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第十三話 始まりの終り

『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 鬼女の咆哮がダンジョン全域に響き渡る。


「なんださっきの声は?何が起きてる?」

「足を止めるな。ユウト、このまま走り抜けるぞ!」

「先に行った皆は大丈夫でしょうか・・・・・・」

「どうだかな。逃げ遅れた奴もいるかもしれねえ。だが、俺達がここにたむろっててもしょうがねえ」


 第3層でのスケルトン達を足止めしていた優斗とロムダはそこにいた人達が皆避難したことを確認して撤収。

 優斗はまだ5層に行ったきり戻ってこない正行や橙也を助けに行きたかったが、自分達までここでスケルトンの餌食にされては元も子もないというロムダの説得を聞きいれた。

 そうして現在ダンジョンの出口を目指して第2層を走っていた。


「ひいいいいいいいいいいいい!」

「助けてくれ前園ぉ!!」

「死にたくねえよお!」


 しかしそこに先に退避したはずの茶沢達がスケルトンに襲われていた。

彼らは2層の攻略組で自分達よりも早く退避を確認していたはずだ。

 おそらく足をやられて動けないのだろう、茶沢は太腿から血を流しながら這いずり取り巻きの一人のズボンを掴んで離さず、もう一人はスケルトンに囲まれ必死で剣を振り回していた。


「今助ける!」

「優斗、待て!……クソッあいつら何をしてやがった!」


 彼らの下へ駆けだす優斗とここにはいない部下へ毒づくロムダ。

 実際の所、茶沢達はダンジョンを踏破していくうちに調子づいてもっと強い魔物を狩ろうと護衛騎士の制止を振り切って、奥まで進む途中にスケルトンの奇襲を受けて、必死に逃げている内に気づけば囲まれてしまったのだが、そんな事情は彼らが知る由もなかった。


 優斗はそのまま身体強化と同時に風の防御魔法を使い体の周辺に風の防護壁を纏いスケルトンの群れに突っ込む。

 そうして三人の周りを群がっていたスケルトン達を吹き飛ばした後、茶沢達に向き直り、回復用のポーションを渡して早く逃げるように促す。


 ポーションを渡された茶沢は何か言おうとしたが、恐怖が勝ったのかすぐに足の傷にポーションをぶっかけ、そのまま他の二人と一緒に出口へ走り去ってしまった。

 とりあえずあの元気ならダンジョンを抜けられそうだ、そう優斗は安堵する。だがその隙をスケルトン達が見逃すはずがなかった。

 足元で倒れていたはずのスケルトンが飛びあがり、胸の部分から肋骨が飛び出しガッチリと優斗を捕縛する。


「なっ!?」


気付いた時には手遅れだった。即座に周りのスケルトンが群がり剣を斬りつけてくる。


「っ!!」


 優斗は死を覚悟して目を閉じた。

 しかしいつまでたっても何の痛みも衝撃も感じない。

 一体何が起こったのか。おそるおそる目を開けると、そこには背に剣をいくつも突き刺したロムダが血まみれで立っていた。


「ロ、ロムダさん?」

「ごぼっ・・・・・・手のかかるガキだ」



『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


 頭を掴まれたゴーレムはランスを振りかぶり、突き刺そうとするも、その前に赤い鬼女と化したレディアはゴーレムを投げ飛ばした。

 ゴーレムは逆さで壁に叩きつけられてランスを取りこぼす。

 しかし、すぐに体勢を立て直して起き上がる。

 そうして三度口を開き充填を開始、あらかじめチャ-ジしていたのだろうか今度は前のように長い時間はかけずに魔力砲を発射させた。


 ところが、レディアはソレに対し特に慌てずそれどころか、フンと鼻を鳴らし鬼面の牙だらけの口を広げて大きく息を吸い込む。


ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ


 そうして吐き出される火竜にも勝るとも劣らない炎のブレスを吐き出した。

ゴーレムが発射した高密度の魔力球とぶつかり合うも、拮抗したのはわずかな時間で魔力球はあっさりと炎に飲まれ阻むものがなくなった炎の嵐はそのままゴーレムを飲み込んだ。


『ギぎぎギギッギ――』

 

 ゴーレムは断末魔の様な駆動音を響かせてなんとか己の身体を焼く炎を消そうともがくが、炎は一向に消える様子はない。

 その様子を見たレディアは転がっていたゴーレムのランスを拾い上げる。


『とどめだ』


 次の瞬間レディアは思い切り振りかぶり、飛ばされたランスは元の所有者であるゴーレムを貫いた。

 そこはゴ-レムの魔力制御と機動管理を担う心臓部であった。

 その急所を貫かれ、ようやくゴーレムは機能を停止した。


 ゴーレムが行動不能になったことを確認したレディアは倒れている橙也の方へ向き直る。

どうやらまだ気を失っているらしい事を確認すると心の中が妙な安堵に包まれる。


(絆されたものだな。私も)


