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第一話 日常

キリが悪いと思い加筆しました。キャラを追加しています。

 とある高校の昼下がり。

 彼らはいつも通りに学び舎を登校し、授業を受けていた。

 いつも通りの日常の風景のはずだったのだが、昼休みの時間にクラスの皆が友達とご飯を食べたり、雑談を始める中、騒動が起こった。


「オタク野郎!金を出せって言ってんだろうが!」

「漫画やゲームに使う金があるなら俺達に寄付してくださいよぉ!」

「もちろんお返しはするぜぇ!拳でなあ!」


 好き放題言ってくる、髪を染めたりピアスをしたガラの悪い少年三人が席に座っている小柄な少年を囲って威圧的な態度で恫喝していた。

 周りのクラスメイト達はそんな彼らに怯え遠巻きに眺めるだけである。


「聞いてんのかあ?」


 そう言いながら真ん中のリーダー格の不良が少年の机を蹴り倒し、遠巻きに見ていた少女の一人が驚いて小さな悲鳴を上げる。


「どうしたよ。ビビッて声も出ねえか?」

「つーかチビってんじゃねえか?」

「ぎゃはは!マジ受ける!」


 好き勝手に罵詈雑言を浴びせかける不良達に当の脅されている少年はじっと彼らを眺めていたが、しばらくして溜め息をつきながらもようやく口を開いた。


「嫌だよ」


『は?』


 まさかこんなあっさりと断られるとは思っていなかったのか、一瞬何を言われたかわからず三人一緒に口をポカンと開ける不良達。

 少し間をおいて、何を言われたかようやく理解し始めた彼らは顔をみるみる赤くしていった。


「てめえ・・・しばらく見ねえ間に気が大きくなったなあ。黒永」

「あいつらは今購買に行ってるんだよ。前みたいに助けがくると思うなよ」

「とりあえずちょっとツラ貸せよ。正行君よぉ。ここじゃまずいからな」


 そう言いながら、ぐいっと黒永正行という少年の胸ぐらを掴みあげる不良のリーダー格。それに対しても正行は怯えの色を一つも見せず、淡々と言葉を吐き出す。


「はあ、面倒くさいな。別に助けを期待してるわけじゃないよ?どうすれば見逃してくれるんだい?平和的にいこうよ。平和的にさ」

「だから手前が金を出せば済むことなんだろおが!」


 金を出さない事よりも、全く自分達の事など意に介してない様子の正行に不良達は怒りを覚え、唾を巻き散らしながら怒鳴りつけた。

 しかしそれでも黒永正行は静かに答えを返す。


「僕、今日300円しか持ってきてないんだけど?」

『は?』


 正行の返答に再びポカンと口を開ける不良トリオ。しかし彼らは先程よりも早く気を持ち直す。


「てめえ!下手な嘘ついてんじゃねえよ!」

「嘘じゃないよ。今月は漫画の新刊やゲームに結構使い込んじゃったからさ。来月の小遣いがでるまで昼は水でしのごうかなって思ってたんだよね」


 そういいながら、ポケットをまさぐり財布を投げ渡す正行。

 それを受け取った不良達は中の金額を確認する。


「ね?」


 少しの間、気まずい静寂がクラス全体を支配したが、突如として不良のリーダー格が逆上し絶叫しながら正行に掴みかかる。

 さすがの正行もこれ以上理不尽な目にあいたくはないのか彼から距離をとろうとする。


「糞があああ!手前舐めてんじゃねえぞ!コラァ!」


 しかしその不良は止まらない。机と椅子を弾き飛ばしながら正行の元へ特攻する。完全に逆上していて我を失っていた。

 もっともその怒りはさっきまで自分達が暴力によって支配していたクラスの空気が微妙にされたことに対するあてつけの意味合いもあったのだが。

 遂にその不良は正行を教室の端に追い詰め、そのまま殴り掛かった。


 しかしその拳が正行に届くことはなかった。


「おいバカ!何やってんだお前!」


 そんな声と共に教室の扉から飛び込んでいく一つの影。その影は颯爽と拳を振り下ろす不良と今まさに殴られようとしている正行の間に割って入り・・・・・


「ぐべっ!」


 そのまま正行の代わりに殴られた。


「あぐぐ、いてえ。いてえよお・・・・・・」


