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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
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閑話 IF はろうぃん

閑話 ハローウィンイベントは少し過ぎてしまいましたが、ハローウィンイベントを現代人であるアミとナナが魔王領で企画しましたイフ話です。

 本編の時間軸や設定と全く違うので、軽くみてください。



――魔王領、魔王城の一室。


 今日もルシェに執務して、ボクとナナ、それからクリスティアーネは手伝っている。シルフィは相変わらずボクの膝の上で寝ている。

 なぜこの面子かというと、ある催しものの為に最低限を残して準備してもらっているからだ。

 アイリスは準備に手間取っているので、今日は自室にいるそうだ。

 書類整理を手伝っているのは早く終わらせて催し物に参加させる意味もある。



「今日の書類整理は、手伝ってくれたおかげですぐ終わったね」

「やったね! 準備しましょ!」

「ケケケ! やってやるのだわ!」


「……いまいちよく分からなかったんだけど……」

「いいから、いくの! クリスちゃんもいこ?」

「うぇへへ……やるぅ……」



 この催し物の仕掛け人の一人であるナナがしきる。

 ボクの返事は待たず強制的に連行されるという。ボクとしては交流力が足りないので、誘ってもらえるのはとてもうれしい。

 今思えば小さい頃から、男女問わず何か催し物に誘われたことがない。嬉しいと同時に暗い過去がよみがえって凹んだ。



「じゃあ、これに着替えて?」

「なになに? すごいね! ナナちゃんが?」

「うぇへへ……ア、アーシュも着替えるのぉ?」

「ボクのもあるみたいだよ」



 そうボクの衣装も用意してくれていた。けれどこれは……なんというか……女性用の服じゃないか……。

 この催し物の企画を聞いた時には、着替えることは聞かされていたけれど女性ものとは聞いていない。



「ナ、ナナ?」

「ほらほら……アーシュは隣の部屋で使用人がまっているから!」

「アーシュはこっちなのだわ!」


「うぇへへ……き、期待……」

「アーシュの衣装ってどんなのだろ?」



 魔王城の使用人が五人も待ち構えていた。シルフィは女性の部屋に残ると思いきや、着替えまでこちらについてきた。

 彼女もこっちで着替えるつもりだ。


 ボクは使用人たちにもうなすが儘に化粧をされかつらをつけられて、めちゃくちゃにされてしまった。

 もうどうにでもなれと身を任せていると、すこしうつらうつらと寝てしまったようだ。




「おきるのだわ! さぁとくと見るのだわ!」



 目の前には、すごく可愛らしい黒猫衣装のシルフィがいた。銀髪に黒のカーチューシャの耳が映えている。それに思った以上に露出の多いきわどい衣装にちょっとジロジロと見すぎてしまった。



「アーシュのえっちぃ~! 見すぎなのだわ!」



 か、かわいい……。


 にんまりといやらしい表情でボクをいじってくるシルフィだったけれど、そんなところも可愛くて、ジロジロ見続ける。

 胸と腰の部分のふわふわとした黒ねこの衣装以外は肌が見えてしまっている。彼女のお腹に紋様がある彼女は少し見えてしまっていた。



「さ、さすがに恥ずかしい……のだわ……」

「あ……ごめん、あんまり可愛くて……」

「くそぅ……からかってやるつもりが……素でこれは卑怯なのだわ!」


「アシュイン様……こちらを……」



 それから使用人たちがボクに詰め寄り、姿見を傾ける。そこには美しい女性が佇んでいた。凛々しくも繊細な顔立ちにアイリスよりは少し薄いイエローブロンドの髪をきっちり結ってある。

