56時限目
すみません。お腹痛すぎて…
もし、日本語になってない部分があったら教えてください(涙目
「仕方がないか。それが、りんだな」
ぽんぽんと頭を叩かれる。むぅ。何故かお子様扱いされてる気がする。納得いかないけどここで歯向かうのもあれだしね。大人だからスルーしてあげよう。うん。
それよりも、だ。
「私が他の属性を使えるってことを皆に教えると闇属性のガーランド様も複数の属性を使えるって教えちゃうのと同じことになるんですよねぇ?」
自分のことは自分で決めるつもりだけれど、それが誰かの嫌がることに繋がるというなら考慮しないといけない、とは思う。
ガーランド様はアーリエル皇国の皇太子さまだ。その人の情報はそれなりに価値があるものだろう。これまで自分の魔法属性について口にしなかったことも考えにいれると、私が勝手に周囲に流していいものなのかどうか。…ここまで考えて、聞くまでもなく駄目な気がしてきた。
「まぁ、そういうことではある。でも、りんが言いたかったら言ってもいい」
「そうなの?」
そんなに軽く許可できる程度の価値しかない情報だとは思えないんだけど。
納得できない。なにか裏があるのだろうか。なぁんて考えていた私に、
「どうせ、りんのことだから隠そうとしてもできないだろう? 絶対にぽろっと情報を洩らす。その時に後悔するりんを見るのは…うん? それもまた一興だったか」
やっぱり内緒にしろ、そして情報を洩らしてしまったと懺悔に来いとニヤリとされた。むっきー。なによそれ。
ポカポカと拳で肩を叩きまくったのに「わはは。痛くも痒くもないな」と笑われた。むかつくんですけどー?!
コンコン
そこに、ドアをノックする音がした。
「ハイ。どなたですか?」
そういって、ドアを開けにいくと「私が名乗る前にドアを開けてはいけません」と困った様に優しく咎められた。
元々のタレた目が更にへにょんと下がってみえる。えへへ。困らせて申し訳ない。
「ムーアさん。こんな時間にどうしたんですか?」
そういって部屋の中へと招き入れようとしたところを、ガッと後ろからドアの縁を掴まれ阻止された。
「おい、りん。こんな男をこんな夜更けに自室に簡単に招き入れるな」
それ、部屋の中にいるガーランド様がいう台詞じゃないですよね? それも私が悪かったとはいえ私が招き入れた訳でもなく勝手に入ってきたのはガーランド様じゃないですか。
そんな文句が頭の中に渦巻いたけど、私そっちのけでドアの内と外で攻防が始まっていた。
「ほう。では、今すぐそこから出て戴けますか? 皇太子殿下」
「いやだ。今の俺は、りんのタイガだからな」
「猫なら猫らしく箱にでも入って一日中寝ているといいですよ」
「ふふん。俺が寝るところは、りんの横だ。同じベッドで寝るのが良い飼い猫だ」
「変態に大国の次期皇帝は務まらないのではないですか? 国に情報を流しますよ?」
「あぁ、望むところだ。俺はりんを皇国に連れて帰るつもりだからな」
イマイチよく判らない争いになっとる。というか。
「私はアーリエル皇国になんかいかないもん」
って。聞いてねぇ! 今にも掴み合いの喧嘩になりそうな気配で睨みあっている二人に苛立ちが募る。あー。もうっ!!
ぐいっ、と二人の腕を引き寄せて耳元で怒鳴る。
「私は恋愛なんてしてる場合じゃないんですっ! しません!!」
黒い獣の事も、廃油石鹸の事も、光魔法についても、ユウキリンのことも、ダンスも、マナーも何もかも。めっちゃくちゃ沢山やらなくちゃいけないことだらけなのに。それどころの話じゃないっつーの!!
私の剣幕に驚いたのか、二人が吃驚した顔をして私を見つめコクコクと顔を上下に動かした。それを了承の仕草と看做して私も大きく頷いてみせる。
「それで。ムーアさん、ご用件は?」
これ以上の問答無用とばかりにガッと大きく目を見開いて質問する。
それに、「えっ…あ、その」と少し怯んだのかオロオロとしたムーアさんが少し可愛くてつい笑ってしまった。むぅ。最後まで怖い顔して押し切るつもりだったのに。
怒っていた私が少しでも表情を緩めたことにホッとしたのだろう。ムーアさんが「そうでした」と話だした。
「昨日は村を出る時にチャージしておきましたが、それ切りで、昨夜も今朝も、水宝玉に魔力を込め損なってしまっていたでしょう?
