第一話
そんな長い話にはならないと思います
それはある日の朝のことであった。
日直だからと早めに家を出た僕はいつもより30分早く校門を潜った。
そこで今日は天気がいいなぁ、などと上を見上げてしまったのが一つ目の過ち。
空には青空にまばらな雲、そして逆さまに落ちてくる少女が一人。
実際には少女が落ちるまでは数秒とかからなかったのだろうが僕にはとても長い時間のように感じられた。
このままだと僕の真横に落ちるなぁ、とか。
落ちてるのに目をつぶらないんだなぁ、とか。
呑気に考えていたのが一瞬。
事の大事さに気づいた僕は慌ててどうにかしないとと思った。
そう、思ってしまったのが二つ目の過ち。
「不自然引力」
誰にも聞こえないような細い声でそう呟く。
すると既に地面まで5メートルといったところまで落ちていた少女の体は上に引っ張られたかのように減速を始めた。
やがて少女の体はゆっくりと降下していき構えていた僕の腕に収まった。
ふぅ、急だったがなんとかなったな…
などと考えていると腕の中の少女と目が合った。
そのショートの髪型、小学生のような小柄な体型、くりくりとした目に見覚えがあった。
同じクラスの女子だった。
北山絵里、小動物系の可愛さでクラスの男子にも人気な女子だった。
彼女は何が起こったのか分からないといった様子でキョトンとしていた。
………………ヤバい、超能力を使ってしまった。
かつてないほどに僕の脳みそはフル回転した。
やがて打開策を打ち出した。
「ああーーー、腕が痛いーーー。空から落ちてきた少女をなんとか受け止めることが出来たけど代わりに腕が逝ったなーーー。これは今すぐにでも病院に行かなくてはーーー。」
十中八九逃げるが勝ちである。
後でならなんとでも誤魔化せるだろう。
僕は少女を下ろし彼女に背を向け学校から出ようと走れ……………走れなかった。
小さい体のどこにそんな力があるのか彼女の手が後ろから僕の襟をしっかりと掴んで離さなかった。
「あのー、すいません。そこを掴まれると僕は息が苦しいんですがー。」
北山に反応は無い。
彼女を見ると下を向いて何かを考えているようで、
「急に上に引っ張られた?」だの
「重力が無くなったのでは?」
などとぶつぶつ独り言を言っている。
しかしその手の力は弱まらない。
「重力というと物理ですかねー。あいにく僕は理数系科目は壊滅してるので他の人を当たった方がいいかとー。」
などと言っていると彼女も考えがまとまったようで「やっぱり!」などと声を大にして言い顔を上げてこちらを向いた。
「超能力ですよねっ!」
輝かしいほどの笑顔で彼女は言った。
あかん、バレちった。