ハロルド シールド
ハロルド視点です
ベッドの中で、眠る前に読書をするのが、幼いころからのハロルドの日課だ。書棚から一冊本を抜き、銀縁の眼鏡をかける。眼鏡をかける度に、歳を重ねる自分を感じ、毎日嘆息するのも、最近日課になりつつある。
ベッドサイドに置いた机には、光をともしたランプが置いてあり、橙色の光がページの上で揺れていた。
一つの言葉を、噛み締めるように、ハロルドは本を読む。部屋では、静寂な中に時折、本をめくる音だけがする。
その静かな部屋に、扉が開く音が加わった。
「エミの、あの赤毛は地毛なのか?」
ハロルドは、視線を本から部屋に入ってきたリディアへと向けた。
常ならば、ハロルドは本から目を離すことがない。それが、視線を向け読書を中断してまで話しかけたことに、リディアは笑顔になる。
ハロルドは、そんなリディアに、非難の視線を向けた。
「ええ、そう言っていたわ。エミの祖母様は、エミの国とは違う国から嫁いで来られたのですって。その祖母様の赤毛を受け継いだのだそうよ」
「そうか」
ハロルドは、今日一日のエミの様子を思い浮かべる。
鮮やかな赤い髪を持つ娘。低い鼻のせいか、少女のような印象もあるが、大きな瞳は聡明そうな輝きを見せていた。
掃除中は、リディアの指示に従って、てきぱきとした動きを見せていたようだし、食事は、細かな点に目をつぶれば、比較的綺麗なマナーで食べていた。立ち振る舞いも悪くない。雑さがなく、きちんと躾られているように思える。
「掃除中、いろいろな話をしたのよ。エミの世界の話も聞いたから、今度教えてあげるわ」
リディアがベッドの中のハロルドの隣へ入り込む。そっとハロルドの肩へ自身の頭を置いた。
「――あなたと私は夫婦なのか、恋人なのかと聞かれたわ」
リディアは甘えるようにハロルドへとすり寄る。
「頭のいい子ね、あの子。あなたと私では、親子に見られることの方が多いのに。今日一日で、私たちの見た目に惑わされず、関係性を推察して見せた。人を良く見ているんだわ」
ハロルドは、左手でリディアの腰に手を回し、引き寄せた。
「彼女を、巻き込むのか」
「ええ。ボーデンも、それを望んでる」
リディアの声は、真剣だった。だが、同時に震えていた。
「・・・私が反対しても、君は聞かないんだろう」
リディアの強い想いを知っている。そして、同時にそれが、自身のものでもあることを、ハロルドは知っていた。
「君のしたいようにやりなさい」
ハロルドの言葉に、リディアは今にも泣きだしそうな笑みを浮かべた。
ハロルド視点で、ようやく恵美について出せました。次の話で、一の章は終わりです。