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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

自傷癖

作者: 京分

少し刺激的だと思われる描写等御座います。

全体的に暗い話になっていますので、苦手な方はどうぞご遠慮ください。


自分が人と関わるのが、嫌いなのは評価をされる事が無いからです――



自分は父が芸能人という少し変わった家庭に生まれましたが、当の自分は酷く平凡な方なのですが、何をさせても同等、それ以下の器量でして、勉学をやらせようものなら忽ち試験などでは下からの順であり、愚蒙極まりないものでした。

かといい運動はと思いきやこれもまた、誰よりものろまでした。

唯一長けているところは、明らかに人よりも上々な外観、唯其れだけでした。

しかしこれがまた、外観がよいと云うだけで、勉学、運動がこれ程までに酷くても、『なあんだ、意外ね』とそう、言われるだけでありました。また、この外観のおかげで器量がよろしくなくても他の人よりも贔屓されるので、人間関係のほどは、笑顔を振り撒けば、上手くいくのでした。

縦い、平凡であれど、それだけで非凡になれていたのです。

自分は其れを、唯一の救いだと思っていましたが、世の中に出てみると、たいした事の無い外観の方や、寧ろその話を持ち出すにはあまりにも醜悪な外観の方が評価を得ている、何という不可解な事なのか、幾ら考えたところで”醜悪なのに何故”としか答えは出てこないのです。

世の中は見た目、皆見た目しかみない、そうは言いますが、自分もそう思ってはいるのですがどうも、そう言い切れない様な気もするのです。


何故何一つ充分にこなせない自分がこれ程までに自惚れているかといいますと、それは、何もかもが本当は非凡で在りたいと、望んでいたからでした。

基、自分は何に対しても消極的でありました。勉学などはやる気など無く、何時もすっぽかし、運動も汗をかくのが嫌と言いすっぽかし、何に対してもふらりと軽薄な態度をとっておりました。態とそうして”失敗”の”逃げ道”を作り恰も『仕方ない』そう思われる様ずっと生きてきました。

なので自分はいつも人に呆れられ、諦められて居ましたが、なにせ自分は平凡なものですから、ずっと演技をしている事にも疲れ、高校二年の時に、必死に取り組んでいる態度を魅せ、『やって当たり前』な事を一所懸命にやりました。

すると元々外観のおかげで自分の事を特別扱いしていた周りの人々が、どっと協力をしてくるようになったものですから、自分は今迄馬鹿にして、嫌って避けてきた”信頼”や”助け合い”、”成長”の歓びを初めて知ったのです。 なんと清々しく、全うで、充実しているのだ、と毎日が順調に進んでいました。


ですが其れも長くは続きませんでした。元々平凡、それ以下の自分は、何故そうなったかといいますと、努力や根気が、それこそ非凡ともいえる程に無かったのでありました。

そんな自分ですから、当に努力、根気を”信頼”され”期待”される事に疲れ、辟易としてしまい、皆様の期待を裏切り、高校三年の卒業間近に高校を辞めてしまいました。


そんな敗北だらけの自分にも、高校に入る前からの夢がありました、父と同じ芸能界にいき、有名になる事でした。非凡な外観でありながらも平凡、それ以下の自分が純正な非凡になる為には、これだと思ったのか、またいつものように、自分の事ですから、思い付きで夢と言ったのだと思いますし、周りからも、「厳しい世界だ」「簡単にできることではない」と色々なことを言われましたが、所詮夢を諦めた人や、このような世の中の大したことの無くしょうもない大人の言う事だと、あのときの自分は耳も貸さず、寧ろ鬱陶しいと、そう考えてやまなかったのです。自分の非凡を、信じていたかったのです。

昔から行動は直ぐに起こす方でしたので、事務所の審査に、備えもせず、何も無しに、審査を受けました。

どだい、特技と言える特技も無く、披露できるものも無く、馬鹿のように恥のない振る舞いもする事は無い自分でしたし、初めての世界に触れ圧倒されてしまいました。審査には落ちたと、思いました。


