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 って。思ったのに。

 またお風呂入っちゃったよ。ほんと、お風呂の誘惑に弱いな、私。てへへ。

 だってさぁ。基本シャワーなんだもん、こっちの世界って。月の灯り亭もそうだったし、今の下宿もそうだ。だからバスタブを見るとつい湯舟に浸かりたくなる。

「ふぅ。温泉に行くと1日に何回入れるかチャレンジしたくなるって書いてある小説読んだ時はピンと来なかったけど、今の私の気持ちはかなり近いかもね~」

 温泉入ったことないしね。ははは。どんなものなのかなぁ。こっちにもあるかなぁ。いつか行けるかな。行けたらいいな。できればこのメンバーで。そしたらきっと楽しい。

「さて。寝る準備しないとねー」

 髪も洗っちゃったから乾かさないといけないんだけど、面倒臭いなぁ。

 ドライヤーのある生活が懐かしい。水魔法が使えれば水分を集めて乾かせるし、火魔法が使えれば温めて普通に乾かせそうだけど、光魔法だとどうすれば髪が乾かせるんだろう。イメージが繋がればいいらしいけど、光でどう髪を乾かせばいいのかまったく想像がつかない。

 タオルで髪の水分をポンポンと吸い取りながら寝室に戻る。

 ベッドサイドに置いておいた水宝玉を手で撫でる。

「そういえば、今日は朝も夜も魔力を補充して貰うの忘れてた」

 まぁ、なん研にいる時に私が魔法を使うことなんてないんだろうけどさ。

 艶々の、海水をそのまま固めたような美しい宝石。

 そこに、私の髪からぽたりと水滴が落ちた。

「あ」

 やだ。汚しちゃう、そう焦った時だった。

 水滴が、ふわーっと光の粒になって空中に霧散した。 

「え? あれ?」

 …私は、光属性で。光魔法しか使えない筈なんじゃないの?

 しばらく考えてから、私は水宝玉を握りしめて鏡の前に立つと、髪から水分を飛ばすように祈る。

 ん? やっぱり駄目かな。何度祈っても、まったく状況に変化はない。

 …そろそろ諦めよう。さっきのは、やっぱり何かの見間違いだったんだ。目を開けたまま夢見ちゃったとか。ははっ「ックシュン」うはっ。身体が冷えてきた。濡れた髪の毛のせいで身体が冷え切っていた。このままじゃ風邪ひいちゃう。早くちゃんと髪を乾かさなくちゃ駄目だ。

 そう考えた瞬間だった。

 鏡の中で、細やかな水滴がぱぁっ、と自分の頭から飛び散る。

 後光が差すってこんな感じ?(絶対に違う)

 ギャグでも飛ばしてないとやっていられない気分になった。でも、うーんと、これって。

 もう一度、しばらく考えた私は、洗面台に水を貯めた。

「よし」

 手の平に火の玉を作り出すイメージを固めて…でないか。

 でも、これを…


「りん、何をやっている」

 ビクン。

 鏡の中に、私の後ろですっごい怖い顔をしたガーランド様が睨んでいた。

「鍵、ちゃんと掛けたのに」

「コトラはいつだって、鍵の掛かったりんの部屋に入ってただろ」

 それはそうだった。引っ越したって、私の部屋に入ってきたくらいだ。

「りん。ムーアからも言われていた筈だ。初めての魔法に挑戦する時は、学園内で指導できる保護観察者がいるところでしろ、と」

 あっ! そうだった。そうでした。

「…すっかり頭から抜け落ちてました。ごめんなさい」

 あまりに吃驚しすぎて試さずにはいられなかった。できれば一人で。正直、今すぐでも確認を続けたい。

「…えっと、その。実は…」

 でも、どういえばいいんだろう。

「自分が水属性の魔法を扱えて驚いて、検証していたというところか」

 凄い! なんで判ったんだろう。

 吃驚しすぎて声がでない。口を大きく開けたままあわあわしていると、そこに指が突っ込まれた。

「あにふふんでふか!」あ。声でた。出ただけだけど。

 ぐぎぎ、と私の口の中に突っ込まれていたガーランド様の手を掴んで、なんとか押し出す。

「いやほら、猫が欠伸してると指ツッコミたくなってお前が散々やったんだろ」

 そうだよ! やりまくったさ! でも、私は女の子で猫じゃないやい。ついでにいうと、欠伸してたわけでもないんだからね?!

 なんとかガーランド様の魔の手から逃れてホッとする。それにしても、どうして水魔法のことまで判ったんだろう。

「風呂上りなのに、髪が乾いている。でも熱くなってないからな」

 なるほど、名探偵ガーランド様! 凄いや。

 でもなんでお風呂上りだってことまで判ったんだろう、と思って。自分がまたバスローブしか着てない事に気が付いた。うわーん。勝手に入ってこないでよ、セクハラ皇子っ!

