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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
119/202

異質な相棒

あらすじ


 メフィストフェレスが奴隷にされかけていたので、会場から掻っ攫って逃亡した。



 三階奥の客間に到着すると、部屋に鍵をかけてメフィストフェレスをベッドへ放り投げる。完全に勘違いしているメフィストフェレスが気持ち悪い。



「た~すかったぜぇい……ら、乱暴にしないでね?」

「気持ち悪いことをいうなよ!」



 まだ気がつかないようだ。このまま話してしまってもいいが、やつが気持ち悪いので正体を明かすことにした。



「アシュインだよ。 わけあってこの格好をしている。決して趣味じゃないぞ?」

「……う~そだろぉ……お嬢の姉妹って言っても疑わねぇぐらい奇麗だ……」

「やめてくれぇ!」



 ひとまず部屋にある物でお茶を淹れる。いい加減落ち着いてくれないと話が進まない。その間も奴の目はメイドをみるそれだった。

 落ち着いたところで何があったのか聞いてみることにした。奴を拘束したのはやはり紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)

 メフィストフェレスは腐っても魔王領の元幹部。そこらの騎士にやられるほどは弱くない。ただ上位魔女ともなれば話は別だった。それに彼女は白兵戦に強い上位魔女だ。魔王領の幹部の力では勝てない。

 将軍の後釜にはエルダートが再び就いて、メフィストフェレスは奴隷になるように命令されたそうだ。


 奴はその地位には興味がなかった。

 ただ研究に都合のいい環境があればそれでよかったのだ。しかし今となっては人間のほぼ全てが敵になるとは予想外だった。



「やぁられたぜぇ……甘~い話に飛びつくんじゃぁなかったなぁ」

「今更言っても仕方ない。 今後どうするか考える」

「あいかぁらず、おもしれぇなおめぇ」



 そんな誉め言葉も奴は覇気なくいう物だから、場が暗くなってしまう。もう少し事情を聴いて、人間達の思惑を知っておきたい。

 少し情報のすり合わせをすることにした。皇城でもかなり話したが、立場も人の目もあるところでは腹を割って話すことができなかったからだ。





 まず王国側の狙いについてだ。

 ロゼルタ姫の王位継承。およびジェロニア宰相の王族入り。そして戦争責任をエルランティーヌ派に擦り付けて、清算したいというところだ。



「そ~れだけじゃねぇ……アイリスお嬢そのものも奴らの目的だ」

「どういうことだ?」

「演劇し~ただろぉ? あ~れで悪魔の容姿は人間に比べて、数段奇麗で美しいことが知られたんだぜぇ?」

「それは良いことじゃない?」

「……他の事は鋭いってぇのに、鈍いな。特にお嬢の美貌は世界一と言っていい。 口説き文句じゃねぇぞ? 客観的にだ」



 たしかにアイリスの美貌は本当に暴力的なほどであった。ボクも彼女を始めてみた瞬間に心臓を殴り飛ばされた感覚に陥ったほどだ。

 それが演劇の日の公演で大衆の目に触れてしまった。



「つまり……奴隷にして慰み者にしてぇってことだ」



「……ぐっ!!」

「他の悪魔もそ~うだぁ。ま~だガキだが、主役のミルだった~か? 他に~も悪魔は全員と言っていい程、美人ぞ~ろいだぁ」



 ボクの感覚でもそう思っていた。彼女たちは誰もが魅力的だった。それは容姿だけではなく全てにおいてだ。

 そんな彼女たちが奴隷になれば、愛玩奴隷になるのは間違いない。それに男たちはみな力が強いから、労働力として薄給で働かされるだろう。


 奴隷の首輪の枷についても本来は無理に外そうとすれば本人の魔臓に傷が行く。ボクの魔力で過剰魔力暴走(オーバーフロー)を起こせたから出来たことだった。

 それが例えば百人の悪魔が奴隷になった場合は、ボクでも魔力が足りなくなる。可能な限り未然に防ぐしかない。


 それからあの技術は、元は魔臓にアクセスする手段であるクリスティアーネの論文が必須だった。クリスティアーネが秘匿した段階で、知りえたのはメフィストフェレスと上位魔女だけだ。

