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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第六部 奴隷化計画
112/202

年の差料理対決!

あらすじ


 帝国で情報を集める二人。帝国支部の教会孤児院に泊めてもらうことになった。ここを拠点に帝都での情報をさらに集める。




 教会では子供たちと食事をし、子供たちと風呂に入り、子供たちと寝るのが当たり前だった。ただ気を使ってくれたシスターは寝るときだけは別室を用意してくれた。

 さすがにずっと子供たちの遊び相手では疲れてしまう。



「……ぐひ……ぐひ」



 そしてクリスティアーネが拗ねてしまった。

 子供たちはみんなボクの元へ集まってしまい、ボクを取られたと思ったようだ。それに彼女の元には結局どの子も寄り付かなかった。



「こっちにおいでよ」

「……うぇえぇ……」



 子供たちに取られていたボクの膝に頭を乗せて、撫でてほしい態勢になる。いつものように撫でていると次第に機嫌が直っていく。


 彼女は子供を嫌っているわけではないが、その目が怖くてどうしても子供たちが近寄ってこない。せっかくの機会だから子供たちと遊ぶ楽しさを教えてあげたいところだ。



「また髪を上げて、目を薄めにしてみる?」

「ぐへぇ……や、やだ……」



 薄目にして不特定多数に媚びるのは嫌なようだ。ボクがギョロメでいいよって言ったせいでもある。

 そこまで長居するつもりはないが、このまま避けられたのでは彼女の気持ちが沈んでしまう。なんとか良い方がないか、撫でながら考える。



「……うぇへへ……」

「死霊って子供たちには見えない?」

「ぐひ……よ、弱いのは……んっ……お、大人も見えてないぃ」



 人形でも操って子供たちの気を引いてみるのも手だな。いくつか子供たちの気を引く方法を考えてみることにした。



 それから今日の夕飯の時にシスターや子供たちに聞いた、帝都の印象について考える。やはり彼女たちも同じだ。

 技術で栄えてその副産物として、軍事活用されている。しかし比重はやはり技術のほうに向いている。

 将軍がメフィストフェレスになってからその兆候が特に強くなったと聞く。


 確かに彼の技術力やそれの向上心はすごい。ここは人間が住む国だから魔力スカウターは使う必要がないだろうけど、生活用品や建物の建築技術まで王国や魔王領とは大きくちがっていた。


 例えばこの建物も壁は石造りだったけれど、壁の中は空洞になっていて薄い石と木板が張り合わせてあった。

 その特殊な壁のおかげか、防音性が高くとにかく外部の音が入ってこない。もちろんこちらの音も聞こえないので、部屋で話をしないと全くの無音になる。

 それから密閉性だ。とにかく外気との遮断性が強い。王国の建物に比べてもこちらの方が数段快適だった。



「一度メフィストフェレスと会ってみるか……」

「……こ、こわいぃ……あ、あたしの研究をぬすんだ悪魔……」

「あ……そうだったね」



 やつはクリスティアーネの『魔臓の研究』と『魔王の生成』を盗んでいったのだ。その後、研究成果がでたのかは定かではない。

 でも奴は将軍の立場で、王国、魔王領、そして帝国についてどこまで知っていて、何をしようとしているのか把握したい。ここまで来て会わない手はないだろう。



「んっ……あ、あーすたん……んんっ」



 ……あーすたん?



「あ⁉ やりすぎた」



 撫でて喉をゴロゴロして彼女の顔を弄りすぎたせいか、でろんでろんに惚けてしまった。酔ってしまったようにトロンとした顔をしている。酒に強い彼女がこんなになるなんて、やりすぎてしまったようだ。

