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ハルさんちのねこ。  作者: 百瀬百田
Ⅰ 美少女が降ってくると、いつから錯覚していた?
7/16

6 そんなのありかよ…




 「…俺の気持ちとしては…」




  正直、良く分からない。




 まず問題の居室空間に関して。

 これは部屋自体が余っているし、プライバシーに関してはある程度保障出来るといえよう。

 

 次にこの同棲生活を仮想してみる。

 か弱い少女との同居というのは、オタクの妄想的に心胸躍るものであるかもしれない。



 だが。

 現実となったら、話は別だ。



 過去はともかく現状を良く知らない相手、しかも女の子と2人きりで生活するなんて不安を覚えない方がおかしいだろう。そもそもこんな無茶な話、男の俺よりも多感なお年頃であると思われる少女の方が受け入れがたいものなのではなかろうか。


 …あれ?

 でもやたらと大きいカバン持ってたような…


 ということは、つまり…



『ハールくん?』


 電話の向こうから千智さんが俺に答えを要求してくる。

 いつも通りの無邪気な声だが、その中に千智さんのみあへの想いを感じた気がした。

 それは、垣間見える俺への…切願。



 俺は小さく息を吐きだすと、彼女の問いに対して導き出した答えを告げる。



「…正直に言うと、俺は不安です」


『うん』

「今のみあさんのことはまだよく知らないし、育ってきた環境も生活も違う。…千智さんは無謀なことを言っていると思います」

『そう、だね。ハルくんのそういう正直なところ、私好きだよ。…じゃあ、やっぱりダメかな』

「そうですね…



       でも」



『え?』

「でも、千智さんがみあさんのことを想っていてそれが最善だと言うのなら、そしてみあさん自身がそれを受け入れているなら、俺も……受け入れます」


 電話越しに千智さんがくっと息をのむのが伝わる。

 その息を小さく吐きだした後、千智さんの声色には安堵が浮かんだ。


『みあちゃんには当然、もう説明してありますとも!その上で、最終的にみあが自分で決めて、ハルくんちに行ったの』

「だったら…俺は彼女の決意を無駄にはしません。…何より、千智さんの頼みですからね。そもそも断断ることなんて出来ませんよ」

『ハルくんっ!』



 「不束者ではありますが、娘さんを預からせて頂きます」



 

 待ち受けているのは、きっと奇妙で無茶苦茶な同居生活だ。こんなゲーム展開、始めたってゲームのように上手く行く筈はないし、現実ではご都合主義は通用しない。

 けれど、その道をみあが自分で決めたのだとしたら、俺は彼女の気持ちを大切にしたいと、そう思った。

 母親から離れて男と暮らし始める彼女の方が、きっと俺の何倍もの不安を抱えているに違いない。受験生でもあるわけだし、ここは兄的な立場として彼女をサポートして行くのが最善なのだ。

 と、俺は自分で自分に対する言い訳――戒め――を作り、こっそりと胸に秘めた。

 それから、横になっている新たな同居人に目を向ける。



 …ホントは。


 本当は7年ぶりに同居人が出来ることに、ほんの少し嬉しさを覚えてしまって。新たな生活にちょっとした期待まで感じてしまって。千智さんに乗せられたように装って、俺の意志で受け入れてしまったのだ。


「ん…ぅん…」


 大声を上げていたせいで起こしてしまったのか、横になって体調が少し改善したらしいみあが軽く身動ぎをする。いいタイミングかもしれない。起きたら、俺達のこれからのことを話さなくてはいけない。


「そろそろ、みあさんが目を覚ますみたいです」

『良かったー。じゃあ、ハルくん、みあのこと宜しくお願いします』

「承りました。また、連絡下さいね。千智さんも、体調にはくれぐれもお気をつけて」

『ありがとー!ハルくん大好き!じゃあ、また電話するね!』

「はい、じゃあ失礼します」


 そう言って、俺は通話を切ろうとした。


『あ、言い忘れてたけど』

「え?」


 続けて聞こえてきた声に、もう一度携帯を耳にあてる。


「何ですか?聞こえなかったのでもう一度お願いします」

『そうそう、みあちゃん、


   

            どうも大人の男性ちょーっと苦手みたいなんだよね』



「…は?

『ハルくんのことはどうか分からないけど、頑張ってね!』

「え、ちょ!

『じゃあまったねー♪』

「待…っ!



  ピッ 

  ツーッツーッツーッ………



「そ、そんなのありかよ…」

「んー…」


 後数分後には目を開けそうな少女の顔を見て、彼女の母親の最後の言葉が頭の中を反芻する。俺は右手で頭を抱えると、あからさまに深い溜め息を吐いた。俺のこれからの生活は、一体どうなるんだろう…。



 そう考えつつも無意識に両口角が少しだけ上がっていたことに、俺本人が気付ける筈もなかった―――





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