閑話 奴隷の聖女
聖女ユリアの視点です。
あらすじ
聖女ユリアはガランとの子が流れて失意の中、ケインと不貞をしてしまう。それが教会にバレて違約金が払えずに借金奴隷に堕ちてしまった。
わたくしは絶望している。
それはケインやアシュインに陥れられて、奴隷になってしまったからだ。
……くそがっ!! おっと失礼。
わたくしは聖女ユリア。まだ16歳。子供を宿したけれど、すぐに流産してしまった。
きっとアシュインの呪いの所為です……!!
それに付け込まれ、ケインの誘惑に乗った。そして不貞がばれて奴隷堕ちだ。
わたくしは借金奴隷になった。
借金奴隷は、性奴隷と違い夜伽を求められることはめったにない。
その代わり労働力などを提供しなくてはならないので、小間使い、冒険者のお世話係、貴族の使用人などに徴用される。
わたくしはただの使用人になっているほどお人よしじゃない。必ずケインとアシュインに復讐してやるつもりだ。
ガランへの未練はもうない。流産してから一度もシていない、冷え切った関係だったからだ。
聖女でもない、お金もない、地位も、そして戦う力もない。出来ることと言えば、ヒーラーと同じく、簡単な癒しのみ。
だからわたくしは、この体を武器に使うことにした。
まだ16歳。頑張ればイケます。
わたくしは奴隷にされる前に、お城の侍女から異世界召喚術が使われることを知った。王女の企みらしい。
あの気弱で品行方正な女王が? 吹っ切れたのでしょうか?
それはわたくしにとってチャンスだ。
異世界召喚者といえば、一人か二人ぐらいお城から追放されてくるはずだ。
わたくしの家系は代々聖女を輩出していた。その歴史をたどると、必ず『追放勇者がチート』という訳の分からない言い伝えが残っていた。
はて……チートとはなんでしょう?
わからない単語があったけれど、狙うならこの追放される勇者だ。その勇者を誑かして、『薄幸そうな奴隷』を演じてやる。
そしてそのわけのわからない力で、気に食わないやつを倒してもらう。
これです……。
わたくしは計画の準備を始めた。
奴隷と言っても、奴隷商のもとにいると、デブおっさん貴族に買われてしまう可能性があった。だからわたくしは奴隷商の元からこっそり逃げ出した。
わたくしは数日我慢して、野宿で暮らす。みすぼらしく見えるようになるのもポイントだ。
今のままでは聖女の高貴さが残ってしまっている。髪をぼさぼさにして、泥で身体をすこし汚すことで演出する。
3日後。そろそろお腹が空きすぎて、限界がきた。これ以上は追放勇者を待っているのは危険だ。わたくしはふらふらと街中を歩く。
……見つけました!!
表通りの端っこに、見たこともない服をきている男の子を見つけた。
彼はまだ幼さが少し残る顔立ちで、地味な顔をしている。髪の毛はぼさぼさで手入れされていない。
知らない世界に呼び出され、追放されて独りぼっち。なんとも寂しいし不安に思っていることでしょう。わたくしは母性本能にかられた。
チャンスと同時に、彼を癒してあげたいとおもった。そうおもって、計画通りに彼の前に倒れ込んだ。
とさっ
「……っ。も、もうしわけ……あ、あれ?」
わたくしが狙って彼の前に倒れたのに、彼は逃げ出してしまったようだ。
驚いて逃げた!? な、なんてひ弱な……。
さらに何度か、彼の前に現れては倒れを繰り返したが……。
「な・ん・で・よ~~~!!」
彼は必要以上に臆病だった。追放されるのも納得せざるを得ない廃品だった。もう一人くらいマシな人間はこないものか。
わたくしが嘆いていると、さっきの少年が話しかけてきた。それも哀れな人間を見る目で。
「大丈夫? 話、聞いてあげようか?」
「……おねがいします」
わたくしは出来るだけ非処女であることを隠しながら、本当の情報を話した。まったくのでっち上げだとボロが出てしまうから、事情を話して同情をしてもらおう。
案の定、彼はチョロかった。それにこの手の少年は処女が大好きである。理由は分からないけれど、御手付きが嫌なのだろう。
すごく面倒くさいご主人様だけれど、なんとか奴隷として同行させてもらえそうだ。
奴隷契約は教会に登録されているので、重複できません。
彼とは口約束だけになってしまいますが、この優男であるなら大丈夫でしょう。
それに彼らの住む世界では身分制度が無いという。
だからひどい扱いを受けることはないだろう。適当に褒めておけば問題ない。
彼は『山田 恭介』。異世界から来て、勇者の能力を授かった。能力は「パペットダンス」。ハズレらしくて王女に追放されたそうだ。
「どういう能力ですの?」
「……相手がなんか気持ちわるくなる」
「へ?」
「……相手がなんか気持ちわるくなる能力」
「はぁ……さ、さすがご主人様……」
これははやまってしまったかもない。
わたくしは、彼が知っていると思い、チートという言葉の意味も聞きました。チートとは、不正行為、インチキを表す言葉で、世界のバランスを崩すインチキのようなバカげた力のことを指し示すそうです。
このパペットダンスにそんな効果があるとは思えません。あの伝承は間違っていたのかもしれません。
いやまだです!!
あきらめない……ぜったいにあきらめてやるものですか!!
誤字脱字のご指摘有難うございます!
これからもよろしくお願いします!
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