第四話 謁見
かなり勢い任せです。
あと追加しました。しっかりキリよく話を作りたいです。
謁見の間。
衛兵に守られた重厚な門の向こうには、映画やテレビでしか見たことのないきらびやかな世界が広がっていた。
縦長のきめ細やかな豪奢な装飾が施された大広間に高い天井とそれにぶら下がった豪華なシャンデリア。橙也達の足元には赤いカーペットが敷いてあり、そのカーペットの両横には鎧を着込んだ兵士達が並び立っている。
そんな兵士達の向こう側にはこの空間にふさわしい上品なドレスや燕尾服を着込んだ人達・・・・・・おそらく貴族と呼ばれる人達だろう、こちらを好奇の視線で見ていた。
「おお! 待ちかねたぞ勇者達よ」
自分達が踏むレッドカーペットの先に置かれた玉座に座る中年の小太りの男を中心に数人の男女がいた。
「余がこのアウルディア王国の王。ロンベル・アウルディアである」
己を王と名乗った髭を生やした小太りの男は確かに気品があり顔つきからして痩せれば美形なのかもしれないが、どこか気弱そうで呑気そうな印象を受け、あまり王というイメージがしっくりこない。カイゼル髭によりなんとか威厳を保っている感じだった。
そして、そんな彼を挟むように橙也達と同じくらいの年齢の金髪の美少年と美少女が一人づつ立っており美少年のさらに隣にはオールバックの髪型でやせぎすの初老の男性がいた。
「ああ。彼らの紹介もせねばな。この子達は余の子供達。第一王子カイル・アウルディアと第一王女メルティナ・アウルディアだ」
王の紹介を受けて無表情で軽く会釈する王子と朗らかに笑いドレスの裾を上げて一礼する王女様。
そんな二人を見て橙也はああやっぱりな、と思った。王子など王様を痩せて若くしたような感じで超ハンサムだ。何やら一部のミーハーな女子達が彼を見て小さな声できゃあきゃあ言っている。
普段のクラスの調子が戻ってきて何よりである。
「そしてカイルの横にいるのは我が国の宰相、フォルド・グレイスである」
名前を呼ばれた。カイルの隣にいるやせぎすのオールバックは頭を軽く下げて一礼しただけで、後はひたすら鋭い眼で橙也達を見つめ続けた。
「それで詳しい話はバドに聞いたか?」
王の質問に皆一様にうなずき返した後、ロンベル王は痛ましそうな顔をして話を続ける。
「・・・・・・そなたらは本当に皆若いのだな。無理を言っているのは解っておる。しかし我々人類にも 手段を選んでいる余裕はない。奴等は日増しに力をつけている。生き残るにはそなたらの力が必要なのだ」
そういって玉座から立ち上がるロンベル王。
「力を貸してほしい。異界の子供達よ」
そのまま床に手をついて頭を下げようとする王をどこからか現れた使用人服の老人が慌てて羽交い絞めにして止める。
「おやめ下さい、王よ!貴方は一国の王なのです! それを易々と頭を下げるなど・・・・・・」
「し、しかしボードン・・・・・・」
「彼の言うとおりです。王よ」
同じくフォルド宰相が土下座をしようとする王を止める。ただしこちらは言葉だけで何のアクションも起こさず平然と立ちながらであるが。
「貴方は偉大なるアウルディア王国の王。下手にでる必要などありません。そもそも彼らは我が国の為に命を捧げられるのです。戦って死んだとしても、これ以上に名誉な事はありますまい」
フォルド宰相の理不尽な言葉にざわつき始める生徒達。当たり前だ。勝手につれてきておいて命を懸けるてしかも戦死するのを前提で話しているのだ。
「おい、オッサン。好き勝手言ってくれるじゃねえかアァ!?」
その中、茶沢が勢い良く生徒達の中から飛び出しフォルドに掴みかかろうとする。
「控えろ下郎」
「ヒィ!?」
しかしあまりにも冷たいフォルドの眼光による威圧だけで茶沢はその場でへたり込んでしまった。
そのままフォルドは腰を抜かしてしまった茶沢に歩み寄り、冷たい目で見下ろす。
「勘違いしているようだな。これは勅命だ。お前達に拒否権はない。逆らえば命はないものと思え」
その言葉と共に、先程まで静かに静観していた衛兵たちは槍を構え、生徒達に突きつける。良く見るとその奥には貴族達の何人かがクスクスと笑っている。
「フォルド!何もここまでせずとも・・・・・・」
「我が国いえ、ひいてはこの世界の為です。王よ」
あまりにも強引な手段をとる宰相に対し非難をする王、カイル王子は興味なさそうにうわの空。メルティナ王女は険しい目で宰相を睨みつけている。しかし当人はどこ吹く風といった面持ちだ。
王もそれ以上、強く出れず声を詰まらせる。
「貴方はこの世界の民とついさっき会った子供達どちらが大事なのですか?」
「しかし・・・・・・」
