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いつも読みに来て下さってありがとうございますv



「……今日は無理だが、グエン家の料理人から指導を受けてくる。それでいいだろうか」

 なんと! それほど私やムーアさんに頭を下げるのが嫌か。

 でもまぁそれもありだよね。うん。

 私は、デビット・グエンという仲間候補である人に、やりもしない内からできないと言って終わらせないで欲しいだけだからそれで問題ない。

「よし。一週間後に披露な! エリゼも呼ぼう」

 ケルヴィン殿下の空気を読んでいるのかいないのか判らない声が高らかに宣った。

 …そこまでして恋敵に恥を掻かせたいのだろうか、この初恋拗らせ王子は。

 でも、これでもし滅茶苦茶美味しいごはん作れるようになってて、エリゼ様がその味に惚れ込んだりしたらどうするつもりなんだろう。

 …ないか。基礎から練習しないと駄目っぽいレベルだったもんね。

 さすがに一週間で作れるようになるものなんてたかが知れてるし。

 ……ないよね?

 ムーアさんはなんか意味ありげに笑ってるし。

 一週間後の試食会が、食材に失礼なことにならないよう、私は祈るばかりだった。


「ふう。さすがにお腹いっぱいですね」

 まさかデザートの後に闇鍋ならぬ闇パスタ(ポイズン的な意味で)とカルボナーラを食べることになるとは思わなかったよ。

 美味しく食べたけど。ついでに白状すれば楽しかった。

 なんか、友達の部屋に招待されるのってこんな感じかなぁ。

 私は配り直した紅茶のカップを見つめる振りをして俯いて、視線だけを同じ部屋にいる面々に向けて動かした。

 学校の教室とか、図書館で一緒になるのとはみんな違って見える気がする。

 リラックスしているというか…あ、デビット・グエンだけは暗い顔して悩んでる風だ。わはは、悩め悩め。

 今きっと彼奴の頭の中では『王太子付きの近衛に抜擢されたと思ったら料理を作れと言われた。何故なんだぜ?』とかいう風に混乱しているに違いない。わはははは。

 その隣のケルヴィン殿下はあれだな、自分が豪勢な料理を作ってエリゼ様に食べさせて絶賛されるドリーム中と見た。たかがチーズ蕩けさせただけの癖して。

 …焦げすぎてもいないし絶品の蕩け具合でした。美味しかったです!

 なんて。ちょっと視線を向けるだけで考えていることが想像できるようになるとか。

 なんか、友達っぽいよね。うは。友達。ちょっとくすぐったい。テレる。

 モジモジしてたらケルヴィン殿下から「キモい」と言われた。むぅ。何の仕返しだ。心当たりがありすぎて判らん。

「何かいいことありましたか?」

 唇を尖らせて膨れている私に向かって言う言葉ではない気がするんですが。どうなんでしょうね、ムーアさん?

「そうですか? ずっと、とても楽しそうな表情をされていましたよ」

 ぐはっ。一体いつから見られてたんだろ。やばい。

 慌てて顔を隠そうとしたせいだろうか。私は淹れたての紅茶を取り落としてしまった。

「あっ。す、すみません」

 おろおろと台所に向かって布巾を取りに行こうとする。すると

「焦らないで。大丈夫ですから、先にりんさんの火傷を」

 ふわっと紅茶がかかって赤くなっていた手に水が集まってくる。

 冷たくて気持ちがいい。

 そうして、見る見るうちにテーブルや床に零れていた紅茶が集まってきて、紅い水玉になってカップに戻った。おぉ~!

「はい。こちらはおしまいです。りんさん、火傷は大丈夫ですか?」

 安心するような柔らかな声で確認される。

「はい、大丈夫です。あの、魔法あるのに慌てちゃって。ごめんなさい」

 そうだよ。魔法があるんだよ。でも身についてないから咄嗟の時とかって思い浮かばないんだよねぇ。

 …って。なんだろ、ムーアさんが急に怖い顔してる?

「…りんさん?」

「ハイ!?」

 なんだろ。やっぱりもっとちゃんと謝るべきだったかな。えっと、えっと。

「あの、ごめんな「謝罪じゃないでしょう? 約束はどうなったんですか」」

 えーっと? あっ!

