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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
125/202

量産計画

あらすじ


 聖剣に陽炎を宿したアシュイン。そのあとは海を堪能してからジョウウの家へと帰宅した。




「……いったた……」

「ぐぇへ……薬……あ、ある……よ?」



 次の日、三人は二日酔いでうなだれていた。クリスティアーネはぴんぴんしているし、ボクは自分の体と相談しながら飲んでいたから今日に残していない。

 このままでは午後まで寝ていそうだから、クリスティアーネの薬を飲ませることにした。



「……まっず!」

「……うゲぇ!」

「おげぇえええええ!」



 ジョウウが一番嫌がっている。爺のくせして一番舌が敏感なようだ。達人で筋肉がはみ出るその躯体がだらしなくくの字に曲がっている。





 しばらくして、落ち着いたようだ。甘い果汁をぐびぐびと大量に飲んで舌を紛らわせている。


 そして急に鋭い目つきをこちらへ向けた。

 祠についてはあれで納得していたが、これからボクたちがどこへいくのか、気になっているようだ。




「で? お前ぇ 何しようとしている?」



 ジョウウがこちらにギロリとにらみを利かせると、対抗したようにクリスティアーネがギョヌルと目を血走らせる。



「ひっ⁉ なんでわしより目力がつえぇんだよ!」

「じじイ、うるさイ」



 どこまで話すか迷ったけれど、直接人間にかかわる部分は知っておいても良いだろう。どうせすぐに各国の中央から発表されることになる。



「人間の国はこれから悪魔の奴隷化が推進される……それをぶっ潰そうかとおもってね?」

「ぬぁんだと! ……それはこの国の皇帝陛下も推進するのか?」

「おそらく……」



 この国はほとんどヴェントル帝国の属国の様な位置づけだ。ヴェントル帝国の意向に反論することなどできないだろう。いずれはこの国にも奴隷として首輪を繋がれた人間とさほど変わらない容姿の悪魔がやってくることになるだろう。



「お前ぇ、悪魔を助けたいのか?」

「ああ……たいせつな悪魔もいる。それに彼らは力が強いが、人間よりはるかに温厚な種族だ」

「ああ……それは知っている。いいぜ。俺が話をつけてやる」



 ジョウウは悪魔族の昔からの知り合いがいると言う。思ったより顔が広いようだ。それにこの国の皇帝とも話ができる立場なのも驚かされる。

 この国で悪魔の奴隷はまかり通らないように帝国内と東方諸国には圧力をかけることができるそうだ。


 一番の問題である三ヵ国には力が及ばないがそれでもかなり違う対応ができそうだ。



「あとぁ……戻るところがなくなったら戻ってこい。匿うぐらいはできるぞ」

「ああ……ありがとう」

「ふん……おめぇの為じゃねぇ。シャオリンの為だ」



 そういって顔を赤らめてそっぽを向くジョウウは素直ではない。いい歳をしたじじいは思った以上におちゃめだったようだ。

 念のため見つかりにくい魔石を隠してあった部屋にゲートの魔法陣を設置させてもらった。これでいつでもここに来ることができる。


 そしてそろそろお別れの時間だ。

 期日もあまり残されていないので、まだ召喚命令は出てないけれど戻っておいたほうが良い。



「じじイ……さみしいカ?」

「んなこたぁねぇさ……おめぇの人生を楽しめ!」

「うン! ありがと! ジィちゃん!」

「おぉおお……」



 二人は抱き合って、家族であることを確かめ合っていた。ゲートさえあればいつでも来られるし、メフィストにもボクが使っているゲートを教えておいた。

 それからシャオリンは、こちら側にいるメフィストに抱きつく。こちらに向いて頷いているからもう別れは十分なようだ。

 お礼を言ってゲートを使い、ボクたちは白い世界へと包まれていった。





 ――アイマ領主城



 ボクたちはやっとグランディオル帝国のアイマ領主城へと帰って来た。魔法陣の周囲には誰もいない。

 使用人を捕まえてカタストロフの面会を依頼する。しかしすぐには時間が取れないので、明日の予定となった。

 ボクたちは客室に案内されて、ここで泊まるように言われる。寛いでいると、しばらくして召喚勇者のタケオとジンがやって来た。



「お疲れ様です!! アシュインさん!」

「やっと帰って来た! 待っていました!」



 相変わらず元気で人懐こい二人だ。この二人はボクに好意的でいてくれる数少ない味方のうちの二人だ。雪崩現場の近くの村に拘束されていたところを助けたのをきっかけに慕ってくれている。

