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第十一話 ダンジョン攻略(中篇)

 勇者達32人は騎士の護衛3人をつけて5・6人のグループに分かれる。

 グループごとに1層づつそれぞれの階層にて魔物狩りを行う。橙也達が潜ったダンジョン地下5層には生息しているのはゴブリンと大ミミズ。気を付けてかかれば、なんてことはないとロムダは言っていた。


「ギシャアア!」


 居場所を荒らされたゴブリンが怒声を放ち棍棒を振り上げ襲ってくる。それを橙也は刀を収めた鞘ごと受けるが、緑色の子鬼は見た目と違って思ったよりも力がありそのまま押される。


「このっ……」


 そのまま壁際まで押される橙也は魔力による身体強化を発動、踏みとどまりゴブリンを身体ごとはじき飛ばす。


「ギィ!?」


 古い石畳の床に転がるゴブリンを橙也は追撃して脳天に一撃叩き込む。溢れるゴブリンの血に思わず身じろきしそうになるが、なんとかこらえる。

 そうしてゴブリンはぴくりと動かなくなった。


「よっしゃ、やった!」


 これ見よがしにガッツポーズをするも、共にいるグループは皆それぞれ相対するゴブリンの相手に必死でこちらに目をくれない。

 ちょっとした寂しさを振り払いつつ、他の仲間のサポートに回ろうか、などと考えていると、後ろから先程、仕留めたと思っていたゴブリンが頭から血を流しながら襲い掛かってきた。


「ギィイイイイイ!」

「どわぁ!?」


 気付いたが遅い。そのまま押し倒される橙也、しかもその拍子に刀も地に転がしてしまった。

そのまま橙也に馬乗りになったゴブリンは、緑色の肌を持つ醜悪な鬼面を喜悦に歪ませて、どこから拾ってきたのか両手に持った岩を橙也の顔に狙いを定めて振り上げる。

 初めて身近に感じる死に恐怖のあまり目を思わず伏せてしまう橙也。


「最後まで気を抜くな。魔物が相手と言えどこれは殺し合いだ」


 そんな言葉と共にゾンッという音が鳴り響く。音がして一泊置いた後、橙也はおそるおそる目を開けてみると、馬乗りになっていたゴブリンの頭はなくなっていた。

 横からカチンと鉄の音が聞こえて目を向けるとそこには剣を収めたばかりの20代くらいの若い男の騎士が立っていた。

 その足元には先程のゴブリンの頭が表情を勝利を確信した笑みで固めたまま転がっていた。

遅れて支えるべき頭部を、失くした首から溢れ出る血しぶきが橙也の頬にかかる。

 唖然とするもようやく状況を理解した後も、腰を抜かしてしまったためろくに動けず、『ひぅっ』と情けない声を出すことしかできなかった。


「ヨハンだ。よろしく」


 そんな橙也に若い騎士はマイペースに自己紹介した。



「あの……助けてくれてありがとうございます」

「いいさ。初陣だし仕方ない。殺すことの抵抗もあるだろう?」


 全ての仲間がゴブリンを討伐した後、改めて礼を言う橙也に対し、快活に笑い返すヨハン。優斗に似て甘いルックスに柔和な笑みがさわやかな雰囲気を醸し出しており、女受けがよさそうだ。


「それよりもゴブリンには気を付けた方がいい。あいつらは頭は悪いと言われてるが、人と比べてだ。魔物の中ではかなり頭がいいし、環境や種族によっては多種のモンスターとも連携してきたりするしね」


 そのまま忠言されていると、後ろからため息が聞こえてきた。

 ため息の主は自分と同じ勇者にしてクラスメイトだが一番早く躊躇いもなしにゴブリンを仕留めていた。


「まったく須藤君。君はやる気があるのかい?騎士の皆さんに迷惑をかける物ではないよ。勇者であることの自覚をもっと強く持つべきだ」


 名は光浦公太郎。優斗の俊と由宇に次ぐ友人の一人にして学校の成績だけなら優斗とも引けを取らない天才だ。しかし優斗と違い、いささか独善的というか若干の選民思想があるため、優斗達の中でもいささか壁を作っているようだった。


