表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/82

16時限目

 


 そういえば壁紙も替わってるんだなぁ。

 気が滅入るような灰色だった筈なのに、いま視線の先にあるそこは真っ白といってもいいのかもしれないような乳白色の地の色にスノーホワイトの極細のラインが優美な線を描いてるものに替わっていた。

 全てを弾く白ではなく優しく包み込むような白い壁。

 その壁紙を背景として、王太子様が説明を続ける。

「それ以外のメリットデメリットを上げていく。

 1つ目のメリットは一番防御策が講じられていること、何かあった場合の対処・対応が早くできること。

 デメリットは…俺だ。婚約者がいるにも拘わらず同じ年の女性を近くに呼び寄せる、かなり外聞が悪い。りんが特例として学園に編入したばかりなのが更に痛いな。同じクラスということも併せるとかなり拙いことになるだろう。

 なので、王宮に避難する場合はその間、休学して貰うことになる。

 しかも場合によっては、この件が私から手を離れることになるかもしれない。それはできれば避けたい。

 2つ目のメリットは…」

「私がりんたんの傍に居れることね。デメリットはないわ」

 デメリットないって言いきった! しかもドヤ顔で。美人のドヤ顔って破壊力すごい。

 王太子様と脳筋男がメロメロだ。2人共わっかり易すぎ。

 最高の一撃ってきっとこんな感じなんだろうなー。

「こら、エリゼ。お前を喜ばせるための行為ではないぞ」

 こほんとわざとらしく咳ばらいをして窘めてみても、さっきのデレデレ姿を晒した今となっては全然効果ないですからね?

 そしてエリゼ様、にっこりと綺麗な笑顔を掛けられても、いまは嬉しくもなんとも思えないです。

 理由はもちろん、脳筋男だ。すっごい顔で睨んでやがる。正直、げんなりする。

 でもわかったぞ。こいつは私がエリゼ様と仲がいいのが嫌なんだな。なるほどね。

「2つ目のメリットは1の時と近いな。ゴードン家なら王国の中心に近い、なにか事が起こった際には王宮で起こった時と大して変わらない早さで対処を取れるだろう。デメリットは、確かに特にはない。

 ただし、りんにはエリゼの玩具にされることを覚悟してほしい」

 エリゼ様がすごっく嬉しそうな笑顔をしてこちらに頷いて見せたけど、絶対に否です。

 これだけは断固拒否してやるんだから。

「4つ目のメリットは、りんが普通に学園に通えることだ。

 正直、私としてはこちらを優先したい。

 たしかに隣国との関係もあり猫の保護は優先度が高い。

 しかし、我が王国にとってはりんの光魔法が使い物になる、使い物になるようにすることの方がより重要であると考えている。

 デメリットは、セキュリティが脆弱すぎることだな。

 しかしそれは、逆説的なセキュリティになり得ると思っている」

 殿下は、自分のカップを持ち上げて紅茶を口に含んだ。

 ご自分がいった言葉の意味が、ここにいつ全員に理解できるようになるまで待つように、それはゆっくりとした動作だった。

「逆説的に、せきゅりてぃ?」

 脳筋がには全く判っていないっぽい。といいつつ私も微妙なんだけど。

「うん。だから私はこの4つ目が一番いいと思っている。

 普通に暮らすことが一番の目眩ましになるだろう、とね」

 あぁ、なるほど。そういうことか。

「目立つ上に無防備に見える場所に、呪いが掛かっているような状態の隣国重要人物を平凡な女子学生に任せてそのまま放置しているとはなかなか思えないだろう、ということでしょうか」

 ムーアさんが慎重に言葉を選んで確認する。

「そうだ」王太子様が、にこっと笑って続ける。

「そして、りんが光属性という事は知ることはできたとしても、光魔法は回復だけだと思っている者は多いだろう?

 攻撃も防御もできるという事を知っている者はそういない」

 しかも相手の魔力を使って発動させるから、いくらでも戦える、と。

 問題は、今の私にはどっちも使えないってことですね!

 ううう。明日からの魔法学、がんばんないと。

 この国の為にって言わないといけないのかもしれないけど、タイガの安全のために。うん。頑張る気になった。

「なるほど。なにもないですよーって思わせておいて、こい…友木りんがいるってことですね」

 両腕を組んで、うんうんと頷きながらデビットが言った。

 お、ちょっと脳みそ動いた感じだね。ちゃんと踏み留まれてよかったね。

「以上を踏まえて貰ってだな。どうだろう、りんはどうしたいか、お前の希望を教えて欲しい」

 そんなの聞かれるまでもない。答えなんか決まっている。

「希望も何も、私はこの部屋から出るつもりはないです」

「お前、少し口の利き方を考えろ。慎め」

「慎むのはお前だ、デビット」

 ぐえっと叫んで脳筋男が仰け反る。ムーアさんが片手で脳筋の顔を掴みこんでぎりぎりと締め上げていた。

 えぇぇぇぇ?!

