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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
128/202

熊同盟

あらすじ


 カタストロフを交えて作戦会議をしたアシュインたち。それぞれが溜まっていたうっ憤を吐き出すのであった。




「行ってくるね」

「……う、うん……す、すぐおいかける」



 そういってクリスティアーネと抱き合ってから別れる。他の見送りはいない。

 召喚命令と共に王室が用意した馬車の迎えも着ていた。ほとんど猶予もないままにつれていかれる形だ。

 クリスティアーネやエルたちは王位継承の儀の当日に王城へ向かうこととなっている。





 馬車で揺られていると同乗した王城の執事は、王位継承の儀までの概要を説明していた。おそらくロゼルタ派の人間で間違いないだろう。


 通常の王位継承の儀であれば王城の儀式の間で執り行われるのが慣例だけれど、今回は内外に広く知らしめる必要があった。

 ロゼルタの一声で全てがカスターヌ町の演劇場で開催されることとなったのだ。


 王城内に置いてはロゼルタの権力は絶大ではあるが国民の認知度から言えばエルに遠く及ばない。顔すらしらない国民の方が多い程だ。

 その権力と認知度、それから悪魔の奴隷制度の周知を含めたお披露目には出来るだけ多くの人を集める必要があった。

 代わりに警備が難しくなるため、王国軍に加えて帝国軍も参加して警備すると言う力の入れようだった。


 これは戦争の一時停戦と、今回終戦宣言を行うことも行事の目録にふくまれているから、それを知らしめる意味もあるのだとか。


 いくらなんでも盛り込みすぎている。

 国民がその目まぐるしい目玉について行けるとは思えないが、それはロゼルタの強引なやり口らしい。

 おかげで王城の貴族たちはずっと目まぐるしいほどの忙しさだと愚痴をこぼす。



「いや……婚約者殿に失言でした……申し訳ございません」

「あまり気にしないで良いです」



 それから今回の警備には上位魔女である紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)にも依頼していた。まさに鉄壁の守りであると執事は息巻いている。

 ロゼルタ派に主導権があるため、彼は特に自信に満ちていた。


 逆に宰相派とは完全に分裂し、彼らは死に体とまではいわないにしても旗色が悪い立場になっている。

 ボクとしてはあの腹黒さも必要悪だと思っている。私腹を肥やしていてもだ。ただロゼルタは今回やり過ぎている。

 彼女が死ねばこの人もボクを恨むだろう。だけどもう止まるつもりはない。



 しばらくのんびりと馬車に揺られて旅をする。アイマ領は主に農村ばかりだ。城下町を抜ければあまり道も整備されていないので、いくら王室専用の馬車とは言えかなり揺れる。


 そのうち森が近づいてくると、大きな揺れと共に馬車が停止した。慌てて執事が外に出て様子を窺う。



「何があった?」

「いえ……通行路に子ども倒れていまして……」

「そんなもの踏みつぶしてしまえ‼」



 なんてことを……。

 慌てて外に出て倒れている人間の元まで駆け寄る。すでに護衛騎士が子供にむけて剣を振り上げているところだった。

 そしてふっと振り下ろす――




 それを素手で受け止めた。



「やめろ!! まだ子供じゃないか」

「は……貴方に指図されるいわれはない。我々は姫の命で護ってやっているだけだ」



 なんとも高慢な言い分だった。ただこんなことでいちいち荒事にするつもりはないので、子供に話を聞くことにした。



「……どうしたの?」

「……み……ず……」



 まだ小さな少女だ。しかし何か変だ。飢餓やケガなどの様子が一切ないのに、こんな森の近くで物資も簡単に手に入りそうな場所で、水を求めている。

 すると急に周囲にいくつもの気配が現れる。



「みなさん……敵襲だ」

「なんだと⁉ どこだ!」



 護衛の騎士は周囲を見渡しているが、まだ距離があるようで発見できていないようだ。もうすぐ近くに大きい魔力が複数近寄ってきているのが認識できているが、ボクの視界にも敵を発見できなかった。



