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 そのケルヴィン殿下の質問に、エリゼ様はなかなか答えようとしなかった。

「あの少年は、護摩堂という黒い獣が封じられている場所自体を封印している結界がそこにあることを知っていて、私達にその封印を破らせるつもりだったと思う。

 そんなことが個人でできるとは思えない。何らかの悪意を持った集団である筈だ」

 ケルヴィン殿下が続けていった言葉に、じっと黙ってしまったその人を、3人分6個の瞳がじっと見つめる。

「エリゼ様?」

 赤くなったり真っ青になったり、カタカタ震えだした。レア過ぎないか、こんなエリゼ様。

 ……これは。

「エリゼリアだ」

 空白の時間に耐えられなくなったというか面倒臭くなったと言わんばかりのガーランド様の声が答えた。

 おぉ、ご降臨されているとは思いませんでしたよ。コトラ姿のままだけど。それにしても。犯人が誰なのか知ってたんだ、ガーランド様。

「…やっぱり」

 がくーっと3人で肩を落とした。口々から、はぁっと大きなため息が漏れ出していく。沈黙の意味するところなんて、この答えしかないよねぇ。

「え? ええ?…え?」

 エリゼ様が一人だけ『訳が判らない』と顔に書いてあるような様子で顔を左右に振っていた。

「あの時に言っていた、『戦争イベントを起こしイベントスチルを回収するため』なのだろう?」

 すぱっとケルヴィン殿下に言い切られたのがショックだったのか、真っ赤になったエリゼ様がぷるぷるしだした。

 おぉ、美女はなにやってても綺麗だけど、こんな風になっちゃうと可愛いんだね。

 そのぷるぷるしたエリゼ様が、おろおろと自分の犯行を自白していく。

「だって。だってね? りんたんのイベントをね、起こして…起こしたくて…その、あのね、悪気は無かったの。だって私が皇太子様を猫にしないと、戦争イベントが起きなくなるじゃない? だから…その……」

 うわーーんっ、りんたん、嫌わないでーーー!! 、とついには大粒の涙を流しながらジャンピング土下座をしたエリゼ様にため息しか出ない。

 しょうがないなぁ、もう。

「エリゼリア・ゴードン公爵令嬢、謝る相手が違うのではありませんか?」

 立ち上がって、土下座してプルプル震えているエリゼ様の傍まで歩き、できるだけ厳しめの声を掛けた。そうだ。赦しを請うなら相手が違う。間違いまくっている。

「…フィリックス・ガーランド・L・アーリエル殿下、その節は、本当に申し訳ございませんでした」

 公爵令嬢の土下座。それはそれで価値があるのは判るけど、でも一国の皇太子様を誘拐して呪いを掛けたことに対して、それはどれほどの価値があるものなのだろう。

 しかもガーランド様、いまコトラ姿だし。なんというか締まらない絵面なのか。

 それにしても困った。なにより、なんで今ここでケルヴィン殿下がそれを言い出したのか、ということも。今じゃなくても良かっただろうに。

「気にするな。猫にされて誘拐された時は、正直、絶対に犯人を探し出して八つ裂きにしてくれると誓ったものだが、前にも話したが、今は、りんに会わせてくれたことを感謝している。それでチャラだと言っただろう?」

 ん? どういうことだろうか。

 コトラが一瞬でガーランド様になって、土下座したままのエリゼ様の手を取り、立ち上がらせた。椅子に座るようにそのままエスコートする。

 うむ、美男美女のそれはとても絵になる。眼福って奴だね。

「ケルヴィン、りん、それとムーアにも伝えておく。

 俺とエリゼリアの間で、それについては話が付いている。

 もう気にしなくていい」

 なんと! いつの間に?

 私の顔がクエスチョンマークで一杯になってるのが判ったのだろう。ガーランド様が笑いながら教えてくれる。

「コトラになって学園までりんを追ってきた時、まだ魔力の調整が上手くいかなくて飯を大量に食べて食べ尽くして、りんに迷惑を掛けたことがあっただろう?

