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勇者が世界を滅ぼす日  作者: みくりや
第五部 鎮魂歌
106/202

最強の二人

あらすじ


 クリスティアーネを逃がすために、雪崩の犠牲となったアシュイン。生き埋めとなり意識をうしなって……



 暖かさを感じた。

 魔力供与は沢山してきたけれど、与えられるのはほとんどなかった。

 だからだろうか? こんなにも心地よいことを初めて知った。この魔力はきっとクリスティアーネだ。


 彼女とは最近特に距離が縮まった。

 シルフィ以上にボクの内面に踏み込んで、受け止めようとしてくれている。それは彼女の聡明さがそうさせているかと思った。でもそれが違うことがわかった。




 やがて重い瞼が自然に持ち上がる。

 じんわりと視界がぼやけていた。

 目の前の人物が心配そうにこちらに顔を寄せている。細身の黒髪とギョロヌとした瞳で、クリスティアーネだとすぐにわかった。



「クリスティアーネ?」

「……ぅあう……あ、アーシュちゃん……よ、よかったよぉ……ぐひ……ぐひ」



 顔をぐしゃぐしゃにして抱き着いてくる彼女。その体温を感じて助かったという実感がやっと湧いてくる。

 近くにある頭を撫でようとするけれど、狙いが外れて空を切った。そのボクの手を彼女がつかみ、ほおずりしている。



「ふふ……どのくらい経っている?」


 まだ雪崩に巻き込まれてから半日程度だという。

 彼女ゲートで飛ばされてから二時間弱でボクを救いきったというのだ。普段はのそのそと動く彼女の行動力に驚いた。

 瀕死だったけれど、ダメージは凍傷だけだった。もう視界も戻ってきている。



「本当に……クリスティアーネはすごいね」



 首を振って何か言い淀んでいる。言いづらそうにボクの包帯が巻かれた指を弄っている。こういう時は静かに彼女の返答を待つ。

 彼女はすこし間をおいて、ふっと息を吐いてから話し出す。



「……シ、シルフィに手伝ってもらった」

「え⁉」



 ボクはあの時咄嗟にオババ用の自分以外を飛ばせる魔法陣を思い出して、王都裏の墓場へと彼女を小屋ごと飛ばした。

 あの場所から二時間で救いきるなんて、距離的には不可能だったはずだ。


 飛ばされた時点で、ボクの死の限界時間はすでに間に合わないことが確定していた。だから彼女は戻ること考えず、王城に乗り込みシルフィに協力を強制したのだ。

 シルフィはあんな状態でも抜け目がなく、王国中に独自の魔法陣で移動手段を確保していた。

 その魔法陣はまさに天才魔女を彷彿させるほどの進化を遂げていたと言う。そこに彼女の中にわずかな光を見出したのだ。

 甲斐あってボクの救出には間に合い、生存を確認したらさっさと帰ってしまったそうだ。



「……そっか……そっかぁ」



 ボクはそれを聞いて嬉しくなる。

 彼女は絶望と諦めの世界にいるのだ。でもまだ彼女の中に葛藤できるほどの力が残っていることが確認できた。まだ間に合うのだ。









 次の日にはすっかり回復していた。

 凍傷に関しては自ら治癒をかけて、赤黒くなっていた部分はもうすっかり元通りだ。


 報告の為にカタストロフに面会を求めると執務室へ案内される。

 すると休憩用の長椅子には、救出した男二人が座っていた。あまり動けないが、一緒に話をしたいそうだ。

 彼らの様子はボクよりは軽傷だった。



「あ、ありがとうございました!」

「うん。それより彼女たちの事を聞かせて?」



 大きな声でお礼を言うのはタカオで、怯え切っているのがジン。それぞれナオコとスミレの恋人ということになる。

 彼らは自分の恋人の不審な行動に疑いを持っていた。

 王城内を探っている様子。そして帝国への亡命者が増えたとたんにこの村への遠征を申し出た。


 気になって尾行をしてみると、行為の最中を見てしまったのだ。

 逆上したジンは乗り込んで大騒ぎ。村の住人にも知れ渡ってしまう。その男とスミレはすぐに逃亡し、その直後に後に雪崩が起きた。



 それから二人を捜索した時についてきていた護衛騎士が行方不明だった。しかしその特徴を言うと、逢引した男とナオコではないかという。

 カタストロフの調査でも、そんな護衛騎士を付ける命令をしたものはいないそうだ。



「うーん。一石二鳥を狙ったか、いやまだ確証はない……」

「何かわかりそうか?」



 あの行動履歴を見て、まだもう一つ気になる点があったことを思い出す。まだ要素が足りないから不用意なことは言えないが憶測では……。


 思考を巡らせていると、こちらをジンが上目遣いでじっと見ていた。ボクと年齢の変わらない男の子のはずだけれど、もじもじしてミミくんに似ている。

 いやミミくんも男の子だけれど、とにかく女の子っぽい仕草だった。



「あの……オレ、アシュインさんの手伝いしたい……」

「オレも! 雪崩の犠牲になってまで、人を救えるなんて……!」



 ……いや、キミたちは完全にクリスティアーネのついでだよ。



 そう言いたかった。ボクは片田舎の村人出身だから、エルやレイラのような崇高な使命を果たそうなどという気は一切ない。自分の欲望でしか動いてない人間だ。