 とりあえずこのまま転移して外に移動するか、それともこいつの友人でも捜してやるか、そんな事を考えていると急にゴーレムが喋り出した。


『素晴らしい!人間国の結界で弱体化していながら僕の自信作をこうも簡単にあしらうとは!さすがは魔王!この世界最強の魔人の末裔です!』


 甲高い男の声が聞こえる。おそらく胸の心臓部とは別にゴーレムの頭部に内蔵された風の魔法を編み込んだマジックアイテムで音を操り伝えているのだろう。

 レディアはとりあえず情報を引き出す前に、先程の言葉の間違いを訂正させようと思った。


『私はもう魔王じゃない。その座は弟に譲った。今はアイツが魔人の長だ』

『ドランド公ですか?その結果、人間と魔人の戦争が激化してしまうのですから皮肉ですよねえ』


 こいつは何者だ?一体どこまで知っている?そう言おうと思ったが、いきなり所々から爆音が響き渡る。


「ここももう限界だ。今日はただの御挨拶に伺った次第です」

『ハッ!直接顔も出さず挨拶ときたか!』


 その言葉に声の主はとても残念そうではあるがレディアと会話ができることに嬉しそうでもあった。


「ええ残念です。本当は直接会いたかったのですが、私にも仕事がありますし、なによりも・・・・・・」


“彼の存在はさすがに予想外でした”


 その言葉と同時に後ろから更なる衝撃が走る。次の瞬間レディアの巨躯に背中から血しぶきが走る。


『ガッ……ハ?』


 レディアが慌てて向き直るとそこには巨大な黒い大剣を纏った黒永正行が立っていた。

 しかし普段の彼を知る者・・・橙也や葵が見れば目を疑っただろう。

 体中から禍々しい魔力を纏い、その表情は喜悦を浮かべており、レディアを見るその目は極上の獲物に狙いをつける狩人のソレだ。


 レディアは彼が持つ大剣に見覚えがあった。魔法使い、錬金術師としても名をはせたノトスが造り上げたマジックアイテムは武具としても1級品のものであり魔装具と呼ばれた。あの剣はその一つだ。


『ああ魔王レディア。傷を負い苦悶の表情を浮かべるあなたの姿も美しい!』

『貴様!あの人間に何をした!』


 レディアは既に動きこそしないものの若い男の声が響くゴーレムに怒鳴るが男は心外だと言わんばかりに声に不機嫌さを滲ませた。


『何もしてませんよ。言ったでしょう私も予想外です。気付いたらあの無粋な魔剣を持って僕の作品達を壊しながらここまで来たんです』


 その男は無粋という言葉に一層の嫌悪感を滲ませていた。


『それではごきげんよう、レディア様。あなたならこの程度の窮地簡単に乗り越えられる。信じていますよ?』


 そのままゴーレムは岩の下敷きになり、今度こそ声は途絶えた。

 レディアは舌打ちしながらも、そこに眠る橙也を回収しようと手を伸ばすが、そこへ再び正行の凶刃が襲い掛かる。


『やめろ。私は・・・・・・』

「何をやめろっていうんだい?君は魔物だろ?じゃあ退治しなくちゃダメじゃないか」


 笑顔を浮かべて大剣を突き付けて向かってくる正行を見て、レディアは冷静に目の前の少年を注意深く洞察する。

 最初はあの剣に乗っ取られていると思っていたが、どうやらこの少年は乗っ取られていないようだ。

 自我を確立した上で自分に殺意を向けてきている。


「ずっと君は僕を待ってたんだね……」


 正行はその大剣を10年来の友人に対するような親愛を滲ませた視線で見つめた後、レディアに向き直り体中から黒と紫の魔力を放出させた。

 その魔力の影響か周りの大気がビリビリと音を立てている。


「ずっと骸骨ばかりで味気なかったろう?さあ、最初の食事だよシオン」


 その言葉と共に正行の周りを2色の魔力の奔流が渦を作り包み込む、剣を振り上げレディアに向かい走り出す正行。


(せめて弱体化の結界の外なら……あの姿にもなれるものを!)