 情けない声を出しながら体を起こす一人の少年。そんな彼を不良達は馬鹿を見る目で見下ろし、クラスメイト達は落胆するような目で見つめた。

 いや正確には『お前かよ!』『余計面倒なことになった』というクラス全体が気疲れしたような空気になった。

 須藤橙也。身長は中背中肉、髪の色は黒に少し赤混じり、このクラスにおける総評はお調子者でトラブルメーカーだ。

『悪い奴じゃないんだけど、たまにウザい』

『若干空気読めないよね』

『いい奴なんだけどね』

 ちなみに彼らはもっと別の人物が戻ってくるのを期待していたのだが、その人物は購買に行ったっきり戻ってくる様子がない。


「須藤。手前何のつもりだあ?」


 不良のリーダーはできる限りの威圧感を振りまきながら問いかけるが、橙也は特に臆した様子もなく話しかける。


「そりゃあ友達が暴力沙汰起こしてたら止めなきゃヤバいだろ。茶沢君」

「はあ?頭湧いてんか?誰が手前のオトモダチだ?」


 茶沢と呼ばれた不良のリーダー格の少年が吐き捨てるように言った。


「つれねえこというなよ。同じ中学だろ?」

「そうだよ!同じ中学っていうだけだろうが。うぜんだよ!」


 怒鳴り返された橙也は寂しそうな顔をしたと思ったら、大げさな動作でヨヨヨと泣き崩れる。明らかに嘘泣きだ。


「酷いぜ親友。サッカー部で一緒に汗水流したあの思い出を忘れちまったのかよ!」

「てめえは陸上部だったろうが!あと俺は園芸部だ!」

「ボールは友達!お前ボールな!」

「てめえの言ってる事の方がいじめっ子みてえだろうが!」


 そのまま漫才のような掛け合いをした後、茶沢はしまったと周りを見る。先程のバカみたいな会話でなにやらとんでもない事実を口走ってしまった気がした。

 その通りであった。

 周りにいたクラスメイト達の何人かはプププと笑いをこらえている。


「ブッ園芸部だったのかよ」

「馬鹿。殺されるぞ!」


 見ると取り巻きの不良二人も笑いをこらえていた。

 そして笑われた茶沢はさっき黒永に虚仮にされた(本人達はそう思っている)時よりもはるかに顔色を赤くする。今にも爆発するような勢いだ。


「花壇のパンジーが咲いた時とか、こいつスゲー満足そうな顔してたんだぜー」

「うるせえええええええええええええええええええ!!」


 というか遂に爆発した。

 茶沢は懐かしそうに、クラスメイト達に中学時代の自分の話を語りかけている馬鹿を黙らせるべく行動を開始する。


「どいつもこいつも……ぶっ殺す!!」


 今の茶沢は先程の正行に対してとは比べ物にならない程に怒り狂っていた。

 取り巻きの二人が怯えてドン引きしているのをヨソに目についた机を持ち上げて橙也に向けて振り上げる。

 その瞬間に「何をしているんだ!」良く通る凛とした男の声が響き渡った。


 皆が声がする方向に目を向けると、そこには何人かの少年少女が立っており、彼らの手に持っているパンや飲み物を見る限り、どうやら購買帰りのようだった。


 クラスメイト達はそんな彼らの中心に居る茶髪の少年の姿を確認すると、みな安堵の表情を浮かべる。イケメンといっても差し支えないそれなりに整った顔。普段は柔和な笑顔を浮かべているソレは険しさを浮かべ、目には鋭い光が宿っている。


「前園優斗……」


 苦虫をかみつぶしたような顔をしながら茶沢はその少年の名前を呟いた。


「またこいつらかよ。懲りねえな」


 ポキポキと腕を鳴らす巨漢は大橋俊。優斗の親友で身長は180㎝超えのスポーツマンで野球部の期待の星である。


「学習能力がないのかしら?」


 冷ややかな目で不良達を見つめるのは相沢由宇。優斗の女友達でカチューシャをつけたセミロングの中々の美少女で水泳部に所属しており、一部からは『人魚姫』と呼ばれているが本人は恥ずかしいらしい。


「雪見さん。状況を説明してくれるかい?」

「ふぇ!?・・・・・・えう・・・はい」


 そう言って優斗はずっと怯えてちぢこまっていたクラスメイトの女子に話しかける。話しかけられた雪見という女子はたどたどしくはあるがそれでもハッキリと言葉を発し明確に先程の出来事を説明し始めた。


