第二話
「あれっていつから使えてるんですか?」
「黙秘権を行使します。」
「あれって私にも使えますか?」
「黙秘権をこう…。」
「このこと誰かにバラしますよ?」
「ごめんなさい、こどものころからです。たぶん使えないと思います。」
放課後の図書館でどうしてか僕は質問攻めにあっていた。
結局、朝のあの出来事の後北山はあっさりと僕を解放した。
僕も僕で口封じをする甲斐性も無かったので彼女を放置した。
仮に彼女が超能力を誰かに言われても虚言として流せると思ったのだ。
そしていつも通り楽しい楽しい授業を受け家に帰ろうとした。
靴を履き替えようと下駄箱を開けると使い古された黒いスニーカーの上に一枚の手紙が折りたたまれて載っていた。
とりあえずは心の中でガッツポーズ
僕にもついに春が来たのか。
お前が来るのをずっと待っていたぜ、春。
だが決してここで舞い上がってはいけない。
考えられる最悪のパターン、それは友人のイタズラ。
このまま手紙を喜色とともに開けると『騙されたな、ばーか。』などと書いてあり下駄箱の裏から友人が笑顔で出てくるのだ。
それを食らった日には僕のガラスのメンタルはこなごなに砕け散ることだろう。
そして友人に一週間はこのことで笑いのネタにされる日々を過ごすことになる。
そんな人間のやる事とは思えない事を平然とする奴に一人だけ心当たりがある。
とりあえず周りを見渡す。
よし、誰もいない、少なくともここで笑いものにされることはないだろう。
となると問題はこの手紙を誰が送ったかだ。
うちのクラスは美人が多い方だ。
明るく元気でクラスの皆からの人気が高い南条。
おっとりとしたタレ目で清楚な東雲さんに発育の良い西原さん。
そこに今朝遭遇した小動物系女子の北山さんを加えた四人がうちのクラスの四天王である。
「出来れば西原さんでっ!」
意を決して手紙を開いた。
そこに書かれていたのは一行。
『秘密をバラされたく無ければ放課後図書館に来ること』
純粋な僕の恋心を返して欲しい。
親の仇のように手紙をくしゃくしゃに丸めた。
それを下駄箱横のゴミ箱に捨てて僕は帰……………帰れなかった。
ふいに僕の襟が何者かに後ろから引っ張られそのまま図書館まで連れていかれた。
強制連行であった。
あーれー。
定期テストも終わった時期の学校の放課後、図書室に来るような物好きはおらず二人の貸切であった。
そこで冒頭の質問攻めをくらった。
「あのー、これ以上のことはやっぱり秘密にしないと行けない気がするのでこの辺でご勘弁を…。」
「そうですね、私ばかり一方的に聞くのも申し訳無いですね。これからあなたが一つ質問に答える度に私があなたの質問になんでも一つ答えましょう。」
ダメだ、聞いちゃくれなかった。
それホントに等価交換になってる?
「あれはどういう能力なんですか?」
「あれは引っ張る能力だよ、あの時は上に引っ張ることで徐々に威力を消したんだ。」
なんかもう結構知られたし全部言ってしまって良いか!なんて気持ちになってきた。
ヤケクソ気味に答えてしまった。
「なるほど念力の一種なんですね。それで落下のエネルギーを吸収したんですね。それでは何か質問をどうぞ。」
質問と言われても急に思いつくものなんか…そうだ、
「北山はなんで空から落ちてきたんだ?」
「自殺しようとしたんです。」
彼女はあっけらかんと答えた。
やべぇ、どうしよう…穏やかじゃあない答えが来てしまった。
「それまたなんでだ?」
「それは二つ目の質問になりますね。それじゃあ今度は私が先に答えるということで。有り体に言いますと退屈だったんです。」
彼女はつまらなそうに続ける。
「私は十五年間長々と生きてきたわけなんですがどうにもしっくり来ないんです。 魔法も無ければ剣も無い。レベルも無ければスキルも無い。迷宮も無ければ冒険者もいない。 そんなこの世界が退屈だったんです。それが今日、超能力という最高に面白いものを見つけてしまったんですよ、食いつかないわけがないじゃないですか。なので安心して下さい、もう死にません。」
なんだ、ただの現代っ子じゃないか、ただの中二病患者じゃないか、などと割り切ってしまえたらどんなに楽だっただろうか。
僕という異常者が彼女を狂わせてしまったのは確かだ。
それが良い事なのか悪い事なのかは僕にはまだ分からない。
そこからさらに三回ずつ質問をし合ったところで今日は解散となった。
僕は秘密を対価に、
彼女の朝食の内容、
好きなアニメ、
下着の色、を知ることができた。
残念ながら見せてはくれなかった。