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おかしいな。てへ


 金、銀、赤、黄、青、緑、ピンク、ライムグリーン、ライトブルー

 とにかく色とりどりの紙テープとの紙吹雪。

 それと、可愛いお花たち。


 綺麗に晴れ渡った青空の下で、

 それらはきらきらと光を受けながら

 私の頭の上で乱舞していた。


「りんたんミニスカ制服姿おめでとう! おめでとう、私!!」


 1人はしゃいでそれを振りまいているのは1人の美女。

 太陽の陽射しより煌めく金の髪、青にも紫にも見える表情豊かな菫色の瞳をしたその人は、いま、鼻血を出して非常に残念なことになっていた。


「ラノーラ王立セントベリー魔法学園へようこそ。歓迎しますわ、私の、り・ん・た・ん」

 がっ、と捕まれた手を振りほどく。まったくもう。鼻血ついちゃったじゃないか。

「エリゼ様のものになった記憶はないですね」

 取り出したハンカチで自分に付いた血と、ついでにエリゼ様の鼻から噴き出しっぱなしのそれも拭いておく。

「今日もヒロインが私にやさしい」

 頬を染める美人(ただし鼻血付)のドアップにげんなりする。

 朝っぱらからこのテンション辛いわぁ。

「私、やっぱりこの学園に通わなくてもいいかなぁ」

 今日、何度目になるのかわからない、ため息が出た。

 そう。ここは、あの鬼門ともいうべき『ゆうきりんりん☆魔法学園らぶぱ~てぃ』の舞台となる場所だ。

 あの後、結局光魔法を使えるということが判った私は、きちんとした魔法の使い方を覚えないと暴発する可能性もあり危険だと国から指導が入り、この学園に通うことになってしまった。

 もちろん、国と交渉して学費はタダ。むしろ日給をゲットすることにも成功した。

 月の灯り亭から通うのは距離的に無理だったし、学校に通ってたら仕事ができないから暮らしていけなくなるからだ。

 お店と学園の真ん中あたりに丁度いい下宿先も見つけることもできたので、週末の早朝、仕込みのお手伝いにいけそうな時は遊びに行かせてもらう約束も女将さんとした。


『国のお金で勉強させてくれるっていうんだから、精々ふんだくるつもりでいっぱい勉強しておいで』

 部屋を出る時に女将さんから貰った言葉を胸に、久しぶりに着る”制服”に、腕を通してみた訳なんだけど。


「ねぇ、エリゼ様。私の制服だけ、スカート短すぎませんか?」

 着た時は、自分の高校の制服がこんな感じだったから「ひさしぶりだからすーすーする」なんて思っただけだったけれど、こうして学園内に足を踏み入れてみて、確信する。

「これ、もしかしてエリゼ様の…」

「判ってくれた? りんたん専用制服。

 エリゼの愛がぎゅぎゅっと詰まったスペシャルエディション♡」

 そんな愛はいらんのですが。

 どうしよう。でも作り直すお金も勿体ないし。

 くそっ。無駄に作りも生地もいいとかなんの嫌がらせだ。

 制服は、この王国のカラフルな色合いのどれともよく似合うように考えられた明るめのグレー。

 切り替えがウエストよりちょっとだけ下にある少し変わったワンピースの上には、パールホワイトの丸襟と大きなリボンがアクセントになっていて裾が丸くカッティングされたボレロを羽織るようになっていた。