「君も黒永君も勇者に選ばれた自覚が足りないよ。なんで前園君は君達なんかをいちいち気にかけてるんだか……」


 そのままグチグチと嫌味を続けてくる。

 さすがに橙也もムッとして何かを言いかけたが、騎士の一人が手をパンパンと叩き仲裁する、他の騎士と比べて一回りも大きい体躯の坊主頭の騎士だ。

 確か名前はレナードといったか。


「ケンカは大いに結構。だが、そのやる気は仲間にではなく魔物にあててくれると助かる。」


 次の群れで最後だ、そう言いながら迷宮の奥へと足を進める一行。

 しかし彼が進んだ後何もなくなったダンジョン通路。その壁からボコンと音を立て、ナニかが這い出てきた事に気づくものはいなかった。



「ハアッ!!」


 葵はレイピアを繰り出し飛んできた犬ほどの大きさの牙だらけの鶏を串刺しにする。

 ズブリとレイピア越しに伝わる肉の感触に気味悪さを覚えながらも、切り替えようと頭の中で懸命に振り払うが、後ろからリアが無理をするなと、肩に手を置く。


「それが当然の反応だ。少し休んでいろ」

「いいえ。まだやれます!」

「手が震えているぞ」


 ピシャリと言ったリアはそのまま葵の手からレイピアを奪う。


「何をするんですか!」

「こうでもしないと君は戦うのをやめないだろう。さあ、ここの群れは殲滅した。私達の仕事はお終いだ。入り口に戻って合流するぞ!」


 そう言われて周りを見渡すと確かに自分達以外の一般の冒険者も仕留めた魔物から剥いだ素材を荷物に収めて、引き上げる準備を始めていた。

 すると丁度よく下の階に通じる階段から前園優斗や他の仲間たちが上ってきた。4層の攻略メンバーだ。優斗の姿を確認した大橋俊が彼の下に駆け寄る。


「優斗!どうだった?俺はデカ鶏を3匹仕留めたぜ!」

「そうか、俺は4匹だよ。もっとも大きなナメクジだけどさ」

「ナメクジと鶏なら俺の方が上だな!」

「ああ、馬ほどの大きさだったな」

「何ぃ!?いや、それでも俺の倒した鶏の方が強ぇ!」

「貴方達何くだらない競争してるのよ」


 血の付いた戦斧を振り回しながら自慢げに語る俊とすごいな、と素直に感心しながらも淡々と自分の戦績を語る優斗。

 そんな二人に呆れたように声をかける由宇。相も変わらずこの三人はクラスでも飛びぬけた実力を持っている。優斗と由宇の戦いぶりを見ていたクラスメイト達や騎士達も頼もしそうに頷いていた。

 実際に葵も共に戦った俊の実力は自分達と一線を画していると思っていたら、顔に出てたのか優斗達と行動を共にしていたアイラと菫が話しかけてきた。


「葵ちゃんも充分強いと思うけど?」

「私らは見てないけど、さっき戦闘を終えたばかりなんだよね?息切れ一つしてないじゃん」


 そんな二人の言葉に同調するようにリアも言葉を続けた。


「アオイはコカトリスを2匹。最初の1匹はシュンよりも手早く仕留めて後の一回り大きい方は手強いとわかると距離をとり、手の空いた仲間達に協力を求めた。素晴らしい判断だ。」


 君と5層のコウタロウはユウト達にも引けを取らないだろう、いつも厳しいリアに褒められて、思わず葵は顔を真っ赤にして話をそらそうとする。


「5層と言えば、橙……グループのみんなは?」

「須藤君はまだみたい。結構奥まで進んだんじゃないかってロムダさんが」

「……別に私は橙也君の事だけじゃなくてグループ全体を」

「葵。あんたさ気付かれてないと思ったの?」

「……というかいつのまに名前呼び?」

「にゃ!?」


 またまた顔を真っ赤にする葵を、呆れたような菫と微笑ましそうに笑みを広げるアイラの様子が面白くなくて、どういうことだと問いただそうとしたが次の瞬間、土が崩れる音と共に冒険者たちの悲鳴が響き渡る。


