3-2 No Way Out
私たちが満足してステージを降りると、マスターのケンが駆け寄ってくる。
「ちょっ、お前らヤバすぎる!何でもいいからウチでライブやってくれよ!」
「いいよ〜。」
アーサーが軽いノリで返す。
「いや〜、ギターやばかったよ!その若さであんなに渋いを弾ける奴なんて聞いたことない。これはブルースかじってるオヤジどもは逆立ちしても敵わないな。」
「生き甲斐みたいなものだしね〜。」
「それにユウ、少し見ない間にとんでもないことになってんじゃん。サニー・ボーイの豪快さが上手く表現できてたよ、いや、本当に。こうなってくるとリトル・ウォルターもビッグ・ウォルターも聴いてみたくなるねぇ〜。」
「それはバンドができてからのお楽しみね。」
と私。
「オープンマイク終わったらまたちょっと話そう。」
オープンマイクが終わると一気にお店からは人がいなくなる。
「ユウ、」
マスターがいつになく深刻に私の名前を呼ぶ。
「気付いたかもしれないが、最近うちから客が減ってきてる。常連のみんなは来てくれるし、イースト・スリムの界隈の人も来てくれるが、やはり若者は多くない。事実、日本人のブルース離れ、もっと言うならリアルな黒人音楽離れは深刻だが、それだけでは説明できないんだ。と言うのもこんな状況になったのはつい三ヶ月前のことだ。」
「何かあったの?」
「ああ、Aztecって奴知ってるか?オノ・セイジロウの一番弟子で、一昨年にオノが死んでからは派閥の重鎮さ。」
「名前は何となく?」
「そいつがこの店に来てな。『ジジイどもの時代は終わりだ。』とか『イースト・スリムの時代は終わりだ。』とか抜かしやがったんだ。頭に来たもんだから、店から叩き出したらな、こんなことを言いやがったんだ。」
『俺はメジャーからも声が掛かる大物なんだ!俺の時代が来たら、イースト・スリムもこの店も終わりだ!』
「それからお客さんが来なくなったと。」
「そうなんだよ。」
「Aztecの時代っていうのに心当たりは?」
「確定じゃないが、何となくは。」
「それはどんなこと?」
「オノの奴がずっとサポートでハーモニカ吹いてたバンドにGeesってのがあって、夏にその新譜が出るらしい。」
「Aztecがそれでハーモニカを吹いてるってこと?」
「公式から発表されてるし、そういうことなんだろう。」
「面倒なことになったね。」
「ああ、全くだ。」
「それで、どうするの?」
「いや、それがな。レンが知り合いのバンドマンから聞いた話でも、有山プロダクションが所属してるアーティストにこの店の悪評を流す様に裏で手を引いてるらしい。」
「それはまずいね。」
ぼけーっとしていたアーサーが尋ねる。
「それってそんなに不味いの?」
「メジャーのレコード会社や、フェスの関係者との関係は当たり前として。悪名高い新興宗教、生命革命会との繋がりも深いと言われてる。所属アーティストを改宗させたり、法外な額の献金を迫ったり、黒い噂も絶えない。更に面倒なことに、有山プロダクションは文化庁の天下り先としても知られていて、政府とのコネも強い。正直、やろうと思えばうちの店を潰すくらいできるだろう。」
「この国って思いやりとか、勤勉とか言われてるけど、案外闇の部分もあるんだね。」
「日本人だって人間だ。金が流れれば、それにたかる虫も出てくる。」
「それで、何か対抗策はあるの?」
「とりあえずはブルースセッションなんかを設けて、何とか食い繋いでる。だが、それもいつまで続くか。No Way Outが食い繋ぐにはやはりとびっきりのブルースが欠かせない。それこそ、イースト・スリムみたいな、最強のやつがな。」
「なるほど。」
「そこで、お前たちだ。今日の様子を見る限り、バンドもとんでもないことになるだろうから、バンドが上手くいきそうなら是非ウチに出演してくれ。」
「分かった、考えておくよ。」
と私は答える。
有山プロダクション、かつてイースト・スリムの渡米ライブを握りつぶし、その金でオノ・セイジロウのプロモーションを行った奴ら。結局、おじいちゃんは自費でアメリカに行って、シカゴ中のジュークジョイントを回ったらしいが、奴らこそが今の日本のハーモニカ界の悪循環を生み出した張本人であることには間違いない。日本の音楽が遂にリアルな黒人音楽だけでなく、イースト・スリムさえも忘れようとしていることに、私の背中には危機感と悲壮感が走った。
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