 その時に、エリゼリアに連れて行かれて飯を山盛り提供されながら謝罪されたんだ。理由についても聞いた。そして俺はその謝罪と理由を受け入れた」

 だから、それについてはもう良いんだよ、と言ってガーランド様が私の頭をぽんぽんと撫でた。むぅ。ここでなぜ私がお子様扱いされるのか。解せぬ。

「ガーランドと謝罪が済んでいるとは思わなかったがなによりだ。これで話が進められる」

 ケルヴィン殿下が話を戻した。そうだった。なんで今ここでこの話を始めたのか、それが知りたい。

「エリゼ、それで今、その秘密結社とやらはどうなっているんだ? なにより、始まりはどういう集まりだったのだ? 呪いについてはいくら何でもエリゼだけではどうにもならないのではないか? それと、この国にはそのような集まりが他にも沢山あるのだろうか?」

 矢継ぎ早にケルヴィン殿下が疑問を口にする。随分と一遍に聞いたもんだね。

 それにしても…そうか。確かにブラン君の行動は、子供が一人で考えて行っているとは思えないものだった。裏で暗躍している集団、秘密結社のようなものがあるって考えてたのか。なるほどね。

 エリゼ様が、その細くてすらりとした指で紅茶のカップを取り上げた。

 うむ。動揺してぷるぷるしている美女もなかなかレア度高くて楽しかったけど、エリゼ様にはこうして優雅にしている方が似合うな。

 カップの中身を口に含み、喉を潤してから、エリゼ様はケルビン殿下の疑問に答えるべく口を開いた。

「『秘密結社りんたんのために』は、すでに解散したわ。戦争を起こしたら、りんたんに嫌われるって判ってすぐよ」

 …なんだ、その恥ずかしい秘密結社の名前は。

「りんたんの幸せのために結社を作ったのに、りんたんに嫌われることになるなんて。…私には耐えられなかったのっ」

 うっ、と口元を片手で押さえて、もう片方の手でスカートを躙るその姿は後悔に満ちており悲壮感が漂っていた。…話してる内容は酷いけどな。

「そうか。その時のメンバーはどうなっている? 呪いについてはどうだ?」

 ケルヴィン殿下、少しは落ち着いてとは思うけど、でもあの黒い獣のことを考えると焦ってしまう気持ちも判る。

「解散してからは判らないわ。呪いについては…そうね、私も乙女ゲームの世界として用意されていたと考えていたものだから、『任意の相手を猫にする魔法』について調べた時に、すぐそれができるという魔法師に出会えたことに疑問を抱かなかったのよ」

 ごめんなさい、とエリゼ様が小さく呟くように言って俯いた。

「秘密結社とは言ったけど、それほど大きくなかったの。なにしろ雑用兼連絡係とその魔法師、そして猫のお世話係の3人だけだったから」

 それは。秘密結社というのは名前だけな感じですね。ははは。

「だって、別に国家の転覆を考えて起こした訳じゃないもの。ただ私は、りんたんにあのイベントで愛を深めて欲しかったの…とても素敵なシナリオなのよ! あのね、ケルヴィン殿下ルートだとね」

 意気込んで話だそうとするエリゼ様を、ケルヴィン殿下が遮った。ふう。ナイスです、殿下。ここで暴走されたら敵わないところだった。

「エリゼ、そこまでだ。その話については、後でりんとゆっくり話せ」

 おい、後半余計だろ。イヤですよ、そんな話聞かされるの。

「…私ったら。ごめんなさい、なんてことをしようとしたのかしら。まだ始まってもいないイベントのシナリオについてネタバレしようだなんて。りんたんに失礼だったわ。本当にごめんなさいね、りんたんっ」

 謝るのはネタバレしそうになったことについてかよっ。そんな謝罪は要らないっつーの。くそう、エリゼ様とあのゲームに関する話をするのはこれだから嫌だったんだ。脱線を阻止できる気が全くしない。

 ケルヴィン殿下も軽く頭を抱えていた。エリゼ様、普段はすっごく聡明だし、一いえば十返ってくるのに、ゲームに関する時だけは知りたいことの十分の一も判らない始末になることも少なくない。想定外の反応が百返ってくる感じ。あれ、これも一言ったら十(百か)返ってくるってことなのか? 嫌すぎる十だけど。

