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休日の小説

作者: 飛島葉

理解するのはとても難しいとおもいます。

人それぞれの解釈で構いません。

初投稿ですが、お楽しみいただけたら幸いです。

「では、今すぐにそちらにお伺いするという事でよろしいですか?」

「ああ、それで大丈夫だ。」

「はい、ではすぐにお伺いいたします。」


 

私は突然、今までとは違う世界にいる気分に陥った。ゆっくりと重い瞼を押し上げる。目の前に、見慣れた風景が広がってきた。ここは私の家ではないか。

 そこでようやく今まで自分が眠りについていた事を理解した。


 私は立ち上がり、今居る部屋の様子を確認した。どうやらリビングルームのようだ。普段書斎に居る事がほとんどの私が、何故ここに居るのだろうか?

 近くには少年が横たわっていた。眠っているのだろうか。ゆっくりと彼に近づいた。

 信じられない事だった。彼は、安らかな眠りについていたのだ。

 私はひどく動揺した。突然起こった非日常的な出来事に対し、まともな気持ちを持つ事ができなかった。


 とりあえず気持ちを落ち着かせる為に、書斎へ向かった。

 勿論、この状況を誰かに伝えなくてはならないとは思ったが、とりあえず気分を落ち着かせるのが先にすべき事であり、普段慣れている書斎に行けば気分が落ち着くだろうと思ったからだ。


 

 その時、誰かが書斎のドアをノックする音が聞こえた。妻が入って着た。

「あなた、お茶持ってきたわよ。」

「ああ、すまん。そこに置いといてくれ。」

 妻は盆から茶を取り、机に置いた。

 暫く沈黙が続いた。

「…なんだ?用が済んだんなら、出て行ってくれないか?」

「…( いつき )、最近とても寂しそう。もう中学生なのよ。今日、休日なんだし、何か話して…」

「今、原稿の締め切りが迫っているんだ。悪いが、今はそれどころじゃない。」

「……」

「出て行ってくれ。」

 妻はしぶしぶ書斎を出て行った。

 そう言えば、今日は休日だったのか。曜日の感覚など、無いも同然だった。

 物思いに耽っている場合ではなかった。締め切りが大分押してきている。今日は編集者が来る筈だ。時間を忘れていたが、そろそろ来る時刻かもしれない。


 気を取り直し、茶を一口飲んだ。



 書斎に着いた私は、真っ先にドアの近くの椅子に座った。ひどく疲れていた。机の上にある物が、はっきりと見えない。

 私はふと、右横にある書棚を見てみた。

 そこには塊があった。

 よく見るとそれは塊ではなく、人間だった。

 その男は書棚にもたれかかっていた。当然、息は無かった。頸動脈をばっさりだった。男の顔に身に覚えは無かった。

 立て続けに目の当たりにした非現実的な出来事に、私は正気を保てそうになかった。私は机に突っ伏した。



 何だか体が疲れてきたようだ。先程からあのような事を書いているからに違いない。何故あのような事を書いているのか自分でも理解できない。

それだけではない。この小説の終わりを知らずに書いていく自分自身の行動すら信じられないのだ。この小説は現実を同じように、順に進んで行く。

私自身が、自分で作り上げているこの世界を体感しているのだ。


 おや、そろそろ編集者の野垣(のがき)君が到着する時間ではなかっただろうか。私は右手にはめている腕時計を見た。

 しかし、彼は明確に時刻を指定していた訳ではないので、何時何分に来るのかはわからない。

 まさか、彼は既にこの家に来ているのではないだろうか。と、一瞬思ったが、それもあり得ないだろう。

 とりあえず、今は原稿に取り掛かるしかない。


 私はまた茶を一口飲み、続きに取り掛かった。


しかし、ペンを持つ左手に力が入らない。

ふと我に返って見ると疑問が残る。何故私は今、これから展開が始まるという部分を書いているのだ?

だとしたら、野垣君が来るのは納得がいかない。私は彼に今終盤に入っているとでも伝えたのだろうか?


