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74時限目

いつも読みに来て下さってありがとうございますです


※大変申し訳ありませぬ ><

 前回更新時に最初の方のかなりの行数が欠けたまま更新してしまいました orz

 呆けててすみませんすみません (2020/06/16 05:57修正しました)

 


「そうか、これエフェクトだ」

 LvUPの証ファンファーレ。戦闘中の能力向上補助バフ効果↑↑矢印。相手に掛ける能力阻害デバフ効果↓↓矢印。

 さしずめ乙女ゲームだったら好感度UPの証かな。きらきらエフェクト。まさかのリアル3D実写版。

「えふぇくと? なんだ、またあちらの言葉か、りん」

 その声に我に返った。そうだった。ケルヴィン殿下だけじゃなくてデビット・グエンもいるんだった。声は届いてなくても何かの拍子に秘密が洩れることもあるかもしれない。気をつけなくちゃ。

「えっと。それについては、また今度にさせて下さい」

 ちろり、とデビット・グエンの方に一瞬だけ視線を動かす。

 それだけで判ってくれたのだろう。エフェクトについての説明をそれ以上求められることはなかった。

「では、今のところはここまでか?」

「ここまでですね」

 こくりと頷くと、ケルヴィン殿下は少しだけ思案した様子だったけれど納得してくれたというか引いてくれることにしたのだろう、「判った」と言って先ほどの箱にもう一度手を触れた。

 ふわっと、空気が変わる。

「では、今度こそ飯だな。うん。デビット、ムーアを呼んでくれ」

 明るい声でケルヴィン殿下が命令を出した。おい。

「…ここは私の部屋ですよ?」

 お前の別邸じゃねえ。そうハッキリ言ってやれたらどんなにすっきりするだろう。しくしく。ここの調度品、全部王宮からの下賜品なんだもんなぁ。しかも防御魔法付き。

 フリフリピンクと白で纏められたファンシーなお部屋は私の好みからかなり遠いけれど、使い心地は最高だ。

 木の椅子が座り易いってどういうことなんだろう。クッションついてても痛いよね、普通。背凭れも座面もジャストフィットですよ。解せぬ。

 ふう。どさり、とそのやたらと座り心地の良い椅子へと、私はへたり込んだ。


「おつかれさまでした、りんさん。こちらにりんさんの分だけを運んでも良かったのですが、私の部屋にテーブルをセッティングしておきました。宜しければ、私の部屋でご一緒しませんか?」

 ムーアさんがにこやかに誘いにきた。ということは、だ。

「…ケルヴィン殿下が来ることを、知ってましたね?」

 思わずジト目で見てしまう。むむん。なんかこう、この国の男性陣から掌で転がされている気がしてならないんだよねぇ。

「いえいえ。玄関先でお別れしてから一緒に食事を作ろうと着替えていた所にケルヴィン殿下がいらしただけです」

 本当かなぁ。ムーアさんは私に嘘を吐かないと約束したけど、なんとなくそれも胡散臭いと最近思うんだよね。根拠ゼロなんだけど。女の勘という奴がね、そう言ってる。まぁいいか。今回に関しては騙されていたとしても特に問題ないだろうし…ない、よね?