 奴はキメラを使った以外には、その技術は使っていないし漏らしてもいないと言う。だとするなら他の上位魔女からということになる。

 ただ紅蓮の魔女(パドマ・ウィッチ)だけではそれは難しいだろう。もう一人以上は上位魔女がいるはずだ。

 ボクは次元の魔女ディメンジョン・ウィッチをあぶりだしたいと思っていた。おそらく彼女か、猛毒の魔女(ヴェノム・ウィッチ)のどちらか、あるいは両方が絡んでくるだろう。



「しかし帝国の利点はなんだ?」

「い~ちばんは面子だろぉな? そぉして悪魔の分配率はおそらく一番たけぇはずだ。資源や領地より、それを優先するのはな~ぜだかわかるかぁ?」

「なんだ?いや……もしかして……アヤネか?」

「や~っぱり鋭でぇじゃねぇか! そうだ。あの女ぁニンファーの花の栽培をこの国で成功させやがったぜ?」



 あの花の大きな目的の一つに、人間との間の子を作りやすくするという効果のある香料が作れるというのがあった。それとこの奴隷化の首輪を量産するには魔臓にアクセスするニンファーが必須だ。



「そ~うだ……血だ。『悪魔の魔力と美貌を持つハーフの量産』。これが帝国の最大利益だぜぇ? ……おっぞましぃだろぉ……」

「くそっ! ……狂気だな!」



 そう言えば思い出したが、今夜アヤネを襲う計画を執事が裏の人間を雇って実行しようとしていた。ただこの話とは少しつじつまが合わない。



「あの城の筆頭執事の若い男いるだろ? 誰の派閥かわかるか?」

「いんや……どっかに飼わ~れているわけじゃぁなさそうだぜぇ? なんでも『熊連合』ってわけわからん集まりに参加ぁしていたのは知ってるぜぇ?」

「『熊連合』?なんだろう……なにか……思い出しそうで思い出せない名前だ」



 しかし皇帝派ではないのなら、まだ整合性がとれているだろう。皇帝派であるなら、金を生み、新技術を生み、奴隷化に一役かっているアヤネを襲うなんてことはしないはずだ。



「じゃあアヤネにつく虫は一応払ってからかえるか」

「いいぜぇ 場所はま~かせとけぇい」



 将軍の地位にいたから城の部屋割りはすべて把握している。奴がしっかりと将軍の仕事をしていたことに驚きだ。

 ボクたちは隠れながら、誰にも見つからずにアヤネの部屋へ来ることができた。物陰に隠れて様子を伺う。

 会合はまだ終わっていない。しかし会合での自分の役割はほとんどなかったようで、彼女は飽きたのか早く戻ってきているようだ。

 隣の部屋に入り、窓から出て外から様子を伺うことにした。まだ族は入ってきていないようだ。



「あ~あ……せっかく私の華々しい社交が、あの悪魔のおかげで台無しだわ!」



 ボクの事でご立腹の様だ。しかし発端は帝国と王国だ。ボクが非難されるいわれはないと思う。ただ怒りながらも彼女は頬を染めている。



「あの悪魔……いえ……お姉様は……本当に美しかった……」



 もうやめてほしい。

 美しくもないし男だ。まるで褒められている気がしないし、むしろ虐められている気分だった。

 そして彼女はおもむろに周囲を見渡している。衣装を脱いで下着姿になったから着替えるのかと思ったが、どうやら違うようだ。

 それもそうだ、貴族の立場なら彼女付の使用人が着替えさせるのが常識だからだ。


 そしてベッドに倒れ込む彼女。自身を慰めているようだ。ボクは特に最近は好きな女性以外の裸に興味がとんと無くなってしまった。彼女の艶やかな姿を見てもなんとも思わない。

 横にいるメフィストフェレスは顔を赤くして、食い入るように見ているが。



「お、おい……そんなに見ていたらばれるぞ?」

「つ~いなぁ……男の性だろぉ?」



「んっ……あっ……アシュリーゼェ……」



 最悪だった。ボクを想って慰めているようだ。女同士だろうに、いやボクは男だけれど、女性の姿の悪魔として名乗っていたのだ。その様子にメフィストフェレスはちゃかした目でボクを見る。



