現れた悪意
あれから更に数日が経った。
村全体の空気はあまり良くない、だけど周りの人達は子供達にそれを悟られないように、ひたすら隠していた。
だけどやはり不安というのは隠しきれておらず、勘のいい子供は何となく不穏な空気を感じ取っていた。
「最近はあまり相手を出来なくてごめんね。」
ケイナさんが私に謝ってくる。
私としては家に居候させてもらっているだけでも、ありがたいと思っているけれど。
私自身はここの所は語学の勉強しか出来ていない。
ケイナさんに魔法のことを教えてもらいたいけれど、この所の様子では少し難しそうだ。
ティリカちゃんも頑張って教えてくれるけれど、勢いはあるのだけど、私が理解するのはまだまだ先のようだ。
「明日は久しぶりに空いてるから、何かしましょうか。」
「大丈夫なんですか?」
ケイナさんはやや力なく笑う。
本当はあまり大丈夫ではないのだろう、そのくらいのことは心理学をやっていない私でも分かる。
ここ数日はずっとケイナさんは村を空けていたから、明日くらいはという感じなのだろう。
話し合った結果、翌日は気分転換に散歩でもしようということになった。
次の日はよく晴れており散歩をするにはいい日だった。
一緒にお弁当を作り、先日行った湖へと足を運ぶ。
ここは澄んだ空気が漂っている。
--息抜きになればいいんだけど、難しいかな?
何かをしてあげたいけれど、今の私は何も出来ないことが少し歯がゆかった。
「!」
暫く湖でのんびりしていると、ケイナさんの表情が突然変わる。
何かに気が付いたようだ。
「カエデちゃん、私の側に!」
大きな声に一瞬びっくりしたけど、私は慌ててケイナさんの側に駆け寄る。
ケイナさんは睨みつけるように上の方を見ていた。
少しすると上からバサバサと言う羽ばたく音と共に、一匹の生物が降りてきた。
黒い肌に発達した上半身、足は山羊のような足をしている。
頭は鋭い牙をはやし、短いながらもツノが生えている。
形容するならば、悪魔という言葉がピッタリだった。
体からは禍々しいオーラを発しているのか、見た瞬間に私の体が硬直し、恐怖を覚える。
そいつはこちらを見て、何やら喋り始めた。
「+々¥♪%」
相変わらず何を喋っているかは分からない。
どうやらその生物が喋っている言葉は、こちらの言葉とはまた違うようだ。
「貴方達の目的は何!?」
ケイナさんは黒い生物の言葉を理解しているようで、威圧を込めた言葉を喋る。
相手はケイナさんが言葉を理解している事に驚いていたようだけど、こちらに向かって何かを話しているみたいだった。
二言三言話を交え、ケイナさんがぼそりと呟いた。
「そう、じゃあ貴方達を倒しちゃえばいいのね。」
言葉から察するに敵である事は間違いないようだ。
ケイナさんの剣を抜く姿を見た黒い生物は笑い始めた。
言葉が分からなくても、明らかにバカにされているのが分かる。
ケイナさんが息を整え、相手を睨みつけた瞬間だった。
あっという間に間合いを詰めると、黒い生物に向かって切りかかった。
その速さに黒い生物は元より私も驚いた。
強いと言う事は知っていたけど、黒い生物を完全に圧倒している。
一太刀一太刀ではそこまでの傷にはなってはいないが、手数が圧倒的である。
黒い生物が時折反撃をするが、見てから回避余裕でしたと言わんばかりにギリギリで攻撃を避ける。
私はその光景をボーッと眺めているしかなかった。
完全に違う世界が私の眼前で繰り広げられていた。
劣勢を覆せないとみたのか、黒い生物は上空に飛び上がる逃げようとした。
次の瞬間、ケイナさんの手から爆炎が広がり黒い生物を包んだ。
黒い生物は断末魔の声をあげ、そのまま地面へと落ちた。
風が吹くと黒い生物は既に灰になっていたのか、サラサラとその体が崩れていった。
「大丈夫?」
「あっ、はい、大丈夫です。」
あまりの凄さに私はそれしか喋れなかった。
「ごめんね、これから用事が出来たから村に戻ろうか。」
その言葉に私は頷くしかなかった。
先程ケイナさんは『貴方達』と言った。
でも、今いたのは一匹のみ。
仲間が近くにいるのだろう、それをこれから倒しに行くというのは容易に想像できた。
多分だけど、今回の騒動の原因はこの悪魔みたいな生物なのだろう。
ケイナさんの顔を見れば、言葉を聞かなくても分かった。
私達は村に戻るとケイナさんはティリカちゃんのお兄さんとお姉さんを連れて山へと向かった。