「くくく……良く見破ったね」



 少女は、ばしっと抱いている手を払いのけて、ボクから距離を取ろうとする。しかしそんなことで離すつもりはない。



「なっ⁉ なんではらいのけ――きゃ!」



 さらに抱き寄せて、立ち上がる。人質何てとる必要はないけれど、正体を現してくれないと厄介だ。ボクでも発見できないとなると相当な手練れだ。

 気がつかないうちに護衛が数名、すでに気絶させられている。



「……え⁉ アーシュ?」



 近づいてきた気配は、ボクの名を呼ぶ。知り合いだった様だ。と言うかその声は覚えがあった。こんなところでなぜ彼女が盗賊のような真似をしているのか確かめなければ。



「なんでこんなところにいるんだ、アミ……それにナナもいるよね?」



 すると二人が姿を現す。他にも大勢いるが彼らは隠れたままだ。



「アミのバカッ! ばれちゃったよ!!」

「ご、ごめんなさい……まさかアーシュがいるなんて」



 周囲をみると既に護衛はほとんどが気絶させられていた。先ほどの執事も一緒にのびている。



「かなりの手練れがいるようだね。 それにナナの隠匿もボクがわからないほどに成長している」

「ほんと⁉ やったぁ!」

「は、話はあと……アーシュ。アジトにきて」



 少しだけの時間を条件に彼女たちのアジトへとついて行くことにした。倒れている彼らは道の端へ寝かせて、野営を装っておく。



 彼女たちのアジトは近くの森の中を抜けた小さな村にあった。その村は地図にも載っていない集落だ。

 藁と木でできた家が数軒建っているだけの簡素なものだ。ボクは貴族の衣装に身を包んでいるから、不釣り合いもいいところだった。



「へぇ……良いところだね」

「その衣装で言われてもね?」



 アミやナナそれから他の人間も、以前魔王城で着ていた奇麗でかわいい洋服ではなく、冒険者と言わんばかりの軽装備で身なりを整えていた。

 まるでこれから戦いにいくような風体だ。


 村の建物の前につくと空間の歪が出来て、中へ入るように促した。まるで祠のある結界のような高度なものに少し驚いた。

 そんなものをアミやナナたちが扱っていることに違和感を覚える。


 中はまるで亜空間書庫のようだ。シルフィやクリスティアーネとはまた違った生活感のある書庫だった。むしろ書庫には見えない下宿所のような場所だ。



「気がついた? これあたしの亜空間書庫」

「え⁉ これが? すごく広いし生活できるね」

「あはは……だって人数が多いし、この村じゃ住居がたりないから」



 アミはボクがいた頃の魔王城のときより、はっきりと話をするようになっていた。それは魔女になって自信がついたのか、それともあの後に何かがあったのかもしれない。



「さて、彼女を解放してあげて?」

「あ……あ⁉」



 倒れていた演技をしていた彼女ははじめ、わちゃわちゃと抵抗していたが途中からぐったりとして身を預けていたから、そのまま抱きかかえて連れてきてしまっていた。そしてそのまますやすやと寝ている。



「あはは……その子が懐くなんてめずらしぃ……さすがはアーシュ」

「その子もメンバーだけど、気性があらいの」

「メンバー?」



 この集団は何者かと思っていたが、なんとアミを中心としたレジスタンス『熊同盟』だという。『熊』は彼女の本名『熊沢 亜美(くまざわ あみ)』から取られた名だと説明してくれる。

 話を聞きながら先ほどの子が離れないので撫でている。



「あのドギツイ女王様の西条(さいじょう)がいきなりデレデレじゃねぇか……」

「あの人何者だ……?」



 あまりうれしくない褒められ方をしている気がする。周囲を見渡すと男女同じ程度の人数がいるようだ。

 彼らは召喚勇者とそれに意気投合した人間達で構成されている。元の世界に帰るための模索をする集団だと言う。



「……かえりたいのか……ごめんね……」

「なんでアーシュが……ちがうでしょ⁉」

「いや……元はと言えばボクのせいだろう」



 魔王城に強制的に連れて行ったのに、こんなひどい有様になったのだから彼女たちの言い分も当然だ。


 アミはクリスティアーネを追って魔王領を出たけれど、見つけることができずに資金が尽きたので、魔女の依頼を受けていたら人が集まっていたそうだ。

 ナナは立場が危うくなるギリギリまで魔王城に残って、アイリスについていた。しかし人間と言うだけで差別されるようになり、『悪魔の量産計画』でさらに危険度が増したのでアイリスが逃がしてくれた。