「男? 女? 冥利に尽きるなぁ? アシュリーゼ?」

「もう訳が分からなくなってきたよ」



 だからといって、族が来る可能性がたかいのにその場を離れるわけにはいかなかった。できれば彼女の名誉を守る意味で、今は避けてほしいと思う。

 しかしその願いはかなわず彼女が自慰に盛り上がってきたところへ、部屋の鍵を外から開けられる音がする。

 彼女は自慰に夢中の様で気がついていない。


 すっと扉が開けられ音もなく数名の男が侵入してきて扉は閉じられる。あの洗練された動きはやはり雇われた玄人だ。昼間は薄汚い浮浪者の格好だったはずだが、今は黒い目立たない服で統一されている。



「おんやぁ? 依頼されてきてみれば、待っていたようじゃないか?」

「お望み通り、抱いてあげようじゃないか」


「んっ……んっ…………え⁉ だ、だれ?」



 ベッドの近くまで男たちが寄っていったところでようやく気がついたようだ。抵抗しようとしたが、咄嗟に口を押えられ、両腕両足を拘束された。

 必死に暴れるが彼女は戦闘を一切やってことなかったのか、召喚勇者の一人であるにもかかわらず、完全に組み伏せられている。



「行くぞ!」

「い~いぜぇい!」



 あまり音をたてないように窓を割り、留め具を外して窓を開ける。中に入るとすぐに奴らを抑える。ドア側の見張り二人はメフィストフェレスに任せる。



「な……女? 目標より上玉じゃねぇか!」

「上玉じゃない!」



 ボクはそう否定しながら、男たちを気絶させ腱を切る。拘束するものがないので、こうするしかなかった。



「あ……お、おねぇさまぁ……悪魔なのに……なぜ?」

「キミは悪魔を誤解している。 自分の目だけを信じなさい。 おい行くよ!」

「お~うぅ、あ~ばよぉ! と~んずらするぜぇ!」

「まって!!」



 ボクはメフィストフェレスを乗せてその場でゲートを使う。彼女は下着姿であらわになっているのも気にせず、こちらを追いかけようとしていた。

 そうしている間にもゲートの空間転移は始まり白い世界をと包まれた。







 孤児院に作っておいたゲートの魔法陣からボクたちが現れると、周囲はもう寝静まっている時間だった。ただ目の前にはクリスティアーネがずっと座って待っていた。

 眠いのか、うつらうつらとしている。



「ただいま、クリスティアーネ……待っていてくれたのか」

「……ぐひぃ……アーシュちゃん……い、いかないでぇ……」



 なにか辛い夢でも見ているのかもしれない。ボクは彼女を抱きかかえて中に入って行っていく。子供たちは既に寝静まっているが、夜番のシスターがいる待機室は明かりがついていた。



「シスターただいま。突然ごめん……すぐに出るよ」

「あらアーシュ。 クリスちゃんが心配してたよぉ? ……って将軍様じゃないの!」

「す~まねぇ……込み入った事情ができてなぁ……」



 おそらくここには帝国の手がすぐに入る。長居すればみんなを巻き込んでしまう。だから手薄な今のうちに帝都を離れたい。

 すぐに出ることを伝えると、彼女は一つの包みをくれた。



「アーシュは今日何も食べていないでしょ……クリスちゃんが頑張って作ってくれたのよ。持って行って途中でたべてね」

「そうだったのか……ありがとう」

「お礼はクリスちゃんに……ね?」

「うん……でもマリーアンヌさんやみんなにも世話になったから」



 彼女の頬にほろりと涙がつたう。彼女がこれ以上悲しくならないようにそろそろ行くことにした。ひとまず帝都を離れることができればいいので、ここからさらに水の都アルデハイドへゲートを使う。

 マリーアンヌには「またくるね」と言い残して、ボクたちは空間転移の白い世界へ消えた。






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