公園の野良猫
社員の黒崎さんは『親睦を深める』という理由で飲み会を企画し、続いてカラオケ会を立ち上げたが、どちらも目出度く討ち死にした。
誰も親睦なんか深める必要性を感じてないという明白な事実を突き付けられた結果となった。
そもそも飲み会での参加者募集で、まともにメンバーが集まらなかったという結果にメゲることなく、ほとぼりが冷めたころに品を変えてカラオケ会を企てた根性というか執着心はすごいと思う。
黒崎さんがそこまで『親睦』とやらに固執する理由を僕は、というか職場の仲間は薄々感付いているはずだ。だけど、それについて誰も口に出さないというのは、職場の大人の対応というやつだろう。
暗黙の了解というやつは職場には必須の潤滑剤だ。
パート主婦の森山さんに言わせると「狙ってる」という直截な表現になる。
出荷口でハンディ端末片手に、パートのおばさんと二人で検品チェックを担当しているのが、その「狙われている」さっちゃんさんだ。
皆は気軽に「さっちゃん」と呼びかけるけど、僕にとっては職場の先輩だし、僕より年上なので用事があって話しかけるときは「さん」を付けてさっちゃんさんと呼んでいた。
そんな丁寧な呼び方をするのは僕だけなんだけど、この職場では僕が最年少なので誰も気にする様子はなかった。
それが、どこかしら甘えた呼びかけであることを、じゅうぶんに意識している僕がいる。なぜなら、ひと目みた時から、僕はさっちゃんにこころ惹かれるものを感じていたからだ。
ただ、年上といってもそんなに僕とは変わらなかった。
それが分かったのは黒崎さんが、さっちゃんも二十歳になったことだし、もう飲み会に参加できるよねとか話しているのをチラッと聞いてしまったからだ。
ここはコンビニに商品を出荷する配送センターで、その店名は耳にすることはあっても、街角で店舗を見かけることはあまりないという、全国規模には遠く及ばない超マイナーなコンビニだった。
休憩室でおばさんたちが話しているのを聞いていると、ここはそのうち潰れるとか、どこそこに吸収されるとか、そんな悲観的な話題がたまに出た。
僕はたんなるアルバイトなので、この配送センターの将来など、僕の人生のそれと同じように関心がまったくないというか、興味のないものだった。