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第五話 鍛錬

一部のキャラの名前を変更しました。

 魔王と戦うといっても何もいきなりゲームのように資金と武器を持たされて、城の外にほっぽりだされるわけじゃない。

 勇者達は、魔法を操るための講義と実戦訓練をしばらくの間、受けることになった。

まさか異世界にまで来て学校の真似事をする羽目になるとは思わなかった、橙也達であった。


 講義の方は宮廷仕えの魔法使いのバドが取り仕切る。

 元いた学校の多目的ホールよりも少し広い部屋、本来は騎士達が活用するはずであった軍議室を改装した場所なのだが、並べられた縦長の机に座る勇者の卵たちにバドはこの世界の魔法について語り始めた。


 魔法とは、この世界における小さな自然エネルギーを大地や木、風などから集めてコントロールして様々な奇跡を実現させる術である。

 そして、その魔法は基本的に四つの属性。即ち火、風、水、土に分かれているが、それはあくまで基本で あり水の派生として氷や風の派生として雷、土からの派生である金や木といった物や、滅多にいないが光と闇といった属性も存在する。

 その人によって得意な属性魔法などもあるためソレを見つけ出すのが鍵となる。


「しかし異世界人である貴方達は我々よりも強い魔力を有し基本属性に縛られず様々な魔法が使える事でしょう」


 なんでも異世界『アース』の住人である自分達には体内から魔力を精製することができるらしい。それをかけあわせることでこの『ホロウム』の住人たちよりも強力な魔法や、二重属性による魔法なども可能になるらしい。(もちろんホロウムにも強力な魔法使いは存在するが)


(俺達の世界でいう気とか八極拳みたいなモンか?)


 橙也は隣でマメにノートをとっている黒永正行を尻目にできるかぎり目の前のファンタジー講義を解釈していた。


「あ、あのう質問いいですか?」


 そんな声と共に一人の女子が手を挙げて質問した。雪見アイラ。委員長である葵の親友で小動物系のオドオド女子だ。ちなみに当の葵は正行と同様にマメにノートをとり、さらに隣の親友である黒髪ロングの サバサバ系女子、忍足菫がはなからやる気がないのか机に突っ伏して寝ていた。羨ましい。

 そして、アイラが小柄な体と大きな三つ編みをふるふる揺らしながらバドに質問する。


「どうぞ」

「ええと。じ、じゃあなんで私達が使えて、この世界の人達が使えないんですか?あ、あのこんな事聞くの失礼ですけど、皆さん私達と同じ人間ですよね?」


 そう言われたバドは一瞬だけ沈痛そうな表情を浮かべたがすぐに消し去りアイラの質問に答えた。


「残念ながら我々にもわかりません。貴方達にしかない特別な器官があるのか、生まれ育った風土の違いか。様々な説がありますが原因が究明されてはいないのです」

「……そうですか」

「ですが一人もいなかったわけではありません」


 悪いことを聞いてしまったかとビクビクするアイラをバドが意外な言葉で付け加える。


「賢者『ノトス・ウインドウ』、わずか50年前にフラリと現れた天才魔法使いにして錬金術師、この世界に発展を促した偉人。彼は体内からも魔力を生み出すことができたようです」


 熱のこもった声で喋るバド、その男を尊敬しているのだろう。彼はノトスという男がどんな人物か喋り始めた。


 『賢王』『神の知恵を授かりし者』いくつもの名でよばれたその男は、当時人間同士で血みどろの争いを繰り広げていた人間の国を言葉一つでまとめ上げ、現在の連合の礎を作り上げたらしい。

 魔法においても当時、理論上不可能と呼ばれていた。召喚魔方陣や光属性と闇属性の魔法を確立し、魔法使い以外でも扱えるような特殊なマジックアイテムを作り上げ、果ては空を飛ぶ船までも作り上げた。


「飛行船があるんですか!?」

 思わず声を上げる優斗。

「ええ、運用するには結構な経費や資源を使いますが我が国にも一隻、存在します」

 『話がそれましたね』と咳払いしてバドは話の軌道を元に戻す。


「とにかく彼のおかげでこの世界の文化水準は1世紀早まったと言われています。ちなみに皆さんをこの世界に召喚させた魔方陣もノトスが製作したものですよ」


 その言葉に生徒の約半数ほどが(テメェのせいか畜生!)と思った。


「それでは皆様この魔方陣が書かれた紙の上に立ってください」


 そうしてこの世界の魔法の知識を教えられた後、橙也達は円状の幾何学模様の上に順番で立たされた。そうすると立った人間の周りに色とりどりの靄のような物が浮かび上がり、その人間の周りを漂った。


「ふむ……やはり扱える魔力が常人より多い。そして貴方は赤色の光が多さからみて火の属性のようです。炎系統の魔法を中心に覚えていきましょう」


 どうやら自分達の属性と貯蔵する魔力の量を量るものらしい。

 ちなみに葵は水属性。優斗は風属性と極端に基本属性が決まっているものもいれば、橙也や正行と均等に様々な色の靄を出している人間もいて、どちらかというと後者の方が多かった。

その中で一番皆を驚かせたのは先程バドに質問していた雪見アイラだ。


 他のクラスメイト達の十倍の白い靄を噴出させ、教室をモクモクと充満させて、皆が慌てて窓を開けるも衛兵が火事と勘違いして乗り込んでくる事態になった。


「あわわわわわ。ごめんなさいいいいいい!」


 そう言って涙目でバドに謝るも、バドは特に気にするでもなく感動に打ち震えていた。


「この白い輝きは光属性。しかもこの魔力量……素晴らしい!」


 そう言って目を血走らせ鼻息を荒くしアイラの両肩をガシッと掴むバドさん。


「貴方は100年に、いや1000年に一人の逸材だ。今日の授業が全て終わったら私の部屋に来なさい!貴方に見せたい魔導書や杖があります。さあ、共に魔道の極致を目指そうではありませんか!」