遅い時間なので躊躇はしたのですが、あんなことがあった後ですしやはりチャージし直させて戴こうとお邪魔することにしたのです」
それはありがたい。実はさっき使っちゃいまして、とムーアさんに言うことはできないけど。多分かなり使ってしまった筈だ。
私は「ありがとうございます、ちょっと待っててくださいね」と感謝の言葉を述べながら放置してしまった筈の洗面所まで水宝玉を取りに戻った。
そうして、戻ってきても、まだドアの前で二人が睨みあっていることに心の中でため息を吐きながら、「よろしくお願いします」とそれを差し出した。
ガーランド様とはずっと睨みあっていたのに、私に向かってはにっこりと愛想よく笑いかけて「はい。お任せください」と水宝玉を受け取ったムーアさんは、いつものように両手でそれを持って、いつものようには魔力を込めなかった。
そのまま変な顔をして、じぃっと水宝玉を見つめている。
「……ムーアさん?」
なんとなく、その様子に不安になって声を掛けると、今度は私の顔をじぃっと見つめた。なんだろ、怖いぞ。
「…りんさん、魔法使いましたね?」
どきっ。ば、ばれた。
「どこか、怪我したんですか? どうしました? 何があったんですか?!」
焦った顔で私の全身を確かめられた。うぉっ。そっちだと思ったのか。
「だ、大丈夫です。私は怪我なんてしてません」
だから落ち着いてください、と慌てるムーアさんを、ドアの中に引き込んだ。
だって、このままじゃ騒ぎに気付いた誰かがきてどんどん大騒ぎになっちゃいそうだと思ったんだもん。でも。
これ、どうやって説明しよう。私にムーアさんを誤魔化すことができるだろうか? いや、できない。
蒼くなって懸命に考えていると、ガーランド様が、くくくっ、と笑った。むぅ。
間違いなく、さっき自分が言った通りの状態になっていると自慢げにしてる顔だ。いわゆるドヤ顔。美形のドヤ顔ってなんかこう…ムカつくな、やっぱり。美形でも駄目だ。うん。
それでもしばらく逡巡を続けた結果、私は諦めて最初からムーアさんに白状することにした。
「…そうですか。水宝玉についた水分を」
ムーアさんがまだ手の中にあったそれを見つめながら呟いた。
なんとなく放心状態っぽい。まぁ、判る。複数属性が使えるなんて、まだ魔法について詳しくない私だけど、誰からも聞いたことなかったし、本にもそれっぽいことすら書いてなかったもん。
ハッと気が付く。光魔法についてだって判ってないことだらけなのに、更に複数属性が使えるなんてことが公表されたりしたら、もしかしたら、私ったらそれについて研究用モルモットにされちゃったりするのかも?!
さぁっと血の気が下がる。いや、まさか、そんな。ムーアさんに限って。ねぇ?
混乱していた私の手をムーアさんが強く掴んだ。え、嘘。逃げないように捕獲された?!
「私の渡した宝玉を、そこまで大切に思って下さって嬉しいです。ありがとうございます」
あれ? 思ってた反応と違いすぎるぞぅ?
