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第二話 召喚

「むにゃ……ん?」


 橙也は目を覚ましゆっくりと体を起こす。


「ふあ……あれ。俺いつのまに寝てたんだ?」


 そういって目をこすりながらあくびをかきながら辺りを見回してみる。 


「……え?ここどこ?」


 しかしそこはもう既に自分がいた教室ではなかった。

 周りはうっすらとした暗闇が広がっており、かろうじて床は教室の木のタイルとは違う冷たいすべすべとした感触、目を凝らしてみてみると石造りのようだ。大理石というやつだろうか。

 全く見覚えのない空間に意識が覚醒するごとに不安と恐怖が大きくなっていく。ここにいるのは自分だけか、クラスの皆はどうしたのだろうか、とようやく暗い空間に慣れてきた目を凝らして周りを見てみると、そこにはクラスメイト達や担任も自分と同じように横たわっていた。


「おい!大丈夫か!?」


 橙也は慌てて近くの生徒に駆け寄るが、保健の授業で気を失った人間を無暗に体をゆすってはいけないと習ったのを思い出して、何度も声をかけ、規則正しく呼吸をしている事を確認すると、どうやら自分と同じように寝ているみたいなので確認して安堵する。


(何でこんな事になってんだ……)


  橙也は記憶を遡り直前の出来事を思い返す。



 帰りのホームルーム。

 なよっとしていて頼りない印象を与えながらも割と生徒思いで評判のいい担任の岡田先生が連絡事項を伝えて最後に『気をつけて帰りなさい』とホームルーム終了の合図を送るとともに生徒達がそれぞれ動き始める。

 ある者はまっすぐ家路に、ある者は部活で青春の汗を流しに、ある者はそのまま教室に居座って友達と談笑をする。

 橙也は黒永正行がゲーセンに付き合ってくれるか返答を聞こうと彼の席へ向かおうとする。


 そこで異変が起こった。

 突如として教室の床から光る幾何学模様が浮かび上がり、教室中に広がったのだ。幾何学模様からは光る粉の様な物が散布されて、教室中に蔓延する。

 あっという間に教室は光の粒子に包まれる。


「え!?何これ?」

「嘘……毒ガス!?」

「でもちょっと綺麗かも」

「馬鹿。何暢気してんだよ!」

「岡田先生!」

「わかっている!みんな落ち着くんだ!」


 そういいながら名前を呼ばれた担任は教室の扉を開けようとするも、扉が開かない。それどころか広がる幾何学模様がその扉にも浸食しており完全にその教室という空間を固定する。


「くそ!開かない!」

「どけよセン公!俺が叩き壊してやる!」

「眩しい・・・・・・何も見えない」

「助けてえ!お母さあん!」


 皆が一様に騒ぎ立てるもそれで光が収まる訳もなく、それどころか光る粒子増え続け渦巻き、奔流となって生徒達を飲み込んでいく。

 飲み込まれた橙也は光に耐えられず目をふさぐが、そのまま意識が遠のいていき、最後にはぶつんと気を失ってしまった。



……ここまでが橙也が覚えている顛末である。

 なんとか事前の出来事を思い出すことができた橙也はこれからどうするのか、というかここはどこなのか、と考えていると他の生徒が次第に自分と同じように意識を取り戻し起き上がってきた。


「うぅ」

「あれ?ここどこ……」

「千里……千里?しっかりしろ!」

「みんな!全員無事か!?」


 他の皆がそれぞれが意識を回復させて状況の確認や、親しい者の無事を確認したりまだ意識が戻らぬ者への呼びかけを始めたりする中、不意にどこからか歓声と共に拍手が聞こえてきた。


「―――――――――――――」


 もっとも歓声というのはあくまで声色で判断したかぎりであって、言葉自体は外国語で何を言っているのかわからない。少なくとも英語ではなさそうだ。

 そんな事を考えていると薄暗い空間が辺りから火がともり視界が広がる。

広さは自分達の学校の体育館ぐらいで大理石の床に円柱状の柱。まるでどこかの神殿の祭壇のようであった。

 しかもよくみるとその床には教室で自分達を囲み光を発していた。幾何学模様の円陣が記されていた。


「まさか俺たちこれで移動してきたのか?」


 橙也はそう呟いた後、『まさか漫画じゃあるまいし』と否定しようとしたが口が動かなかった。既に頭の中で薄々勘づいていたのだ。自分達はこの漫画の様な方法で飛ばされてきたのだという事に。

