解決と疑問
ケイナさん達が討伐に向かってから、数時間が経とうとしていた。
少しだけ不安はあるものの、あの人達ならば大丈夫と思う気持ちの方が強い。
ティリカちゃんはというと、何も心配をしていないようであった。
「ティリカちゃんはお姉さん達の事は心配ないの?」
私の問いにティリカちゃんは笑顔で答える。
「ケイナさんのレベルは規格外だけど、お姉ちゃんとお兄ちゃんも大概だしね、心配いらないよ。」
「そういえば、ケイナさんのレベルっていくつなの?」
そう、私はまだ相手のレベルを知るすべはない。
全体的に強いというのは今まで見ていて分かるけれど、実際のレベルがいくつなのか興味があった。
「ケイナさんは確か70位だったかな、今はもう少し高くなってるかもしれないけど、お姉ちゃんは62でお兄ちゃんは56だよ」
「レベルの基準って分かる?」
「んー、70オーバーはこの世界に何人いるかというレベルらしいよ。基本的には30以上ならこの世界では、かなり優秀らしいよ。」
らしいよという言葉に私はちょっと疑問を持った。
「らしいよって、どうしてそんな疑問系なの?」
「この村の大人の人達が大体30超えてるから、いまいち優秀って分からないんだよね。」
なるほどとは思った。
私がこの村の人達が強いと思っていたのは、間違いではないというのは確信できた。
しかし、こんな山奥にある小さい村の人達が何でこんなに強いのか、そこに興味が湧いて来た。
「あっ、帰ってきたみたいだよ。」
ティリカちゃんと話しているうちに、結構な時間が経っていた。
戻ってきたケイナさん達の顔は明るい表情が戻っていた。
表情から察するのであれば、例の悪魔達は無事に討伐出来たのだろう。
「ただいま。」
「お帰りなさい、ケイナさん。」
ケイナさんの言葉に私が答える。
その言葉にはやっと一息つけるような安堵の言葉だった。
この日は村の懸念が解決したという事で、ちょっとしたお祭り騒ぎになった。
「ケイナさん達って何であんなに強いのですか?」
私は宴の席のついでにケイナさんに疑問をぶつけてみた。
鍛えていると言うだけでは到底説明つかない。
「んー、まあ、カエデちゃんには話しても大丈夫かな。私達の村の住人には魔族の血が混じってるの。」
普通ではない理由があった。
この世界における魔族というものがどういう存在かは分からないけど、その血のお陰があるというのは間違いなさそうだ。
「でも、魔族ってあそこで出会ったのは?」
「うん、あれも魔族の種族の1つだね。基本的には魔族って人より好戦的で実力も高いの、一般的な下位の魔族ですら人間にとっては脅威なのよ。私達に流れる魔族の血はその中でも最も最上位の魔族......魔王の血が流れてるのよ。要するに生まれてきた時点で素質が最初から私達は一般的な人間に比べて高いの。」
話を聞いてケイナさんの強さも納得ができたような気がする。
その中でもケイナさんやティリカちゃんの姉や兄、ティリカちゃん自身も才能があるのだろう。
「でも、何で祖先に魔王の血を引いていても、この前の魔族と戦ったんですか?」
「魔族と一括りにされていても、魔族には魔族の国があるからね。その辺りは人間と変わらないよ。私も話でしか知らないけれど、魔族の住む世界はかなり殺伐としているみたいだけどね。」
話を聞いてなるほどと思った。
私達も人間と一括りにすれば同じことなのだろう。
「ま、私達がここの村でひっそりと暮らしている理由も分かってくれたかな?」
「人目につきたくないんですね。」
「正解、魔族の血を引いている私達の寿命は普通の人間とは違う。老化も遅いから普通の村や町には長くは暮らせないからね。」
どこの世界でも自分達とは違う存在は受け入られにくいのは一緒なのかなあと私は思った。
でも、だからこそケイナさんは突如現れた私をこの村に招いてくれたんだとも思った。
普通はこんな素性の怪しい人を村には居候なんてさせない。
「それじゃ、カエデちゃんの質問に答えたから、私からカエデちゃんに質問いいかな?」
「私にですか?」
まさかケイナさんから質問返しがあるとは思わなかった。
まあ、今まではケイナさんにはずっと質問しているばかりだったし、私の答えられる範囲では答えなければ。
「カエデちゃんはこの世界に来て良かった?」
私は考えた。
私の居た世界では16年生きていた、一人で学校に行き帰って家族との会話もあまりなく、ただその日をだらだら過ごす日々。
家でネットやゲームをやっている時間は好きだったけど、どこか心の中で満たされない気持ちを持っていた。
小さい頃はもっと活発でいた......と思う。
ーーいつからネガティヴになったんだっけ?
そんな事も思い出せない、ただやり直せたらいいなあとは思っていたことはある。
転移して体は子供になって、ある意味チャンスと感じた。
子供からやり直せる、そう思っただけでワクワクした。
「良かったです。」
ケイナさんの言葉に私は一言答えた。
「うん、そっか。カエデちゃん自身気づいているか分からないけど、最近明るくなってきたからね。不自由はしてないようで良かったよ。」
明るくなった自覚はない。
ただ、確かに前より人と話している気もするし、姿が子供だからか前より思い切り良くできる気もする。
こんな姿になったことで幸か不幸かやり直せるということなのだろうか。
でも、今の私はここで止まってはいけないような気がした。
「私もケイナさんみたいに戦えるようになりたい。」
戦えるようになることが、ケイナさん達への恩返しになるとは思わないけど、少なくてもこの世界に来て助けてくれる人にずっと甘えられるほど私の神経は図太くない。
「無理はしなくてもいいんだよ?」
「無理とかではないです。」
「そっか、分かった。明日から少しずつ色々教えてあげるね。」
ケイナさんは少し考えた後にそう答えてくれた。
今の私に何かできるか分からないけど、やり直せるのならもっと悔いのないようにしたい。
新たな決意を思い私は今日という日を過ごした。