第六話 武器選び
展開が急です。後で付け足すかもです。
翌日、橙也は葵と一緒に城下町を歩いていた。
当たり前だが休日をどう使うかは人によっては違う。
クラスメイトのみんなは城で鍛錬や魔法の探求に明け暮れる者、国から支給された資金で自分達のように束の間の休息を味わう者、みんなそれぞれの形で休息を満喫している。
橙也は時折地図の様な物を見ながらもズンズンと迷うことなく突き進んでいく葵を追いかけながら、辺りを見回す。
今回、橙也達は城の外に出るのが初めてなのだが、煉瓦造りの家々に石畳の通路、そこを通る馬車や剣を携えた偉丈夫達、端で露店を開き見たことのない果実や動物の肉を売りさばく商人達、まさに絵にかいたような中世ファンタジーの街並みを目の当たりにして橙也は改めて自分達が元いた世界とは別であることを思い知った。
「なんつーか魔人と戦争しているっていうのに割と平和だな」
「戦争しているっていっても、ここは人類の総本山である中央国家の一部だし当然でしょ。その代わり前線は大分酷いことになってるみたいだけどね」
この前講義で習ったじゃない、と葵に言われて橙也は思い出す。
確か現在、自分達がいるこのアウルディア王国とウェザード法国。そしてグランデル帝国。この三国が同盟を結び、これを中心とした周辺国と属国が集まったのが人類連合であるのだった。
そしてこの3国にはそれぞれ防御結界が張られており、弱い魔物は入ってこられず、強い魔物や魔人も城や城下町に近づけば近づくほど力が弱まっていくとのことだ。
「まさに鉄壁の守りってやつか。便利だよなー」
「中心である城から離れれば離れる程に効力は弱まるみたいよ」
実際、いくらアウルディアの領地でも、この王都から離れた地区には魔物の被害報告は絶えないようだ。魔王が現れて魔人を率い始めてからは、さらに増加傾向にある。
「近いうちに実戦訓練として私達も魔物と戦うことになるみたいだし、今日はそれに備えなくちゃね」
「随分とやる気になってるじゃん」
「いつまでも駄々こねてるわけにはいかないでしょ」
そう言うも、葵は一瞬だけ不安そうな面持ちを見せたが、すぐにそれを掻き消した。
「ついたわ」
そういって葵が立ち止まった所は小さな武器屋だった。
「以前より前からリアさんにいい武器を売っている店はないか。聞いてたの」
「国で支給してくれるんじゃねえの?」
「全部向こうで用意されるのは気に食わないし信用もできない」
「だってさっきリアさんに聞いたって・・・・・・」
「あの人は信用できるわ」
いつのまにそんなに仲良くなったのだと橙也は突っ込みたくなったが、当の葵はそのまま武器屋に入って行ってしまったので、慌てて後を追うように店に入る。
店の中は少し薄暗かったが、目が慣れると思っていたよりも広かった。
剣はもちろん弓矢・槍・戦斧・鉄球はもちろん盾といった防具などよりどりだった、カウンターには眼帯をつけた筋骨隆々の老人が座っていた。座っているだけですごい威圧感を放っておりおっかない。
老人は店に入ってきた橙也達を見ていたがしばらくしてフンっと鼻を鳴らして興味を失くしたように視界を移した。
「委員長ってココに連れてきたかったの?他にもっといい店とかさ」
「見た目で判断してはいけないわよ、須藤君。それにあなたは、剣術も魔法も中途半端であぶなっかしいしだったらせめて自分の身を守る武器くらいちゃんと持っておいたほうがいいわ」
「だったらさ。余計にもっとちゃんとした店に……」
「聞こえてるぞ。小僧」
座っていた老人にピシャリと言われて、『スイマセン!』と条件反射で土下座しながら謝る橙也。
葵はそんな彼の姿を見てドン引きしているようだった。
老人は聞いていた割には、特に気にした風もなく言葉を続ける。
「リアから話は聞いている。新参者の冒険者用だったら、右の壁に立てかけられてるモノからその真下の商品棚のヤツまでだ。好きに選べ」
「ありがとうございます」
どうやら自分達は新参の冒険者の若者ということで話が通してあるようだった。
葵は礼を言って呆れたようにため息をついた後、いつまでも土下座している橙也の襟首を引っ張り移動する。
「まったく情けないったらありゃしない」
「だって怖いじゃん!あの爺さん、明らかに堅気じゃないよ!人を何人も殺してる目だよ!」
「聞こえてるぞ。小僧」
