強くなるために
ケイナさんと話した次の日、私はケイナさんに村の子供達とは別に訓練を開始することになった。
とはいえ、肉体的には当面は体力作りから、推定年齢8歳の体にはこれだけでも大分辛い。
インドア派の私は体力をつけるのにも一苦労だ。
でも、やると決めたからにはこれくらいでへこたれる訳にもいかない。
ティリカちゃんも私の訓練に付き合ってくれる。
まだ10歳という私の実年齢よりも若い彼女だけど、姉や兄を目指しているためか、普段から特訓をしているらしい。
現時点でレベルで言うならば30というのだから、その実力には驚かされるばかりである。
「はぁはぁ、ティリカちゃんは凄いね。」
「ううん、まだまだお兄ちゃんやお姉ちゃんには程遠いよ。」
私と同じ距離を走ってもティリカちゃんは息があがっていない。
普段から相当鍛えているのだろう。
ケイナさん、ティリカちゃんのお姉さんとお兄さんのこの3人は村の中でも高レベルである。
とは言っても、ケイナさん達の世代は才能ある人が多く黄金世代と呼ばれていて、ティリカちゃんのお兄さんクラスが他にも数人いたりする。
ティリカちゃんは30が強いという印象がないと言っていたが、確かにこの村の中だとそう思うのも頷ける話だった。
「それじゃあ、次は魔法を教えましょうか。」
ケイナさんの言葉に私の心は少し高揚する。
現代に住む人たちの大半は魔法というものを使ってみたいと思ったことがあるだろう。
私もその中の一人だ。
ティリカちゃんに教えてもらったことはあるけれど、いまいち私には理解できなかったから、ここでケイナさんに改めて教えてもらえるのがありがたかった。
「まず、魔法には大まかに二種類あるの。一つが発生、もう一つは派生ね。」
「発生と派生?」
「そう、発生とは文字通り有を生み出すこと、派生は有を発展させることを言うの。」
発生と派生、何となく言おうとしていることは分かる気はする。
「簡単に言うと木に火をつけるのは発生、火のついた木を大きく燃やすのは派生ということ。これが魔法の一番の基本ね。」
「その発生と派生はどのようにするんですか?」
「構築、展開から発生と派生というのが魔法の基本なんだけどね。誰でもそういう風にはできる訳じゃないから、一般的な魔導学は詠唱と言う言葉を使って、範囲や指向性を予め決めておくことで、簡略化しているの。」
ケイナさんの言ってることを総合すると、プログラムみたいなものっぽい。
一から全部できれば色んなことができるけれど、分からないのであればコピペすれば誰でも使えるみたいな感じなのだろうか。
「まあ、先ずは基本的な魔導書を使った簡単な魔法からやっていこうか。」
ケイナさんはそう言うと使い古された本を持ってきた。
使い古されたと言っても、丁寧に扱っており保存状態はかなりいいと言えるだろう。
「この本に載ってることを一通りできるようになれば、魔法については私から教えることはなくなるよ。」
ケイナさんに言われ早速本を開いてみる、けれど肝心なことに私はまだスラスラ読めるほど、この世界の言葉に慣れていない。
「あの、文字がよく分からないです。」
「あ、そういえばそうだったね。それじゃあ、私が翻訳しながら教えていくね。」
そういいながらケイナさんはゆっくりと丁寧に書いてあることを教えてくれる。
この本に書いてあることは非常に分かりやすく書いてあり、感覚でいうのであれば自分の中のコンピューターでプログラミングを行い、それを実行し魔法の発現をすると言うことが分かった。
後は自分でそれができるかということだけど。
「それじゃあ、先ずはこれからやっていこうか。」
魔法を使うためには基本ほ自分の中にある魔力を練る必要がある、魔法を志す者には当たり前にできる作業みたいだけど、今までそんな魔法のない世界で生きていた私にとってその作業は未知のものでしかなかった。
これにはケイナさんもどう説明すれば分からなかったようで、私もなかなか上手くいくことができなかった。
「あ、そうそう、そんな感じ。」
しばらく試行錯誤を繰り返して、ようやくコツを掴んできた。
自分の中を何かが廻っている不思議な感覚、これが魔力を練るということなのだろう。
これを普段からやっていれば特に意識しなくても魔力を練れるようになるらしい。
また、魔力に慣れることにもなり少しずつではあるけれど、魔力を鍛える効果もあるとのことだ。
「凄いね、カエデちゃんは魔法の素質あるよ。」
今日の訓練で一通り魔法の基礎を教わって言われた。
何となくプログラムの勉強をしていたのが良かった。
パソコンを使うか、自分の中でやるかの違いでしかない。
ただ、今の私では全体的な魔力自体は多くはないから、それに関しては訓練をしなくてはいけないとのことだった。
まだまだやるべき事は沢山ある。
だけど少しずつ強くなっていくと言うことが、今はちょっぴり楽しかった。