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真っ白な天幕の天井が風に揺れているのを見た。夏の終わりに、この天幕を立て、もう半月ほど経ち、季節は秋を迎えている。

――長い。

ラインヴァルトは、天幕の中心に置かれた椅子に座り、嘆息した。


隣国であるティエンサン公国が、突然シルゴート王国の使者を殺したのが、二ヶ月前。その情報は、ティエンサン公国により隠され、ラインヴァルトたちシルゴート王国上層部が知ったのは、その一週間後のことだった。

ティエンサン公国にその事実を追及したが、ティエンサン公国は、使者殺しについて否認の姿勢を貫いた。

それからは、暗部による情報収集に力を注ぎ、とうとう使者殺しの犯人を見つけ出したのが、半月前。しかし黒幕の追及を行っていた矢先、ティエンサン公国が国境を越え、侵略を開始した。

それを受け、急きょ編成された王太子であるラインヴァルトを筆頭にした軍が、国境を見下す位置にある丘に本拠地として天幕を展開し、ティエンサン公国軍を迎え撃つ次第となった。


ティエンサン公国軍は、アスタイトの軍事利用研究に優れている。そのため、突出した将はいないが、騎馬に優れたシルゴート王国軍の攻撃をうまく避けている。戦の長期化を目論んでいるのだろう。長期化して困るのは、重装備せざるを得ない、騎馬隊だからだ。


ラインヴァルトは椅子に深く腰掛け、これまでのことを思い浮かべる。目をつむり、大きく深呼吸した。

天幕の中には、ラインヴァルト以外誰もいない。自身の息の音だけが聞こえる静かな天幕内と違い、外は多少の声や足音が聞こえる。外にいるのは、己の守護役の兵と腹心であり従兄のアレクシスだけだ。

兵の多くは、戦場へ配置してある。また、これまで天幕、もしくは後方で指示を出していたシルゴート王国が誇る三将軍の一人が、前線に出た。三将軍の三番目に位置していながら、剣聖と呼ばれるグレアムを中心にした布陣は、必ずティエンサン公国の将を討ち取るだろう。


あと一歩というところで、相手の将を打ち取れないということが何度も続いた。予想を大きく覆し長い戦いとなった。

それも、今日までだ。

ラインヴァルトは、肘掛に置いた手を強く握った。


*****


「ライヴァ」

己を呼ぶ声に、ラインヴァルトは目を開けた。薄暗い天幕で、しかも目を閉じていたせいで、天幕入口から差し込む光に、不覚にも目がくらむ。

ぼんやりとしたラインヴァルトの視界に、茶髪の長身の男が映った。自分と同様、戦場に少し不相応な軽めの武装のみを付け、そして自分を『ライヴァ』と愛称で呼ぶ者。そして何より、その声を、常に左隣で聞いている。

「アレク」

ラインヴァルトが声を出すと、アレクシスはラインヴァルトのもとへと駆けつけた。

「ライヴァ!やったぞ!」

ラインヴァルトの視界が鮮明になり、最初に見たのはアレクシスの笑顔だった


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