 抱えてベッドに寝かせ、今日はボクももう寝ることにした。




 次の日も午前中は子供たちと遊ぶことにした。午後からは城へいってメフィストフェレスへ接見申し込みをする予定だ。


 相変わらずクリスティアーネは子供たちに避けられている。ボクが無理やり子供たちに構ってもらうように言うのも違うと思って、様子だけ見ている。

 内心、激高して死霊にしてしまわないか少し心配だった。

 すると一人の女の子が彼女に話しかけようと近づいていく。



「お、おねぇちゃん……お話いい?」

「……! ……うひひ……い、いいよぉ」

「ひっ!」



 やはり彼女がぐにゃりと笑うと、女の子は恐怖の色を見せた。できればこの機会に仲良くなってくれないかと見守る。



「お、おねぇちゃん……アーシュの恋人?」

「……うぇへへ……そ、そだよ」

「そんなわけないよね? だっておねえちゃん不細工だもの」

「……ぐひ……そ、そう……だ、だよね」



 ……なんてことを言うのだ。

 子供は残酷なんていうけれど、それは純粋な無知が生む残酷さだと思っていた。けれどあの子が見せたのは明らかに嫉妬による醜い残酷さだ。


 クリスティアーネも自分を奇麗だと思ってない節がある。

 最近は目を瞑れば美人だとか、着飾れば美人なんて言われていた。ボクはそんなことをしなくても美人だと思っていたしそう言っていた。

 それを彼女もやっと照れながら受け入れていたところへ、いきなり不細工っていわれたら落ち込んでしまうだろう。


 完全に下を向いて俯いている。



「……あ……あう……ふ、ふん! アーシュはあたしの嫁にするわ!」



 嫁じゃないし。



「……やだぁ……ア、アーシュちゃんは……あ、あたしの嫁ぇ!」



 嫁じゃないし。



 なんだか五歳児と数千歳の彼女の口論が始まりそうだ。でも珍しくクリスティアーネが反論している。できれば力勝負にならないことを祈ろう。

 五歳児の生ける屍(リビングデッド)はさすがに見たくない。



「じゃあ勝負よ!」

「……ぐひぃ……や、やるぅ」



 子供たちも「やれ! やれ!」とけしかけている。彼女は勝負事があまり得意ではないと思う。だいぶ腰が引けてしまっていた。

 あまり無茶な勝負だったら止めたほうがいいかもしれない。



「はーい!! じゃぁわたくしが取りしきるわ! 嫁の心を掴むなら胃袋を掴め! ということで料理対決よ!」



 嫁じゃない。



 シスターまで出てきて悪乗りしている。彼女は喧嘩を止める立場なのに、余計に煽って状況を楽しんでいる。

 ボクとしては勝手に話がすすんで彼女が不利な立場になっていく状況に、少しいらいらしていた。

 子供の戯言だし冗談なのだろうけれど、彼女やボクはそういう虐めを受けて来たから、このノリはあまり好きじゃない。

 だから冗談が通じない融通の利かない男だって昔から言われていたのだが。



「クリスティアーネ……大丈夫?」

「ぐひ……だ、大丈夫……」



 たぶんこのままいくと、その料理を食べるのはボクなのだ。あの断末魔が聞こえる料理を食べるのかと思うと、出来れば阻止したかった。

 みんなはやる気になっているけれど、ボク一人がはらはらする料理対決が始まった。




 孤児院の厨房は広くて中央に作業テーブルがある立派なものだ。しっかりオーブンもあり食材も豊富にある。

 すこしクリスティアーネがムキになっているのが気がかりだ。



「やったね! アネちゃん! これでアーシュはあたしたちのものよ!」

「アネちゃんなら余裕だよ! 怖いお姉ちゃんはやっつけちゃえ!」



 対決を申し込んだ子はアネというらしい。

 周囲は誰も応援してくれないから、ボクだけでも彼女を応援したい。ボクは彼女を見つめて、拳を掲げた。

 すると彼女がこちらに気がついて、微笑んでいる。


 ……大丈夫だよ。



 離れているけれど、そう言っているように聞こえた。何か勝算があるのだろうか。彼女は特に向上心旺盛だ。きっとあの時より変わっている……と信じたい。



「……っ⁉ あのおねぇちゃん……一瞬すげぇ可愛かったぞ……」

「……奇麗~……」



 彼女がこちらに微笑んだところを男の子たちが見ていた。年長さんの男の子は真っ赤にしている。そしてまたギョロ目に戻ると、急に青ざめる。

 男の子たちの顔色が赤や青にいそがしくて苦笑した。






 しばらくして、料理が出来上がったが……。



「ぐひぃ……」



「ヴォオオオオオ……ダズゲデェ……」



「わぁあああ! なんだそれぇ! 料理が喋っているぞ!」

「ひぃぃいいいい! グロいぃ!!」