「…ありがとうございました?」

「そこでなんで疑問形になるのか判りませんけれど、まぁいいです。ちゃんとありがとうって言ってくださいましたしね。でも『謝罪より感謝』です。咄嗟の魔法なんかよりずっと大切なことです。忘れないで下さいね?」

 はい、了解しました。私は無図痒くなるのを我慢してもう一度お礼を伝えながら頭を下げた。

「…『謝罪より感謝』か」

 小さくデビット・グエンの声が聞こえたけれど、何を言っているのかよく聞き取れなかった。勿論、表情だけ見ても何を思っているのか判らない。やっぱりもうちょっとデビット・グエンの事も知らないと駄目だなと思った。


 お茶も飲み終わって後片付けも皆で手分けして行う。

 デビット・グエンの食器を拭く手つきが怪しくて、横で見ていてどきどきした。

 でも食器棚に戻すのは、ムーアさん自身じゃないと判らなくなるだろうし、ケルヴィン殿下に洗える訳もなくて、私が洗う担当になると、食器拭き係しか残ってなかったので仕方がないのだ。勿論、食器拭き係はムーアさんと一緒にやっている。

 デビット・グエン一人のスピードではいつになったら終わるか判らないもんね。

 ちなみにケルヴィン殿下は、コトラにご飯の追加を盛りつける係だ。

 お皿が空になる度に、横に持っていったシチューの鍋からどぱーっとよそうだけの簡単なお仕事だ。といいつつ、すでにコトラが使っているお皿の周りは飛び散ったシチューの汁で水玉模様となっている。

 ううう。モッタイナイし、汚い。後で掃除する人の身にもなれぇ! って思うけど、実際にケルヴィン殿下にして貰えそうなお仕事は他にないし、コトラが満足するまで食べ終えるまで皆でお茶をしている訳にもいかないので分担は正しいのだ。

 私の部屋だったら絶対に嫌だけど。

 ふと台所を見回す。綺麗に片付いていて、シンクに曇りも全くない。

 食器棚もキッチン用具も見せる収納タイプ。美しい配列はきっとグラスを置く角度も決まっているのかもしれない。

 美しい。完璧な台所なのである。

 なんて、ムーアさんらしいよねー。ふふ。

 私はなんだか妙に楽しくなって、鼻歌を歌いながら食器を洗い続けた。


「その曲のタイトルはなんというんだ?」

「これは、『ご●らとメカゴ〇ラ』という私が好きだった映が…いえ、あの、母国の、その歌劇? での劇中歌? です」

 しまった。油断して、ついそのまま教えてしてしまうところだった。

 まぁ替え歌だけどね? なんか好きなんだよね、あれ。

「そうか。我がグエン領の民謡に似た曲があるんだ。おま…友木りんがそれを知っているのかと思ってしまった」

 なんと! ということは、あれですね? グエン領には過去、私と同じ日本人が異世界からやってきたことがるって事かな。

 うわー。やっぱり他にもいるんだなぁ。王宮には届けられている人なのだろうか。異世界からきても必ず王宮に保護というかそういうのされるとは限らないみたいだし、知られないままだったのかもしれないな。

 そういう人ってどれ位いるんだろう。

 でもあの歌ってどのくらい前の歌なんだろ? そんなに古かったかなぁ。今度、エリゼ様に訊いてみればわかるかな。

 未だに新作作られるんだよねぇ。観たいなぁ。無理だけど。

 あぁ、でも今見たら、あの黒い獣と重なってみえて怖さ倍増かも。それとも逆に爽快感が倍増するのだろうか。どっちかな。わかんないな。

 わかんないといえば、怪獣たちって地の底とか海の底が割れて真っ暗闇の中から出てくるんだよねぇ。

 あれ、どこに繋がっている設定なんだろうね? 怪獣たちって普段はどこでどうしてるんだろうね。ははっ。

「なにか、楽しそうですね」

 布巾片手に食器を棚に戻していたムーアさんも話に乗ってきた。

 んー。そうだよね。日本とか異世界だって言わなければいいだけだよね。

「グエン領には行ったことはありませんが、先ほど話した歌劇は私の国では古典と言われるものなんです。だから、私の国からグエン領に行った人がいて、その人が残していったのなら楽しいな、とか考えちゃいました」

「…おま…友木りんの国から、我が領に来たものが?」

 ちゃんと言い直しているから突っ込まないでいるけどね? いい加減にしろっつーの。

「別に行った事が確定したとかいう話ではなくてですね、そうだったら楽しいなーという想像ですよ。そうだ、逆もありそうですよね? グエン領から私の国へ来た人が、その劇の歌にグエン領の民謡のオマージュを込めた、とか」

 実際には違うんだろうけどさ。想像なら何でもありだよね? 

