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ハルさんちのねこ。  作者: 百瀬百田
Ⅰ 美少女が降ってくると、いつから錯覚していた?
3/16

2 やはり上から…っ!?

 


 重たい玄関を開けると、想像していた通り。

 そこには幼い頃の姿しか記憶に留めていない知人の娘が…



  いない。



  やはり上からか…っ!?



 なんて再び脳内で妄想を繰り広げつつ、実際には開けた玄関のドアの後ろ側を冷静に覗きこんでみる。と、そこにはお目当ての少女が、視線を落とし縮こまって立っている姿が目に入った。

 淡いブラウンのワンピースの上に、同じく淡いクリーム色のカーディガンを羽織った清楚な格好の少女は、何故か旅行鞄らしき巨大なキャリーケースを携えている。声的に幼い印象は受けたが、実際の見た目も小柄で、年の頃は14歳か15歳と見受けられる。

 あれ、じゃあ最後に会ったの何年前になるんだろう?


 「あー、君がみあちゃん?」

「は、はい…」

 

 チラリと上目づかいを向けてきた少女とバッチリ目が合った。なる程、確かにこの子は間違いなく千智さんの娘なのだろう。そう確信出来るほど、俺が知っている女性と顔立ちや体格がよく似ていた。


 「中に入って。荷物運ぶよ」

「だっ、大丈夫です…!」


 少女の附属品としてやたら大きな存在感を放っているキャリーケースを運ぶことを申し出てみたが、少女は俺の申し出に対して首をぶんぶんと横に振ることで拒否を示す。その拍子に落ちたグレーのベレー帽を拾って彼女に渡すと、彼女は耳を真っ赤にして「ありがとうございます」と小さな声で呟いた。 同時に、差し出した俺の手から帽子をサッとかすめ取ったかと思うと、ドアを開けている俺をチラチラと見ながらそっと玄関に小さな足を踏み入れた。

 突然訪ねてきた古い知人の娘と、その少女と同じくらいはありそうなキャリーケースに事情を追求したい気持ちが沸々と湧きあがってくるが、俺もいい年になる立派な大人だ。質問攻めにしたい気持ちをグッと飲み込む。


 「じゃあ、居間へどうぞ」

「あ、はい…」

 

 上がる際にきちっと正された彼女の靴は、26㎝のマイシューズの隣にあることを差し引いても、とても小さく見える。だが今回は靴だけでなく、その礼儀正しさにも目が引かれた。


  この子が本当にあの千智さんの娘なのか…。


 いい加減シツコイ感想かもしれないが、諸君がいつかあの千智さんの存在を知った時には、同じ感想を抱いてくれると、俺は信じている。

 顔だけは千里さんの面影が残るみあをついついじーっと見ていると、彼女は警戒色を強めて小さな身体を一層縮こませようとする。しかし、多少怯えながらもチラチラとこちらに視線を向けてくる様子から、何とか俺との距離を縮めてみようと考えているようにも見えた。

 その姿は人間との接触を警戒しながらも、興味は逸らせない小動物―――まるで、猫のようだ。更に言うと、腰が引けている仔猫っぽい。名前もみあだし、これ以上最適な比喩はないだろう。うむ。


 「あ、あの…」

「ん?」


 この雰囲気の中でまさかみあの方から話しかけてくるとは思わず、予想外の出来ごとに少々面食らう。不測の事態を解決する糸口を探るため、俺は脳内ライフカードを取り出すと、カードに選択を委ねた。


 ①俺が命じる…全力でみあの問いに応対しろ!

 ②まだだ…まだ動くな…

 ③女性から話しかけられるなんてナンセンス。ここは私の方から話題を提供しよう。

 ④オワタ\(^0^)/


 来るべき俺の未来に栄光あらんことを信じ…俺は①のカードを選択しよう…ッ!


 今さらだが…

 


  脳内ではオタク全開だな、俺。



 「…どうしたの?」

「あの、お一人で住んでいらっしゃるんですよね…?」

「ああ、もう7年くらいになるかな。1人暮らしって知ってたんだ?」

「えっと、お母さんに聞いたから……でも7年って凄いですね」

「そう?大学から1人暮らしを始めたヤツは、皆こんなもんだと思うよ」

「あ、そうですよね…。でも…こ、こんなに広いお家で、寂しくないですか…?」


 まさかの質問に、一瞬言葉が詰まる。


 場を繋ぐための言葉を思いつくまでの刹那、これまで流れていた穏やかな空気が止まった。するとその刹那の変化の間、みあは恐ろしく俊敏に言葉を詰まらせた俺に反応し、慌てて何らかの言葉を発する体制をとった。

 そんな彼女の反応にやや興味をそそられたが、今はみあを分析するのは自制し彼女から次の言葉が紡がれる前に元の空気に戻すべく、俺は笑顔で答えた。


 「そんな気持ちはもう忘れたな」

「…そう、ですか…」



  そんな気持ちは忘れるしかなかったからな。



 その後、みあは自分が失言したと思ったのか、あからさまに話題を転換させた。その必死さに心温まる感情を覚えつつ、その反面、自分の失態に軽く舌打ちをしたくなる。そんな自分への嫌悪を抑えつつ表面上は何とか体面を保ちながらも、玄関からリビングに移動するまで俺達は何ともまあぎこちないコミュニケーションを繰り広げた。


 そろそろ会話が切れる…さて、どうしたものか…

 というジャストタイミングで目的地の扉の前に着き、少々安堵した俺は扉を開けて中へと彼女を促した。身体に対して大きすぎる荷物を懸命に部屋へ運びいれようとする小柄な少女の姿に、なんとも言い難い庇護欲をそそられてしまう。

 

 俺も歳をとったよな…まだ20代だけど。言っておくが、



     俺はロリコンではない。 決してな!



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