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再びの杯。


 たった一日の出来事。

 それは夢のように非現実であるから誰にも話すことなく、淡々と私は日常を続けた。

 今まで通り、起きたら朝シャワーして朝御飯食べて仕事に行って、仕事から帰ったら夕飯食べて寝る。

 そうして、一週間が過ぎた。

 その日、休日の前の日だったから、お酒を飲む。

 バーボンはとっておいて、安酒を飲んだ。安酒と言っても、庶民の私には美味しいもの。映画をテキトーに観ながら、飲み進んでベッドに入った。

 彼の冷たさを思い出し、彼の声を思い出し、彼の眩しさを思い出しては、眠り落ちる。

 そして、目を開くと、白銀。手を伸ばしてみたら、艶やかな髪だった。


「よぉ、陽だまり」


 低い声で、覚醒した私は飛び起きる。


「おっと、またベッドから落とすなよ」

「……クアロ。なんでいるの」

「さぁな。知らぬ」


 クアロルプスも起き上がると、頬杖をついて私には目をやった。

 私は藍色のブラウス一枚しか着ていない。昨夜は暑くてズボンを脱いだのだ。おっと。慌てて吟味するような視線から逃げて、ズボンを履いた。


「またお酒を飲んでベッドに入ったの?」

「ああ、先週と同じだ」

「なんだろう……この現象」

「さぁな。……胸元が見えているぞ」

「おっと失礼」


 ボタンをしめて、むむっと唸って考え込んだ。


「まさか毎週のようにこの現象が起きるんじゃないでしょうね」

「困るか?」

「……いや別に」


 全然困らなかった。別に食費はかからない。食べないから。強いて言えば、お酒代なくらいだ。


「そうだろうな。カーテンを閉めろ」

「はいはい、陛下」


 ベッドから下りて、カーテンを閉めた。

 すると、羽交い締めにされる。当然、クアロルプスだ。


「それから、お前を食わせろ」

「っ……」


 ゾワッとしたのは、首筋を舐められたからだ。


「ちょ、クアロ。最後に血を飲んだのはいつ?」


 確か週一で飲めばいいって漫画で描いていた。

 それに主人公と人間を襲わないって約束をしたはずだ。


「ちょうど先週だな。抱き損ねた女の味を確かめたい」

「人間を襲わないって誓ったはず!」

「襲ってなどいない。頼んでいるではないか」


 私の耳に甘く囁くヴァンパイア。それは誘惑と言うんだ。


「なぁに。痛いのは牙が肌を貫いた瞬間だけだ。あとはキスマークをつけられると思えばいい。少し飲むだけだ……な?」

「っ……」


 それはそれはうっとりするほど、甘く囁くクアロルプス。

 キスマークって確か肌に跡がつくくらい肌を吸い上げる行為だから、それはそれで痛いんじゃなかったっけ。

 好きなクアロルプスに羽交い締めにされて、その上甘く誘惑されて負けないわけがなかった。


「もう……本当に少しだけだから」

「じゃあ……いただくぞ」


 チクッと突き刺す痛みが、首元に走る。痛くて、思わず羽交い締めにする腕を握り締めた。牙は一度離れて、本当に吸い付く。ゴクリ、と自分の血が、飲まれる音が耳に届く。

 痛いような、くすぐったいような、妙な感覚。

 それだけで終わったみたいだ。


「ん……」


 けれども、クアロルプスは私を放さなかった。抱き締めて、私の耳元で息を吐く。食事の余韻といったところだろう。


「美味しかった?」

「ああ。満足だ」


 そう返事をして、やっとクアロルプスは私を放す。


「では眠る」

「はいおやすみ」


 私のベッドを占領するヴァンパイア様を見送り、私は鏡と絆創膏を取り出して、二つ空いた穴をそれで塞ぐ。

 朝食を食べて、テレビをつける。いつもの休日のようにダラダラした。


「眠れないだろう」

「あら、ごめんなさいね」


 クアロルプスが、起き上がる。テレビの音は、聴覚のいいヴァンパイア様にはうるさいらしい。なので私はイヤホンを耳にさした。

 それでもうるさいらしく、イヤホンを取られてしまう。


「もうよい。時差があるが、眠りはした」

「……聞きたいことがあるんだけれども」

「なんだ?」

「王様って棺桶ベッドで眠ってる?」

「何故棺桶で眠らねばならぬのだ。ベッドで眠ったと言っただろう」

「それもそうか」