 そういって涙目でガクブルしているアイラの体をブンブンとゆすり続けるバド。完全に変質者のソレである。


「「いい加減にしろ変態親父!」」


 見かねた菫と葵に羽交い絞めにされてそのまま衛兵に引き渡されるバドさん。衛兵も慣れたかんじで『落ち着くまで牢屋に入れておきます』と連行していった。


「魔法が絡むとたまにああなるんです」


 去り際の衛兵が疲れた面持ちで言い残した言葉にこれからもあの人に魔法を師事しなきゃいけないと思いクラス一同不安になった。

 

 お次は体を動かす実戦訓練。といっても実際に魔物と戦わせるのはまだ早く今しばらくは基礎的な体力づくりである。今のところは。


 もちろんそのしごきっぷりは学校の体育の授業の比ではなく、しきっているリアという女騎士は見た目の美貌に反して鬼軍曹そのものと言って良かった。

 最初にあいさつした時は、端正な顔立ちと日本では滅多にお目にかかれない紫掛かった長い髪をアップにして束ね、胸当てを大きく盛り上げたその部位が男子達の目をひいたが(女子がそんな男子たちを侮蔑の目で見ていた)、いざ訓練を始めるとその本性をむき出しにした。


「脇が甘い!」

「なんだその構えは敵を舐めているのか!」

「遅い!今ので3回は死んだぞ!」

「何度言ったらわかる!殺す気で来い!」


 『力量を見る』と言いながらいきなり全員に木剣をもたせ一人づつ自分と1対1の模擬試合をとったのだが見事に全員ボコボコにされた。

 その後は、一人づつ構えや相手の動きの見切り方などレクチャーした後は基礎運動をとらせ、一時の休憩を与えた後は再び模擬戦という運びであった。


 しかし、二度目の模擬戦で前園優斗や月城葵は既にその才覚を現し始めていた。リアの連撃を全て受け切った優斗、彼女のスピードに長く喰らいついた葵、その二人にリアは確実に自分は追い抜かれるなと、満足げに語っていた。ちなみにリアがつけた成績の順位はこの二人の次に大橋俊や相沢由宇そして体育会系が続いていく感じだ。


そうして2週間が経過した。


「やあ橙也君」

「ん?正行、どうした?」

「少し匿ってくれないかい?」


 昼の休憩時間にお手洗いから戻る途中だった橙也はいきなり走ってきた正行に助けを求められた。何事かを問おうとすると彼を追いかけて茶沢とその取り巻き2人がやってきた。


「見つけたぜ正行ぃ!」

「今日こそは特訓に付き合ってもらおうかぁ!」

「もっともお前の役は的だけどな!」


「理解した」

「話が早くて助かるよ」


 相変わらず平然とする正行に『もう少し巻き込んだ事への罪悪感とかもってくれよ』と苦言を呈する橙也。


「こんな時自分からトラブルに飛び込んでいた君に言われたくはないね」

「うっ」

「いいから。何とかしてくれよ。友達だろ?」

「調子のいい時だけ友達呼ばわりすんなよな」


 自分達を無視して話を続ける橙也に茶沢以下2名は馬鹿にされていると勘違いしてブチ切れる。


「てめえ。虚仮にすんじゃねえぞ!」

「丁度いい!てめえも叩き潰してやるぜ須藤!」

「有り金おいてけえ!」


 テンションと怒りがマックス状態の3人に対し、さてどうするべきかと橙也が頭を捻らせていると、不意に水鉄砲が横から飛んできた。いや、もはや大きな水流と言ってもいいかもしれない勢いにいじめっ子3人は『ぐほおおおお!?』と叫びながら吹き飛ばされ、べしゃりと地面に転がる。


「ぶはっ!?何しやがる!」


 3人の内、一番早く持ち直した茶沢が飛んできた方向を見上げるとそこには委員長、月城葵が立っていた。


「あなた達はどこに行っても変わらないのね?」


 目を怒り一色にした葵に完全に萎縮しきった茶沢はチワワのようにプルプル震えるばかりだ。


「ち、違うんだ!聞いてくれよ委員……」

「言い訳無用!」


 その一言と共に繰り出されるビンタで再び吹っ飛ばされる茶沢、他の2人も橙也と正行でさえ茫然とその光景を眺めていた。


「あっぐう……畜生!おぼえてやがれ!」


 なんとかもう一度立ち上がって後、そんなテンプレなセリフと共に退散していく茶沢とその子分達を葵は見送った後、彼女は橙也と正行に目を向けた。


「怪我はない?正行君」

「ああ、大丈夫だよ」

「あれ?俺の心配は?」

「またあなたが事を大きくする前に止められてよかったわ……」

「そっち?いやあいつら止めるのに水魔法使った人に言われたくないんだけど!?」


 そう言いながら橙也はその場を立ち去ろうとするのを後ろから葵は呼び止める


「橙也君」

「明日は確か休日よね?」

「え?ああ、連日の訓練で疲れただろうからたまには休めってリアさんやバドさんが取り計らってくれたんだっけ」

「暇だったら少し付き合ってくれない?話したいことがあるの」

ほう、となにやら感心したような顔をしている正行がなんだか無性に気に障った。

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