 涙をこぼして尊敬のまなざしを向けられても困ってしまう。手伝ってくれると言うのなら能力だけでも聞いておく。召喚勇者ならではのスキルがあるはずだ。



「オレ、獣魔使い(テイマー)で弱い魔獣や動物を使役できます」

「オレは遠方魔力制御……」

「……ちょっと今のアシュインにはお荷物になっちまうだろう……」



 召喚勇者という肩書は王国内では絶大なる期待があったのだ。

 期待通りの能力であるなら、アイマ領にとってはいてくれるだけで強みになる。以前エルの治世の時は、各地に召喚勇者を派遣した取り組みをしていたから恩恵があった。

 しかし彼らの能力を聞いていた文官や騎士、カタストロフまで落胆している。

 ……でもボクはそうは思わない。



「すごい能力じゃないか?」

「……い、いえ……なぁ?」

「オレたち勇者の中でもゴミ扱いだったんだ……役に立たなくて済まない」



 本人たちの冴えない表情をよそに、ジンに小鳥を呼ぶように指示する。ぴゅいっと指笛を吹くと、空気の取り入れ口から小鳥が室内に入って来た。

 そして彼の指に留まる。

 今度はその小鳥にタカオの遠方魔力操作の付与をするように指示する。



「これでタカオの有効範囲内であれば、タカオを通じてジンは小鳥に指示を飛ばせるはずだ」

「……え⁉」

「……うっそだぁ……うあ……ほんとだ……」



 間接的な作用の魔法やスキルは、協力し合うことで相乗効果を生みやすい。シルフィとクリスティアーネが良くやっていたから、参考になった。

 二人はボクたちがいることも忘れて、いろいろと試している。

 タカオの魔力は微弱であるが有効範囲はとてつもなく広い。王国はおろか帝国や共和国、それから魔王領すら網羅できるようだ。


 二人会わせているのにまだ小さい能力と感じていたみんなに、有用性を説明する。連絡だけでも活用できるが、斥候や人の入り込めないところの偵察までこなせるだろう。

 大きな声では言えないが、相手が人間程度なら暗殺も可能だ。



「すっげぇ‼ もう隣の国まで飛んでいったぜ! さっすがジン」

「タ、タカオの力だよ……でもすごいね」

「オレたちが最強だ!」




 まるで子供の用にはしゃぐ二人をみて、少し笑ってしまう。ボクはあんなに喜んでくれる友達がいなかったから羨ましい。

 彼らの能力をみた騎士や文官たちも、興奮して彼らを賞賛している。



「カカカっ! こんなすごいの見せられたら彼らを歓迎せざるをえないな」


「ぐひひ……さ、さっきみんな……が、がっかりしていたのにぃ……」

「なんか羨ましいね? ……くくく」



 興奮して盛り上がっている彼らを遠巻きに、ボクとクリスティアーネは苦笑して眺めていた。




「ところでロゼルタ姫から打診があったよ。一か月後に王位継承の儀を催すそうだ」



 ロゼルタの手紙にはボクについても書かれていた。

 三週間ほどはアイマ領に預けるので、貴族の所作を教育させろとのことだった。でもボクは得意ではないが全く知らないわけではない。

 ロゼルタがそう勘違いしているのなら好都合だ。時間的な猶予ができたので、やはりこの隙に帝国の動向に探りを入れるべきだろう。


 ボクが帝国へ行っている間は、ジェロニア宰相、ロゼルタ派、ロゼルタ姫本人の動向を把握して定期的に連絡をお願いした。丁度連絡手段もできたところだ。



「しかし帝国は厳戒態勢だ。 大丈夫なのか?」

「ぐひひ……あ、あたしいる……じょ、上位魔女に国境なし」



 上位魔女の立場は中立。

 依頼で一方の国の為に活動をすることがあっても、社会思想(イデオロギー)は持たない。人間も魔女も共にそういう慣習のもと、関係を保っている。そのおかげで彼女は帝国にも難なく入る事ができるそうだ。

 ボクも彼女の従者としてついて行けば、何の咎めもなく自由に活動ができる。その代わり『思想を押し付ける発言』はしてはならない。



「では……参りましょうか? ご主人様」

「……ぐひぃいぃいいいい‼ な、なにこれぇ……し、しゃあわせぇ……うへぇへ」



 従者のエスコートに異常に反応する彼女。顔を真っ赤にして、惚けて涎を垂らしている。出会った頃の彼女を思い出して苦笑した。



「あっ! アシュインさん! まってくれ!」



 タケオが差し出した魔石を受け取る。それは先ほどから色々試した中で見つけた具体的な活用方法だ。

 魔石に魔力を込めれば、印としてタケオは受信できる。またそれを目印にジンの小鳥を飛ばすことができる。

 つまり見えない長距離の相手へ正確に通信する手段だ。小鳥の移動速度を考えれば、一日程度の時間差は生じるけれどかなり有効だ。



「さっそく実用できそうだね」

「頑張ってください‼ オレらも手伝いますから!」





 彼らと盛り上がっている連中を後に、ボクたちは帝国へ向けて出発した。

 要らぬ警戒を持たせないために一度ヴェスタル共和国に入り、そこから南下してヴェントル帝国へ入国する予定だ。


 久々に乗った彼女の死霊馬車は相変わらず快適だった。願わくは、今回は余裕のある旅をしたい。







読んでいただきありがとうございます。

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よろしくお願いします。

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