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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第一部 魔王代理
12/202

真夜中のティータイム

副題通り、真夜中の投稿です。


前回までにあらすじ


魔王領の復興の中で生まれる課題をこなしていくアシュイン。人間を殺すことに躊躇しなかったことで体調を崩してしまう。




 王城へ戻り、召喚者の子はルシェとアイリスに任せる。

 ボクの顔色がかなり悪いからと、あれよあれよとお世話をされてベッドへと押し込まれてしまった。



……


……


……



 ……寝られないどころか、きもちわるい。

 こんなに繊細な心なんて持ち合わせていただろうか。



 目が覚めると、隣にアイリスがいる。もうみんな寝静まっている時間だ。心配させてしまったようだ。



「アーシュ……」

「あ……アイリス。どうしたの?」

「……アーシュ。すごく顔色が悪いわ」

「平気だよ」



 苦しんでいたのか、寝汗をかいてしまった。

 布で拭って着替えていると、アイリスはお茶を淹れてくれたようだ。



「お茶にしない?」

「あ……ありがとう」



 真夜中のティータイムのお誘いだ。


 窓から差し込む月の光が青白く彼女を照らしていて、とても美しい。ずっと一緒にいるのに、変わらず魅了されてしまう。

 おそらく五十年たっても、変わらないだろう。


 そう思うのは彼女が悪魔だからか、それとも彼女が絶世の魔力の持ち主だからだろうか。



「あの一億年の恋だったかしら? 気になった?」

「一万年だよ……」

「ふふふ……間違えたわ。それ、わたし達もいずれやって来る」

「そうだね。ボクは人間だ。あと40年もしたら死ぬさ。その時、キミはどう思う?」



 彼女は答えずに、ふいっと横を向いて泣きそうな顔をしている。意地の悪い質問だった。



「アーシュ……わたしは……ずっと一緒に居たい」

「それは光栄だね」

「だから……アーシュを眷属にしたい」

「……え?」



 悪魔の眷属。

 血で盟約を結び、近い存在になる。


 ただし定期的に悪魔にある魔臓という器官から定期的にエネルギーを分け与えてもらわないと、生きられないそうだ。

 つまりアイリスが朽ちれば、ボクも朽ちる。

 名実ともに運命共同体になるのだ。


 

 このお誘いに惹かれた。

 ボクは人生において、家族と呼べるものを持ったことがない「天涯孤独」の身であったからだ。



 しかし、この盟約には一つ問題があった。



「眷属の魔力が多い場合はどうなるの?」

「……魔臓が暴走して死んでしまうわ。でもわたしたちは大丈夫よ?」



 そう、ボクの魔力だ。

 常に抑えているから気づいていないが、前魔王と同等程度ある。

 そんなことをすれば、アイリスを死なせてしまう。



「すぐに返事しなくても、アーシュが生きているうちに……」

「……ああ、ありがとう」



 ボクが悩んでいると、少し残念そうにそう言った。


 正直に言うべきタイミングだったのではないだろうか。

 いや。正直に話して彼女が受け止められなかったら、契約の不履行になるかもしれない。

 そう自問自答して、頭の中がぐちゃぐちゃになっていった。



 そうしていると彼女はベッドへ向かい、ちょこんと座る。



「さ、もう寝ましょう? ほら」



 ベッドで手を広げて、誘う。

 ボクは導かれるまま、彼女の胸で眠ることにした。


 








