第十四話 説明(魔王城)
あれ!?レディア様!
よかったあ!ようやく連絡が取れました。
一体どこに行ってたんですか!心配したんですよ?
ケガ人を逃がせって言って、私を先行させたと思ったら階段を爆弾で塞いじゃうなんて・・・・・・!
しかも塞がった壁の向こうから今度は転移で戻るから外で待ってろとかいっておいてダンジョンはまるごと消えてなくなっちゃうんですもん!
本当どうなることかと思いましたよ。
みんなでずっと探してたんですからね!
本当、メアリーさんの言うとおり、連絡用の札を持ってきておいて良かったですね。
使い捨てのものですから大切に使ってくださいよ?
え、迎えに来てほしい?それはもちろん言われなくてもそのつもりですけど、一体どこにいるんですか?
なんというか意外です。勝手に一人で帰るとか、貴方なら言い出しそうなものなのに。
はああああああ!?
なんでそんな所にいるんですか?
帝国領ギリギリじゃないですか!下手すればそのまま帝国兵に捕縛されて大変なことになってますよ!
もう少しご自分の立場をご理解なさってください!
そもそも私はレディア様がアウルディアに行くこと自体反対だったんです!
ロメル爺様やリーナ姉様は笑って許すでしょうが、私は許しませんよ!
ええ説教です!説教地獄ですよ!
そんな事よりも早く助けに来い?
なんでそんなにエラそうなんですか・・・・・・もう少し反省というものを覚えてください。
まあ、レディア様らしいといえばそうですが。
……はあ、それもそうですね。それでは詳しい場所を教えてください。
あら、帝国領と言っても本当に辺境ですね。
魔物も少ないと聞いていますし、何より帝国の砦らしきものも見当たらなさそうです。
これならなんとか迎えにいけそうです。
あれ?そんな歯切れ悪そうにして、まだ何かご用件があるのですか?
え……それ本当ですか!?
確か王都であった人ですよね?
なんでその方も一緒に……というか連れてきちゃうんですか!?
だってその方は我々の天敵ともいうべき人じゃないですか!
わかりました。
ロメル爺様に話を通しておきますし、回復ポーションと薬草の準備をしておきます。
◆
「トーヤ様、お食事の時間でございます」
「トーヤ様、そろそろ包帯を取り替えなければ……」
「トーヤ様、お薬の時間でございます」
橙也は混乱していた。
スケルトンの強襲。レディアさんの変身。正行との戦い。
目が覚めるてから数日、城のベッドで可愛いメイドさん達に甲斐甲斐しくお世話されていた。
それはいい。むしろ歓迎すべきところだ。マジで有難うございます。
幸せすぎて混乱してます。
しかしこのメイドさん達、なぜ頭に角や羽が生えてる人やら、耳がツンと長く尖っている人やら、さらには以前のラナのようなケモミミ尻尾の人と……おそらく彼女と同じ獣人さんだろう。
明らかに彼女達は普通の人間ではなかった。
まあファンタジーだし、ていうか美人だし男としては全然些細な事なんだけどな!と、わりとダメな感じで開き直る(というか現実逃避)することにした橙也であった。
一方でやはり気になるのも事実、そもそもこの城自体が明らかにアウルディアの城ではない。
アウルディア城は調度品や回廊とすみずみまで手入れが行き届いており、豪奢で荘厳な雰囲気だったが、 こちらは地味というか古めかしい。ただその古めかしさがこの城の歴史の重みと建物の威厳を感じさせる。それでいてどこか安心した雰囲気を与えてくれる。。
(こういっちゃあなんだが、あの城は綺麗すぎて少し落ち着かなかったからなあ)
そんな事を考えていると、部屋の扉が開きダンジョンで嫌というほど見知った顔がこれまた城下町で見知った小柄な獣人の少女を連れて入ってきた。
「あ、どうもレディアさん。おかげさまで助かりました」
「礼はいらないよ。私も向こうでは助けられたし、これで貸し借りなしという事にしてくれると助かる」
「助けるだなんて……むしろこっちが助けられた数が多すぎるんですが」
それよりも橙也は目の前の彼女の正体を聞きたかったのだが、疑問を口に出す直前、レディアの方から衝撃的な一言を語りだす。
「それよりも魔王城の居心地はお気に召したかい?」
「はいとても快適で……は? 魔王城!?」
いきなりとんでもワードを聞かされて混乱する橙也をよそにレディアはマイペースに話を進める。
「まずは改めて自己紹介だな。レディア・フレイドーラ。元魔王だ。」
「え、あ……す、須藤橙也、勇者です。どーぞよろしく」
◆
元魔王レディア
正直ダンジョンでのあの姿を見たとき、明らかに人間じゃないとは思ってはいたが、まさか魔王とかボスクラスの人だとは思わなかった。
「俺が勇者だって知っていて近づいたんですか?マジですか!?」
「いや、最初会った時は偶然だよ。マジで……マジってどういう意味だ?」
魔王とは思えない程、砕けた口調で喋り出すレディアに橙也は面食らう。
「確かに私達はアウルディア城で感知した巨大な魔力反応を調べに危険を承知で自ら潜入していたが、まさか勇者召喚とはな」
「ああそれを調べに来たんですか……ん?魔王さん自ら偵察に来たんですか!?」
「そうだが?」
「あなた魔人達の長ですよね?」
「元な」
橙也が唖然としていると、レディアは何か変なこと言ったか?という顔で周りを見回すとメイド達は皆苦笑いをしてラナだけは青筋を立てて彼女に説教を開始する。