「スイマセ……ぐはぁ!?」
再び土下座しようとする橙也を葵は鳩尾に拳を叩き込まれ、橙也は崩れ落ちる。
「なにしてるのよ。みっともない」
「委員長に殴られたんだよ!」
「いちいち土下座しようとするからでしょ」
「どっちにしろ俺、床に伏せっちゃってるけどな!」
「それもそうね。ごめんなさい!」
変な所で素直に謝られて思わず何も言い返せなくなってしまう橙也。
しかしこの委員長、しばらく見ていない間に随分アクティブになってきている気がする。
いや元からこんな感じだったような気がするが、なんというか口よりも足の方が出るのが早くなってきているというか、より体育会系になったというか、何にせよ、これも城での訓練の影響だったら嫌な影響もあったものである。
しばらく飾られた武器を一通り見てみる。
ゲーム序盤などで装備するような質素な剣から、やたら刃が太い大型ナイフ(ククリ刀という奴だろうか?)とよりどり戻りだった。
「へえ。意外と揃ってんな……って重っ!知ってたけど鉄の剣ってやっぱり重っ!」
「はしゃいでるんじゃないの。一応武器を扱ってるんだから……怪我するわよ?」
「むしろ委員長は慎重すぎだろ。そんな壊れ物を扱うみたいにさー。……っていうか、よくそんな重たそうな槍もてるよね」
「身体強化、魔力の応用よ。これも習ったでしょ?」
雑談をしている内に、ふと橙也は一般の剣よりも、刃が刺突用に細長くなっており、鍔には装飾が施されているレイピアに目を付けた。
「見て見て。委員長にピッタリだろ」
「馬鹿にしてるの?」
「何でそうなるの!?」
なぜか再び委員長パンチが繰り出されそうな雰囲気が醸し出されたため、慌ててその場を取り繕おうとする橙也。
「ピッタリじゃんよ!委員長に!」
「どこがよ」
「いや何に対してもまっすぐな所とかさ」
「それからかってるの?というか今日は橙也君の為に……」
葵の制止の言葉も聞かずに勝手にカウンターまでレイピアを持っていく橙也。
「えーと値段は8万ガウルか二人で出し合えば買えるな」
「人の話を聞きなさい!っていうかもう買うのが前提なの!?」
「いやー勘だけど委員長にはこれだって思ったんだよ」
「勘って何よ。勝手なイメージを私に押し付けないでちょうだい!」
ちなみにガウルというのはこの世界の通貨であり1円=だいたい1ガウルぐらいの相場らしい。
カウンターの眼帯老人の店主は橙也達をじっと見つめた後急に立ち上がり『おい』と声をかけてきた。
のみならず立ち上がって、橙也をじっと見下ろしてくる。
この老人、思っていたより身長が高い。
隣にいる葵ですら、老店主の放つ威圧感に気後れしてしまっているようだある。
ここは男である自分が一肌脱がねばなるまい、と橙也は思うのだが。
脳内に出てくる選択肢は①土下座、②土下座、ⅢDO☆GE☆ZA、と自分でも泣きたくなるような選択肢のレパートリーであった。
自分は無意識に床を愛してでもいるのだろうか?
しかし店主の次に見せた反応は意外な物であった。
「オマケだ。これも持って行け。あとそこの小僧、指を出せ」
そう言いながらどこからか取り出したのは一つの首飾りだ。老人は橙也の指を掴んで自分の爪で指の腹に傷を作り出血させた。あまりの早業に葵は元より、やられた橙也本人も反応できなかった。
「痛っ!?」
「大人しくしてろ」
そうして指から滴る血を首飾りのペンダントの部分に落としていくそうするとそのペンダントは青く光り始めた。
「特殊な魔石だ。お前が生きている限りこれは輝き続ける。お嬢ちゃん、これはお前が持っていろ」
「え? ……あ、はい」
しばらく蚊帳の外であった葵はいきなり話を振られ彼女にしては珍しく慌てふためいている。そんな彼女を懐かしそうに見ていた老人は再び橙也に向き直った。
「お前みたいなガキは危なっかしい上に、すぐにどっかに飛んで行っちまうからな。女は泣かせるなよ」
「お、女!?」
顔を真っ赤にアワアワし始める委員長。
無骨で無愛想ながらも、店主のその目にはうっすらと暖かい感情が滲み出ていた。
とりあえず橙也はこの老店主にこの恩を返そうと誓った。
指痛いけど。
「イテテ。じゃあ、こんなことする前に説明してくれても良かったんじゃないですか?」
「怯えるお前の反応が見てて面白かったんだ。許せ」
橙也はこの老店主にいつの日か仕返しをしようと誓った。