 いや”ツブヤキ”にも棺桶ネタが回っているからつい。好奇心で。

 そうだ。思い付いた。

 私はケータイを取り出して、カメラ機能を開く。そのままカシャリとクアロルプスを撮った。


「なんだ、今のは?」

「写真よ」

「何のために?」

「これで他人が見えていなきゃ私は異常ってこと」

「フッ。自虐的だな」


 イケメンのコスプレだと、私は”ツブヤキ”にあげる。

 間も無くして、いいねの通知が山程きた。うん、ちゃんとイケているクアロルプスが見えるらしい。


「私は正常でした」

「当然だろう」


 クアロルプスは、鼻で笑い退けた。


「ところで、帰ったあとはどうだった? お城の方は」

「ああ、予想通り大騒ぎしていたようだ。アッシュにこれでもかというほど、叱りを受けた。急に消えるな、とな」

「あはは、アッシュらしい。で? 何処に行ってたかは話したの?」

「ああ、異世界にいる美しい女の元に行っていたと話した」

「話したんだ!?」

「皆、呆けておった」


 思い出し笑いなのか、クアロルプスはくつくつと笑う。

 美しい女とは、それは光栄だ。

 異世界に行っていたなんて言われたら、普通は呆けるよね。アッシュ達の呆けた顔を想像すると、私も笑ってしまった。


「じゃあ丸一日、クアロはいなかったってことなんだね」

「ああ。きっかり一日な」

「今回も大騒ぎになっているかもね」

「しれないな」


 呑気に笑い合う。

 アッシュってば、やっぱり苦労人ポジション。

 クアロルプスに、この世界のことを少し教えた。テレビなんてものは、当然ない世界。まあ古い世界と言ったところだろう。飛行機も車もない。中世時代って感じの世界観。

 ヴァンパイアだけではなく、色んなモンスターが蔓延る危険かつダークファンタジーな世界なのだ。

 まぁ主人公のスズは能天気キャラだから、ちょっとばっかし明るい漫画。絵も綺麗なもので、先生を尊敬する。


「そうだ。オレ様を案内しろ」

「へ? 案内って言ってもここ田舎だよ。普通だから」

「それでは都市でも行けばいい」

「都会ね。遠いよ」


 陽が暮れた頃になると、クアロルプスが自らカーテンを開いた。そして椅子に座っている私に向かって、ニヤリと不敵に笑って見せる。


「オレ様を誰だと思っていやがる」

「……ヴァンパイア王様」

「そうだ。さぁ着替えろ」

「ええ。クアロだって寝巻きでしょそれ」

「それもそうだ。じゃあこのまま行くとしよう」

「それは嫌かも、ってうわお!?」


 ひょいっと軽々と抱え上げられた。流石、超人の力を持つヴァンパイア。ってお姫様抱っこされた。きゃーかっこ悲鳴。


 ベランダを開けるなり、クアロルプスは飛んだ。もちろん、蝙蝠の翼なんて生えていない。ただ飛んだのだ。足をバネにした。暗がりの空を飛ぶ。襲い掛かる浮遊感に、私はクアロルプスにしがみつく。

 彼は笑いながら、何度も屋根から屋根へと移っていく。

 ジェットコースター並みに怖い。いや絶叫系のアトラクションは好きなのだけれど、シートベルトがないと怖いことこの上ない。シートベルトって大事。物凄く大事。


「クアロ、何処に向かってるの!?」

「人が多いところだ」

「まじでか!?」


 勘なのか、聴覚か視覚で見付けているのか。クアロルプスは迷うことなく突き進む。

 そうして軽く一時間、悲鳴を内心で上げつつもしがみついていれば、止まった。


「ここが都会というやつか?」

「え? ええ。まあ。そうね」

「高いところを好むものだな、この世界の人間は」


 高いビルに到着する。高層ビルだった。ちょっと賑やかな街に着いたみたいだ。その縁に立つものだから、下された私はまだしがみ付く。


「空気が汚れてはいるが、綺麗なものだな」

「え?」


 綺麗なんて言うから、私は下を見てみた。

 そこに広がるのは、夜景だ。ビルや街灯の光、そして車やバイクの光。瞬いて光っていた。暗闇で瞬く、それはそれは宝石箱に匹敵する美しさだ。


「おお……凄い綺麗ね」


 都会をこんな真上から見たことなかったから、驚きと感動で一杯になる。すると、私の腕を掴んだクアロルプスは、私を突き飛ばした。真下には、夜景。地上は、遥か下。風が下から吹き上がった。ゾクゾクと恐怖が駆け巡る。怖い。