「これ以上、王妃様のような犠牲者を増やすのを良しとするのですか?」
「!」
宰相の言葉を聞いたアウルディア王は硬直したように固まりフラッと後ずさりそのまま玉座に座り込んでしまった。
「お父様!」
「王よ!」
思わず駆け寄る王女とボードンと呼ばれた老人。
王が顔に両手をつけて小さな声で呟いた『すまぬ』という言葉は誰にあてたのかは橙也達にはわからなかった。
そして一泊の間においてクラス担任の岡田先生が口を挟んだ。
「すいません。少しいいですか?」
そんな彼にフォルドは不快そうに目を細めた。
「彼らは呼び出されて間もないんです。もう少し話し合わせ、考える時間を与えてやってほしいんです」
そんなフォルドの視線も無視して話を切り出す岡田先生。
「念話でバドから聞いている。召喚に巻き込まれた哀れな男だな」
「この子達の教師です」
そう自己主張する岡田先生をフォルドは冷ややかな目で返した。
「残念だがお前たちの意志は関係ないこれは決定事項だ」
「僕がこの子達を説得します」
「何?」
「無理矢理戦わせるのと自分の意志で戦わせるのとでは大分違います」
当人の生徒達の前でいけしゃしゃという岡田先生に何人かの生徒があんぐりと口をあける。
「貴方達も役に立つ人材が欲しいでしょう?どうか猶予を」
しばらくしてフォルドは頭の中でメリットとデメリットの計算と圧倒的な優位に立つ者としてプライドを量りにかける。
そして・・・・・・
「よかろう。所詮は答えは決まっている。期限は明日の朝までだ。教師である貴様が説得しろ」
苦虫をかみつぶしたように結論を出した。
部屋を用意したというのでメイド達に連れられ貴族達や衛兵達に見送られる中、謁見の間を退出する生徒達に対し
『お前達は兵器だというのを忘れるな』
最後の最後で自分が支配していた空気に水をさされたフォルドは不機嫌そうに言った。
「先生?どういうつもりですか?」
葵が険しい顔で岡田先生に問う。
ここは勇者専用に用意された部屋の一つ、本来はこの国の上級兵や近衛兵専用の部屋を客人用として改造した物だと、メイドさんは言っていた。
一部屋に二段ベッドが二つ置かれ本来は一部屋四人分だというのに現在この部屋にはクラス全員が押し込まれるように集まっていた。
「そうだよ。先生!説明してください!」
「俺達を売ったのか!?」
「そもそも戦うのは確定してるじゃん!」
「おい。誰だ屁をこいたの!」
「茶沢だろ」
「茶沢だ」
「茶沢ね」
「違えよ!ぶっ殺すぞ!」
「すまん。みんな」
先程の落ち着いた姿勢が嘘のように焦燥した状態で岡田先生は言った。
「せめて時間を稼ごうと思った、皆で集まって話をする時間を。でも僕程度じゃこれ位が精いっぱいだ」
そんな様子を見て皆は担任を責めるのをやめる。
「いえ、……私の方こそすみません。さっきから状況についていけず先生や周りに当たりっぱなしでした」
「むしろ先生はあのいけ好かないオッサンに一泡吹かそうとしてくれたわけだしな」
謝る葵に続き担任の行動を素直に評価する橙也。恐怖を悟られないように気丈にふるまい、槍を構える鎧を着込んだ男達の前に身を乗り出して、己の恐怖を悟られないように振る舞い続けたのだ。十分にすごいと思う。
「なにより向こうが言うように俺達に拒否権はないようですしね」
優斗が決意を固めた顔でそう言った。
「今は勇者をやるしかないでしょう。先生、もう一度あの人達と話をすることはできないでしょうか。俺一人で戦ってみんなはこの城で……痛っ!?」
そんな事を言いかけたあたりで後ろから大橋俊が優斗の頭を小突き。隣にいた相沢由宇が足を踏んづける。
「かっこつけてんじゃねえよ」
「優斗君一人でやらせるわけないでしょう?」
「二人とも……わかっているのか?殺し合いをするんだぞ!これはリアルなんだ!」
突き放そうとする優斗に対し俊と由宇は動じない。
「ダチが危険な橋一人で渡ろうとしてんの。見逃せるかよ」
「私達にも手伝わせてよ」
そうして友情によって動いた彼らに続いて、別の決意を秘めたり、空気にあてられるなどして他の生徒達もやる気を見せ始めた。
「もう決まったことだし……」
「あのフォルドっていう人が大人しく城にいさせてくれるとは限らないしね」
「優斗君がいるなら大丈夫でしょ?」
「ゲームみてえなもんだろ?」
月城葵も『下の世界に戻るためには今はこうするしかないようね』と戦うことを決意し、須藤橙也は(こういうノリの良いところも俺達がよばれた理由なのかなー)と愚にもつかない事を考えていた。
そうして総勢三十二人の勇者達が誕生することに相成った。




