れてきます。

 魔物も簡単に倒せるようになりました。


 いつも王国が用意してくれる服は、装飾が多く着づらい。

 みんなは元の世界の制服に戻したり、針子を呼んでデザイン指定して作らせたりと気持ちが散漫で我儘になっていきました。


 あたしもそれに便乗してしまいました。それは気が緩んでいたのでしょう。

 それがとても目立つ行為で、誘拐や命を狙われる危険性をはらんでいたことをあたしは後で知ります。




 



 いつの間にか王女は女王になっており、王国のかじ取りをしています。それから急にあたしたち召喚勇者を、広告塔に使う方針になったのです。


 遠征させて現地の素材採取や魔物狩りの依頼を引き受ける。奉仕活動が主な仕事となりました。

 遠征のグループは西園寺さん、美紅、保、啓介、それからあたしの五人です。

 西園寺さんのリーダーシップにみんなは増長してます。


 その彼女も異世界にきて有頂天になっているのがわかりました。

 元の世界では剣道部のエース。そして対戦相手がいないことに何時もため息をついていたのです。

 異世界に来てからは、怖いくらいに魔物を倒すことにのめり込んでいます。

 彼女のたがは完全に外れているのに、ついて行って大丈夫でしょうか。



 そんな中、今は森の魔物の討伐中。



「なぁ美紅、もっと奥へ行こうぜ!」

「今日は調子がいいものね!」

「ふむ、あたしもすこぶる調子がいい。もうちょっと行くか」

「ボクもいいよ!」



 有頂天になったこの四人に不安を感じます。

 いくら魔物とはいえ、生き物をざっくざっくと殺していく。そんな行為を笑いながらするなんて恐怖でしかありません。



 ……なんで躊躇いもなく、できるの?




 魔物を狩る場合には必ず辺境騎士団と連携します。

 今回の討伐には領の騎士団長と数名の団員が同行してくれました。おかげで森の奥へ進むことに反対できませんでした。




 さらに森の奥へと進むと、村のような場所につきました。


 村では悪魔族が暮らしていたのです。

 容姿は人間とさほど変わりませんが、尻尾がある者、角があるもの、猫のように可愛らしい耳がある者がいました。


 彼らは農業をし、洗濯をし、子供たちは”けんけんぱ”で遊んでいます。



「悪魔族だ!! みんな腕を試すチャンスだ!! いけー!!」



 え……? ふつうの人達だよ?




 気勢をあげた委員長が急に恐ろしくなりました。

 周囲はもうあたしの知っているクラスメイトではありません。

 委員長の決起とともに、村人たちを刺し殺しています。


 ぐさりと、肉を切裂く音。


 ぼとりと、首が転がる音。


 びたびたと、腸が零れ落ちる音。


 ぐちゅりと、目玉を抉る音。



 ――狂気だ。





 こんなことが許されるの? そういう世界なの?





 侵攻が村の中央まで達すると、足の悪い少女が動けずに倒れていました。必死で逃げようと動かない足を引きずっています。



 まさかあんな小さな女の子まで……やるきなの!?



 啓介がゆっくり近づいていく足音。


 なんのためらいも感情もない顔。



 まるでカエルのお尻に爆竹を突っ込んで爆発させていた、あの無邪気な顔です。



 うそだよね……?



 のどをゴクリと鳴らし、叫ぼうとするが声が出ません。


 全員が彼女へと剣を向けています。


 ――串刺しにする動作に恐怖して、あたしは目を瞑った。





 ザグッ!!





 いやぁ!!




 目をそろりと開けてみると、太った男性が女の子をかばっていました。沢山の剣をまともに受けて串刺しになっています。




「んも……」

「いや……いや! ……ぶぶちゃん!!」



 彼は「大丈夫だよ」と女の子を安心させようと、優しい微笑みを向けています



 ……なんて……なんてかなしい微笑み……。



 あたしは一瞬で喉が干上がりました。涙があふれて止まりません。



「なんだこいつ!! みんな! もっとくし刺しにしろ!!」

「うぉおおお!!」



ザッ! ザッ!! ザシュ!!



 一斉に切りかかり、さらに傷が増えていきます。


 ……ぜったいに間違えている!!



 いつも引っ込み思案で勇気がない、あたし。

 でもこれを肯定したらあたしではなくなってしまいます。

 


 しかし必死で動かそうとしても、震えて動かない足。



 震えを止めるために、太ももをばんばんと必死で叩きます。



 ……うごけ、うごいて!



 くやしくて、涙が止まらない勇気のないあたし。

 太ももがはれぼったくなった頃にようやく足が動きだします。



「啓介、みんな!! やめて!! なんでこんなことを!!」



「けけけっ! 悪魔殺したんのしぃ!」

「亜美、悪魔だからいくら刺してもいいんだよ?」

「美紅もたのしんでんじゃ~ん?」

「私達は勇者だ!悪魔を八つ裂きにするのは当然だ!」



 むしろあたしが悪いようなことを言われてしまいます。

 必死に止めようとしていると、一人の男の子が急に現れました。そして気がついた時には――



 ズドォゴン!!



 ……ビクンビクン!!

 ……ぶぶぶ……しょわわわわ……



 液体が噴き出す音以外は静寂。












 目の前には、委員長の下半身のみ。

 突然委員長の上半身が潰れて無くなっていたのです。

 下半身から噴き出して巻き散らかされている尿と糞。


 クラスで一番奇麗で一番人気で、そして一番モテていた委員長も同じ人間なんだ(・・・・・・・)と……理解したしました。



 次の瞬間――




「うそだろ――

「たすたすけ――

「いや……い――



ズドゥウウン!!



 美紅も保も、そして啓介も同じ挽肉(・・)になっていました。真上から潰されてペシャンコです。

 それはあまりに高速に肉片が飛び散る前に地面に到達して、挟まれたということです。

 あたしはそれを見て……




 雨の日に道路でつぶれていたカエルと同じだぁ。



そう思いながら、あたしもお漏らしをしていました。


しょわわわわわ……



 それをみた男の子は、なんと隠すようにマントをかけてくれました。そして優しく、心配そうに語りかけてくれます。



「ごめんね。話を聞かせてくれないか?」



 この瞬間、あたしの中でパァン! と弾ける何か(・・)


 これがなんだったのか理解できるのはずっと先ですが、その衝撃的な出会いで、あたしは意識が途絶えました。



 いまは命があることだけを感謝します。




これからもよろしくお願いします!

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