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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
122/202

島国ジオルド帝国

あらすじ


 案内役シャオリンに指を舐められたアシュイン。彼女の案内でジオルド帝国へ向かう。



 今はクリスティアーネの馬車で港町シホンガンへ向かう最中。そこから船でジオルド帝国へ向かうことになる。

 ボクひとりなら泳いで渡った方が早いが、案内役のシャオリンがいるので普通の方法で行くことにした。

 だがクリスティアーネが嫉妬してシャオリンが指をご所望だったので、今は目の前で火花が散っている。

 仕方が無いのでクリスティアーネには頭を撫でて、シャオリンには指を提供した。それをみたメフィストは呆れている。






――シホンガン港



「ふひぃ……す、すごいぃ……ね」

「ああ、初めてだ。こんな大きな船」

「な~んだぁ? 最強コンビはそ~ろっておのぼりさんかよぉ?」



 シホンガン町に着くと、さっそく船の手配をするために港へとやって来た。

搭乗の手続きをして船着き場までいくと、巨大な帆船が停泊している。

 ボクたちが乗っていくのがこの船だ。


 以前乗った事があるものは小さな手漕ぎ船だけだったから、こんな帆船に乗ることになるとは全く予想していなかった。

 クリスティアーネも巨大帆船での移動は初めての様子で浮かれている。



 次の船の出航まで時間があるので、お茶や軽食を出してくれる食堂で休憩して待つ。この店の料理は海の幸をふんだんに使ったメニューが多く、塩味が効いていて美味しい。

 案内役のシャオリンあれだけ衰弱していたのに、ものすごい勢いで食べている。まだ全快したわけではないのに、その勢いで食べたらまた調子を崩しそうだ。



「落ち着いてよく噛んで食べないと、お腹が痛くなるよ?」

「……お母さン?」

「男だし……」



 この町は港町だけあって、他国との貿易が盛んなようだ。様々な商品が入ってきているので、珍しいものが露店に並んでいる。

 ヴェントル帝国の東側はジオルド海と呼ばれる広大な海が広がっている。ジオルド海のほとんどはジオルド帝国の海域となっている。

 つまりジオルド帝国とは航海主義の国であり、つねに海と共にある。国民のほとんどは海上で過ごし、帆船が自宅になっている者も少なくない。

 そんな延々と続く海を眺めながらする食事も良いものだ。



 先にアイマ城にいる召喚勇者のタケオが持たせてくれた魔石を使うことにした。これより先に行くとタケオの有効範囲が切れて連絡が取れなくなるからだ。


 あの悪魔の奴隷化計画について、人間側であるアイマ領のカタストロフはどう出るかを知っておきたい。

 隠れエルランティーヌ派である彼がそれを許すとは思えないが、彼だって王国の人間。自分の立場が危うくなれば保身優先にもなる。

 ただ奴を見た限りではエルランティーヌに対して家族に近しい深愛、信奉しているように感じる。もし敵側に回ってもそこだけは変わらなければやりようはある。






 しばらくしてジンが操る小鳥がボクのもとへとやって来た。その小鳥には小さな手紙が括り付けてある。

 ボクがそれを受け取ると、テーブルの上のボクのお菓子をついばんでいた。



『アシュイン殿へ


 公式発表されておらぬが、『悪魔の奴隷化計画』が発足した。我がアイマ領はそれに準ずるつもりでいる。

 かの・・・を案じての事だ。


 過去が表ざたになり、憎悪が増大している。このままいけば謀叛、暗殺は確実であろう。

 それらを禊、洗い流すには時間が足りない。


 一方ロゼルタ姫は王としての支持、権威を得るために、政治のかじ取りをするようになった。ただのお嬢様の戯言かと思いきや、しっかりと根回し飴と鞭を使いこなしておる。今までの振る舞いとは雲泥の差だった。

