池面太郎
ーイケメンーの定義はなんだと思う?
カッコイイ、美しい。男らしい。それらの言葉は抽象的であり、ーイケメンーとはまさに抽象的な言葉を総括しただけのものだと考えられるのではないか。
しかし、どの時代においてもーイケメンーとは、異性の大部分に好かれる、という事は共通しており、より抽象的ではあるものの、
ーイケメンーとは無意識に異性に好かれる日々を送ってしまう者、
だと思う。
そう俺、池面太郎は割とそういう人生を送っている。
「ふむふむ…なるほど面太郎はイケメンだと」
「うんうん」
熱心に書き込んでいたメモ帳を落としバンチョーは言い放った。
「は?」
「自慢しに来たのかお前は」
そんな当たり前のことを自慢しないよ、と否定すると
「初対面に近い女の子に色目使うとみんな俺に惚れるんだけどね…フゥ…最近声かけてあげたら…無視されてさ」
「お前が?ほー」
実際のところこいつは見た目も所作もかなり男前だ。
性格は鬱陶しいがクソ野郎って程じゃない。
女の子に近づきはするが傷つけるようなことはしない。
ただ性格が鬱陶しいだけだ。
「ありえないだろ?この俺が話しかけてあげたのに…」
性格が鬱陶しいだけだ。
「その子を好きになったのか?!」
バンチョーが絶対そうだ!と期待に満ち満ちた声量でで問いかけた。
「まさか!ははは!一回だけ声かけてしかも無視されて!
そんなわけねーよははは!」
バンチョーを盛大に馬鹿にしていると、面太郎はポツリと呟いた。
「…そうだよ」
少し考えれば分かることだ。
普段誰も話しかけない人が声をかけられれば、その人が特別になるように。
言葉の通じない国で母国語を聞けば、その人が特別になるように。
日常に紛れ込み輝く非日常は、それだけで眩く映るのだ。
女子の笑顔に見慣れた彼は、無表情のその子にこそ輝きを見出したんだろう。
「気になって気になって全然寝れねーんだよ、ほら」
面太郎の指さす目の下にはクマと思われるものは一切なく、健康優良そのものだった。イケメンにはクマなどないのだ。
「頼むカオル…協力してくれ…!」
泣きそうな顔で懇願してくる。
肩に置かれた面太郎の両手を払いのけた。
「はいはい」
「ありがとう…!ありがとう…!俺は…俺は幸せ者だぁぁ!」
「分かったから」
こいつのいつもの手に慣れるとウザイのは万人共通だろう。
3人は昼休みの教室へと向かった。
「お?カオルく〜んじゃ〜んめっずらしいね〜」
面太郎の教室、俺とバンチョーの隣のクラス。
遠巻きに例の女子を探している最中、冗談っぽく女に話しかけられた。
どうも1限から昼までずっと寝てたせいか、寝ぼけててイマイチ人の名前が出てこない。
「あ…え…と、名前なんだっけ…?」
「ひっど!ひっど!それなくない?!ひっど!おもしろくないし!」
「カオルに気安く話しかけるなコノヤロー!」
バンチョーが面倒臭いキャラになっている。
「もう話しかけないよ!」
ばん!
机を叩き彼女は怒って行ってしまった。
「あーあガチ切れ、お前らいつもケンカしてんな」
「…カオルなんかしたのか…?」
バンチョーの責任でもあるけどな…。
「…矛原あかりだよ、名前」
面太郎がすかさずフォローを入れる。かなり遅いが。
「あーそうか!あかりだ!」
「しかし本当に忘れてたんだな、そりゃ怒るぜ普通」
ありえねーもん、と言った面太郎の、次の言葉に愕然とした。
「幼なじみだろ?お前ら…っとあ!あの子あの子!」
面太郎の思い人がやってきたようだ。