 一瞬そんな事を思うがいまさらそんな仮定を考えても仕方ないと思い直し、体中の魔力を絞り出す。その技は以前バドが言っていたアースから来た人間達しかできないはずの技であった。

 それを見た正行は一瞬面食らったような顔をしたが、獲物の抵抗を楽しむ狩人の表情へと戻る。


「へえ、シオンが言った通りだ。君も同じなんだね!」

『貴様……どこまで知っている!』


 口ぶりからあの魔剣から知識でも貰ったのか、この正行という男は自分の出生と系譜を知っているらしい。

 そう思ったレディアはここで橙也がゴーレムに殺されかけた時以上の動揺した。

 正行はその隙を見逃さない。


 気付けば、魔剣は形状が大剣から形状が細くなりバスタードソードの形になり、そこから細かい連撃をレディアに斬りつける。


『出鱈目な……ぐぁ!?』


 しかもそれだけではない。斬りつけられるごとにレディアの傷口から光の粒子が漏れ出て正行の剣に吸い込まれていった。

 レディアは魔力を吸い取られていたのだ。


「君が強ければ強いほど、この子の食事の量は増え、その分だけ力を取り戻す。」


 尋常ではないダメージを受けたが、その分冷静さを取り戻したレディアは正行の言葉を無視して、ひたすら練り上げた魔力を床下の魔方陣に注入する事に集中する。


「逃げるの?できないよ。さっきシオンがこの辺一帯の魔力の力場を狂わせたからね。転移できてもどこに飛ぶか分からないよ?だから大人しく食べられてよ」

『貴様!何が目的だ!』


 正行の言葉に我慢できず、思わず問い返すレディア。


「目的?そうだね。とりあえず今やりたいことと言ったら君をこの子に食べさせる事かな」


 今日の献立はカレーにしよう、そんな気軽さで剣を大剣の形に戻し大きく振り下ろす正行。


 ガキイイイイイイイイイイイイイイイイン!!


 しかしその刃は彼女には届かず、代わりに金属同士がかち合う音がダンジョンに鳴り響く。


「今だ!レディアさん!」


 須藤橙也がその大剣の一撃を真横に構えた刀で受けていた。

 しかし高密度の魔力を帯びた正行の一撃は凄まじいもので刀を腕事押し返された橙也は肩口に大剣の刃が食い込む。

 それでも橙也は肩口から走る鋭い痛みと出血のショックに耐えながら叫んだ。

その言葉を受けたレディアはありったけの魔力を注ぎ込み、転移を発動させた。


 光に飲み込まれていく中、正行はついさっき殺しかけた相手とは思えない口ぶりで橙也に語りかける。


「酷いな。橙也は僕よりそこの化け物をとるのかい?」

「そりゃあ目を覚ましてあの姿見た時は面食らったけどな。命の恩人だし結構いい奴だぜ?」

「相手がどうだろうと君は相変わらずだね。まあいいや決着は次だよ」

「おい、勘弁しろよ!なんで決着!?ロクに戦ってすらいないのに、なんで少年漫画みたいな関係になってんだよ。俺達!」


 先程一瞬とはいえ、命のやり取りをした者同士とは思えない掛け合いをする橙也を後ろからレディアが掴む。


 そしてその転移の光はそこにいたレディア・橙也・正行に終わらなかった。

 正行がシオンと呼ぶ魔剣が魔力を掻きまわしたのが原因か、レディアが魔力を注ぎ込み過ぎたのが原因か、何者かがあらかじめ転移の陣に何か細工を施したのかは定かではない。


 分かることはその転移がダンジョンそのものに作用した。

 ダンジョンに残っていた冒険者。

 ロムダの亡骸を抱きかかえる優斗。

 他の逃げ遅れたクラスメイトの勇者達。

 あるいは彼らの死体。

 生息していた魔物。

 隠されていた宝。

 打ち捨てられたガラクタ。

 ダンジョンを構成させていたもの全てがバラバラになってこの『ホロウム』全土にランダムで転移された。



 そこにはぽっかりと空いた巨大なクレータがあった。

 かつてアウルディア王国の第12迷宮が存在した場所だ。

 謎のスケルトン……後の調査で模したゴーレムだと判明されたそれらの襲撃から1か月。

 何人もの犠牲者が出た。いまだに行方不明者も多数。いまだに発見の目途はたたず状況は絶望的だ。

 冒険者や騎士達はもちろん自分達のクラスメイトも32人中10人も戻ってきていなかった。

 その中には須藤橙也、前園優斗、黒永正行もいる。

 だがそれでも月城葵は希望を捨てない。


「葵ちゃん」「葵」


 後ろから声がかかる。雪見アイラと忍足菫だ。どうやら自分を迎えに来てくれたらしい。


「まだ生きてる」


 彼女達に言ったのか自分に言い聞かせたのか。葵は右手に持ったいまだに光を失わないペンダントを見つめて静かに言った。


「私はあきらめない」


 最後にそう言って葵は二人の下へ戻る。彼女はペンダントを首元に戻し左手で腰元のレイピアを強く握りしめながら決意を新たに進み続ける。

正行君の経緯はまた改めて書きます。

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