 それでも少しだけ悩んだ振りをしてみせた私は、結局「わかりました」と頷いた。

「着替えたらお伺いします」

 そういって、ケルヴィン殿下とデビット・グエンを部屋から追い出した。


「本当は、1階まで降りてシャワーを浴びてからお邪魔したいところなんだけど」

 午後は座学だったけれど午前中は実践棟で大騒ぎしちゃったから結構汗をかいている気がする。臭いとまでは言われないだろうけれど、夏だしちょっと心配ではある。

「…ちょっとだけ。試してみちゃおうかな」

 コトラもケルヴィン殿下が抱いて連れて行ってしまったので、すでにこの部屋には誰もいないということは知っているけど思わず周囲を見回してしまった。

「よし。誰もいないな、うん」

 私はいそいそと小さな洗面器とタオルを持って、寝室へと移動した。


「く、くりえいとうぉーたー」

 ゲームの中で水を操っていた呪文を口にしてみる。うう。なんだろ、想像以上に恥ずかしいな、これ。でも。

 おぉ~。洗面器の中にちょろちょろと水が溜まり出して感動する。

 魔石水道がない場所でも、これで水に困ることはなくなったらしい。

 気をよくした私は、次は小説の中で見かけた生活魔法に手を出すことにした。

「浄化」何も起こらない。えーっと、えーっと。そうだ。

「クリーン」

 ふわわっとした感触が全身を包んだ。

 なるほど。私の中で、その言葉のイメージと欲しい結果がちゃんと結びついているほど発動し易いんだ。

「おぉ~。なんか汗臭くなくなった気がする」

 髪のべとつきもなくてサラサラになった気もする。いいな、これ。毎日帰ってきてから1階まで往復してシャワーしなくていいなんて、超楽々だわ。

 そこまで考えて、自分の女子力の低さに絶望する。

「…綺麗になるんじゃなくて、綺麗にすることすら手抜きしようとするなんて。駄目すぎる」

 机の上に置いたままにしていた水の入った洗面器の中身を零さないように台所まで捨てに行く作業中も、ずっと私は自分のずぼらさに頭を抱えたままだった。


 レースで出来た小さな襟がついた淡い黄色のワンピースの上に、同色の丈の短い上着が付いたツーピースドレスに着替えた私は、すぐ隣の部屋の玄関の前ですでに10分近く躊躇していた。

 お土産も持ったし、シャワーじゃないけどクリーンの魔法で清潔にもしたし、ちゃんと着替えたし。指折り数えてなぜか最初に戻る私。だってさ。だって。

 この世界に来る前だって、私は異性の人の部屋を訪ねたことなんかなかったんだもん。

 …同性だって片手で数えるくらいしかお邪魔したことなんかない。

 それだって学校の課題で、班で行う研究発表会用に模造紙に纏める為に集まっただけだったりするのだ。

 友達の家にお呼ばれなんてしたことなかったんだもん。

 なんて声を掛けえばいいのかすら、私には判らない。困った。

 くしゃり、と思わず顔が歪んだ。どうしよう、部屋に戻ってしまおうか。

 部屋にあるものだってお腹を満たすことはできる。大丈夫。

 誰かが呼びに来たら「ちょっと疲れちゃって」とか言えばいいんだ。

 だいたい、このツーピースだってあからさまに新品で、気合入り過ぎだって言われちゃうかもしれない。駄目だ。やっぱり恥ずかしい。

「…戻ろう」

 そう思ったところで、目の前のドアが開いた。

「よくお似合です」

 視線を上げると、そこには嬉しそうに笑うムーアさんが立っていて、足元にするりと纏わりつくコトラもいた。

「りん、女の支度は時間が掛かるというが掛かり過ぎだ。腹が減った。早く入ってこい」

 奥からはケルヴィン殿下の呼ぶ声も聞こえてきた。

「お迎えに上がろうとしていたところだったんです。やはり女性はエスコートしなければと思いまして」

 紳士だ。さすがですね、ムーアさん。

 そういうと、つい、とごく自然な感じで私の腰に手を当てて部屋の中へと誘ってくれた。そうして持っていたお土産の入った袋を「お持ちします」と受け取ってくれた。

「あの、それお土産なんです。この間一緒に作った桑の実ジャムです」

 ムーアさんの協力の元、なんとかジャムっぽいトロミを手に入れる事が出来た干し林檎入りの桑の実ジャム。果物が一種類じゃないジャムは初めてで、冷めてから食べるのが楽しみだったのに。あの後ごたごたしててずっと棚に入れたままだった。

