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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
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乾坤一擲

あらすじ


 王城でロゼルタの相手をしていると、彼女を乗っ取る造物主が発現し、シルフィの赤子に呪いをかけられてしまう。



 ロゼルタはその日、目を覚ますことが無かった。彼女の筆頭執事には何者か(・・・)が乗りうつっていたという説明をしておく。

 造物主なんていっても誰も信じることはないからだ。


 それくらい突拍子もない話にまで事態は発展してしまっている。一番の問題は彼女を殺せなくなったと言うことだ。


 もしかすると暗殺、それもボクが殺すと言う事を先に読まれていた可能性がある。

 変異体であるボクの姿を認識するのは初めてでも、その存在は常に把握されていたと言うことだ。


 造物主と言うのはもっと神がかり的な何かかと思っていたが、まったくそんなことはない。

 かなり用意周到である、ボクらと変わらない生物。そのくくりの一員であることは確かだ。


 だとすれば奴は絶対ではない。何かしらの抵抗は仕様があると言うものだ。

 念のためタケオの小鳥を使ってクリスティアーネたちに連絡を取る。移動をゲートに変えたので、おそらくまだアイマ領主城にいるはずだ。



「シルフィの赤子が人質に呪い(・・)が掛けられた……お願いできるかな?」

「うぇへへ……ま、まかせて……エルちゃんの護衛はアミちゃんも……い、行ってくれるから大丈夫……」

「頼んでくれたのか! ありがとう」



 造物主の呪いとはいえ、呪いは呪いだ。生物のくくりを越えていないやつの呪いなど、呪いの専門家である彼女に敵うはずがない。

 手が足りないことも予測していたのか、アミ率いる熊同盟にもお願いをしていたようだ。


 先日ボクが教えたスカラディア教会の資料について、彼女らが独自に調べたところ、それらしい研究書と魔法陣を見つけたそうだ。

 つまり帰ることができるかもしれないという算段が付いた。そしてやはり必要なのは王家の血(ロイヤルブラッド)。それが得られる機会があるのなら、と参加を快く引き受けてくれたそうだ。