 悪魔の仮装なのか、少し重い山羊のような角がかっちりと付けられて取れない。肌は白く化粧された上に、深紅のルージュが映えてそのコントラストは……って、もういい。


 ……これはボクだ……。


 はっきり言って女性でも美しい部類の女性に見える。まるで自画自賛しているようで気持ち悪いけれど、男からみればそう見えてしまうほどに女性になっていた。



「アシュイン様! お綺麗ですよ!」

「素敵! たべちゃいたい!」

「アーシュ? かぁんわいいのだわ! ニヨニヨ」



 使用人達は自分たちのコーディネートを自画自賛していた。確かに華奢な女顔とはいえ、男をここまで変えるのは相当な腕だと思う。

 シルフィはさっきの仕返しといわんばかりに、ボクの姿を弄り倒す。

 なんだか気恥ずかしくなって赤らめると、それにまた女性達は黄色い悲鳴を上げる。



「み、みんなの衣装も見にいこう……」

「あ、まつのだわ~」



 さすがにいたたまれずに、そそくさと隣の部屋へ戻ることにした。このままじっとしていたらずっといじられそうだ。







 扉を叩き、入っていいか確認する。

 するとまだ時間がかかるそうなので、廊下でしばらく待つことにした。すると何人もの男性の使用人が、アイリスと間違えていく。

 たしかに似てなくもない。仮装の角がそれっぽい。気がつかなかったけれど、お尻のところにしっかりと尻尾もついている。


 準備が整ったので、中へはいるとみんなもきゃーきゃーと声をあげて喜んでいる。逆に彼女たちの衣装をみてボクが騒ぎたいのに逆に騒がれてしまった。



「ふっふっふ~やはり見込んだ通り……ニヤリ」

「アーシュ⁉ すごいね! 可愛い!」

「ぐひひひぃい! アーシュちゅわぁあああん!」

「クリスティアーネは止まれなのだわ!」



「み、みんなの方が可愛いよ! ちゃんと見せてよ」



 ボクは男の子なので可愛いと言われても嬉しくない。それよりみんなの衣装を見ている方が楽しい。


 ニヤリとボクをジロジロみるのは、動物のウサギの耳を付けたぴっちりとした黒いスーツの衣装だ。可愛らしい耳とまん丸なふわふわとした白い尻尾と黒い水着の衣装は可愛いと妖艶さが相まってとてもいい。



「ふふ! これバニースーツっていうの! かわいいでしょ!」

「ああ……すごく可愛いね!」



 それにルシェは犬?すごく恥ずかしそうにもじもじしているのは、いつもはキリキリと働いている彼女からは想像しにくい。でも一度一緒に遊びに行ったときに見せていた彼女の恥じらい様をボクは知っている。

 そんな彼女を、犬を撫でるように撫でてみるとすごく満足げな声をあげる。



「くぅ~~ん」

「可愛い犬だね?」

「お、オオカミだよ!」



 そしてクリスティアーネは普段とは真逆に、なんとお姫様の衣装を身にまとっている。彼女の真っ白い肌にかつらであろう輝くアイリスのようなブロンド。目は隠しているが、結い上げられた髪とその佇まいに高貴な気品を感じた。



「うぇへへ……ど、どう……か、かな?」

「……綺麗だよ……すごい……」

「ふっふっふ~、最高の選択でしょ⁉ あたしの自信作!」

「ケケケ! ナナ……なかなかやりおるのだわ」



 そういってシルフィとナナがハイタッチをしている。

 ボクは目を丸くして見惚れていた。普段との格差があまりにもかけ離れていてすごく奇麗に見える。こんなことを言っては普段が悪いように聞こえてしまうが、ボクは普段の彼女も好きだ。