「小瓶に2つしかないのに、戴いてしまっていいのですか?」

 数まで覚えていてくれたことが嬉しくて胸がきゅっとなる。

 勢い込んで頷くと、「では食後に。こちらはデザートにしてお出ししましょう」と言ってくれた。

 すっごく楽しみで、わくわくした。

「おい。腹が空いたといっているだろう。会話は食べながらにしろ」

 無粋な声が聞こえた気がするけど、アーアーキコエナイーー。

 勝手にやってきて「メシ」だの「お茶」だのと騒ぐなんてお前は亭主関白な昭和の夫か。

 そう考えた途端、ムーアさんの割烹着姿を思い浮かべて笑いが出る。

「どうしました? 何か楽しい事でもありましたか?」

 考えていることが顔に出ていたら大変だ。私は慌てて首を横に振った。


「…パスタじゃない」

 てっきりムーアさんが作ってくれたなら生パスタなメニューだとばかり思っていたのに、目の前に並んでいたのはトマトを使ったシチューだった。

「パスタの方が良かったでしょうか。人数が判らない時はこういった煮込みの方が融通が利くんですよね」

 なるほど。それもそうだ。

「乾麺で良かったらパスタも茹でましょうか? このシチューを掛けてもそれなりにイケると思いますよ」

 そういって腰を上げようとするムーアさんを慌てて引き留めた。

「いいえ、シチュー楽しみです。ご馳走になります」

 これは本当だ。こういった煮込み料理はある程度の量を一度に作らないと美味しくないから、こちらに来てから作ったことはない。

 なん研で出たシチューはこってりした感じではなくてさらさらしたスープだったので、こういった煮込み感はなかったから楽しみだ。

「どうぞ。熱いから気を付けてくださいね」

 そういって出されたお皿には、焼き立てのパンに、熱々のチーズが蕩けて乗せられていた。なにこれ、ちょっとハ〇ジっぽいよね、これ。

 思わず目が離せなくなっていると、ケルヴィン殿下が鼻高々自慢げにして

「そのチーズを蕩けさせたのは、私だ!」

 最高に旨いから覚悟するがいい、と言われたので素直に「はい! 心して食べます!!」と答えたら真っ赤になって「素直か!」と怒られた。解せぬ。


「冷めないうちに戴きましょうか」

 ムーアさんのその言葉で、楽しい食事会が始まった。

 トマトのシチューにはゴロゴロお野菜がたっぷり入っていた。ズッキーニ、たまねぎ、人参、じゃが芋、マッシュルーム、アスパラガス。そしてとろっとろに煮込まれた大きな牛すね肉が、これがもう本当の本当にとろっとろで(大事なことなので2回言いました)

「お、おいひいれふ」

 はふはふしながら、口へ運ぶ。

「美味しいと言って戴けてなによりです。塩漬けにしてある塊肉を塩抜きしてから煮込むとこういう風にトロトロにできるんです。暑い時にはこうった熱いものを食べるといいっていいますよね」

 私だけでなくケルヴィン殿下からも「旨い! お替りはあるんだろうな?」と言われたムーアさんは本当にうれしそうだった。

「りん、パンも食え。チーズが固まったら旨くなくなるんだぞ」

 知ってます。一度溶けてから固まると油が分離しちゃいますもんね。

 勧められるまま融けたチーズをフォークで更にパンに絡めて口へ運んだ。

「おいひい。こっちも最高に美味しいれすね!」

「だろう! 私が蕩けさせたからな」

 にまにまと嬉しそうなケルヴィン殿下の顔につられて私まで楽しくなった。

 どれもこれも本当に美味しいけれど、皆でこうしてわいわい騒ぎながら食べていること、それ自体が美味しさの秘密のような気がしていた。


「デザートは、フレッシュチーズに、りんさん手作りの桑の実ジャムを乗せてみました。干し林檎も入っていて本当に美味しいジャムなんですよ」

 危なっかしい手つきで私が食後のお茶を淹れている間に、ムーアさんがスペシャルデザートだといって用意してくれたそれを皆に配る。

 ガラスの器の中には、艶やかな黒いジャムがほんのりピンク色をしたチーズの上に乗せられていた。

「ほう。これをりんが作ったのか」

 チーズは私じゃないです。本当はジャムもムーアさんとの合作なんだけど、ちらりと視線を送った先で、ムーアさんがウインクを送ってくれたのでどうやらそれについては内緒ならしい。

 内緒の合作。なんか…なんだろう、ちょっと恥ずい。

「ほう。普通に旨いな」「…おいしいです」

 なにやら二人共、誉め言葉が微妙なのはどうしてだろうか。

 それは王宮で出される最高の料理人が最高に高級な材料を使って作る料理になれている人達からしたら、すっごく美味しいとはいえないかもしれないけどさ。でももうちょっと褒めてくれてもいいのに。

 ぶぅ、と膨れているとムーアさんが

「とても美味しいですよ。フレッシュチーズの酸味との相性も最高ですね」と褒めてくれた。うう、優しい。

 ごめんね、誉め言葉を強要したみたいになって。反省します。

 ちょっとだけ反省していた所に、ケルヴィン殿下の声がした。

「ムーアのシチュー、私の蕩けさせたチーズを乗せたパン、りんの作ったジャムつきフレッシュチーズ。どれも旨かった。最高の食事だった、ありがとう」

 うっ。不意打ちだ。そんな最高なんて誉め言葉をいきなり口にするなんて。

 ムーアさんと二人、顔を見合わせながら、王子様からの誉め言葉に照れていると

「…しかし、ここに一人、ただ旨い物を食べているだけの無能がいるな?」

 そんな悪魔の様な言葉が続いた。



ブクマも評価も誤字報告も

とても嬉しいです。

感謝感謝v

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