「ひやっ!?」

「楽しいだろう?」

「た、楽しくない!」


 くつくつと笑うクアロルプスの腕を、必死に握る。

 クアロルプスは引き寄せてくれた。ふー怖かった。


「さて。帰って酒を飲むか」

「そうね」


 楽しむ間も無く、私が眠いと知ってか知らずか、帰ることを言い出してくれる。またお姫様抱っこされて、ジェットコースター並の浮遊感を味わってぴょんぴょん飛んで家に帰った。


「さー飲むぞ!」

「そんなテンションで飲みたくはない」


 私はバーボンを用意する。私のテンションには、ついていけないらしい。まったりと飲むか。


「またもや寂しく、昨夜は飲んでいたのか?」

「クアロこそ、一人で飲んでいたの?」

「ああ。夜の鬱蒼とした森を眺めながら飲んでいたが?」

「なるほど、共通点はきっと孤独にお酒飲みですかねぇ」

「そんな人間もヴァンパイアも腐る程いるだろう」


 そうなのだ。ありきたりな行動。

 それが異世界を超える原因とは、到底思えない。


「一週間調べさせたが、異世界に行ったというヴァンパイアは見付からなかった」

「え。調べさせたの?」

「当然だろう。あの世界に起きた超常現象かと調べただけだ」


 得意げに笑って、クアロルプスは答えた。


「どうやらオレ様の身だけに起きた現象らしい。ヴァンパイアの中では」

「……そうなの」


 クアロルプスの身だけに起きた現象。そして、場所は私の元。何故だろう、と考えながら、ゴクリとバーボンを一口飲んだ。


「さー眠くなったぁ。眠る」


 私は先にベッドに入った。


「おい、陽だまり」

「ん……?」

「お前もしかして……」


 ベッドのそばに座っているクアロルプスを目にやる。

 白銀の長い髪と白銀の鋭い瞳が、私を見下ろしていた。


「……なんでもない。眠れ」


 頭を撫でられて、私は言われるがままに眠りに落ちる。


 ふっと静かに目を開いたら、穏やかな銀色の光。

 眠気を感じながら、まだ眠っている彼の横顔を見つめた。

 こうやって毎朝、起きたらここにいればいいのに。

 なんてあたしは、そんな叶わない願いを心の中で呟いた。



「クアロ」


 顔を近付けて、私は耳元で囁く。眠りの淵から引き戻したクアロの目蓋が震えた。


「おはよう」


 無意味に囁いてから、クアロルプスを乗り越えてベッドから這い出る。習慣通り朝ご飯を食べて、仕事に行こうとする前に、部屋を覗いてみる。

 ベッドを見ると、スクアーロが天井を見つめたまま横たわっていた。


「……どうしたの? クアロ」

「……なんでもない」


 自分がまた不在な城が心配なのだろうか。

 私は横たわっている彼の額を撫ででから、部屋をあとにした。


 叶わない願いなんて、呟くことすらだめだ。

 あちらの世界こそが、彼の居場所。

 自嘲しては、溜息をついた。

 彼の居場所が漫画の中にお城なら、私の居場所は何処だろう。

 このみすぼらしいアパート?


