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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
134/202

世界最強?

あらすじ


 アルフィールド領の町で情報を集めるアシュインたち。ナナとの二人旅は案外楽しいものだった。



 その日はカルケールに魔法陣を設置して一度帰る。そろそろロゼルタが部屋を訪ねてくる時間だからだ。出来るだけ不在が無いように不自然が無いように装わなければならない。



「アシュイン。 ……ごきげんよう。午前はどちらに?」



 戻ってくるとラインハルトからのロゼルタ来訪の報告を受けていた。図書室で暇つぶしの本を借りに行ったことにしておいてくれたようだ。

 口裏を合わせるようにその理由を言うと、少し訝し気な顔をしている。疑われてしまっただろうか。



「……他の女性のところへ……行ったりしてないわよね?」

「ロゼがいるのにそんなことはしないさ」



 そう言って抱きしめる。午前中にナナを抱えて走ったので、念のため身体も清めておいた。ボクはまったく気がつかなかったけど、ナナが指摘してくれたおかげで準備万端だ。

 恋人になると、特に他の女性の匂いに敏感になるらしい。



「んふ~こうして撫でられると幸せ……このためだけに頑張って来たと実感するの」

「ロゼが幸せならボクも嬉しいよ」



 色々と腹を探れそうだと思ったけれど、彼女は仕事の話を一切しない。こうした時間も信用を得るためには必要だけれど、探れないと無駄な時間を過ごしている気になって来る。


 借りて来た本の話や、庭園の薔薇の話。その中で直接関係ないと思ったのかアルフィールド領の話が出た。

 いずれボクもロゼと一緒に挨拶に行かなければならないそうだ。彼女を支持してくれている貴族の中でも最も権力が大きい侯爵家だからだ。以前は宰相がその上で実権を握り、陰で支えるという役目を果たしていた。しかし宰相派とは分裂したので、ロゼルタ派の実質的な権力はアルフィールドに集中していると言う。

 ヴィンセントが急に態度がでかくなった理由でもある。



「そういえば……あそこの末っ子と騎士団長がご婚約されるそうですね」

「……そうなのか」



 ……信憑性が高くなってしまった。

 ロゼルタの見立てでは、宰相派の切りくずしの為だと睨んでいる。たしかに大領地とはいえ末っ子の使い道などそれぐらいしかないのだろう。

 時期に同派閥には婚約パーティーへの招待状が届くと言う。もちろんボクもその中に入っているそうだ。



「アシュインとはお知り合いなのでしょう? 騎士団長と」

「ああ……お祝いしてあげないとね」



 くそ……こんなこと絶対に言いたくなかった。


 しかしこれもロゼの牽制かと思うと、そう言わざるを得なかった。ここで反応してしまうと、再びロゼに疑われてしまう。

 王位継承の儀までは騙し通さなければ。



「そう……んふふ~よかった。昔の知り合いに懸想でもされちゃわないかと不安だったの!」



 そういって彼女はぎゅっと強くしがみつく。かなり嫉妬心が強いようで、もし彼女の行動がそれに集約されるならば逆に扱い易いともいえる。

 そんな彼女に頬に手を当てさすり、丁寧に撫でる。頬は紅潮し目を潤ませて蕩けた顔をしていた。


 ボクは彼女を愛していない。

 性交なんて反吐が出る。


 だから撫でて愛でることで満足させるだけにとどめる。彼女が満足さえすれば、成功をしなくて済むのだからやさしくもできる。

 この際だから彼女が疑う気がなくなるほど、癒しを加えて丁寧に撫でた。



 三十分ほどそうしていると、彼女は意識を失っていた。よほど心地よかったのか、満足気な顔をしている。



「あの……いくら婚約者でも昼間っからは自重してくださいまし」

「いや……彼女は無理をしているから、休ませてあげただけだよ」



 彼女の専属の使用人は食って掛かるけれど、彼女の満足気な顔をみれば責める気も失せたようだ。

 まだロゼとも近い年齢の女性のようで、頬を紅潮させてこちらを見ていた。

 どうやら先ほどのロゼルタの声を聞いていたようで、勘違いしてしまっているようだった。


 念のため弁解しておいたけれど、あまり信じていないようだった。こういうのはすぐに噂話にされてしまう。でも『姫様との関係は良好』という噂であれば逆に好都合だろう。

 そんな彼女たちにロゼルタを休ませるように連れて行かせる。ずっとここで休ませていては行動できないからだ。



 部屋はボクとラインハルトだけになったので、再び出ることを伝える。今日中に領主城へ潜入しておきたい。今日はもうロゼルタは来ないだろうから夜まで向こうでも問題ないだろう。

