2-2 Cross Our Hearts
困った。すごく困った。放課後になって、軽音部の活動に顔を出したはいいが、バンドメンバーが全く集まらない。皆、ギラギラの邦ロックが好きな人ばかり。ブルースはジャンルとしては知ってても聴いたこともない人が殆どだ。
「どうせずっとシャッフル叩くだけでしょ?つまんないしパス。」
「ブルースっておじさん臭い音楽でしょ?なんかダサいしやめとく。」
「今の時代、ブルースなんて意味あるの?」
心無いことも何度か言われた。軽音部の中心メンバーたちは好色な様で、アカネは大人気だったが、その分女子部員からの冷たい目線が絶えなかった。アーサーはマイペースで、ギタリストの手元を見ては首を傾げたり、ドラムに合わせて指を鳴らしては「こりゃダメだ。」とか呟いてた。
一通り声をかけて、撃沈した私たちは中庭のベンチでジュース片手にお互いの傷を舐め合っていた。
「こりゃダメだ。」
とアーサーが言う。
「一人もOKもらえなかったね。」
と返す。
「いや、そうじゃなくて、リズムが変。皆生き急いでるみたいだったよ。どこに重心があるのかよく分からないし、あれじゃちょっと難しいな〜。」
「そうなの?」
とアカネ。
「そう、なんかピンとこないっていうか。それにリズムを磨いていくのって大変だから、高校生だから多少の上手い下手は理解してるけど、もう少し上手い人を探したいかな。やっぱりブルースってリズムを聴かせるから。」
結局、この日はこれで解散になった。
翌日、バンドが云々と三人で話していたら、クラス唯一の親友、カナタがやってきた。
「ベース探してるなら、俺がやろうか?」
「でもバンドは大丈夫なの?」
カナタはワンマンライブができるくらいの人気があるバンドのベーシストだ。
「ああ、バンドは辞めたよ。」
「なんで!?せっかくワンマンとかもできてたのに!」
アカネが驚く。
「下世話な話で申し訳ないけど、ギターのやつに彼女寝取られたからやめてやったよ。」
「でもカナタってブルースとか聴くっけ?」
「聴くも何も、ロック自体ブルースから生まれてるんだし、聴かない訳ないでしょ。ルーツも知らないでロックなんてやってられないよ。」
「確かに?」
「何よりシカゴブルースには、あのウィリー・ディクソンがいるからね。あれを知らずにベーシストは名乗れないね。」
「いいね!今日ベース持ってる?」
「嫌、だけどまだホームルームまで時間あるし、軽音部の部室のやつ使えばいいでしょ?」
私たちは部室に急いだ。
「じゃあ適当に、キーはAで。12小節回してみよう!」
アーサーがギターを弾き始めると、地鳴りの様な重低音が押し寄せてくる。
「いいねいいね!」
ハーモニカとボーカルが入る。その時感じたのは、心地よさだった。自分が今どこにいるのか、真っ白な世界に目標ができた様な感覚。
しばらくして、「お前たち、ホームルームの時間だぞ〜。」と軽音部の顧問、ミカ先生がやってきて、私たちは迫り来る危機に気付く。
何とかホームルームには間に合ったが、廊下を走ったことを担任に咎められてしまった。
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