審査には、受かりました。何も無い、外観だけの自分は初めての審査に受かりました。その後、脇役ではありますが何回か仕事をし、其処でもまた、他人と自分を較べ、明らかに自分の外観は他の方よりも、優れていたのでした。

事務所に入り、脇役で仕事に出るなどは、誰にでも掴む事の出来るチャンスでしたが、或る映画の主演の審査にて、数日後、事務所の方から連絡を頂き、自分が映画の監督の目に留まり、正に理想とお言葉を頂きましたが、何せ自分はなにも実力も無く、今回激しい演技をするので、お断りしました。との連絡でした。心底自分に大口を叩いていた奴等に、そらみたことかとほくそ笑んでいました。


中途半端なこの事がきっかけといってはなんなのですが、自分は非凡だと、自惚れに拍車がかかりました。自分の将来は、順調かに思われ、自分でもいけると、考えておりましたが、矢張り現実はそう甘くはなく、暫くの間事務所から何の連絡も無く、元々自分も辛抱強くは無いので、自分からの連絡もしなくなりました。

さて、自分は高校を辞め、芸能界への関心も薄れ、職もない私は、日雇いの仕事をしていましたが、自分の馬鹿にしているしょうもない大人に、ろくでなしを見るような目や、才能のある人の扱いは愚か、人への扱いかと疑う程の待遇を受けました。屈辱的で我慢なりませんでした。大袈裟と思われますが、どだい自分は非凡であると信じてるが故、本当は途轍もなく自尊心が高く、我儘でしたから、軈て我慢が出来ず其処にも、行かなくなりました。

けれどこの事があり自分の置かれている立場というものを知ったのです。学もなく、資格もなく、働けない、寧ろ平凡でもなく、ごみ溜めの中に居る無能な小さな只の、自分である事に。


このまま、ろくでなしにはなりたくは無かったので自分は取り敢えず、このような経歴でも働けるところを探しまして、母が働いている場所で働く事にしました。母はめっぽう自分に期待し、一緒に働ける事を喜んでくれましたが、其処でも甘い世界ではなく、矢張り自分の物分りの悪さ、平凡以下の能力を突き付けられる様で嫌気が差し、辞めますと言ったところ、上司にめっぽう怒られました。


暫くそこの仕事場にも行かなくなり、その間は資金もなく、けれどまた日雇いに行くのも嫌で、苦しい思いをしていましたが、何せ自分は上々な外観であり、このような状況に於いてもそれは変わる事のない事実でして、これは使えると思ったのです。

もう夢の事などどうでも良かったので、手段は選びませんでした。

金銭を貰うために全く知らぬ人に、思ってもいない言葉を吐き、思わせ振りな態度をして、相手も自分も騙すように、その間は何とかお金を貰っていました。

けれど、財布は満たされますが、肝心の心が満たされる事はなく、ただただ自尊心とか、誠実さや、色々なものが自分の中から一つ、また一つと、こぼれ落ちていく様でした。

これにはとても耐えられず、忽ちお金を貰っていた方々からの連絡先を消し、連絡を絶ちました。


下卑た事をし、もう自分は非凡だの、平凡だの、ましてや自尊心などとは無縁な、ただ息をしているだけの物体になってしまいました。

もうそこに、生きたいという意欲も無く、死んでしまおうと、考えましたが、分かっていました。死んでしまうなど、大切な者のいる平凡な自分には到底出来やしない事など。けれど、若しも共に死んでくれるならと、下らない事を考え共に死んではくれないかと、そう持ち掛けたところ、「自分が死ぬぐらいなら追いやった他人を殺すよ」そういって断られました。