「……もるもっと」
「どうしましたか? 盛るもっと…とは、なにを盛るのでしょうか」
呆けた私の言葉は、ムーアさんには意味を成さなかったようだ。あはは。そうだよねー。ムーアさんに限って私をモルモットにするとか、ないよね。
こんなバカな考えに至ること自体がムーアさんに失礼だったと思い返す。反省しないと、と考えていた私の首へと、ムーアさんが水宝玉のペンダントを掛けてくれた。
「魔力は込めておきました」
にっこりと微笑む顔に、思わず「”尊い”ってこういうことかー」と呟いた。なるほど。こういうのを言うのね。ゲー友がよく言ってた言葉の意味を初めて実感した気がした。うはっ。照れる。
つい見惚れてしまった私を、後ろからぐいっとガーランド様が引き寄せた。
「おい。帰ったら俺の石も渡すから。それにも魔力を入れて毎日離さず身に着けろ」
いいな、と言われてコクコクと肯く。魔力の在庫? は、多いほどいいもんねー。
「そういえばケルヴィン殿下もくれるって言ってました」
三個三人分の魔力があればかなり心強い気がする。まぁそうそう私が魔法を使わなくちゃいけないようなことにはならないと思うんだけど。というか、そんなことにならないように願いたい。
「それはともかく。私もガーランド様に同意します」
大変不本意ですが、と言われて、「何が?」としか答えられなかった。
考えてもまったく判らなかったので、こてん、と傾げた首はそのままだ。
はぁ、と大きくため息を吐いたガーランド様がムーアさんに向かって「無駄だと思うぞ」と肩を叩いた。なによそれ。何を言われているのかまったく判らないけど、私の事を言われているのだけは判る。それも絶対によくない方向のことについてだ。間違いない。
「…りんさんには、違う考えがおありなのは判ります。それでも私はガーランド様と同じ考えだと申し上げます。
りんさんが、光魔法の使い手であるという事を大々的に公表することは反対です。そして複数属性の使い手であるということは、できればケルヴィン殿下にもエリゼ様にも伝えるべきではないと思います」
…そう言い切ったムーアさんの目をじぃっと見つめる。
そのスカイブルーの瞳は、静かだった。まったく揺らがない。
ラノーラ王国の貴族としてよりも、その国の王太子付の近衛としてよりも。
それよりも、私の安全を優先してくれようとしているのだ。そう思うと、胸の奥がふわんと暖かくなった。
「ケルヴィン殿下にも、エリゼ様にも内緒なの?」
それでいいの、と訊ねる。寸刻たがわず力強く「はい」と頷かれた。
私はちらりとガーランド様に視線を移せば、そこでも大きく頷かれた。むぅ。
だからといって素直に受け入れる気持ちにもすぐにはなれない。なれないけど。でも。
「…きっと、黙っていてもケルヴィン殿下もエリゼ様も怒りません。
間違いなく、りんさんの安全に勝ることはないとお二人共理解して下さいます」
そして秘密というのは知っている人が少ないほどいいのです、と続けられてしまった。それはそうだろうけど。でも。うー。
「りん、お前が言った通り、今、私達の前には問題が多い。多すぎると言ってもいいほどだ。ここに更に複雑になるような要因を持ち込む必要はない」
……そう言われると、頷くしかない、気がしてくる。
でもなー。隠そうったって、私にできる気がしないんだけどなぁ?
「それで、もう一つ、お前が気が付いていないような要素を伝えておくとだな」
ガーランド様に指摘されるまで、本気で私はそれに気が付いていなかった。情けない。
「りん、お前は魔法使う時、無詠唱だから」
…………。え?
「お前、どんな魔法を使う時も、祈ってるだけで言葉にしてないだろう?」
「あ! ほんとだ」
そういえば、伝える言葉が必要だって言われてた気がする。けど、やったことない。自分の規格外さにガクガクしてきた。
「…誰にも聞こえないほど小さな声で詠唱してるのかと思ってました」
ムーアさんが愕然とした顔で呟いた。
すみません。最初に大暴発させた時から詠唱しなくても発動してたもので、すっかり頭から抜けてました。
「それは気にしなくていい。というか、それを逆手に使おうと思う」
無詠唱は気にしなくていいんだ?! でも逆手ってどういうことだろう。
「詠唱を聞かれないということは、りんが何属性の魔法を使おうとも判らないということだ」
? どういうことだろう。
ピンとこないことこの上ない。私は先ほどとは逆の方向へと頭をこてんと倒して悩み続けた。
「その魔法は光の力で行ったものだと言い切るんだ。たとえ、火が付こうとも『強力な光が燃え出した』と言い張れ。先ほどの濡れた宝玉を乾かしたのは『輝く粒になって霧散しろ』と祈ったと言い張ればいい」
なるほどー! でもなんかこう、
「すっごく、胡散臭いです」
そう胡乱な顔をして言った私の頭をガーランド様がぽかりと叩いた。うわーん。暴力反対。
私はそそくさとムーアさんを盾にして、その後ろに隠れるように立った。それなのに。それなのにっ。
「なるほど。魔法はすべてイメージの力、ですからね。それが為された方法までは誰にも判りませんからね」
そのムーアさんが、にやりと黒く笑って言い切る。
いやん。さっきの尊さはどこに霧散したんだってばよっ。偶に見せる、ムーアさんのその黒い微笑に私は心の底からドン引いた。
いつも読みに来て下さってありがとうございますですv