 窓から心地よい日差しが舞い込んでいる。

 隣で嬉しそうに寝ているアイリス。

 彼女のおかげですっかり気持ちは晴れ、むしろ気持ちがいい。



 朝食後は昨日連れ帰って来た女の子に話を聞く。

 丁重に扱うように言ってあったので、ちゃんとした部屋をあてがってくれたようだ。


 見張りのゴーレムは立ててあるけれど、鍵も拘束もしていない。あの中でも特にひ弱であったから、警戒する必要もなかった。



「失礼。お加減はいかが?」

「…………あ……大丈夫です」



 落ち着いた返答が返って来た。

 殺された友人への気持ちの整理はついたのだろうか。



「ボクはアシュイン、彼女はアイリス」

「あの……熊沢 亜美(くまざわ あみ)です。アミと呼んでください」



 昨日は心底怯え切っていたはず。でもなぜか今はボクが来たことに、すこし安堵している。



「じゃあアミ。キミは勇者か?」

「あの……た、たぶん……王国でそう言われました」


「アミはボクたちを恨んでいるか?」

「いいえ……あたしたちが悪いんです」



 あまりはっきりものを言えない性格の様だったが、このことについては真剣な目でボクを見て言う。

 侵攻に関して思うところがあったのだろう。



「キミは武器を抜いてなかったな」

「はい……命を簡単に奪うなんて、あたしはしたくありません……でも」

「……でも?」



 彼女はゴクリと息をのんで、太ももを抓っている。癖かもしれない。



「……あたし、止められなかった……止めることができなかったぁ!!」



 無い勇気を振り絞っているのが分かった。何とか出した言葉と共にボロボロと涙もこぼしてしまっている。



「……あたしは……彼らと同罪です。だから――


「アミ……それ以上はいいよ」


「……え?」



 そう言ってボクはアミの頭を撫でた。

 もともとその責任は彼女が追うべきものではない。



「アミはどうしたい? 王国へ帰りたいなら送るよ」



 そう言うと、ほとんど悩まず首を振っている。


 たしかに王国の人間や勇者パーティーの考え方とは相反していた。

 もどっても衝突して追放されるか、下手すると今回の件で見殺しにしたと罪を擦り付けられて、極刑になる可能性すらある。

 あえて聞いたのは、彼女の意思が知りたいからだ。



「あ、あの……あたし……ここにいたい……おいてほしいです」



 部屋は余っているし、彼女の考え方ならきっとみんなと仲良くできるだろう。



「あーライバル増えちゃったよ」

「ミル⁉ いつの間に……」

「いまきた」



 ミルがニヨニヨと、ちょっといやらしい顔をしている。

 何か感じるものがあるのだろう。彼女はボクより人間関係に鋭い。




「アイリス、いい?」

「もちろん! わたしも彼女を気に入ったわ!」

「よ、よろしくお願いします! アイリスさん」


「あたしもいいよ! あたしミル。よろしくね!」

「わっ! よろしくね! ……ミルちゃん!」



 さすがミル。

 本当に物怖じしないどころか、引っ込み思案のアミを率先して引っ張って行ってくれる。

 



 アミが魔王城で暮らす事になって、部屋の準備や生活用品、衣類の準備などの手配を進めてもらう。


 その間に王国の話を聞くことができた。


 現在グランディオル王国は前王、王妃が没したため、エルランティーヌ第一王女が、女王として治めている。


 なぜか少し前から王国は衰退を始めているから、女王がテコ入れをしているそうだ。



 その施策の一環が召喚勇者。



 復興のための広告塔、それと将来の魔王復活のために召喚された。


 しかし魔王領にきてみれば、人間のボクがいてみんな和気あいあいとしている。魔王の影すらない。アミはそれに驚いていた。



 召喚勇者は全部で三十一名。

 うち一名は基準外だと理由で追放。そして昨日四名を殺害したから、二十六名。アミがここにいるから実質二十五名。


 強さはS、A、B、C、D、E、Fでランク分けされる。アミはBランク勇者で魔法が使えるという結果だったそうだ。


 昨日のリーダーの女はSランク勇者。にもかかわらずボクの攻撃に反応すらしていなかったから、たいしたことはないはず。

 警戒すべきは特殊な状態異常や、人質を取られたときだろう。




 アミが魔王領側に来てくれたことは、交渉や交易にも役に立つかもしれない。人間の意見というのも貴重だ。

 ボクでは交流も下手だし、鍛錬しかしてこなかったから情勢に疎い。




 執務室にルシェを呼び、改めてアミを紹介する。

 人間側の意見や、雑務の手伝いをさせることになった。



「それからルシェ。この前のアルマークの町。すごかったね」

「うん! たのしかったね!」

「ああ。それで交易について、話を聞きたいんだ」

「わかった! ついに王国へと勢力をのばすんだね!」



 施策が形になって食料や技術は整ってきたから、次は交易と物流について力をいれる。

 アルマークの町が発展すれば、自然と広がる。けれど人間とのわだかまりを残したままでは、危険だ。

 しっかり把握しておく必要がある。







読んでいただき、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] 王女は冷酷だけど非戦闘員を虐殺するような指示や教育は市内と思ってたのにな
[良い点] 31人……クラス転移かな? [気になる点] 追放された人が強くなって王国に復讐するんですね……王国滅ぶのでは??
[一言] 31人も召喚したのか! エルランティーヌ、召喚しすぎ!! Sランクでもあの程度ならどうってことないですが、やっぱり姑息な手を使われた時どうするか考えておかなきゃなりませんねぇ。 とりあえず、…
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