いやね、断られるのは、もう分かった上で言ったものですから、純粋に考えて、私の死にたい理由などは私怨でも、追い込まれた訳では無いのだから、その言葉は、自分にとっては只の言葉、意見、にしか聞こえませんでした。

才能にも恵まれず、平凡、それ以下である私の意欲はもう何も残ってはいませんので、ですが趣味は無い訳でもなく、何処かへ出かける事は好きなので、生きるのを諦めたとはいえ、死ねないのです。

死ねないのなら、生きるしかありません。生きるのなら、色のない人生に、せめてもの救いに、お金が必要でしたが、もう自尊心もあるかないか分からない、自分には、虫けらのように見られようが、非凡でありのろまである事を、突き付けられようがどうでも良かったものですから、すんなりと必要な時に、必要な資金が手に入りました。

一つは、外観は関係もなく、寧ろ自分でなくても良い所。二つは、外観が関わってくる、自分でなくてはいけない所。自分は、二つの相反する仕事を、掛け持ちしていました。何とか、こうしてのそのそと鈍く生きているのです。


或る日の夜、自分は何らかの理由で人と随分な喧嘩をしてしまい、これ迄、仕舞い込んでいた感情が、激情、劣等、僻み、苦痛全てが、まるで小さな脆いものに塞き止められていた激しい流れの川のように、小さな脆いものが壊されごうごうと、吹き出して来るような、激しいものが出てきたのですが、その感情の行き場は、無く、結局のところ自分の体に戻してしまいました。

近くにありました剃刀を太腿のあたりに宛てがい、吹き出る感情に任せ一気に横に引き抜きました。

傷口からは赤いびしゃびしゃとしたものが、次々に。見覚えはあり、小さな頃から知っていたものの筈なのですが、これはこれは初めて溢れ出てきたという感覚でした。

これ迄に、どれだけ辛くいても、体に異常もでず、塞ぎ込むこともせず、精神はこれっぽっちも滅入らなかったものですので、何時も平然としていましたが、その心は疲れ、何の気力も無くなってしまっていたのです。

いっその事、狂人にでもなってしまえたら、どれだけ楽だったのか、と、未だにまだ自分はそう思うのです。

ですから、赤く、溢れ止まらず、抑えても抑えても布を染めるだけだった鮮血は、やっと自分の心が壊れていた事を、自分の目で、匂いで、認識する事が出来たのです。晴れ晴れしく、血も涙も、暫く止まりませんでした。

これが自分が初めて自傷行為をした日でした。


傷が治るのは遅く、これはきっと綺麗には治ることはなく、穢い跡が永遠に残るだろう。と自分は思いましたが、怖くはありませんでした。

そうして、出来た傷跡は平凡では”有り得ない”それは、目に見える”非凡”の印に見えてきたもので、心に起伏が無くとも、落ち着いて少し、また少しと腕や脚、傷跡を残す様に、横へ、縦へ、ただ感情もなく剃刀を引いていました。

最初はこんな風だったのですが、傷が治り、消えかけてくると平凡に恐怖し、だんだんと心が爆弾のように高鳴り不安を覚える様になりました。ただ見せ付ける訳でもなく、まるで自分にしかない体の一部の様に汚らしく残るその傷を自分は一つひとつ大事に、引っ掻き回しました。

勿論、痛みはありました。けれどやっと、やっとこさ心の痛みに体が追い付いてきて、その痛みは自分にとって正当なものとなり、受け入れました。

痛みを受け入れ、自分の桑の花が、満開に美しく咲き散るまで。


今日はとても天気が良い。秋空は夏の匂いを残し切なく色褪せてきて紅い花がより一層赤く、美しく。

今日もまた、”非凡”を作り、己を己で抱擁し、認め、拒絶して、見窄らしくも汚らしい跡を作るのです。


生きる為に。

読んでくださり有難うございました。

素人の初投稿で何もかも良く分からない状態ですし拙い文ですが、ここまで読んでくださり有難うございました。感謝しています!

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