 華美ではないが、確かにとても可愛い。

 靴はダークグレーのローファー。そして何故か私だけ黒いオーバーニーソックスだった。

「くっ。膝丈スカートと白い三つ折りソックスのエリゼ様より、ある意味露出は少ないのに」

 可愛いと思ってしまう、そんな自分が憎い。負け感がすごい。


「かわいいわぁ。やっぱりオートフォーカスのカメラ欲しいわねぇ。

 焼き増しとか引き伸ばしもしたいし。

 ピンホールで撮る銀塩写真まではね、今日という日に間に合ったのだけれど。

 あとで一緒にお写真撮りましょうね。今日のお天気なら、20分くらい立ってれば撮れるから」

 なんか不穏な言葉が聞こえる。今日は早く帰ろう。


「本当はローアングルとか振り向きざまのスチルも欲しいのよねぇ。

 やっぱりレンズ技術の開発と、フィルムに使える素材を探さなくちゃ駄目よねぇ」

 ぶつぶつと聞こえてくる言葉の内容が酷い。

 このお嬢様は前世チートの使い方を絶対に間違えてると思う。しかも金も権力も持ってるから質がわるい。


「おい、始業前に職員室へ来るように言われていただろう」

 ハニーピンクの髪にピジョンブラッドルビーの瞳をしたその人は、何を隠そうこのラノーラ王国の王太子ケルヴィン様だ。

 身長150センチの私より、頭1つ分くらい高いから、175センチ位かしら。180はないと思う。

 すこし襟足は長め。くせっ毛なのか柔らかそうなピンク色の髪はあちこちに向かってハネている。そのせいで妙に子供っぽく見える。 

 …前作で説明がなかったのは私のせいじゃない。絶対に違うんだからっ。


「エリゼリア様、りん様、おはようございます。

 殿下、口元にケチャップつけたままでは指導もへったくれもありませんよ」

 ふきふきと、胸元から取り出したハンカチーフ(胸ポケットから引っ張り出すとハンカチーフって呼びたくなるのは私だけじゃないハズ)で赤いソースを優雅にふき取ってあげているのは、近衛兵のムーアさんだ。

「おはようございます、ムーアさん。でも、私に”さま”は止めてください」

 はぁ。私の癒しだね。スカイブルーの髪と瞳というおもちゃみたいな配色だけど、この世界のお貴族様の中で、唯一の常識人だ。

「はい。ではこれからは、りんさん…りんちゃんがいいかな」

 ぐはっ。攻めてくるなぁ。ちょっとタレ目のムーアさんに甘く笑いながら言われてどきどきした。くっ。さすが攻略対象なだけはあるなぁ。声も視線も甘い。

「ふふ。私個人としては呼びたいけど、りんちゃんって呼ぶと、公私の区別が付けられなくなりそうですね。やはり、りんさんとお呼びしますね。

 一応、私はいま勤務中ですからね」

「一応ってなんだ、お前は私の護衛としてここにいるんだぞ。

 それと、りん、おはよう。私のことはケルと呼ぶがいい」

 ピンク頭が割り込んできた。ふう。仕方がないな、この寂しがり屋さんめ。

「王太子殿下、おはようございます」

「私のことは、ケルと呼ぶがいい」

「そんな。平民には恐れ多いことでございます」

「そんなことを思っている奴は、その王太子に脳天チョップしたり足蹴にしたりしないと思う」

 根に持つ男は、モテないぞ?

「…そういえば、この学園には、私の他に平民はいるのでしょうか」

 前もって確認しておけばよかったなーって思ったことの1つだ。

 お貴族様だらけの学園生活とか、前回のことを考えると不安しかない。

「ここは乙女ゲームの中なのよ。ヒロインは学園内のただ1人の平民に決まっているでしょう?」 

 あー。そういえばそうなんだっけ。

 エリゼ様認定ではここは『ゆうきりんりん☆魔法学園らぶぱ~てぃ』の乙女ゲームの中の世界ということになってるんだった。

 ちなみに、地名や人物の名前はほとんど合ってるけど、年齢設定とか事件発生の時期とかいろいろと細かいところが違うので、私としては半分くらいしか信じていない。

 なんとなくこの世界がモチーフだったのかもって程度だ。


 それにしても、平民は私だけなのか。

 やっぱり気が滅入るものがある。

 いじめとかされるんだろうなぁ。はぁ。


「大丈夫よ! ゲーム内で、りんたんを苛めるのは私と、ムーアの婚約者リディアーヌ様だけど、

 私が、この私に限って、りんたんを苛めたりする訳ないじゃないの。

 絶対にそんなことしない。可愛がるわ。全力でよ!」

 エリゼ様が両拳にぐっと力を込めて決意表明する。

 …それはそれで勘弁願いたいです。

 美人なのに、なんでこの人の中身はこんなにポンコツなのだろう。

 同じ制服(ただしスカート丈と靴下は別)を着ているとは思えないほど美しく見える。

 すらりとした手も、長い脚も、重さを感じさせないほど、美しく軽やかに動く。

 理想の貴族のご令嬢、そのものなのに。

 残念過ぎる。


「あぁ、私の婚約は解消したので、そちらからの苛めもないと思いますよ。

 むしろりんさんには感謝しているそうですから」

 ムーアさんてば婚約の解消するの早っ。あっさりしてるなぁ。

 でもそっか。それならリディアーヌ様とも仲良くして貰えるかも。

 学園生活で、友達が変態王太子様と変態公爵令嬢だけって嫌すぎるもんね。




 白亜の壮麗な校舎には、大きな時計塔とステンドグラス。

 前庭には、大きな噴水と手入れの行き届いた美しい花壇。

 教えてくれるのは、魔法の使い方と、貴族間のマナー。

 なるほど。乙女ゲームのOPに出てきそうな学園だ。


 これから始まる学生生活に不安しか覚えなかった。


 登校初日、朝一番で一刻も早く帰ることを目標にする。

 そんな私の学園生活は、まだ始まったばかりだ。


エリゼさん曰く「女の子が好きな訳じゃないの」ということなのでガールズラブ枠除外作

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