 でも全く違う方向性の彼女に、改めて見惚れてしまった。



「な、ナニコレ……百合だ! ふつくしき百合の世界……バックに薔薇がみえるよ……」

「ナ、ナナが何を言ってるのかわからないよ……」

「百合って、女の子同士の恋愛! それはとても尊いものなのだよ? ルシェくん」



 ナナがボクたちの品評を始めてしまった。それはちょっと恥ずかしいので先を急がせる。



「じゃぁ! 行こう! 『トリック(いたずら)・オア・トリート(お菓子か)』っていうとお菓子くれるんだよ」

「いたずらされたい人がいたら?」

「い、いないと信じたい……」




 まずボクたちがやって来たのはアイリスのいる彼女の自室。彼女も扮装するということで気合いを入れていた。ボクも彼女の衣装にはとても興味があったのだ。

 部屋の扉を叩き、彼女が出てくる。



「『トリック(いたずら)・オア・トリート(お菓子か)』」

「な⁉ み、みんな、すごく可愛い……すごい敗北感が……」

「アイリスも可愛いよ! でどっち⁉」



 アイリスは相変わらずの絶世の美女っぷりを披露している。それも使用人たちが選んで着せているが、これはスカラディア教典に乗っているとされる『天使』の扮装をしていた。

 まるで彼女の周辺だけ光がキラキラと輝いているように見える。真っ白くて、レースが空けている衣装は彼女の曲線美と相まって、まるで物語の一つの場面を見ているようだ。



「ところで、この女はだれ?」

「ボク? ボクだよ! ボク、ボク! 気がつかない⁉」



 かつてルシェがやっていた真似をしてみる。あえて名乗らずに、気がついてくれることを期待した。



「んん~~~⁉ ……っ⁉ まさか……」

「そうそう!」

「……そう……ボクだよ!」



「――ルシェ?」



「ボクはこっちだよ!」



 こちらをジロジロみて、本当はもう気がついているはずなのにあえて外してくるアイリス。ボクががっくりしている反応をみてくすくすと笑っている。



「ふふふ……気がついているわ、アーシュ。 すてきよ?」

「いやいや、アイリスこそ奇麗だよ」

「それで! アイリス! どっち⁉」



 これは練習なのである。これからみんなで各村に回る予定なので、その予行練習がてらにアイリスが実験台になりたいといってお菓子をつくっていたのだ。

 いつぞやのクッキーをアイリスが一人で焼いたらしい。



「これをアイリスが⁉ すごく美味しい……料理できないのに……」

「そんな過去はしらない! わたしは常に進化するのよ!」

「こそこそと何をしているかと思っていたら、これの練習をしていたのね!」

「アイリスったら、いじらしい~」



 それからボク達はいくつかの場所に回って、お菓子を配る役目をした。実はアミが主導したこの企画は、魔王領全体を巻き込む規模になっていたのだ。

 パーティーに来ることができるのは限られているので、小さな村や町は手分けして回ることになっている。

 アミはミルといっしょに学園組に指示分担して、すでに何か所かまわっているそうだ。




「とりっかとりたー」

「とりっくあとりーとだよぉ」



 村の悪魔の子供たちは、ボクたちが到着するとわーわーと騒ぎながら集まって来る。合言葉の呪文はすでにしっかり教えられていたようだ。



「悪戯や嫌だから、このあま~い! お菓子をあげるわ!」

「わ~アイリスさま~ ありがとー!」



 やはり魔王の娘である彼女が一番人気である。彼女のもとに子どもたちが殺到している。そのほかにも衣装で身を包んだ彼女たちにもまんべんなく人が集まっていた。



「と、とりっくおあとり~とじゃてぇ」

「やぁ、お菓子をどうぞ?」

「こぉんりゃめんこいオナゴじゃぁなぁ~こんな娘っこおったかのぉ?」



 そう言って手を握ってすりすりこすって来る。これはあれだ。じいさんが完全に女性と勘違いして、スケベ心をだしたということだ。

 さすがに気持ち悪くて離そうかと思ったが、せっかくの催し物だからと我慢して対応した。

 そんなことを数人対応していると、村の成人男性がボクの方へ群がり始めた。



「かぁわいい~。 アイリス様のようだぁ……」

「アイリス様と違って、御淑やかなんだなぁ」

「ボボボボ、ボクこの子を推すんだな!」



 なんだ、これ?