「繋がってたら面白いと思いませんか? デビットさんの領地と私の国の昔話」

 楽しいと思ったのだけれど、私がそう聞くと、

「そうか。友木りんは、そう思うのか」

 デビット・グエンは、そう呟くともう何も答えようとしなかった。

 なんかムカついた。というのはあれだけど、大丈夫かなと不安になったけれど

「おい、大変だ。コトラが食べ足りないみたいだぞ? うわっ。それは食べ物じゃない! 痛っ。私も違うっ」

 どうやら大変なことになっているようなので、皆で慌てて居間に戻った。

 ケルヴィン殿下がご飯を隠していると思ったコトラが興奮してケルヴィン殿下の顔を引っ掻こうとするのを止めるので大騒ぎになったからだ。

 結局、ムーアさんがパントリーから出してきたマッシュポテトの素を牛乳で慌てて練って出して事なきを得た。

 危険なので、コトラ用のごはんは残るくらい用意しておこうと話し合って決めた。


「では、また明日学園でな」

「はい。是非明日こそ、ダンスかマナーの授業をお教え下さい」

 カーテシーを取りながら言ってみる。てへ。

 だってせっかく今日久しぶりに学園に行ったのに、ケルヴィン殿下とエリゼ様の授業は受けられなかったんだもん。

 というか、その前から自習多かったよね?

 まぁお二人共にお忙しい身なので仕方がないんだろうけどさ。 

「あぁ。ぎっちぎちに絞ってやる。楽しみにしろ」

 うへぇ。藪蛇だったかとは思ったけれど、手を振って去っていくケルヴィン殿下が楽しそうだったので、良しとする。

 うん。私も楽しかった。

「お疲れさまでした。シャワーに行くなら、1階までお供しますよ?」

 なんと! そうか。ムーアさんがお隣なのはそういう意味もあったのか。

 ここの防備は薄いのは知ってたけど、でも一般の人が入る下宿屋さんなのに。そういう事も考えておかないといけないんだねぇ。大変だね、近衛って。でも

「しばらくガーランド様はコトラに入らないって言ってましたし、傍付きはいらないですよー」

 ムーアさんだってお疲れだと思うし。少しは休んで欲しいよね。

「何故ガーランド様が?」

「ん? 今日の午前中、なにか閃いたみたいなことを言って消えたじゃないですか。『しばらく来れない』とか言って」

 珍しいこともあるものだ。ムーアさんがど忘れするなんて。

 ふふ。でもムーアさんだって人間だもんね。ちょこっと忘れちゃうことだってあるよねぇ。

 でも、完璧だと思っていた人の失敗に、少しだけホッとする。

 私はあれこれできない人間だから、完璧な人の傍にいるのって緊張するんだよね。

 私も頑張らなくちゃ駄目なんだって思っちゃうし。

「いえ、あのそれは覚えています」

 あ。そうなんだ。ちぇー。

「それと、りんさんの傍付きを休む関係はどこにあるのでしょうか?」

 んん?

「…私の傍付きという名目の、ガーランド様付きだって聞いてました」

 私のその言葉に、ムーアさんが目をぱちくりしている。

 おぉ。ちょっと可愛い。レアな表情のムーアさんだ。

「ちなみにそれは、どなたが?」

「ケルヴィン殿下です」

 あれ? あの時ってムーアさん傍にいなかったっけ? いたよね?

「あぁ、あの時の。よく思い出してください、りんさん『そう考えて貰っても構わない』そう、ケルヴィン殿下は言ってましたよね?」

「はい。そうです」

 なんだ、ちゃんと覚えてるんじゃないか。ちょっとツマンナイ。

「それは、その通りだと言っているんじゃないです。『そう考えたかったら思っててもいい、違うけど』です」

「えぇ~?! そんな馬鹿な!!」

 だ・ま・さ・れ・た!! なんて。怒るほどの事でもないんだけど。でもなー。なんか負けた感半端ない。

 ぷぅっと膨れていると、ムーアさんが突然笑いだした。解せぬ。

 結局、もう遅い時間になってしまったしムーアさんも入るというので一緒にいくことになった。

 階段を降りてシャワーを浴びたらすぐ昇って戻るだけなのに。

「いいじゃないですか。一人で行くよりきっと寂しくないですよ?」

 寂しいって。ムーアさん寂しがり屋だったんだ。

 ふふ。知らなかった。


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