 そしてそのまま引き上げた。って。持ち上がるんだ、そこから。

「っぐっ、あ…」

 デビットがムーアさんの腕を両手で掴んで引き剥がそうと藻掻いていたけどびくともしないよ。すごい。

「ムーア様、どうぞそのまま外に捨ててきて下さいな。

 私も不快すぎてこれ以上我慢できません」

 エリゼ様がそう云い捨てた途端、脳筋デビットの抵抗が治まる。ホント、判り易いなぁ。

 激しい抵抗はなくなったけど、やっぱり苦しいのか耳に届く呻き声が聞き苦しい。

「あの、ムーアさん。そろそろ下ろしてあげても」

 取りなしたいんじゃない。男の低い唸り声がうるさいだけだ。それだけなんだからねっ。

「エリゼもムーアも、そこまでにしておけ。

 デビット、この部屋はりんの部屋だ。私たちは許しを得てここに居させて貰っているだけだと、まずはそこを理解しろ」

 いや、許した記憶はまったくありませんよ?

「更に、次に発言しようとする時は、私たちはりんに協力を求めている立場であることも理解してからにする事だ」

 ムーアさんは、王太子とエリゼ様の顔をちらりと確認して、ちいさく息を吐いてその手を離した。

 どすん、と巨体が席に落ちる。

 明日にでも下の階の住人に、謝りにいかないと駄目かもしれない。

 しばらく黙っていたデビットが口を開いた。

「……平民ごと…っ、貴族であろうと平民であろうと、この王国の臣民である限り、王族の意向に沿うべく行動することは義務ではありませんか?」

 そう言われると、私が口答えすることは不敬以外の何物でもないって感じに聞こえるね。

 んー、でもなー。

 自分の中で、なかなかしっくりとこない。その答えを探しているうちに王太子様が先に言葉を発した。

「この王国の臣民である限りはそうだな。

 では、この王国の臣民でない場合はどうだ?」

「…臣民で、ない?」

 王太子様が変なこと言うから、私、完全に敵をみるような目で睨まれてるんですけど。

 でもこれ、私が異世界人だってバラすって方向になってるよねぇ。

 今日、クロティルド先生からできるだけ隠しておいた方がいいって忠告受けたばっかりなんだけど。

 そういえば王太子たちとその事について相談してなかったのは失敗だったな。

 んー、どうしようかな。

 ちらりとムーアさんの方に目を向ける。すると視線が合って、笑顔を向けられた。うわっ。

 吃驚した。こんな時なのに余裕だなあ、もう。


「どうやら私の見込み違いだったようだな。

 デビット、お前にこの件についてこれ以上の協力を頼むことはなさそうだ」

 ふぅ、と大きく息を吐いて、王太子様が残念そうにそう告げた。

「そんなっ。私にどんな失態があったというのですか」

 脳筋男が慌てて叫んだ。おい、さっきから何度王太子やエリゼ様に窘められたと思っているんだ、こいつは。

 それでも王太子様は落ち着いて返した。

「りんは、私達と同列の存在だ。

 デビット・グエン、お前はそれを理解できないようだからな」

「王族と、…同列? そんな馬鹿なことがある訳がない」

 ごくりと唾を飲み込む音が響く。

 目を閉じてしまっていたエリゼ様以外、3人分、6個の瞳が私を見つめているのが判る。居心地最悪だ。

「それは…どういうことでしょう、か」

 異様な緊張感に、喉に声が絡むのか、つっかえながらデビットが言い直した。

 しかし、それもすでに遅すぎたようだ。

「お前の態度が変わらない限り、お前にそれを教えることはない」

 そりゃそうだ。最初に他言無用の言質は取っているものの協力できない人間に追加で情報を渡す訳がない。

「ここまでだな。続きは明日にしよう」

 王太子様が、無情に宣言を下した。

 その時だった。

「くわぁぁぁ」呑気すぎる欠伸をする声が部屋に響いたと思うと、それまでソファで寝ていたタイガが、そこからすとんと床に降りた。

 とたとたと普段は立てない足音を立てながら私のところまで歩いてくると、ひらりと私の肩へと飛び乗ってきた。

 私の頬に、タイガはすりすりと顔を摺り寄せる。可愛い。

「タイガ。お腹空いたの?」

 テーブルにはすでに紅茶以外乗ってはいなかったので、台所に移動して残り物でも出そうと立ち上がろうとすると、タイガが警告のように短くひと鳴きした。

「にゃ」

 そのままテーブルに飛び降りる。

 これまで、テーブルの上に立つなんて不作法を許したことはない。それはこれからもそのつもりだ。

 でも、いまのタイガにはなぜか叱るどころか触れることすらできない、そんな何かがあった。

 タイガは青いその瞳でデビットを声もなく見つめていた。

 睨みつけているといってもいい。

 しばらく睨みあっていた1人と1匹だったが、やがてタイガはそのままデビットの前までやってくるとひらりとその頭の上に飛び乗った。

 そして周りがなにか云う前に、

 ガブリ

 いきなり蛍光グリーンのそこに齧りついた。




2月22日にゃんにゃんにゃんの日にちなんで

タイガ君大活躍☆


って思ってたけど導入部までしか届かなかったざます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