 続きにとりかかろうとしたが、机の上の原稿用紙に集中できない。私は机に突っ伏した。


 ふと顔を上げて右横を見てみた。依然として野垣君の死体は書棚にもたれかかっている。


 私は書斎を出て、またリビングルームへ向かった。

 そこにはやはり依然として樹の死体が転がっていた。

 私は樹の死体を今一度よく見た。やはり息はない。首には何かで絞められた跡があった。どうやら絞殺らしい。

「さっきから何をしているの?」妻の声だった。

「見ろ、樹が死んでいる。」私は振り返り、妻に言った。

「ちょっと…何なのいきなり……」妻は私の言う事を理解できていないようだ。呆然と私を見ている。

「本当だ。しかも、野垣君まで書斎で死んでいる…」

「誰なの?その人。」

「編集者だ。家に来ている筈だが。」

「そんな人、上げてないわよ。」

「本当か?まあいい、とにかく来い。」

 私は妻を書斎に連れて行く。

「ほら、見てみろ。確かにここに…あれ?」

 そこに野垣君の死体は無かった。確かにあった筈なのに。野垣君はこの家に来てさえいないというのか。

「そんなバカな。」

 私は机を叩こうとしたが、急に目眩がし、椅子に座った。頭を抱え込む。原稿はまだまだ残っている。

「あなた、きっと疲れているのよ。こんな小説ばかり書いているから。少し、休んだらどう?」

 言われてみれば妻の言う事も間違っていないかもしれない。

「ああ、そうだな。」

 私はそう言い、茶を一口飲んだ。


「原稿は、どれくらい進んだの?」

「全然進んでいない。まだまだ残っている。」

「ところで、死体はあったのか?二人とも。」

「ええ、あったわ。二人とも。」

「で、どう思う?」

「え?」

「二人とも、どう考えても誰かに殺された。しかも、私か君のどちらかしか行えない。」

「私が殺したとでも言いたそうね。」

「私はずっと書斎に居たんだ。君以外考えられない。例え誰かが侵入してきたとしても、君が気付く筈だ。」

「……」

「どうなんだ?」

「……」

「何も言えないという事は、君が…」

「仮に私が樹を殺したとしても、野垣さんまで殺せない。」

「何だと?」

「あの部屋にはずっとあなたが居た。仮に私があの部屋で彼を殺害したとすれば、あなたはそれに気づく筈よ。」

「茶だね。」

「え?」

「茶だよ。君が淹れた、あの茶だ。」

「……」

「その茶のおかげで、私は君の思い通りに動かされた。全ては君の計画通り。そうだろ?」

「何を言っているの?」

「真実だよ。何もこんな時に嘘など言わない。」

「嘘よ。」

「本当だ。何なら警察を呼んで、茶の成分を調べてもらおうか。君が本当に犯人だとわかってからだが。」

「勝手な事言わないで。」

「勝手な事ではない。ようやくわかったよ。現に私はさっきまで、君に騙されていたんだよ。もう騙されない。さっきまでの私とは違う。君の支配に打ち克ったんだよ。」

「フフフ…あなた、おかしな人ね。」

「ふざけるな。」

「あなたがさっきから言っている事、全部あなたの妄想。ただの妄想にしか過ぎない。」

「騙そうとしたって無駄だぞ。」

「あら、もう原稿は書かなくていいの?」

「ああ、もういいんだよ。もう書く必要が無くなった。そんな事より…」

「あら、じゃあなんで野垣さんを呼んだのかしら?」

「そ、それは…」

「どう?あなたの言っている事、全部妄想でしょ。」


「野垣さん、右の頸動脈を切断されていたの。」

「何が言いたい?」

「あれ?あなた、普段字を書く時、どっちの手を使っているのかしら?」

 私は右手の腕時計を見た。

「ああ、確かにそうだ。この家で左利きなのは、私だけだ。で、でも、それだけでは、私が彼を殺したという決定的な証拠にはならない。」

「そうね。確かにそれだけでは、あなたが彼を殺したとは断定できない。でも、決定的な証拠があるの。」

「証拠?」

「そう、その証拠は、あなたがずっと来ている、そのシャツ。」

 私は改めて自分が来ている洋服を見てみた。