 今回の奴隷計画を盾に帝国との戦争を停戦に持ち込んだのは彼女だ。


 これらを勘案すれば今は危険を冒して無理に権力を死守するのではなく、彼女に任せた方がまだ治世が安定すると考える。


 意見を聞きたい。 カタストロフ』



 今回の悪魔の奴隷化計画はロゼルタ姫みずから画策したものだった。ようするに目の上のたん瘤であった悪魔を人間どもに売ったのだ。

 彼女は自分の欲望のために堕ちるところまで堕ちてしまった。ボクにはこれを非道だと非難するほど正義があるわけではない。

 しかし煮え滾るほどの怒りは感じている。アイリスたちを売ったことに対してだ。それならもう配慮する必要はないだろう。



 それにこの状態であれば少しの変更(・・・・・)で、おそらく当初の計画通りに事が運べそうだ。



 ボクも返信の手紙を書く。

 王位継承でひっくり返る(・・・・・・)。だから政治的な失態や禊など気にせずに継続の準備をするべきだ。

 今の状態で彼女たちも絶望に打ちひしがれて自暴自棄になりかけていることが伝わってくる。でも諦めないでほしい。


その旨を書いて小鳥に括り付ける。小鳥は承ったとばかりに戻って行った。






「うへへ……そ、そろそろ……いこ?」

「ああ……おまたせ! 船、たのしみだね」



 入口にいる船員に札とチップを渡して乗り込む。

 ジオルド帝国までは、最低でも半日程度はかかると船員が案内している。その時々の波の荒れ具合や天候によって、かなり時間もまちまちだ。

 帆船の客室はあまり奇麗とはいえないが、部屋を用意してくれるだけでも貴族以上の待遇であると言う。

 案内役の伝手と料金、それから上位魔女という格がそれを許してくれている。そうでなければ大部屋が基本だ。

 帆船は思った以上に揺れて、気持ち悪くなった。





「ぜー……ぜー……」

「ぐひ……だ、だいじょうぶ?」

「うん……ありがと」



 酔ってしまったのはボクだけだ。これなら泳いで渡った方がはるかにましだった。なぜみんな平気な顔をしているんだ。


 そうしてジオルド帝国へ到着した。

 ここは小さな島がいくつか連なって一つの国を形成している。島々はまとまっているので橋をわたすことで、人の往来が出来るようになっていた。

 さらに足りない土地を補填するために、浮家や浮き広場が設置されている。浜辺の水がすごく奇麗で、青色に輝いているのがとても壮観だ。

 波もほとんどなく、とても穏やかな海だから水に浮いている建物でも安定しているし、乗ってもそんなに揺れない。



「うぇへへ……すごい」

「うん……素敵なところだ」



 とても小さな国だけれど、観光の名所となっているので経済は潤っている。人口がさほど多くない事と、海で隔離されていることから軍事力はあまり必要とされていない。その分が観光施設へと予算を回せるのでより潤うそうだ。

 見たこともない植物もあったりして、何もかもが新鮮だ。



「ずっと見ていたいけど行こう。祠について思い当たることない?」



 シャオリンは顎に手を当て考え込んでいる姿勢をとっている。しばらく考えて何か閃いたようで手を打っている。

 彼女の祖父ならば、古い伝承に詳しいという。


 早速彼女の案内で、実家へと向かった。道中で国の様子を見ていくが、とにかく文化が違うようだ。露店も多くでているけれど、見たこともないおいしそうなお菓子やパンが売っている。それに果物も見たことがないものばかりだ。

