ダ・カーポ
チョコパイを頬張りながらランドセルに座って、少女は黙って聞いていた。
やがてしばらくして、チョコパイを食べ終わった彼女は言った。
「死んだら終わりになるって、そう思ってるのね?」
「えっ」
「死んでも終わらない。永遠に繰り返すだけ。同じ瞬間、同じ選択、同じ感情。生は無限に回帰する。永久に環り続ける楽譜のなかに、死は反復記号を打つだけなの」
「何を言って……」
「無限ループする人生のなかで、お兄ちゃんは今この瞬間の生を絶対的に肯定することができる?」
青年は言葉を詰まらせる。
理性が警告を発する。少女の言葉を理解してはならない、と。
「ごめんね、もう行かなくちゃ。わたしは神に選ばれた人間だから」
少女はランドセルを背負うと、まっすぐに見上げて言った。
「死神って神様にね」
青年は感じた。
はにかむ少女の瞳の奥に、愛と軽蔑が籠められていることを――
そして少女は消えた。最初からそこに居なかったかのように。
歩道橋を上がってきた喪服の女性は、呆然と立ち尽くす青年を訝しげに思いながらも、彼のすぐ側で立ち止まった。
女性は胸に百合の花束を抱え、その場にしゃがみ込む。かつて居た少女の名を呼び、そっと献花を捧げた。
青年は後ずさりし、何かに怯えるようにして駆けていった。
遠くで、警笛が鳴った。
(完)