 そんな、信じられない……



「私は、自分がだんだん壊れていく事を、うすうす感じていたのかもしれない。自分が何をしているのかわからなくなり、次第には、自分がいるのは本当の世界なのか、自分自身で作り上げた世界なのか、それがわからなくなっていった。わからなくなっているという意識すら、無かったに違いない。でも、私が作り上げた世界にいる私は、まるで、その世界の空気に溶け込んでしまいそうな、そんな気分を味わっていたんだ。それは、確かに、はっきりと覚えている。」

「……」

「巷では、作風が変わったとか言われたが、そうではない。私自信が変わったんだ。現実と小説の境目を失った、私自信が…」

「それで、あんな事を…」

「私は、取り返しのつかない事をしてしまったんだな。紙上だったのならまだしも…」

「別に、小説の中なら、何人殺したっていい。でも、あなたが愚かなのは、実際に殺してしまった事。」

「ああ、君がいなければ、きっとわからないのだろう。私が描いていたのは、小説ではなく、現実だったという事を。」

「……」

「何故もっと早く言ってくれなかったんだ?もし早く言ってくれたら、殺さなくてすんだかもしれないのに。」

「違う。あなたは、ずっと前から…殺人鬼だった。だから、樹の人生を、こんな早くに壊したくはなかった。」

「…じゃあ、何故すぐに警察に言わなかった?」

「あなたとの時間を、もっと楽しみたかったの。」

「フ、君も、おかしな女だ。」

「……」

「でも、こうなってしまった以上、私は捕まるより、消えた方がいいだろう。君にとっても。」

 妻は何も言わなかった。しかし、満面の笑みで私を見つめていた。

「では、お望み通り、消えるとしよう。」

 しかし、すでにそこには「私」などなかった。


 ようやく全てを悟った。

「そうか、最初から私の存在などなかったのだ。私自体が“無”だったのだ。」



 人間は死ねば肉体が消え、あらゆる動作ができなくなり、意識そのものが無くなる。しかし、生前の存在自体が完全に忘れられる訳ではない。

 しかし、“無”であるという事は、最初からその姿自体がないのだ。虫ケラ以下であると同然だ。空気だって、人の目には見えないが、あらゆる場所に漂っている。人は時に空気の存在を体に感じる。しかし、“無”にはそれがない。ただそこに“無”があるという訳ですらない。

 “無”を意識する事を大衆は「想像」や「妄想」と言う。



「最後に聞いていいか?君は何故、野垣君が家に来てないと…」

妻は答えなかった。ただ微笑んでいただけだった。



 そこにはもう彼女しかいなかった。

 どこからか拍手が聞こえてきた。彼女は無人の観客席に向かって一礼する。


 笑い声が聞こえる。樹の声だろうか。彼は喜んでいるのだろうか。彼女は息子の元へ行く。



 この世界は現実なのだろうか?まだ「私」の小説なのだろうか?彼女の妄想なのだろうか?それとも……



とても苦労しました。

自分でも理解するのが難しかったです。

この小説を書いたきっかけは、小説を考えていた時、自分の様子が、まるでその世界にとけこんでいる人間ではない何かになっている。という感覚に陥った時です。

それを何とか物語として表せないだろうか。と考えてできた作品です。

作品を書いて感じた事は、小説ってどんな表現でもできるんだな。という事です。

よく考えると所々に矛盾があるのではないかと感じました。

作者自身としてはこれもまだ小説の中と信じたいです。

彼らの幸せの為にも…

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― 新着の感想 ―
[一言] 失礼します。これは難しい作品ですね…存在自体への問いかけと見るか、現実と空想の狭間と見るか、描かれている情報から導き出すべきか。 どこに着眼点を持ち、どう解釈するか、困難であるとしか私には言…
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