 案の定、彼女の作った料理は、何故か死霊が助けを求めている。いや、見た目は意外にもちゃんとしていた。ただ死霊が入っている……。



「そ、そそ、そんな料理子供たちに食べさせるわけにはいきません! いくら何でも食べ物を粗末にしてはいけませんよ!」

「……げひぃ……」



 シスターに怒られて完全に意気消沈してしまった彼女。ただ粗末にはしていないとおもう。ちゃんと作られているのだから。ただ死霊がはいっているだけだ。



「やった~! じゃぁアーシュ? あたしの食べてよ!」

「そうそう! あんなグロイものは食べられないでしょ? こっちは美味しいよ?」



 そういってボクの目の前には、アネの作ったおいしそうなミネストローネやサラダや高級な肉の厚焼きがおかれた。

 ただボクはやっぱり、以前より成長しているクリスティアーネの料理のほうが気になっていた。

 以前は死霊どころか料理もどす黒い紫色をしていた煮込みが、いまはちゃんとした美味しいそうな見た目になっているのだ。



「ボクはやっぱりこっちをもらうよ。 だったら粗末にしたことにはならないだろ?」



 そういってシスターの方を見ると、少し嫌な顔をしていた。シスターを気取っても彼女の常識を崩されるのはやはり気に喰わないのだろう。

 彼女の心底の一端を見た気がする。



「じゃあ、いただきまーす! ……あぐ ……ぉおぉお⁉」

「な、なにアーシュ? 大丈夫⁉」

「……すごい、うまい! ヴォオオオオオ……ダズゲデェ……」



 しかしボクの口の中から死霊の断末魔が聞こえてくると、孤児院は大騒ぎになってしまった。でもボクが美味いといったことで、数名の好奇心旺盛な子供たちが彼女の料理を求めた。



「うめぇえ! ……ダズゲデェ……」

「ほんとだぁ! アネちゃんのに負けてないよぉ ……ジヌゥ……」



 やっぱり子供たちは純粋な好奇心に勝てないようだ。アネたちもさすがにこの状況に負けを認めたようだった。クリスティアーネの前にアネ一派の子が群がっている。



「い、いじわるしてごめんなさい……」

「……うぇへへ……へ、平気」



 少しうなだれて、今まで無視したり邪険にしていたことも謝っているようだ。すこし涙目になっているアネの頭に、クリスティアーネは手を伸ばす。

 アネはびくっとなったけれど、どうやら頭を撫でたかっただけのようだ。いつもボクが彼女にしているように、彼女もそうしたかったらしい。

 アネも涙目になっているが笑っていた。



「勘違いされやすいけど、彼女はいい娘だよ」

「す、すみません……完全に偏見でした」



 シスターも子供たち同様に、いやそれ以上に偏見の目で見ていたようだ。やはり大人はそれを隠すのが上手い。

 ただ人間はどうしても偏見を持ってしまう生き物だ。ボクだってそうだから、彼女にそれで責めようなんて気はない。



「仲良くなれそうで、よかったよ」

「うぇへへ……ア、アーシュちゃん……あ、ありがと」



 クリスティアーネもみんなにやっと仲良くしてもらえたのが、とても嬉しかったようだ。アネといっしょに少し潤んでいるようだった。





 クリスティアーネとアネの二人の料理で昼食を済ませると、騎士が一人孤児院に訪ねて来た。昨日案内してくれたエルダートを信奉している元部下の彼だ。



「昨日はどうも! メフィストフェレス将軍から招待状がきておりますよ。魔女様」

「……うぇへへ。……ちょ、ちょうどいい?」



 午後から申し込みに行こうと思っていたから、丁度いい。むしろ向こうからの依頼であれば、日を跨がずに会うことができる。

 招待状には迎えをやるので、城に来てほしい旨が書いてあった。

 孤児院には帝国貴族用の高級な馬車が停まっていた。さすがに上位魔女のご招待ともなれば、お出迎えも大仰だ。



「魔女様だけと仰せつかっているから、アーシュくんは留守番だな」

「ぐひ……い、いや ……じゃ、じゃぁいかない」

「なっ⁉」



 クリスティアーネは教会本部の事がよほど嫌だったようだ。立場上ボクはただの従者なので、あまり良い扱いをうけないのは致し方ないと思っている。でもそれが彼女には我慢できないようだ。



「わ、わかりましたよぉ……あーあ、損な役回りだぁ……」



 彼には悪いがクリスティアーネが行かない事になるほうが、責任を問われるだろう。それを言うと、彼は渋々ボクの同行を認める。


 そうしてボクたちは馬車に乗り込み、皇帝の城へ向かうことになった。






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