第2話 「俺は、爽浪潤だよ」
《爽浪 潤》
俺は駆けだした。
掲示板の前には人だかりがあった。
かき分けて前の方に進む。
―――――――ドンッ!
「あ、すいません。」
「いや……怪我はないか?」
「うわ……美咲が優しい…。」
「珍しいな。気持ち悪っ」
「うるさい」
んん?
今美咲って言った…?
「姫百合……」
あ、しまった。
姫百合のことを気持ち悪いと言った男子Aは俺を、Lv.1でモンスター退治に行く馬鹿を見るような目で見てきた。
「すげー。姫百合の事いきなり呼び捨てとか…。ある意味尊敬。」
「この子見た事ないから、編入生…かな…?」
「確かにこの学校では見た事ない。が、どこか懐かしい気がする。気のせいか…?」
「美咲の名前はみんな知ってるでしょー。美人だし、目立つし、噂もしてるし、名前知ってるからって知り合いとは限らないよ」
「いや、そうじゃなくて…。とりあえず名前、聞いてもいいか?」
俺は、一段と大人っぽくなった姫百合に見惚れていた。
だから、いきなり名前を聞かれて焦った。
「美咲、失礼だよ。先にこちらから名乗るべき」
「あ、そか。えっと、私は姫百合美咲」
「で、私は美咲の友達の優衣。あ、藍沢優衣ね」
優衣は悠斗に目で合図した。
「俺も…?」
「もっちろん」
「……真神悠斗」
「で、君の名前は?」
「あ、俺は……」
緊張してきた……。
もし俺が爽浪潤だと言ったら、姫百合はどうするだろう。
何で連絡してくれなかった、とか言ってくれるのかな。
姫百合、どんな反応を見せてくれる…?
「俺は…、爽浪潤だよ」
姫百合の反応は、一瞬目を見張りそのまま固まる、というものだった。
《姫百合 美咲》
「何故か懐かしい気がする。」
気のせいだろうか。どこかで会った…のか?
無性に懐かしい。
そして、恋しい。
「俺は、爽浪潤だよ」
その言葉を聞いた時、まだ頭の中では処理出来ていなかった。
出来ていないというよりしたくなかった。
頭が真っ白になって、なにも考えられなくなった。
優衣がそれを察したのか、
「美咲、大丈夫?」
と、気遣ってくれた。
その一言でやっと頭の整理が出来た私は、
「じゃあ、優衣、真神。私は謎の少年Sに攫われた事にして、先に教室に行ってて」
「え、ちょ……待っ………!」
爽浪は慌てていた。
「了解、美咲!じゃあ、行こうか。」
「そ、そーだな!行くか!」
「悠斗、何大きな声出してんのさ」
「べ、別に!じゃあ、先行ってるからな、姫百合!」
「おぅ。サンキュ」
それから私は爽浪の方に向き直ると
「じゃあ、私達も行こっか」
と、不敵な笑みを浮かべて見せた。