「前から仰っていますがレディア様はご自分の立場をの自覚が足りません!そもそも貴方がちょっと人間領行ってくるとか遠足感覚で飛び出さなければこんな大事にはならなかったんですからね!」
「だって気になるんだもんよ」
「だもんよ、じゃないです!」
「でもいつも最後はお前らもついてくるだろ?」
「仕方なくですよ!あなたをお一人でみすみす敵地に行かせるわけにはいかないでしょう!」
橙也を完全に無視し、ラナは怒鳴り声交じりに説教しているが、レディアはそれをどこ吹く風と受け流しているため、ラナの方は喋り疲れてへたり込んでしまった。
その折を見て橙也は再び質問をする。
「その魔王様がなんで勇者である俺を助けてくれたんですか?」
「だから元魔王といってるだろ。その称号はとっくに弟に譲っている」
そこまで言った途端、ラナが再び立ち上がり話に介入してきた。
回復が早い。
元気で何よりである。
「譲る?あれが!? ドランド様は弱っていたレディア様へ無理矢理に座をかけた決闘を仕掛けて奪ったんじゃありませんか!」
プリプリと怒り出す褐色のケモミミ少女、ラナ・ウルファン。レディアのお目付け役とのことだ。
「あらあらいけませんよ、ラナ。お嬢様たちの話の邪魔をしてしまっては」
「でもリーナ姉さま!」
二十代くらいだろうかラナと似た顔つきのメイド服を着た獣人の女性に窘められるも、言い足りないのか、なおも騒ぎ続ける。
「あの時はリーナ姉さまも私以上に怒っていらしたではありませんか!それどころか姉さまが一番に短剣を片手に闘技場に飛び出し……ムグ?」
「申し訳ありません。妹が粗相を、我らは少し席を外します」
そう言ってリーナと呼ばれたメイドさんはラナの口を片手で塞いで退出する。
他の二人のメイドも彼女達に続いて部屋を出て行ってしまい、部屋は橙也とレディアの二人きりとなってしまった。
橙也は色々と言いたいことがあるが、何から話せばいいかわからず、口がどもってしまっている。
レディアはしばらくだけ、その様子をおかしそうに見た後、話を切り出した。
「まずお前を助けた理由から話そう。私達はお前ら人間と戦う理由がそもそもない」
「何を言っているのかわからないんですが……」
「とりあえず、そうだな魔人と人間の戦争の成り立ちを話すとしようか」
このホロウムでは四種族がそれぞれ種族間の小競り合いを多少にくりかえしながらもそれなりの平和を保って暮らしていた。
しかし突如として魔物が凶悪化と大量発生を起こした。
人はこれを全て魔人による仕業だと判断し魔族領に侵攻を開始した。
「ちょっと待て!魔物ってあんた達が操ってたんじゃないのか?」
「違う」
王国で聞いた話との食い違いを指摘する橙也だが、レディアはにべもなく否定する。
「そういう魔法も存在するし我々魔人は魔力が飛びぬけて高いが、それでもあれほどの大量の魔物を操ることはできない」
持続性の問題とそれに比例する魔力の量もある。
仮に群れの長だけ操ろうにも長だけでも何百・何千と存在する。はっきりいって割に合わない。
ついでに魔物を躾ける調教師はあくまで奴隷魔法と鞭で長い時間をかけて躾けるそうだ。
「それをどうにか人間の方に証明することはできないのか?」
「一応、何度も交渉も説得もしたのだがな」
全て無碍にされた。それどころか関係のない獣人達すらも魔人と手を組んでいると難癖をつけて獣人の領にまで侵攻しはじめる始末だ。
「正直な所、我々の土地や我々魔人を奴隷として欲しいというのが本音だろう」
最初は防衛線に徹しているつもりだったが次第に人間達の攻撃は激化。魔人達内部でも、いつまで黙ってやられているつもりかとの意見も出て、その声は次第に大きくなり始めた。
その声たちの代表者がドランド・フレイドーラ。レディアの実弟である。
「あいつも必死なんだ。同胞達の為にな」
先程まで淡々と感情を隠すように喋っていたレディアに、ここで僅かに感情が漏れたが、橙也は知らないふりをした。
その感情が悲しみと後悔であった事がわかっていたからだ。
「あとはラナの言うとおりだよ。魔王の座をかけて決闘して私は負けた。そして新しい魔王となった弟は魔人の戦士達と人間の侵略から逃げ延びてきた獣人達を率いて今は戦争中だ」
「でもその時のあんたは弱ってたって……」
「ああ、定期的になそうなるんだよ。持病みたいなもんだ」
そこだけバツが悪そうに顔をしかめるレディア。
後ろから持病ではないしょう、と小さい呟いき聞こえて、振り返ると扉のすき間からラナがジト目で覗き込んでいた。
レディアは気付いているのかいないのか、そのまま話を続ける。
「あいつも私の身体の事を知ってたはずだ。だが私は卑怯じゃないと思う、それも戦略の一つだろう」
「よくわからないです」
「……話がズレたな。まあここまでがお前らと敵対しない理由だ。ここからは助けた理由にするには少し弱いな」
そう言いながらレディアはいきなり近づくや否や橙也の身体に手を置き、体は動くか?と問う。
レディアは見た目だけなら結構な美人であるため内心ドギマギしながらも、できる限り顔には出さないように苦心し、言われた通りに橙也は体を動かして怪我の具合を見る。
問題はなさそうだ。
その様子を見たレディアはよろしいと、外へ促す。
「もう一つお前に見せたいものがある。ついてこい」
「どこへ?」
「会わせたい子がいる」