「……ただいま、王様」


あたしの居場所は何処にもない。

そんな答えが今でた。


「……なんだ、その顔? どうかしたのか?」

「え?」


 怒ったような顔をされたものだから、私は身を震わせる。


「え、なにがよ?」

「陰気くせー顔だったぞ、今」


 がしりと頭を鷲掴みにされ、鋭い目つきの顔を近付けられた。

 おお、迫力凄い。


「なんかあったのか?」

「なんもないけど……いて! 痛いっ!」

「嘘つけ」


 こめかみにグリグリと人差し指で押される。地味に痛い。

 その痛さに涙が出てきた。


「痛いっつーの! やめないと一緒に飲んでやらないぞ!?」


 振り払って睨みつければ、クアロルプスはやっとやめてくれる。まったく。女の子に暴力を振るうんじゃない。

 そっぽを向いてあたしは涙を拭いた。


「ほら、飲むよ。王様」

「……」


 昨日と同じバーボンを注いだ。でも昨日とは違い、黙々と黙々と飲んだ。

 隣に並んで座っているが互いに見ようとせず、俯いて飲む。


「なに黙ってるの」

「……お前やっぱり何かあっただろう」

「あん?」

「……凄んでいるつもりか?」

「そう?」

「……」


 ぺしぺしと頭を叩くとクアロルプスは、嫌そうに払い除けた。


「何かあっただろう。答えよ」

「もうしつこいな! 酒が不味くなるから放っておいてよ!」

「ヤケ酒など馬鹿がすることだ。さぁ何があったか言ってみろ」


 執拗に問うてくるクアロルプスが、がしりと腕を掴んで放してくれない。こうやって問い詰められるのは好きじゃない。というか、慣れない。友だちにこうも問い詰める子はいないのだ。


「陽だまり。答えないと今晩は襲うぞ」

「ああもう! 私の居場所は何処だろうって考えていただけだよ!」


 抱かれてもいいですけども!?

 ヤケになって、私は白状した。

 白銀の目を見開いたクアロルプスは、やがて吹き出す。


「そんなくだらないことを考えていたのか。全くもってくだらないな」

「はいはい。だからお酒が不味くなるって言ったじゃない」


 すると、乱暴に頭を撫でられた。

 髪を乱された私は、膨れっ面をしながら髪を整える。


「居たい場所を居場所にすればいいじゃないか」

「居たい場所がないんだけれど……。クアロはいいよね、ヴァンパイア王様だもの。他人に存在を望まれているもの。私なんて離れてしまうのが、消えてしまうのが、怖いわ」

「他人なんて枷で繋がってるわけじゃない、消える奴らなんかとの関係を考えるな」


 ベッドに頭を置いて、カランカランと無意味に鳴らすクアロルプス。

「でもさ」とバーボンで、ぽんやりしつつ言う。


「繋がってて消えていかない人が、いるとは思わない?」


 クアロルプスは、あたしに顔を向けた。


「誰か一人でも……たった一人。強い結びつきで繋がった人がいるんじゃないかって思ったことない? 俗に言う運命の赤い糸の相手」

「……」


 小指を立ててみるが、当然そこに赤い糸なんてない。


「居ると信じてみたくない?」

「……そうだな」


 自嘲気味な発言だったのに、思わぬ返事がきて驚いて目を開いた。

 クアロルプスは、まだあたしを見ていた。


「……意外。興味ないのかと思った」

「柄じゃないっと言うことか?」

「ヴァンパイア王様だもの、欲しい女は手に入るでしょう」

「……そうだな。欲しい女は必ず手に入れる」


 ベッドに寄りかかっているクアロルプスを、まじまじと見る。腰が細いけれど、逞しい筋肉が服の上からあるのがわかった。モデルみたいにスラーと伸びてる手足。立てている右膝にコップを持った右手を置いて、左腕は寄りかかったベッドの上に置いている。