「ギギ」

「ギギギ」

「ギギギギギ」


 そこには血まみれで倒れている冒険者らしき男と血に塗れた剣を持った骸骨の騎士達だった。

骸骨騎士の後ろの壁には穴があり、そこから出てきたのだろう。穴の奥からも何体もの骸骨達が蠢いていた。


「ギギー!」

「うわあああああああああああ!」


 蠢く骸骨の一体が持っていた剣を振り上げて、近くにいた勇者に襲い掛かる。


「オラァ!」


 しかし、一足先に骸骨と勇者の間に割り込んだロムダは、掛け声と共に襲ってきた骸骨を剣による一閃で砕き払った。


「スケルトン……」


 骸骨達を見た一人の騎士が思わず呟いた言葉を、砕いた骸骨の残骸を見下ろしながら、ロムダが否定する。


「いや、色も材質も骨のソレとは違うな。持っている雰囲気も普通のアンデッドじゃねえ」


 普通スケルトンとはその名の通り、敗残兵や冒険者の白骨死体が瘴気の混じった魔力が染みつき負の残留思念と直結してしまい動き生きる人を襲いだす。魔物というよりも災厄と言ってもいい存在だった。

 だが目の前のアンデッドは灰色で金属の様な光沢を帯びている。なによりも


「装備が整い過ぎてやがる」


 スケルトンの持つ剣や盾、ランスそして彼らを包み込む鎧、隅々まで手入れが行き届いており、まるで新兵のような装備だ。まちがっても戦場で朽ち果てた戦士の持っていた武器ではない。


(死霊術師? いやあいつらはダンジョンで冒険者を狙うなんて面倒な真似は・・・・・・)


 死霊術師はその名の通り、この世界では珍しい闇属性の魔法を扱う死霊使いだ。だがそのほとんどは世間を俗世と切って捨てて、人目の届かぬ場所で仙人のような暮らしをしているという。彼らを見る機会などせいぜい操るアンデッドやスケルトンの素材を求めて戦場にひょっこり現れるぐらいだ。


 そこまで考えてロムダは一つの考えが浮かび上がる。しかしそれは最悪の予想だった。


「5層の連中がまずい!」



「う……ん?」


 洞穴の行き止まりのような場所で目をさました橙也は重い体を動かす。

 いかんせん体中の節々が・・・・・・特に後頭部が痛む。

 よく見ると自分の上半身は脱がされていて至る所に包帯が巻かれている。頭にもだ。


 いまだに痛む頭を押さえながら橙也は状況を思い出す。


 確かダンジョンの奥へ進んでいたら、いきなり壁の中から骸骨の騎士が飛び出してきてパーティ全員で応戦した。

『私が殿を務める!お前たちは先に行け!』

 そういってレナードが押し寄せる骸骨の群れを巨大な盾で押さえ込む。

 しかし、今度は床から骸骨達が突き出てきて、正行の足を掴みそのまま彼を引きずりおろしてしまったのだ。

 橙也は慌てて彼に手を伸ばそうとしたら後ろから誰かから頭を殴られて気を失ってしまった。

 そこまで思い出した橙也は痛みを押して立ち上がる。


「そんな体でどこへ行こうっていうんだ?」


 その時、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 恐る恐る振り向くとそこにいたのは、長くウェーブのかかった燃えるような赤い髪と妖艶さを身にまとった一人の少女。

 前と違う所と言ったら今回はドレスではなくいかにもいろんなモノを隠してると言わんばかりの黒いコートに革のパンツをはいた冒険者の服装であることだ。

 忘れるはずもない。


「なんでレディアさんがいるんですか!?」

「なんでとは心外だな前にも言っただろう冒険者もかねていると」

「あっ、そっか」

「割とあっさり納得したな」


 ポンと手を叩いた後、橙也は違う違うと頭を横に振り、慌ててどこともしれない洞窟からでようとするが、レディアはいつのまにか橙也の後ろに回り込み腕を捻り上げ、足を払いそのまま地べたに叩きつける。


「イテテッ……何を……するんすか」

「お前こそどこへ行く気だ」

「みんなを助けに……」

「あいつらは無事だよ。ラナが退避させたからな」


 その言葉に橙也はホッと胸をなでおろす。次の言葉に再び冷静さを失う。


「まあ、あの黒髪のチビは別だがな」


「正行が!?まずいじゃないですか!」

「まずいのは私達も同じだ。この階層は出口が塞がれてしまった」


 苦虫をかみつぶしたように言ってレディアは面白くなさそうに現状を語り始めた。

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