「それと、この国で秘密結社と言われるものについては…さすがに知らないわ。

 私の秘密結社へも、他の結社から接触があったりもしなかったし。そもそも探したりもしなかったから」

 ですよねー。ゲームのイベントの為に皇太子を猫にする名目だけの結社作ろうとしただけならそんなものなのかも。

「ふむ。では質問を変えよう。魔獣を退治封印してくれた小さくて白い竜の口から”ユウキリン”という名前が出でた。

 いろいろと考察するにその”ユウキリン”が、あの宰相の日記に残されている大量の魔獣を倒しこの世界を救った者なのだと思う。そして、りんの言う、最強の光魔法の使い手とも同一人物なのではないかというのも有り得ると。 

 エリゼのいうゲームのヒロイン、光魔法の使い手である”ユウキ・リン”と何か関係はあると思うか?」

 どうなんだろう。同じ名前なだけという事はあるんだろうか?

 でも…むむむ。

「ごめんなさい。本当に判らないわ。私のりんたんが100年以上も生き続けている最強の光魔法の使い手であった、そんなシナリオには途轍もないロマンとときめきを覚えるのだけれど」

 可愛くて最強、最強に可愛い強いりんたん♡はぁはぁ、と悶え始めたエリゼ様がきらきらと夢見る瞳で語る。…はぁ、これはもう諦めるしかないか。

 なんというか、自分でもかなり毒されているなーとは思うのだけれど、最初ほど嫌悪感も起きなくなっている。諦めたというのが近いんだけど。

 エリゼ様は本気だし、もし私ではない別の、本物の”ゆうきりん”嬢が見つかったら、一緒に祝福してあげよう、そんな思いも持つようになった。

 まぁ、その本物の”ゆうきりん”嬢に嫌がられるかもしれないけれど。


 ガーランド様は私にテーブルに並んでいたすべての種類をコトラにも食べさせてやってくれと言いつけてコトラに戻ってしまっていた。

 どうやら昼間、突然こちらに意識を移してしまった為に公務が滞っているらしい。申し訳ない。2重生活は大変そうで、無理しないで欲しいと思うけど、今日だけは来てくれて本当に助かったと感謝する。

 そういえばガーランド様の魔法の防御壁、不思議な色してたなぁ。色っていうか…あれ、色なのかな。うーんうーん。

 ガーランド様の魔法って闇属性なんだろうか。

 いつか聞いてみようと思ったままだったなぁ。今日はもう無理そうだけど、いつかちゃんと聞いてみよう。

 エリゼ様の回答を聞いてから、ずっと黙って腕を組んで考え込んでいたケルヴィン殿下が、ようやく口を開いた。しかしそれはため息と共に吐き出された。

「仕方がない。これはあれだな、『エリゼの秘密結社と魔獣を封じた護摩堂を私達に壊させた秘密結社とは関係がない事が判った。有益な話し合いだった』というヤツだな」

 なるほど。エリゼ様の考え方を取り入れたんですね。さすがですね、ケルビン殿下。エリゼ様のこと大好きすぎですね。

「いいえ。間違っていてよ、ケルヴィン殿下。

 私の秘密結社にいたあの魔法師。彼なら、もしかしたらその小さな竜が張っていた結界の中まで見通せたかもしれないわ。そして、任意の人を猫に変える魔法を使える魔法師を探させた時に、すぐに見つけてきた私付きの侍従ロウランにも話を聞くべきよ」

 一刀両断。ばっさりとケルヴィン殿下の発言にエリゼ様は異議を唱えた。でも、確かにそれは言えるかも。

 ムーアさんにも、ケルヴィン殿下にも、ガーランド様にも、そして勿論私にも、泉の奥から続く道を見つけることはできなかった。つまり、そこに踏み込むにはかなり高い魔力がいるということだ。

「人を猫にできる魔法を使える魔法師、か」

 プラークと名乗ったという魔法師を探すことになるんだろうけど、多分、偽名だよねぇ。本名でそんな仕事を請け負うとは思えない。

「侍従にはこの旅から帰ったら話を聞くことにすることにしよう。

 そして、魔法師については冒険者ギルドに依頼を出すのも拙そうだ。裏から探させてみることにしよう」

 知らんかった。冒険者ギルドなんてあったんだ。



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