 そして、視界が良くなった周りに視点を移すと周りには白いローブで顔まで隠した人間達が立っていて、そのうちの一人がしきりに何かを話しながらこちらに近づいてくる。

 おそらく声の低さからしてみんな男だろう。

 何を喋っているのか相変わらずわからないが。


「――――!」


 白いローブの男はやたら興奮した面持ちでさっきからイロイロと熱弁しているようだが、こちらは彼が何を言っているのかやはりわからない。こっちは授業で英語しか習っていないというのに勘弁してもらいたいものだ。


「――――?」


 意志の疎通ができず怯えうろたえるしかない生徒達を見て、白いローブの男はようやく言葉が通じないことに気づき、慌ててどこからか本を取り出す。

 するとその本を開き何かを呟くと、本は薄く輝きだして、開いたページから文字の様な物が浮かび上がり、生徒達の方へ体に入り込んでいった。

 最初、何をされたのかと慌てふためく生徒達を尻目に白いローブの男は再び喋り出す。


「失礼。貴方たちが他の世界から来たという事を失念しておりました」

「あれ?言葉がわかる?」

「ええ通じますとも、そういう魔法を使いましたからな」


 思わず呟いてしまった橙也の言葉に対して律儀に答えを返す白いローブの男。先程まで何を喋っているのか理解できなかった彼等の言葉が理解できるだけではない。彼等もこちらの言葉が理解できるようになったようだ。

 しかも魔法という恐ろしいくらいファンタジー感満載な言葉と共に。


「おお。自己紹介がまだでした。こんな顔も見えない状態では失礼でしたな」


 そう言って顔にかかるローブを取り出した。そこにはあきらかに日本人ではない彫の深い顔をした40代位の初老の男が髭を撫でながら柔和な笑みを浮かべていた。


「私の名はバド・オールストン。宮仕えの魔法使い・・・・・・宮廷魔術師です」


 魔法使い?非現実で突拍子もない事を言い出す目の前の男にさらに頭の中が混乱する生徒達。しかし男はさらに突拍子もない事を言い出した。


「この世を乱す魔王を倒し、我らをお救い下さい。勇者様!」



 何を言われたのかわからないクラスメイト達と真面目な顔でこちらを見てくる。白いローブの男達、しばらくの間静寂がその部屋を支配したが、その静寂を破ったのは委員長、月城葵であった。


「『魔王を倒せ』って・・・・・・わけのわからないことを言わないでください!ふざけてるんですか?そもそもこれって完全に誘拐じゃないですか!」


 そんな葵の言葉を皮切りに何人もの生徒が続いて抗議しはじめる。


「そ、そうだ。これは犯罪だぞ!わかってるのか君たちは!」

「パパとママの所に返して!」

「うん……よく寝た。あれここどこ?」

「スマホつながんない……」


 委員長の向こう見ずで恐れ知らずの一言を皮切りに一様に騒ぎ出す生徒達。ちなみに黒永正行はさっきまで寝ててようやく起きたようである。

そんな彼女達の抗議にバド老人は予想していたと言わんばかりの余裕の態度で彼らを宥めつづける。


「お気持ちはわかります。落ち着いてください」


 その様子がさらにクラスメイト達の反感を掻き立て、葵はさらに何かを言おうとしたがそれを前園優斗が手で制する。


「みんな、落ち着こう。とりあえずこの人達の話を聞いてみようよ。俺達には情報が不足している」

「そうだね。どちらにせよ、この状況では僕達は圧倒的に不利だ。今は彼らのいう事を聞いたほうがいいだろう」


 優斗の言葉に相槌をうつ岡田先生。


「……そうね、わかったわ。みんなごめんなさい」


 優斗や担任に言われて、ようやく頭が冷えて冷静に物事を対処できるようになった葵は大人しくなり身を引く。一緒に騒いでいた生徒達も同様だ。


「あなた方は大切な客人だ。手荒なことはしません。それではこちらへどうぞ」


 バドはこちらが落ち着くのを見計らって、部屋の扉を開けさせる。

生徒達についてくるように促しながら、扉の奥へと進み始める。


「王がお待ちです。我々の今置かれている状況は歩きながらでも話しましょう。簡単な質問も受け付けますよ」

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