「な、なんで本物の女子を差し置いてアーシュが一番人気なのだわ!」

「アーシュすっご。……ニヤニヤ」


「うぇへへ……ぐひひひぃ」

「ちょ⁉ なんでクリスティアーネが一緒に並んでるの!」



 ボクに群がって並んでいた男性陣と一緒に、なぜかクリスティアーネもまじって並んでいた。つい勢いで握手してお菓子をあげてしまった。







 いくつかの村を回り終わって、予定していた最後の村でも同じように子供たちや村の悪魔たちにお菓子を配る。

 すると、ふとあの子がいないことに気がついた。あのブブと仲良くなっていた足が悪くて歩けない子。


 この村はベルゼブブが良く来ている村だ。今日彼は学園の方に言っているはずだから、もしかして一人でいるのではないだろうか。

 もしこの催し物でベルゼブブを彼女からとってしまったのならさすがに後味が悪い。そう思って探すと、彼女の住んでいる家が見つかった。

 彼女は一人で寂しそうに花を弄っていた。

 村ではお祭り騒ぎなのに、彼女一人が寂しい思いをするのは違うと思う。



トリック(いたずら)・オア・トリート(お菓子か)……」

「あ……魔王代理アシュイン様?」

「お……この格好なのによく分かったね。 トリック(いたずら)・オア・トリート(お菓子か)……いってごらん?」

トリック(いたずら)・オア・トリート(お菓子か)?」

「こりゃたいへんだ! 悪戯は嫌だから、お菓子をあげよう!」



 すこし棒読みだったかもしれないが、そう言って彼女にお菓子を進呈した。するとくすくすと笑っている。

 彼女の足は人間にやられたらしく、両足とも切断されていて歩くことができない。かなり前にやられたものだから、再生することも難しい。

 だからだろうか。ボクは彼女に罪悪感をもっていた。


 でも彼女にたいしてひいきするわけでもない。それとは別に、一人取り残される寂しさはよく知っていたから、正義感などではなく共感できるとおもって放っておけなかっただけだ。



「ブブは学園にいるから一緒にいかない?」

「……いいの? ……ブブちゃん忙しそう……」

「いいに決まっているさ!」



 みんなに言えば彼に割り当てられた仕事ぐらい、代わりにやってくれる。そういって彼女を抱き上げる。なんとシルフィより軽くて少し驚いた。



「わぁ……高いね!」

「じゃあ行きましょうか、お姫様?」

「あ……ありがと……」



 みんなのところに戻ると、あのボクを出せという男性陣が詰めかけていた。それを対応するのはさすがにもう疲れたので、追い払ってもらう。

 この催し物ってそう言うやつではないだろう。

 それからルシェに事情を話して、彼女を連れて学園にいく。




 学園に戻ると、他の村に回っていたアミやミルたちがすでに終わって準備していた。そう、これからが本番だった。



「じゃあ、あたしも準備してくる!」

「がんばってね! ボクも楽しみにしているよ!」

「うぇへへ……楽しみぃ」



 あの時、ルシェは締約会議に向けての準備が忙しく見ることができなかった。それにクリスティアーネもスカラディア教会本部に行ってボクの事を調べてくれていたから見ていない。

 パーティーと同時に彼女たちの為の再演も行うのだ。


 他のみんなもそれぞれ分かれて分担を手伝いに行ってしまった。シルフィとクリスティアーネは担当がないので、残っている。


 開始まで少し時間があるのでブブを探して、彼女と合わせてあげなければならない。それに彼の担当分は変わってあげないといけない。


 学園の演劇をやる講堂へいくと、ブブは舞台の設営の準備の手伝いをしていた。



「ぶぶちゃん!」

「んも? んもぉ⁉ んもんも」



 彼女に気がついて、どすどすとおもおもしい音を立てて近寄って来た。彼もうれしかったみたいで笑顔で向かってくるのがわかった。



「んも~んも」

「じゃあ、ベルゼブブ。彼女をひきとってくれ」

「んも~も?」


(あんただれって言っているのだわ)

(相変わらず、まったく何を言っているのかわからないな)



「アシュインだよ。 いまちょっと変装しているけど」

「んも! んも~!」



 やっと理解できたようで、お礼を言っている。もう面倒だからシルフィに全部通訳してもらった。

 彼の分担分はボク達が引き受けて、彼は彼女と一緒に演劇を見ることを薦めておいた。足の悪い彼女もブブと良い雰囲気になって将来つがいになれば、そのハンディも関係なくなるだろう。



「アーシュはやさしいのだわ」

「……単に共感しただけ。二人ともわかるでしょ?」

「ぐひ……わ、わかるぅ」



 彼女たちも孤独で寂しい思いをした経験があるから、きっとあの子の気持ちもわかるだろう。

 今は二人やみんながいてくれることを実感して、二人の手を握った。



「さ、そろそろパーティーが始まるからボクたちも行こう」

「行くのだわ!」

「ぐひひ……う、うん」






読んでいただきありがとうございます。

アミとミルの登場まで行かなかったので、いつか機会があれば……。


広告下の★★★★★のご評価をいただけると嬉しいです。

よろしくお願いします。

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[良い点]  過ぎ去った幸せ……  楽しい内容なのに、現状を思うと切なくなります。  こんな優しい世界を再び取り戻せたら……
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