 もし帰ることが可能になったら……アミとナナは最終的にどういう選択をするのだろうか。

 ボクとしては帰ってほしくない。寂しくなるという簡単な言葉じゃなく、彼女たちも遊びではなく愛しているからだ。

 それにナナが言っていた。



『アーシュも遠慮しないで彼女を奪うぐらいしてほしいわけ。ついでにあたしも?』



 ボクはもうお人好しはやめたのだ。

 少なくともアミやナナは一度帰りたくない意思を示しているのだから、遠慮などする必要はない。

 「帰るな」と、はっきり言う決心がついた。






 それから魔王領の確認もタケオとジンのお願いしてあった。一度一方的ではあるが手紙で王位継承の日時を知らせたこともあり、二度目ならば問題なくやり取りができる。

 そして今回は返信が来たそうだ。

 魔王領からはルシェ、それからベリアルが参加するとだけ書かれていたそうだ。なぜアイリスが参加しないのかは書かれていない。

 逆に安心した。アイリスは魔臓の手術で魔力が大幅に堕ちてもはや人間の強い部類程度の魔力しか残していない。

 もし召喚勇者を出してこられたら、簡単に人間の手に堕ちてしまう。その彼女が敵地である王国へやって来るなんて自殺行為もいいところだ。

 それはルシェの選択なのかもしれないけれど、どこからしく(・・・)ない。彼女であれば、そもそも王位継承の儀を参加しないという手も考えたはずだ。


 それだけではなく、以前聞いた『悪魔の量産計画』についても違和感を覚えている。彼女にしてはいささか倫理観にかける。

 たしかに指導者としてはそう言う決断も必要ではあるが、その手段も人間との交配すら望んでいるように感じ取れる。



「それ……しい……ったので、しら……ました」

「ぐへ……し、調べたって」



 途切れ途切れのタケオの声を代弁してクリスティアーネが答えてくれる。この状態ではほとんど聞き漏らしてしまうから助かる。


 彼らが調べた限りでは悪魔たちは重い腰をあげなかったそうだ。その末にアイリスが失踪したのだ。


 悪魔の量産化計画は、あまりに悪魔の事を知らなすぎる。一度魔王領にいったことのある人間ならだれしもそう思うはずだ。

 温厚で自立心のない彼らが率先してするわけがないのだ。ほぼ強制で生命を脅かされない限り。

 だから前魔王でさえ、魔力による支配をしていたのだから。


 つまり悪魔の事を知らない人物による指示であり、それが頓挫するや否やアイリスの拉致に至ったと言う事なのだろう。



「……でもどの勢力だと思う?」

「ぐひぃ……い、今はアイリスの争奪戦が……は、始まっている……」

「どの勢力も欲しがっているということか……」



 あのアルフィールド領主のアルバトロスでさえ、心酔しきっていた。確かに彼女にはその魅力は十分すぎるほどある。ボクも同じだ。



 ならば悪魔領にまで出向き、彼女を攫える人物のせんから考えてみる。上位魔女、それからキメラの変異体。 ……そして造物主だ。


 造物主はロゼルタを使って発現するのにも苦労しているように見えた。その能力や魔力は神のごとく。でも機動力だけを見れば、悪魔にさえ劣るほど鈍い。おそらく違うだろう。


 上位魔女の動向はある程度聞いている。それに彼女たちは依頼者があって初めて動く。依頼者の動向は関係者なので、そこまでして欲する人物は限られる。つまりアルフィールド候かヴェントル帝国皇帝。


 そして一番怪しいのがキメラについてだ。



「召喚勇者のキメラ……あの時……三人いるそぶりだった……しかし実際に戦ったのは二人……何て言ってたか……」

「ケケケ……キ~メラの動向をしりてぇのか?」

「ああぁ……知っているのか? メフィスト」



 初公演の日にメフィストが命令したキメラは三人で間違いないそうだ。そしてボクたちが戦ったのは倉橋 響(くらはし ひびき)飯島 紅葉(いいじま もみじ)という男女だ。そして残りの佐倉 琴子(さくら ことこ)という女が、実はあの日から失踪したままになっていたそうだ。



 実働にキメラを使っても上位魔女使っても、帝国皇帝が一番疑わしいだろう。王位継承の儀に参加する予定ですでに王城に来訪している。

 揺さぶりをかけておく方が良いだろう。

 もしかするとすでにアイリスがこちらに来ている可能性すらある。ルシェはそれを見越してベリアルを同行させて参加する気なのだろう。



 上位魔女やキメラは、かなり強い部類だ。警戒と命を最優先にするように伝えて通信を閉じる。

 小鳥は長い間拘束されていた所為で、よろよろともたつきながら飛び去って行った。







 次の日の残りの時間は宰相や、すでに国賓として来訪している各国の元首に挨拶と根回し(・・・)を行う。

 幸いロゼルタが体調を崩していたので、自由に活動できる時間ができた。様子を見に行くと、魔力を著しく消耗していた。

 造物主の器として、彼女はかなり無理があるようだ。



 それからジオルド帝国の皇帝も来ていたので話を聞く。

 ジョウウとは、親友にして命の恩人だという。彼のいう事は全面的に聞き受けるつもりでいるし、ボクの亡命先としても当然受け入れると言ってくれた。

 もし最悪の場合は頼らせてもらうことにするが、そうはならないのではないかと考えている。








 そしていよいよ当日。



 グランディオル劇場には各国の貴族や元首が集まる。そして一階席には主要な町や村代表の王国民が集まっている。

 今日は初公演の日とは違い、子供の参加がないので重々しい雰囲気が漂っている。王位継承の儀ともなれば、王国民すべてがその方針の影響をそのまま受けることになるのだ。

 貴族は彼女の人格や今までの立ち振る舞いをしっているが、エルランティーヌほど表に出ることが無かった彼女は、王国民にはあまり知られていない。

 初公演の日の時もそうだったが、彼女にとっても一世一代の大勝負の日ともいえる。ここで下手をすれば、王国民の信用を得ることができなくなる。



 この催しでもボクも婚約者として発表されることになるが、当然その瞬間に取り潰しになるのだ。

 それがボクの望みであり計画の一端だ。

 すでにボク達は控室で衣装を整えて待機している。



「ロゼ……今日は一段と奇麗だよ……」

「アシュイン……わたくし……不安です……」

「大丈夫……ロゼならやれるさ」



 毎回自分のセリフに反吐が出そうになる。

 しかしそう言って彼女を優しく包み込む事で、彼女を信用させるには必要なことだ。そう自分に言い聞かせる。



「うん……元気がでた……ありがとうアシュイン」

「そうか……よかった……」

「ええ、ではまいりましょう!」



 ロゼルタ姫を中心に騎士たちが取り囲み警備体制が整う。彼らの護衛対象の中にボクは入っていない。

 これはあえてヴィンセントの嫌がらせのように感じるが、騎士団に守ってもらうほど軟でもないから気にはしない。

 彼女とその護衛集団の後からボクはついて行き、会場の目の前までやって来た。



 ――そして扉が開かれる。




 ついにこの時がきた。これからボクは全勢力を敵に回すのだ。








読んでいただきありがとうございます。

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