「えっと・・・・・・その、そういうわけです」


 優斗は彼女の話を聞き終えると険しい顔をして茶沢に向き直る。

 それに対し当の茶沢は蛇に睨まれた蛙のように竦みあがってしまった。


「茶沢君。君はまだ懲りないみたいだな?」

「・・・・・・!行くぞ。お前ら」


 すっかり顔色が悪くなった茶沢は取り巻き二人にそう言って逃げるようにそそくさと立ち去っていった。


「ごめんな。前園君」


 最初に殴られた頬をさすりながら話しかけてくる橙也に対し優斗は苦笑しながら答える。


「そう思うなら、あまり大事にしないで欲しいな。どうせ君が彼を煽ったんだろう?」


 その言葉に『うっ』と声を詰まらせる橙也。


「君がなんだかんだで正義感が強いのは知っているけど、もう少し後先を考えて行動することをお勧めするよ?いざっていう時は周りを頼るべきだよ」

「それお前が言うのかよ。まあ、あんがとな」


 橙也は優斗とそれほど仲は悪くない。

 前園優斗はいわゆる天才ではなく努力を惜しまない秀才。だからこそ努力する苦労を知っており常に相手に寄り添って悩みや苦しみを聞いてくれる。少々苦労性すぎるため、ハゲを心配されているが、頼りになるみんなのリーダーである。

 そんな人間を嫌いになれるはずがなかった。


「前園君。早く食事にしよう」

「ああ、わかったよ光浦君。それじゃあね須藤君」

「おう、また後でな」

「後ろの委員長にこの騒ぎの説明よろしく……彼女のお小言は苦言どころじゃすまないよ?」

「……は?」


 優斗のその言葉と供に背後から、いいよれぬ悪寒を感じた橙也はギギギと振り返ると、そこにはまなじりを限界までつり上げた我がクラスの委員長が仁王立ちしていた。


「……私が職員室に行っている間に何があったのか説明してもらえるかしら?須藤君」


 月城葵。このクラスの委員長にして、もう一人のリーダーといっても差し支えない人物である。

 端正な顔立ちに青みがかった髪のショートヘア。それに加え黒縁眼鏡と怜悧な印象を与えるが、彼女の性格は良く言えば真面目で熱血、悪く言えば融通の利かない頑固者。中心に立って周りをゆっくり牽引していく優斗と違いグイグイとみんなを引っ張っていくタイプである。

 もっとも彼女は自分が融通が利かないことを自覚しており、なんとか直すように努力中とのことだ。


 そんな自他ともに認める頑固者が険しい目で橙也を睨みつけている。橙也はなだめながら教室の出来事を説明する。

 すると葵は溜め息をつきながら、橙也に説教を始める。


「なんで俺が説教されにゃあならんの?」

「あなたが無鉄砲で無責任に騒ぎを大きくしそうになったからよ。心配しなくても逃げた茶沢君達は後であなたの倍は絞ってあげるわ」



 ええタップリとね、そう言って笑う葵の笑顔に恐怖を覚える橙也は自業自得とはいえ、茶沢達を気の毒に思った。

 なにしろ葵は合気道を習っておりそこらのチンピラぐらいなら十分迎え討てるらしい。

 きっとアレだ。一人につき5回づつ回される、物理的に。


 そして昼休みが終わりを迎える頃にようやく委員長の説教が『あなたの事を心配している人だっているんだからね?』という言葉と共に終了し橙也は解放される。


 委員長は後ろの方から友人の忍足菫に『いじらしいねえ』とからかわれ『何をいってるのよ!』と顔を真っ赤にして口喧嘩を開始する。

 何の事を言っているかわからないが、もう一人の委員長の友人にしてさっき優斗に事情説明していた女子こと雪見アイラが慌てて止めに入っていたので授業が始まる頃には収束するだろう、と橙也は思い、自分の席に戻り急ぎ購買のパンを頬張り始める。


 するとずっと頃合を見計らっていたのか、先程茶沢に絡まれていた黒永正行が話かけてきた。


「委員長に捕まって災難だったね。まあ君の場合、彼女の説教は初めてじゃないから慣れっこなんだろうけど」

「もぐっ、まあな。むぐっ、一番の災難はお前だろう」

「ん?ああ。殴られるのはさすがに嫌だったからね。助かったよ。あと食べながら喋るのよくないよ?」


 あくまで淡々と話す正行に対し橙也は先程の件を謝る。


「ごめんな。優斗や委員長みたいにスマートに助けられなくてよ」

「だからいいって」

「おわびに帰りにゲーセンにでも行かね?俺が持つからさ。お前ゲームうまいんだろ?」

「いきなり唐突だね」

「欲しい人形とってくんね?」

「それが本音かい?・・・・・・まあ、考えとくよ」


 常に表情を出さない正行にしては珍しく彼は苦笑しながら自分の席に戻った。

 しかし正行が考えた結果は関係なく、その約束が果たされることはなかった。

 帰りのホームルームにて彼らの日常は崩壊する。

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