3 まさかの展開
内心であらぬことを考えていた事は内緒にしておいて、みあが無事に荷物を運びいれることが出来たことを確認し、俺はリビングへ続くドアを閉じた。
今度は備え付けのソファーに彼女を誘導しなければ、と振りかえろうとしたその瞬間。
ガタッ
背後から突然何かが落ちるような、いや、倒れるような音が響いてきた。
その音に反射的に振り返ると、先程まで重たそうなカバンの隣に立っていた彼女が、今はカバンの横に横たわっている姿が目に飛び込んでくる。
「みあちゃん!?大丈夫?みあちゃん?」
慌てて駆け寄り、まずは頭を打っていないかどうか確認する。
どうやら頭を打った形跡はないが、ゆっくり抱き起こし軽く揺すってみても反応は返ってこない。突飛な展開に再び面食らうが、一先ず俺はみあを抱きかかえソファーに移すことにした。
リビングにカーペットを敷いておいて良かったと思う日が来ようとは思わなかった。
「って、軽すぎだろ」
普段そこまで運動をしていない俺でも、みあの身体は易々と持ち上げられた。見た目で小柄だとは思ったが、まさかここまで軽いとは。
「顔色悪いな…」
何の前触れもなく、いきなり卒倒する程に緊張していたのだろうか。
腕の中の彼女の顔は血の気を失い青褪めており、細い四肢も相まってその姿を酷く儚げに見せた。みあをソファーに横たえると、小さな手と白い顔にそっと触れる。
顔も手も、少しだけ冷たくなっている。
「これは…」
彼女の様子から、みあが突然倒れてしまった原因がいくつか想定された。その想定を確信に変えるべく、固く閉じられた彼女の瞳を覗こうと手を伸ばす。
と。
≪ヴーヴーヴーヴー≫
電話の着信を告げる携帯のバイブ音が耳に届いた。
音は先程までギャルゲーをやっていたPCが置かれたテーブルの方から聞こえてくるようだ。
「今取り込み中だっての」
無論、即座に無視を決め込む。
すると、俺の言葉を理解したかのようにパタリとバイブ音が止まった。友人が少ない俺のことだ、滅多に鳴る携帯じゃない。 もしも急用があるとすれば、また向こうからかけてくるだろう。
そう結論付け、携帯から視線を外し再びみあと向き合う。
≪ヴーヴーヴーヴーヴー≫
「かけ直すの早!」
まさかの速攻のかけ直しに、思わずそう口走って再び無視を押し通そうとする。
が、今度は一向に鳴りやむ気配がない。
無機質で単調に鳴り続けるバイブ音に、無性にイラ立ちを煽られる。緊急の電話かかってくるような生活はしていないから、どうせ野暮用に違いないのだが。
「あー、もう!こんな時に誰だよ!」
こんな非常事態に空気も読まず、しつこく電話を鳴らし続ける不届き者の名を拝んで文句の一つでも言ってやろう。そんな気持ちになり、俺はテーブルに置いてあった携帯を鷲掴みし乱暴に手に取って表示されている名に目をやる。
●CALLING● 眞城千智
ピッ
「あ」
携帯に表れていた名を見て、無意識に電源ボタンを押してしまっていた。
これはマズイ……
携帯を握る手に緊張の汗がジワリと滲む。
「ま、またかかってくるか…?」
緊張の面持ちで携帯を見つめるが、意を反して携帯は着信を告げてこない。かけ直すという選択肢を全力で回避したいのが本音だが、その静けさに不気味なものを感じずにはいられなかった。
渋々アドレス帳の中から目的の人物の電話番号を呼び起こす。そこまでは問題なく進んでも、肝心の発信ボタンを押すべきか否か、画面を見つめたまま逡巡する。
逃げたいな……。
逃げようかな…。