 なぜ『悪魔の量産計画』なんてあまりにも悪魔の事を知らない施策がとられたのか気になっていた。

 村の襲撃があった後あたりから、急にアイリスとルシェが言うようになったので、ナナは違和感を覚えたそうだ。



 それから二人は合流し、クリスティアーネの情報やそのほか情勢についても情報を集め始めると、召喚勇者が彼女たちのもとへ集まりだした。

 そしてアミの魔女としての格に頼った。

 ここではアミの地位は世界中の中でも上位に当たる存在だ。どこへ行っても重宝される。



 集まったメンバーは様々な立場や国に就いていた為、多くの情報が集まった。その中でロゼルタ派と帝国皇帝派についた者は、元の世界へ戻る手段を餌にぶら下げられていた。


 ボクの調べた情報の中では、それは嘘だと思う。

 あの召喚術のクールタイムが三十年だからだ。同等の魔法をつかうのならそれ相応の対価や時間が必要になるはずだ。

 それを聞いたこの場にいるものは驚き騒然となった。



「それ本当なの⁉ 召喚術のクールタイムが三十年って」

「王城の禁書書庫で調べたから信憑性が高いよ。それに王家の血が必要だ」

「……そんな……」



 それが帰還する手段にも適用されるかどうかは分からないし、そもそも手段の有無すらわかっていないからと諫める。

 周囲のメンバーもほっと溜息をついている。



 『熊同盟』のメンバーはここにいるだけではなく、多くの召喚勇者が所属している。その中には帝国に所属しているものもいれば、ロゼルタ派を装っている者もいる。

 男女ともにアミやナナと同い年の子たちばかりだ。さすがに目立つから召喚勇者特有の衣装を着ている者はいない。

 彼女たちは婚約者を手籠めにして、王族内に新勢力を作ろうと言う魂胆だった。ただそれはかなえられそうにない。



「あの……アーシュは何故、王室の馬車に?」

「そう!! あたしたちロゼルタの婚約者になる人を追っていた。……なぜ⁉」

「婚約者であっているよ」



 宰相との交渉材料とボクの価値を高めるために婚約者を装っているとこまではさすがに言わない。それをあまり広めてしまうと、計画が途中で止められてしまう可能性があったからだ。



「なんで……そんな……みんなの事はどうするの?」」

「事情は言えない。でもキミたちの味方はできるよ」



 まさかロゼルタ姫を惨殺するためです、なんて言えるわけがない。ただ何か彼女たちにしてあげられるとしたら……。



「王族の血は手に入ると思う。もし王位継承の儀に間に合うなら帰る方法を探すと良いよ。魔法陣だけ用意できれば帰れるはずだ」

「え! ほ、ほんと⁉」

「……アーシュ……あの……そ、それは……」



 ナナは単純に喜んでいるけれど、アミは複雑な表情を浮かべている。ボクがやろうとしていることに感付いたのかもしれない。

 彼女に手のひらを見せて止める。それ以上は口にするなと無言で訴える。それは察してくれたようだ。

 そして彼女たちに向き直り、すこし真剣な目で問いかける。



「アミ……ナナ……やっぱりこの世界は嫌だった?」

「……ううん。アーシュといた時は楽しかった……すっごく……」

「あの……あたしも……アーシュと――」



 そこでまた彼女を止める。アミは立場上、それ以上は言ってはいけないはずだ。彼女はこのレジスタンスのリーダーであろう。

 異世界帰還を否定すれば、このレジスタンスの存在意義が失われてしまう。今この場にはアミを慕って集まってくれている有志がいるのだ。

 彼らもそれ以上言わないでほしいとこちらに視線を向けている。ボクの登場で彼女たちの決心が揺らいでしまっていた。早々に立ち去るべきだろう。



「ボクはもう行くね……」

「……ま、まって……」



 追いかけて引き留めようとする彼女たちに向き直る。本当は帰ってほしくないけれど、それはボクの我儘だ。

 彼女たちの決めた道をボクは応援する。



「ナナ……すごく成長して驚いた。それに奇麗になったよ……」

「……っ!」

「それにアミ……言ってなかったから……魔女、おめでとう。 最後までこの世界をたのしんでね」

「……うぅ……ほんとうはがえりだく――もごもごもご」



 アミが堰を切ったように泣き崩れてその言葉を吐いてしまう前に、後ろにいた召喚勇者の友人に口をふさがれる。

 そして彼らの嫌悪を我慢したような視線を背に、ボクはその場を後にした。






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