公園の野良猫
ミーの年齢は分からない。
真っ白な毛並みで、それほどお婆ちゃん猫ではないようだった。
餌になりそうな食材を冷蔵庫から持ち出して公園に通い、少しづつ手なづけた。人から餌は貰い慣れているようだった。
そのうち、ベンチに座っていると、どこからともなく寄ってくるようになった。逆に姿を見せないと心配になったが、ベンチの後ろに黙ってうずくまっていたりして「そこにいたの」と声を掛けると「みー」と鳴いた。
野良猫の平均寿命は5年だそうだ。
主な死因は交通事故や猫同士の喧嘩による致命傷、猫エイズなど。ペットの家猫の寿命は15年以上だというから、野良はずいぶんと過酷な猫生を生きていることになる。
僕はミーを家で飼ってやろうとしたのだが、連れて帰ろうとすると途中で立ち止まり公園に引き返してしまう。
なんとか抱きかかえても公園を出たところで飛び降りて、僕を振り返りながら戻るのだった。
その時の僕に向ける目は、まるで「ここでいいじゃない。ここで一緒に暮らそうよ」と僕を誘っているかのようだった。
この公園の人目に付かない一角で、野良猫のミーとひそかに生活するのもいいかなと、ふと思った。ただ憧れのように思っただけで、現実にはかなうことのないディズニーのアニメのような夢だった。
僕はこの時、なぜか唐突にバイトに出ようと思った。理由はない。
とにかく、このままじゃいけない。受験勉強に名を借りた、日向の野良猫のような無為な生活に決別しようと決めた。