 ばたばたと洗面所から出て着替えに戻る。まったくもう。なんでケルヴィン殿下と言い、どいつもこいつも、ここの王子様達は勝手に女性の部屋に入ってくるんだ。

 ばたばたと慌ただしく着替えを済ませる。とりあえず、この後は寝るだけなのでタオル地で出来た柔らかな部屋着を選んだ。スカートの裾が踝近くまであって丈が長いので、これを着て階段を昇り降りしたら掃除ができちゃう逸品だ。部屋から出る気はないからいいんだけど。ちなみに柔らかなベビーピンクでちいさな立て襟とちいさなフレンチスリープの袖は白。かなり甘めなデザインだ。

 なんとか着替え終わって少しだけ心が落ち着いたので、洗面所で待っていてくれているガーランド様に声を掛けた。

 ゆっくりとした足取りでそこから出てきたガーランド様は、私の声に不満げなものを見つけて、八つ当たりするなとちょっとお怒りのご様子だった。

「りんが、勝手に魔法の練習なんかするのが悪いんだぞ。俺は、りんが危険な行為をしたのが判ったから、仕方がなく入っただけだ」

 う。それは、そうでした。

「ごめんなさい、反省します」

 しょぼんと肩を落とす。そうだった。止められてことなんか完全に頭から抜け落ちてた。それ程どうしても確かめずにいられなかった。

「そういえば、なんでガーランド様は私が水魔法を扱えたって判っても、そんなに冷静なんですか?」

 普通、属性は1つだよね?

「…我が皇国には光属性の者が現れた記録がないように、この国では、闇属性の者が現れることはないようだな。だから魔法の知識が偏っている気がする」

 なんと! やっぱりガーランド様の魔法属性って?

「そうだ、闇属性だ」

 やっぱり。そうじゃないかと思ってたし、いつかちゃんと訊いてみようってずっと思ってたんだよ。

 知りたかったことを教えて貰えてワクワクする。

 そんな私をベッドに座らせると、ガーランド様ご自身は椅子の背に跨るようにして座った。背凭れに両肘を乗せて鼻先までその腕に隠すようにしてそっぽを向いている。なんだろ。ちょっと子供っぽい。

「…りんは、闇魔法についてどれくらい知ってるんだ?」

 学園に入る前に読んだ超初心者向けの魔法入門書に書いてあった『非常に稀少性が高い』っていうのと、クロティルド先生の授業で聞いた『光と闇は同じ強さでお互いにダメージを与え、他の4属性より強い』、『光と闇の属性持ちは極めて稀少なために実際に直接戦った記録も少ない』これで全部といっていいと思う。それ位、闇魔法についての知識はさっぱりだ。

「この世界の魔法は、自分と相性のいい属性にお願いして力を貸して貰うことで発動する。ここまでは、この国の常識と皇国のそれに違いはない。そうだな?」

 この話がどこでどう闇魔法についてに続いていくのかはわからなかったけれど、間違っていないのでコクコクと頷いた。

「それで。光魔法は”光”という力を使って魔法を行使する。それはいいな?」

 更にコクコクと頭を動かした。

「りん、お前は光という力を周りから集めて使う。それでは、光が無くなった、その空間にあるものは、なんだと思う?」

 ………なぞなぞか?! えーっと、えーっとっ…。

「く、空気?」

 自分で言ってて『ねぇよっ』ってツッコミしか出ない回答をしてしまった。とほほ。

「うむ。まぁ正解だ」

 マジで?! 安易すぎないですか、そのなぞなぞ。

「ただし、完全な答えではない。空気も勿論ありだ。冷たいもしくは寒いという熱もそうだろう。暗さや影、という言葉でもいいだろう。とにかく光を奪われた空間がそこには存在する。それは判るか?」

 むむむっ。でも…そうだね、光が奪われたそこが、何もなくなる訳じゃない。何か、が絶対にそこには存在している。

「それら全てから力を借り受けることができる魔法属性、それが闇属性の魔法だ。

 それら全てを表す言葉として、光と対になる闇という言葉が用いられたようだな」

 なんだってー! めっちゃ範囲広くない?! ズルっちぃ感じ。チートだ、チート!!

「”ズルっちぃ”というのがどんなものか判らないが、それを言うなら光属性の魔法については、光を成すすべての力を借りられるんだから、もっとずっと”ズルっちぃ”んじゃないか?」

 なんと! 何それ、知らない。詳しくもっと詳しく!!

「水の煌めきも、炎の明るさも、水晶や宝石といった大地から生まれる輝きも、陽の光が生み出す風の揺らめきも、すべて光属性ということだ」

「だから、りん。お前が水魔法を使えても俺は全然驚かない」と言い切られて、こっちは声が出ないほど驚いてしまった。なんということだ。さっきから私はガーランド様がなにか言う度に全力で驚いてばっかりだよ!

