第二話
私には時間がない。ただなんとなく毎日を過ごせる時間は無くなってしまった。 幸運にも私には親友と呼べる友達が4人もいる。だから私はこの友達と最高の時間を作りあげようと決心した。
何かが変われと思うのではなく何かを変えてやろうと決心した。
そう、私達には時間がないのだ。
(ふ〜、眠たい。)
今は昼休みが終り5時間目に突入したばかりの時間。
春の暖かさと先生による子守唄攻撃によってさすがの私も気をぬけばすぐに眠りに落ちてしまうだろう。
(昨日は寝るのが遅かったからなぁ。)
あくびをしようと手を口元においたが先生と目があったので慌て噛み殺した。
この先生は寝ている生徒、もしくは寝そうな生徒にわざと難しい問題をあてるのだ。
先生の視線が私から離れたことを確認して、辺りを見渡してみると私と同等、もしくはもう寝てる子が何人かいた。そろそろ問題の集中砲火がこの人達に降り注ぎそうだ。(私も多分含む。私は運が悪いのか、顔にでやすいのか、眠たい時は8割の確率で先生からあてられる。野球選手であれば殿堂入り確実の数値だ)
(やっぱり皆も眠たいよね。)
ただでさえ5時間目というのは皆の眠気が最高潮なのに、加えてこの暖かさだ。年寄りた国会議員でなくてもあくびのひとつくらいでるだろう。
(こういうのなんて言うんだっけ?えっと、確か、春眠暁とかそんなの。)
そんなどうでもいいようなことを考えて、私があたりそうな問題に取り掛かろうとした時、一際目立つ、授業中だからこそ目立つ音がどこからか聞こえてきた。
「す〜。す〜。」
(うわ〜、誰だろう?おもいっきり寝てるよ。)
「くす、くす」 「ふふ」
皆も気付いたのか徐々に教室内から笑い声がもれてきた。
「す〜、す〜」
自分が教室中の視線を集めているとは知るよしもない寝ている本人は相変わらず幸せそうな寝息を起てていた。
「す〜、...むにゃ。」
(むにゃって、いいなぁ、気持ち良さそう。...じゃなくって起こさなくていいのかな?)
私はくすくす笑いの中心になっている机を見た。
(....って秋菜!?)
寝ている張本人は今朝私と話していたクラスの人気者 東 秋菜 その人だった。 それにしても秋菜には珍しいことだ。彼女は授業中に眠りはするが先生にばれることは決してない。
その眠り方はほとんど神レベルで私は何度も彼女のやり方を教えてもらったが未だ成功したことはない。
(ん〜、どうしたんだろ?昨夜何かしてたのかな?...あっ!そういえばここからでも聞こえるんだから先生にも...)
私はそっと先生の顔を見てみた。
(...血管が浮き彫りになってる!?)
私は深く静かに怒る人を初めて目のあたりにした。
(あきちゃ〜ん。早く起きて〜。じゃないとさっきあくびしそうになってたのを見られた私にも被害が〜..)
「う〜ん。むにゃむにゃ。す〜。」
私の心の叫びも虚しく、秋菜は目覚めそうになかった。
「ごほっ、ごほっ。」
なんとか起こそうとわざとらしい咳ばらいなんてしてみたが、近くにいた生徒達の『おもしろいから起こすな!』オーラに押され何もできなくなった。
「あっ、これ..す〜。」
「ぷっ」
「くすくす」
「アハハ」
どんどんと笑い声が大きくなっていく。
(どれ!?授業中に寝言って、どんだけ!?)
かっ!!かっ!かつ!
先生のチョークを叩く音がヒートアップしてくる。
「す〜、す〜」
それとは関係なしに一定のリズムで奏でられる心地良さそうな声。
「くすくす」
「アハハ」
「やばい、吹き出しそう」その二つに伴い大きくなっていくひそひそ声とひそひそ笑い。
もう教室で寝ている人はおろか眠たそうな人も彼女を除いて一人もいない。
(ご愁傷様です、秋菜さん。とりあえず私にとばっちりが来ませんように。)
先生のチョークを叩く音が
「かつ、かつ」から
「ごっごっ」になった辺りで我慢できなくなったのか、書くのを止む静かにこちらを振り向いた。
「おい、東。」
「す〜、す〜..ん?」
眠気眼で顔をあげた。
「おはよう。東君?よく眠れたかい?」
顔は笑顔だったがこめかみあたりにはきれいに血管が浮き彫りになっている。
「えっ?えっとあの、おはようございます。...先生、なんで私の部屋にいるんですか。」
このセリフが彼女の口から出たときに、皆の我慢の限界が訪れた。
「アハハ!」
「ここ、お前の部屋かよ!」
「秋菜ってば寝ぼけすぎ!」
「えっ?えっ?何?.....あっ!!」
ようやく自分の状況が理解できたのか、少し顔を埋め、ばつが悪そうにしている。
横目で私のほうを見て何かいいたそうだ。
私の勝手な思い込みだが、こういいたいんじゃないかな。
(どうして起こしてくれなかったの。)
(無茶言わないで、私も一応最善を尽くしたよ)
(本当?その割にはなんだか楽しそうだけど?)
(だって、さすがにあれは誰だって笑うって)
(ぬ〜。おぼえてなさい。いつかあなたが寝ている時にミートって額に書いてあげる。)
(肉じゃないんだ。どっちにしてもやだけど。)
とかそんな感じ。
この彼女の教室自分の部屋発言は後々秋菜語録の一部として皆の心に刻まれることになる。
「は〜、まったく。今年から受験生だぞ。わかっているのか?」
先生の説教が始まりそうになったところで終了のベルが鳴った。
「う?終りか、東、今日の授業が終わったら職員室まで来なさい。よーし、今日はここまで、今日やったところは来週テストするからな、しっかり復習しておくように。」
しっかりと他の寝ていた者にも制裁を与え、さっさと教室からでていった。
その後もテストと聞いて多少はテンションが下がったクラスだが、それでも教室では次の授業のベルが鳴るまで笑い声がおさまることはなかった。