 宿屋にナナを置いてきたので、さっそくゲートで再びカルケールの町へ移動した。


 宿屋に戻るとベッドにナナが横たわっている。



「お待たせ。 あ……寝ているのか……」

「……むにゅむにゅ……あーしゅぅ……」



 無理やり抱き上げて連れてきてしまったような形だったから疲れてしまったのだろう。

 思えば彼女には助けられてばかりだった。それにみんなの前では特に明け透けで、空気を明るくしてくれていた。

 だと言うのにその恩恵をあまり受け取ろうとしない。自分はいいからアミにあげてほしいとか、別の子を優先させる。

 彼女はボクの事をどう思っているのかすごく興味が湧いた。



 ただ彼女には悪いが今日中に領主城に行きたいので、先に出て魔法陣だけ設置しようかと思う。心配しないように紙に伝言を残す。

 ここからなら全力を尽くせばもう一、二時間で領主城へたどり着くだろう。









 魔法陣を設置して戻った頃にはナナは起きていた。勝手に行ったので少しご立腹だ。



「も~ アーシュなんて嫌い!」

「ご、ごめんね。 ボクが悪かった」

「ほらぁ……そういうとこだよ!」



 なんでも自分の所為にして、人の所為にしないところはボクの悪いところらしい。自分の所為ばかりにしていると、周囲が甘えて押し付けるようになってしまうそうだ。

 そんなボクの悪いところも彼女はよく見ている。



「善処するよ」

「ほんとだよ?」



 すでに日が沈み始めていたけれど、潜入にはちょうどいい時間だった。設置した魔法陣は領主城下町ピケロの宿屋の借りた一室。

 ここは貴族しか使われないそうなので、当然服装規定(ドレスコード)もある。あまりみすぼらしい恰好だと拒否されてしまうし、ナナは冒険者の格好をしていたので二階の中にある服店で見繕った。

 中から冒険者の格好のナナがでてきて少し店員がぎょっとしていたが、すぐに大盤振る舞いするようなそぶりを見せると喜んで対応してくれた。


 ここは全身、髪から化粧、それにドレスや靴まで全てをコーディネートしてくれる。騎士が鎧から服を調達する時に重宝されるそうだ。

 ボクもついでに見繕ってもらった。



 ボクは早々に着替え終わって控室で待っていると、すこし間を置いてナナも着替え終わったようだ。入って来たのはやや背伸びした感じがあるけれど、本当に奇麗な白い肌に似合う黒いドレスだった。



「とても奇麗で似合っているよ……ナナ」

「ほんと? うわーうれしい! こんなの初めてだよ!」



 召喚勇者達は全員ボクより一つ年上のはずなのに、少し幼い印象だった。男子も女子も身体が小さいし華奢だった。

 それでもナナが聞かざると奇麗な淑女へと大変身を遂げた。

 支払いは小金貨二枚程度だったので割安だとおもった。店主に聞くとここはとにかく領主による援助が手厚いので、場所や従業員の経費が掛からない分安く提供しているそうだ。



「え? そんなに高いの⁉」

「もちろんおごりだから気にしないで?」

「うそぉ……いいの?」



 ナナの金銭感覚と大分かけ離れていたようだ。ボクは普段からほとんど使わないし、王国を去る時にもらった報奨金があるのでお金に困っていないだけだ。

 それにいつも助けてもらっているナナに喜んでもらえるなら安いものだ。



「ボクが見たかったんだからいいの」

「う……やばいよ……それ反則……」



 彼女は頬を紅潮させて恥ずかしがっている。そんな初々しい彼女をみてボクと女性の店員は頷いて親指を立て合った。



「やるね!」

「貴方こそ素晴らしい!」



 この店員さんとは気が合うようだ。

 それから腕をだして彼女をエスコートする姿勢を取る。彼女はそれかが何なのかよくわからずに慌てているので、店員の女性は耳打ちしていた。



「男性がエスコートしてくれるって言っていますよ……腕を借りるのです」

「あ……は、はい」



 腕をくの字にして待っていると、しずしずと手を添えるナナ。それは本当に淑女のように見えて微笑ましく思えた。

 店員に親指を立ててその場を後にする。



「宿屋をでるまでだけの短い間だけどね」

「馬車は……使えないから『隠匿』の出番だね!」

「外に出たらお願いするよ」



 わずかな時間だけれど、二人の時間を楽しんだ。

 そして外に出ると、彼女に『隠匿』を使ってもらう。以前は仕様中に移動を著しく制限されていたけれど、今は全くないようだ。


「ナナはかなり成長しているね。ボクでも見つけられないし、移動も自由だ」

「ふっふっふ~そうでしょ、そうでしょ!」



 自慢げに胸を張る彼女は楽しそうだ。そう茶化しているけれど、魔物を倒したりするだけでは成長しない操作系のスキルをここまで昇華させるのは相当苦労したはずだ。

 彼女の努力もアミと同じで本当にすごい。



 気配と魔力を抑えて移動する。これなら話をしなければ一切見つかることはないだろう。それに……。



「もしかして攻撃もできるんじゃない……?」

「それは極悪だ……」

「なかなかのずる(チート)でしょ?」



 これは攻撃力ある人間に使ってやれば、ほぼ気がつかないまま死に至らしめることができる。まったくの突然に人が死ぬということが実現できてしまう。

 それはいくらボクのように魔力があっても上位魔女でも不可能なことだ。案外彼女が世界最強なのかもしれない。






読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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