 目の保養で、格好良すぎだ。やっぱり美しい。


「…………」


 私が見ていたように、クアロルプスもあたしを見ていた。

 大人の色気という奴なのか、熱い眼差しで見つめてくる。

 うっとりしてしまうのは、酒に酔ってるせいなのかな。

 見つめ合っていると、ゆっくりとクアロルプスが顔を近づけた。

 見つめたまま、そっと。鼻が触れた。


「調子乗らないの、王様」


 唇が触れる前に、顎にアッパーを食らわせる。


「……三日も添い寝して、キス一つしない上に、暴力を振られるとは……」

「そんなこともあるわ」

「ねーよ、あり得ねぇ」

「女とみれば寝なきゃ、ダメなルールがあるの? 男は」

「お前の場合、美人じゃないか。美人と同じベッドで寝ておいてキス一つしねー野郎はタマなしか男色家だって言われる」


 指を差すから、その手を叩き落とす。


「この前から美人って言ってくれてありがとう」

「あ? 礼を言われるほどではない。お前は高嶺の花のように、手が届きにくい女だ」


 誉めてるらしいことを聞いて、ちょっと気分が良くなってきた。

 クアロルプスに言われると悪くないな。

 本当にお世辞は皆、口裏を合わせたみたいに美人だ美人だと言われるけど、その度愛想笑いで対処してた。


「あなたに誉められると嬉しいわ」

「本当か?」

「うん」


 頭を強引に撫でられたから、あたしも頭を撫で返す。

 頭を掴んだまま引き寄せたので、そのまま顎に頭突きを食らわせる。


「やるな、陽だまり」

「今日は添い寝してやらないよ?」


 顎を摩るクアロルプス。どさくさにまぎれて唇を奪おうとするものだから。


「何、王様。欲情してんの?」

「あ? お前がそういう話をしたからだろう」

「そういう話? 何のことよ、王様」

「もう忘れたのか、酔ってきるのか? 陽だまり」


 スルーかと思いきやちゃんと聞いてやがったか。でも怒んなかったよ。言われなれてんだなぁ。


「もう眠いから、寝るわ。手出すつもりなら追い出すけど? 紳士さん」

「……紳士じゃないが、許可が出るまで出さないさ」


 背伸びしてテーブルにコップを置く。先にベッドに飛び込むが、あたしに彼を追い出す力はない。

 クアロルプスもただ帰りたいから、添い寝しなきゃならない。


「……陽だまり」

「んぅ?」


 クアロルプスの声も、私の声も眠気たっぷりだ。

 閉じていた瞼を開くと目の前にクアロルプスの顔。もう隣に横たわっていた。


「お前……」


 クアロルプスもアルコールが効いていて、眠そうだった。


「オレ様が来る前に、オレ様のこと考えてたか?」

「……なにそれ」


 眠気を振り払うために瞬きをしたが、勝てない。


「オレ様は考えてた……お前のことを思い出しながら、飲んでいた……。また一緒に飲みたいと思ってたんだ」


 クアロルプスの瞼も、重くなっていくことを眺めた。


「もしかして、お前もオレを思い出して飲んでたんじゃないのか?」

「……うん……」


 私は首を振るわせて、頷いた。


「その気持ちが……原因なんじゃないのか……」

「気持ちが……?」


 ぼんやりと見上げる。

 ……ああ、私とクアロルプスの気持ちが共通したのが原因なんじゃないかってことね。


「忘れた方がいいってこと……?」

「……何故、お前とオレ様なんだろうな……」

「……酔ってる?」


 私はらしくないことを呟くクアロルプスをクスクス笑う。


「少なくともアルコール漬けの頭じゃあ答えはでないよ、おやすみ」


 私は目を閉じることにした。


「これで何度も会えたら……お前がオレ様の運命の相手かもしれないな、と思ってた」


 クアロルプスの囁き声を眠りに落ちそうにながら聞く。まるで子守唄のようだった。


「……お前といると……落ち着く」


 頬に指先が滑る。


「眠ったのか……?」


 顎をなぞるそれがくすぐったかった。

 気付いてはいけないことを気付かないように、眠りの淵にふわりと舞い落ちる羽のように落ちる。

 赤い糸なんて言うのは好きじゃない。

 強い繋がりで結ばれている存在。その存在かどうかはわからないけど、それでも。

 この一時の幸福を噛み締めた。


 目覚めた時、目の前にあなたが居なくても。

 この一時だけで充分です。


 穏やかに目が覚めれば、そこに穏やかな光を放つ銀色。

 目の前に、クアロルプスの顔があった。

 ほぼ同時に瞼を開いたから、目が合う。

 ぼんやりと見つめ合った。

 クアロルプスは私の頬に手を添えて、親指で撫でる。


「……クアロルプス、ここあたしの部屋」


 気付いていないようだったから、私は教えてやった。


「……そうだな」


 クアロルプスは、冷静に現状を受け止める。

 開いたカーテンから、射し込む陽で、眩しい白銀。

 長い髪を撫でて、私は慰める。


 どうでもいいけれど、クアロルプスの写真はいいねが軽く八万超えた。

20170822

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