「俺の闇魔法では火と光は使えない。これは、明るくない火というものを俺にはイメージができないし、真っ暗な光というものもイメージできないからだと思う」

 闇魔法については勘違いされてばかりなんだよ、と不貞腐れていた。どういうことだろう? そう訊くと、

「呪いを扱ったり誰かを傷つけるだけの魔法属性だって勘違いされてさ。地味に凹むんだ」と、ガーランド様が愚痴る。なるほど。それは嫌かも。

 特に、自身が呪いを受けたことがあるからこそ、余計に嫌な気持ちになるんだろうなぁ。

 椅子の背に顔を寄せて半分隠したような姿のガーランド様の横顔に、月の光が優しく光を差し掛ける。その、青く見える黒い瞳にそんな謎が隠されているとは思わなかった。

「それでさ。実はさっきも少しだけ言ったけど、光属性の人って皇国に生まれたとか、りんみたいに異世界からやってきて使える人がいたという記録はないんだ」

 あれ? それなのに、なんで詳しいんだろう。

「大昔に、ラノーラから、光魔法を使える人とずっと一緒にいたという研究者が皇国へ移住してきたんだ。ラノーラにはいない、闇魔法について知りたかったといって」

 ほう。その人の研究成果なんだ。

「そうだ。我が皇国には光属性の者はでなくとも、闇属性の者は偶に出現するからな。闇属性の者が皇国の侯爵家にいるという噂を聞いて密入国してきたらしい。ただし、密入国のせいなのか研究成果として書物は数冊残っているのに著者名が探求する者となっていて、本人に関することは記録も何も残っていない」

 密入国してまで研究したかったんだ。ほえー。研究者ってどこか突き抜けてる人多いよね。

「それじゃ、光魔法最強の使い手の人のこととか、”トモキリン”についての記録が残っていたり?」

 期待を込めて問いかけた。しかし、ふるふると首を横に振られる。

「探求する者本人についての記録がまったくないのと同じように、光属性の者についての記録も全く残されていない」

 がっかりだ。そうなんだ。どうしてかなぁ。

「これは俺の推測だが、…光魔法は便利だな、りん」

 ? いきなりどうしたんだろう。

「そうですね」

 こくりと肯く。

「病気も怪我も、あっという間に治る。竜の高い魔力さえあれば、建物や服ですら直せるようだ」

 これにも頷く。護摩堂での修復の凄さは圧巻だったもん。

「これを、一般の人に発表したら、どうなると思う?」

 ? えーと?

「…死に掛けた家族を助けてと泣く子供や怪我した本人達が、殺到する?」

 ガーランド様が怖いほど真面目な顔をして頷いた。

「殺到して、しまくって。とても捌ききれない人数が押し寄せるかもしれない。

 そしていつか、手遅れとなってしまった時、逆恨みを買うだろう」

 ぞくっとした。確かに、あるかも。

 光魔法は周りから魔力を借りて発動するから魔力切れはほとんどない。でもほとんどないだけで、する可能性はゼロじゃない。元々の魔力量が少ないから起動だけでも使い続ければいつかは回復が間に合わなくなる時だってあるだろう。

 というか私も人間だから、体力的に無理がくることだってある。

「探求する者は、ずっと光魔法の使い手と共にいたという。守りたいという意識を持っていても当然だと思う」

 そうだねぇ。私だって、世界中の人を守れる訳じゃないし。毎日たった1人で治療続けているとか例えそれが一瞬で終わるものだとしても、そんな毎日は想像しただけで無理すぎだって思う。ご遠慮申し上げたい。

「この世界に、光魔法を使用する者の記録がほとんど残っていないのはそのせいもあるのではないかと思う」

 なるほど納得。親しい人なら余計に守りたくなるもんね。自慢するとか言いふらしたくなるのはあまり深い付き合いじゃなかった人って事かな。

「だから。お前は暴発以前に、自分が光属性だということを他人に知られないようにしろ。それがお前を守ることにもなる」

 ……。言葉にし難いであろうそれを、私の為に懸命に教えてくれたのであろうガーランド様の顔を見る。

 それは半分以上が椅子の背とガーランド様自身の腕で隠されていて、どんな表情をしているのかまったく判らない。

 でも、いま私に教えてくれた言葉の意味するものは、きっと、ううん、私に対する善意しかない。それでも。

「それは、嫌」

 だって。

「悪い可能性に悪い可能性を掛けて出した悪い結果がでて当然の未来予測に振り回されるなんて嫌」

 この世界に巣食う悪意の欠片を見つけた今。

 この世界を救う為に頑張っているなん研の人達やエリゼ様や他ならぬガーランド様達と一緒にいる今。

 私だけ、隠れて安穏とした生活を送る為の下準備なんてする気はない。

 なんて。恰好つけて言ってみたけど。

「いつかもし。私が『やっぱりあの時の言葉は綺麗事でしかありませんでした』と泣き言をいった時に、手を差し伸べてくれる方が嬉しいんですけどぉ?」

 その時は匿ってください、次期皇帝陛下♪ と、お茶目に言ってみる。うん、伝家の宝刀てへぺろ様付きでね!

「っ。なんだそれ。りん、お前、それはあれだろ反則だろ」

 ガーランド様がへなへなと力なく頭の位置を下げた。

 あはは。勝手なこといってごめんね?



いつも読みに来て下さってありがとうございますですv

ブクマも評価も誤字報告も感謝しておりまするv

これからもよろしくお願いしますですー


↑というのを、毎回、活動報告のみで書いていたのですが

自分自身が余所様の活動報告を読むことがほとんどないことに

さきほど気が付きましたw てへ


ほんと。いつも嬉しく思っておりますですv

感謝感謝v

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