 手紙を届けた小鳥も二人のスキルの連携だ。



「手紙ありがとう! 助かったよ」

「よかった! 返信もちゃんと承っていますよ。 それにしても……例の話、聞きましたよ……」



 礼の話とは奴隷化の事だ。はやりアイマ領としてもグランディオル王国に所属している限り、あがきようがない。

 事が決するまではそのまま従っている形で問題ない。ひっくり返る(・・・・・・)その時までは。



「ところでそちらのお二人は?」

「ああ紹介するよ。元魔王領幹部で元ヴェントル帝国将軍のメフィストフェレスとその娘のシャオリンだ」

「よ~ろしぃく!」

「……ちゅぱちゅぱ」



 シャオリンはボクたちが話している最中にいつの間にかまたボクの指をくわえて舐めていた。そろそろふやける。

 ちゃんと挨拶するようにメフィストが叱っている。その様子は本物の親子に見えて少し羨ましい。



「アシュインさんはどうするつもりです? 王位継承の儀に出席するんでしょう?」

「明日、領主と話すときに、計画を話すよ」



 もう仲間には話しても大丈夫だろう。それに離れていた王国の情勢もしっかり把握して調整をしなければうまくいかないだろう。

 明日の面会前に二人の知っている王国の内情を聞いてみる。彼らは彼らで使い方の工夫を教えたことを参考に、スキルをいろいろと試していた。

 そのおかげで、動物の視野をわずかな時間なら得られたりするところまで応用できていた。さらに他にも遠方での弱い攻撃なら可能になったので、毒を仕込めば暗殺も可能なレベルにまで達していた。



「さすがは最強の二人だな!」

「二人そろってですが、これもアシュインさんに教えてもらったからです!」



 いまは暗殺対象がいるわけではないので、多くの偵察をおこなっていたそうだ。


 まずは宰相とロゼルタ姫の動き。

 ロゼルタ姫はあれから専用の子飼いを使って、かなり勢力的に動いていた。暗部の情報集めには貴族の文官を使わずに、子飼いだけを信用したという。

 おそらく周囲の貴族のほとんどがジェロニア宰相の子飼いであることがわかっていたからだ。


 その子飼いは召喚勇者だという。召喚勇者の多くは、やはり無理やり連れてこられたことに腹を立てているそうだ。

 そのことを逆手にエルランティーヌへの復讐と、帰還方法を盾に忠誠を誓わせているという。王国内のほぼすべての召喚勇者と帝国内の一部もそれに賛同して従っている。

 その中には彼らの元彼女だった二人も含まれていたと言う。


 つまり勇者を通じて、ヴェントル皇帝と主につながっていたのはジェロニア宰相ではなく、ロゼルタ個人ということになる。

 すると必然的にあの雪崩を仕掛けたのが彼女か皇帝と言うことになる。そうであるなら彼女はボクの動きを把握しているはずだ。

 ……そして殺そうとした。


 あるいは皇帝の独断だったのかもしれない。いずれにせよいよいよロゼルタ姫を信用できなくなってきた。


 それにボクが宰相と交わした約束を知っていると思った方が良いだろう。そのうえで召喚命令がかかるのなら、彼女がそれに乗るということだ。

ボクはそれでも一向にかまわないし計画の通りに進んでいると言っていい。




 それから魔王領についても、悪魔の奴隷化計画から気になって偵察したと言う。そこまで自分で動けるとはこの二人は思った以上に優秀だった。

 とはいってもここには魔王領の人物や内情、それから組織構成や建物の場所などはほとんど知る者がいない。

 情報が無いので一番大きな城と軍事拠点らしき場所だけを偵察していると言う。


 お城ではあの公演日で見たことのある美人、つまりアイリスともう一人の美人が采配を握っているということは見られたそうだ。

 つまりあの頃とあまり変わってはいない。

 ただ小鳥の聴覚を一時接続したところによると、魔王領もなにか企てているという。その内容が――






 『悪魔の量産計画』






 強い種族ではあるが絶対的に数が少ない。知能のある悪魔族だけでいうならば数千人程度。それはボクがいた頃と変わっていない。

 いつか来るかもしれない戦争や侵略に備えるために、子作りを推奨し、ニンファーの花の香料もあのマニの村経由で注文していると言う。


 それを聞いたボクは、どくんっと心が動いてしまった。幸い勇者の血を発動するほどではない。でもまだわかっていることは少ないのに、こんなに過剰に反応することが怖くなった。

 その計画に彼女たちも参加しているかもしれないと思うと、ボクは焦燥感にとどまらず、絶望感を感じていた。



「……ア、アイリス……」

「ぐひ……ア、アーシュちゃん……」



 そんな様子を感じ取ってクリスティアーネが手を握ってくれている。だがなんとも収まりそうもなく、怒りまで感じてきている。

 それは彼女たちにではない。ボク自身にだ。


 今のボクでは彼女たちの心の拠り所になってあげられない。それどころか嫌われて、王位継承の儀の時になれば決定的に敵と認識されてしまうだろう。

 それに彼らの種族保存の本能を止める権利なんてボクにはない。むしろ彼女たちの幸せを願うなら、ボクは血を飲んでもそれを推さなければならない。


 その偵察をしたのはボクたちが出てすぐの頃だから、さらに状況は変わっているかもしれない。もしその魔王領の方策でアイリスに他の男の子どもができていたら、ボクは果たして耐えられるだろうか。




読んでいただきありがとうございます。

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