 お菓子を買って、食べながら進む。


 石畳の通路は坂や階段が多く、遠回りするようにぐるりと回っている。でもそうしないと勾配がきつくなってしまうからこういう作りになっている。生活の知恵なのだろう。

 港から三十分も歩けば彼女の実家へと着く。



「オイ、じじイ? かえっタ! どコ?」



 先に入っていたシャオリンは大声でかなり乱暴に祖父を呼んでいるようだ。話を聞けるかどうか彼女次第なので、ボクはそれをハラハラしながら聞いていた。

 じじい、じじいと大きな声で叫んで入って行くことが許される家というのは、ぼくにとってはとても羨ましかった。



「うっるせぇぞ‼ ってシャオリンか!」



 二人は久しぶりの再会だ。すこし涙を浮かべながら抱き合っている。さっきの荒々しい口調が嘘のようだ。もともとそういう関係が日常茶飯事だったのだろう。

 彼女たちの再会の挨拶がおわると、ボクたちも中へ通してもらって挨拶する。



「こんにちは。アーシュです」

「ぐひひ……ク、クリスティアーネェ」

「メ~フィストフェレ~スだぁ~ぜぇ?」



 ボクたちの自己紹介に、少し驚いている。ジオルド帝国ではボクたちの事なんて知る者はいないはずだ。驚くところはないように思う。



「ず、ずいぶん個性的な友達だな……」



 彼女の祖父はジョウウ。やはりこの国の人の名前は独特の響きを持っているようだ。逞しい髭と長髪の白髪がいかにもと言う威厳を醸し出している。

 髭を触りながら、ボクの方を見ている。



 シャオリンが出会った経緯や、聞きたい事を説明してくれる。祠について何か知っているようすで、その言葉が出るとぴくりと反応していた。

 ただそれ以上それに触れることがなかった。



「しっていますよね?」

「し~らね」



 このたぬきじじぃ……。



「ケケケ。ず~いぶんなじじぃじゃね~えか?」



 そういってメフィストがじじいの隣に座って、馴れ馴れしく肩を組む。じじいとおやじなら馬が合うかもしれない。

 そういうとメフィストが隠していた瓶をとりだす。



「まぁ~す~こしやぁろう~ぜ?」

「お! きがきくじゃねぇか! これは海の伊蔵か!」



 つまり酒で口説こうと言う魂胆だ。

 人付き合いのへたくそなボクにはできない彼なりの技術だ。研究ばかりしていると思っていたが、帝国将軍をして、また魔王領で幹部をしていた経験がそうさせているのだろうと感心した。


 それにこれは港町シホンガンで手に入れた物らしい。かなり高級で希少価値の高い酒は、酒好きのじじいの心を鷲づかみにしたようだ。

 よっぱらって訳が分からなくなる前に聞いてしまおう。



「祠について教えてください」

「う~む」

「ほ~ら‼ もっとのぉめ?」



 祠の単語がでると、彼はしぶりそれを見てすかさずメフィストが酒を勧めて滑りを良くする。その繰り返しで徐々に話が聞けた。

 祠はこの島の北側の小さな鍾乳洞の中に祀ってある。ただまだ何か隠しているが確信を言おうとしない。


 そうこうしているうちにボクたちも酔いが結構回って来た。ボクはそんなに強い方でもないから、ちびちびと飲んでいた。

 おそらくこの中で一番強いのはクリスティアーネだろう。あれだけ飲んでも全く顔色ひとつかえていない。



「うぇへへ……おいし」



 彼女はボクに寄り添いながらお酒を楽しんでいる。そして右側にはシャオリンが完全によっぱらって、ボクの指をくわえながら寝ていた。

 メフィストフェレスはもうすでにいびきをかいて寝ている。自分から勧めておいて、いの一番に寝てしまった。

 まだ肝心なことは聞けていないのに。



「お前アシュインといったか? 可愛い孫が懐いているがまさか……シャオリンが好きとかいわねぇよな? そっちのねぇちゃん連れていながらよぉ?」



 何の牽制だ。

 孫娘が可愛いのは分かるが、彼女とは出会ったばかりで可愛い子ではあるが、好きでも嫌いでもない。このわんぱくじじいは、何と答えれば満足するだろうか。

 おそらく孫娘に手を出すなという警告だ。



「いや……言わないよ」

「ぬぁんだとてめぇ! うちの孫娘は世界一可愛いだろぉがよ! これだからイケメン優男は嫌いなんだ!」

「いや……可愛いよ!」

「ぬぁんだとてめぇ! うちの孫娘を狙っていやがるのかぁ!」



 ……どっちだ!


 まさか両方不正解だとはおもわなかった。この爺は思った以上に面倒くさい。それに酔っぱらっているが目が座っていない。

 むしろボクを品定めしているように見える。



「なぁジョウウ? まだ言っていない事があるだろ?」

「ぬぁんのことだ?」



 まだ白を切るつもりだ。祠のおおよその場所は教えてもらったが、守り人や詳細までは聞いていいない。それにジオルド帝国自体そこまで大きな面積のある国ではない。そんな誰でもわかる場所に祠があるとはとても思えない。

 おそらく無駄に時間を稼いで、はぐらかすつもりなのだ。








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